軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

体育祭はラブチャンス 3

やはりユリウスは人気で、あちらこちらから大きな歓声が上がる。最近では、私とユリウスの兄妹の組み合わせを推している人々もいるんだとか。

やがて私達は余裕の一位でゴールし、ほっと胸を撫で下ろした時だった。

「やった! ユリウス、ありが──」

ユリウスの手が近づいてきたかと思うと頬に触れ、次の瞬間には頬に柔らかいものが触れる。

同時に「きゃあああ!」という女子の甲高い悲鳴が、グラウンドに響き渡った。

「な、なななな……な……!?」

「一位の記念にと思って」

動揺して固まる私を他所にキラキラした笑みを浮かべたユリウスは、沸き立つギャラリーに手を振っている。

頬とは言え全校生徒の前でキスをされ、顔から火が吹き出しそうになる。

耐えきれなくなった私はユリウスの手を掴むと、逃げるようにその場から走り出した。

やがて人気のない裏庭に辿り着き、足を止める。競技直後に連続で走ったせいで息が切れてしまいながら、私はきっとユリウスを見上げた。

「な、なんであんなことしたの!?」

「したかったから?」

悪びれる様子もなく、ユリウスは首を傾げる。

いちいち全ての仕草がずるくて、思わず「それなら仕方ないか」と言いそうになる。全然仕方なくない。

「これでさっきの王子様の、みんな忘れただろうし」

「…………」

「ちゃんと上書きしておかないと」

本当に王子の件を気にしていたようで、嫉妬からの行動だったらしい。

──なんというか、ユリウスは本当に私のことが好きなんだなという感想を抱いてしまった。この世界に来た頃の彼からは、とても考えられない。

当時のユリウスならきっと、くだらないと鼻で笑うに違いない。そしてそんな変化を嬉しいと思ってしまう私もまた、大概だろう。

「俺達は仲の良い兄妹だと思われてるし、問題ないよ」

ユリウスはシスコンキャラが定着しているらしく、どんな美女にも靡かないのに妹にだけ甘くて溺愛しているというギャップにより、さらにファンが増えたらしい。

もう何をしたって人気が出るのではないだろうか。

「嫌だった?」

「あんな人前でするのはどうかと思う」

「人前じゃなきゃいいんだ」

ふっと笑うユリウスに、顔が熱くなった。否定できないことも、ユリウスだってそんな私の気持ちを分かっていて行動を起こしていて、悔しくなる。

それでも告白が失敗したあたり、私の気持ちはまだまだ伝わっていないのかもしれない。

ユリウスは私の後ろの壁にとん、と手をつくと、更に距離を詰めてくる。

「そういえば、去年もここでこんなことあったよね」

「……あ」

去年の体育祭では私を気に入ってくれたダレルくんという男の子に声をかけられ、一緒に散歩をしていたところ、ユリウスに見つかって怒られた記憶があった。

「あの時にはもうレーネのこと結構好きだったのかな」

「えっ、嘘だ」

「そうじゃなきゃ、あんな苛立たないし」

まさかあんな序盤からユリウスが私に好意を抱いていたなんて、想像もしていなかった。

てっきりユリウスの言う「復讐」に利用するため、そしていきなり様子の変わった「おもしれー妹」くらいのポジションだと思っていたからだ。

壁ドン状態でユリウスは物思いに耽っているけれど、落ち着かないので解放してほしい。

「今はあの頃と比べ物にならないくらい好きだよ」

「うっ……」

壁に押し付けられていた手に、するりと指先を絡められる。その手つきが妙に優しくて、落ち着かない。

「早く俺のこと、好きになってね」

「…………っ」

耳元で囁かれた私はもう、その場に座り込んでしまいそうになった。その辺の乙女ゲームの一億倍の破壊力があって、目眩がする。

間違いなく自分の武器を全て理解した上でやっているからタチが悪い。

『これからは俺、本気出すから』

学園祭の告白の後、そう言われたことを思い出す。

本気で落としにかかられているけれど、残念ながら既に落ちているため、ただただ心臓に悪いだけだった。

そもそもユリウスにこんな風に言われて、落ちない女性はいないと断言できる。思わず「もう好きです」と言ってしまいそうになりながら、ユリウスを見上げた。

「わ、私が好きだって言ったらどうするの?」

「めちゃくちゃにしそう」

「め……?」

さらりととんでもない返事が返ってきて、私は聞かなかったことにした。

その後はユリウスの出場するフェンシングの開始時間が近づいているため、なんとか解放された。

手は繋がれたまま、グラウンドへと歩き出す。

「今更だけど、借り物競走に協力してくれて本当にありがとう! 一位が取れて本当に良かった」

「いいえ。俺のこと、一生返さなくてもいいよ」

「何で次から次へとそういうことが言えるの?」

やはり私にはユリウスはまだ早すぎる。グラウンドが見えてきたところで、不意にユリウスが足を止めた。

「それで、お題は何だったの?」

「え、ええと……それはですね……」

色々あってすっかり忘れていたけれど、あのお題を素直に言えるはずもない。

あの紙はズボンのポケットの中でもうくしゃくしゃにしてあるし、絶対にバレることはないはず。

「き、きょうだい……ですかね」

「何それ、いない人だったらどうするんだろう」

我ながら嘘が下手だと思いながらも、ユリウスはくすりと笑うだけ。

そして私の頭を撫でて、待機場所へ戻っていった。