軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狩猟大会 5

人間を100人食べてこんなに大きくなりました、という感じの凶悪な見た目に、身の毛がよだつ。

思わずきつくしがみつけばユリウスはくすりと笑い、赤子をあやすように私の背中をぽんぽんと撫でた。

「なんだ、レーネが叫ぶからどんなすごいものが出てくるかと思ったら雑魚じゃん。大丈夫だよ」

「えっ? あれ、雑魚? あれが?」

「うん」

即答したユリウスは動揺する私をよそに呑気に魔物を見つめ、その場から動こうともしない。

よくよく見ると慌てているのは私だけで、他の三人も全く動じていなかった。

「ヨシダくん、やりたい?」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあ俺がやるね」

「グアアアアァ!」

やがて前へ出たアーノルドさんに向かい、魔物は口からだらだらと涎を垂らしながら叫び向かっていく。

「大きな声を出して、悪い子だなあ」

アーノルドさんは笑顔でそんなことを言うと、次の瞬間にはもう、魔物の身体が地面に叩きつけられていた。

「…………え?」

「ほらね?」

「いやいやいや……ほらとかじゃなく、えっ……?」

ユリウスは何てことないような様子だけれど、あまりにも一瞬で何が起きたのか分からない。

それでも、以前聞いたことがあった。鞭は音速を超えるのだと。

黒い毛に覆われた巨体には全身を張り巡るように鞭が巻き付けられており、先程まではなかった鋭利な棘がぎらりと光っている。魔物は悶え苦しんでおり、その痛みを想像するだけでお腹がきゅっとした。

「ごめんね、もっと遊んであげたいんだけど今日は時間がないんだ。ばいばい」

アーノルドさんがくいと鞭を持つ手を引くと首元がぎゅっと締まり、短い悲鳴と共に魔物は動かなくなる。

間違いなく敵も悪も魔物の方なのに、私は魔物より助けてくれたはずのアーノルドさんに恐怖を覚えていた。

子供には絶対に見せたくない戦闘シーンだ。そもそも時間があった場合、もっといたぶっていたのだろうか。

「レーネちゃん、保存結界用の宝石もらえる?」

「あっ、は、はい」

「ありがとう。こんなのでも一応、数にはなるしね」

すぐに宝石を渡すとアーノルドさんはひょいと巨体の上に放り投げ、結界が張られたのを確認すると「じゃ、行こうか」と何事もなかったように再び歩き出した。

他のみんなも平然と歩き出し、未だに心臓がバクバクしているのは私だけらしい。

改めてこのメンバーの桁違いの実力を思い知らされ、私も更に頑張らなければとやる気に燃え始めていた。

それからも山を登っていきながら、みんなは軽々と様々な魔物を倒して行った。

ユリウスは私を抱えながら片手で倒してみせ、ミレーヌ様もひと突きで息の根を止め、吉田も舞うようにエクセレントナイトソードを振るい簡単に魔物を倒す。

私は抱えられたまま、ただ拍手をしているだけだ。ここまで一方的だと、安心して見ていられる。

「ユリウス、そろそろ自分で歩けるよ。ありがとう」

「じゃあ少し先のちょうどいいところで下ろすね」

「ちょうどいいところ……?」

いつまでも抱えてもらっているのも申し訳なく、申し出たところ、やがて斜面が緩やかになったところでユリウスは私を地面に下ろしてくれた。

なるほど、歩きやすいところで下ろしてくれたのかと紳士っぷりに感謝した時だった。

「ひっ……」

前方から巨大で毒々しい巨大タランチュラみたいな魔物が現れ、口から小さな悲鳴が漏れる。カサカサと複数の足がせわしなく動き、赤い目は不気味に光っていた。

思わず一歩後ずさる私の肩に後ろから両手を置くと、ユリウスは耳元で「落ち着いて」と呟く。

「せっかくの機会だし、サポートするから少し頑張ってみようか。今は怖いかもしれないけど、慣れさえすれば落ち着いて戦えるようになるから」

ユリウスの言う通りだ。一人なら手も足も出ない相手との戦闘経験は、間違いなくプラスになる。これより弱い魔物相手ならば、落ち着いて戦えるようになるはず。

何よりこうして魔物と戦う経験なんて、普段できるものではない。甘やかすだけでなく、私を成長させようとしてくれるユリウスには、感謝してもしきれない。

「あの大毒蜘蛛はふたつの目の間にある、黒い目が弱点なんだ。そこを狙いさえすれば動きが止まる」

「……わ、分かった」

頷き背負っていたTKGを構えた途端、敵意を感じたのか大毒蜘蛛は私へぎょろりと赤い目を向けた。

そしてこれまでとは比べ物にならないスピードで、こちらへと向かってくる。

──正直、怖くて仕方なかった。あんなの、怖がらないほうがおかしい。

日本の現代社会でぬくぬくと安全な環境で生きてきた私にとって、映画やアニメでしか見たことのないような恐ろしい生き物なのだ。間違いなくあの魔物は、私なんていとも簡単に殺せてしまうだろう。

動物園のライオンが檻から飛び出してきて、こちらへ向かってきているようなものだ。腰を抜かさずに立っているだけで褒めてほしいレベルだった。

「…………っ」

恐怖により、弓手がぶれる。一方で魔物との距離は確実に縮まり、焦燥感が大きくなっていく。

「大丈夫、レーネには俺が指一本触れさせないから」

けれどユリウスのそんな言葉が耳に届いた瞬間、不思議と落ち着いて身体が一気に軽くなったのが分かった。