軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ランク試験(一年冬) 3

「……あー、その、なんだ。悪くはないと思うぞ!」

ヴィリーの戸惑い気遣うような声が耳に届いた瞬間、だめだったのだとすぐに悟った。

心臓が嫌な大きな音を立て、早鐘を打っていく。

目を開けて胸元へ視線を向ければ、これまでと変わらない見慣れた緑色のブローチが輝いていた。

「…………っ」

けれど、これは当然の結果なのかもしれない。魔力量は増えたものの、技術試験も最低限のレベルだった。

筆記試験だってこの世界に来てまだ半年の私は、基礎だって完璧ではないし、大体がテストのための知識として必死に押し込んだだけの付け焼き刃にすぎない。

きっと、今までが上手く行き過ぎていただけ。

「レーネ……」

金色のブローチが胸元で輝くテレーゼに心配げに名前を呼ばれ、はっとする。

何か言わなきゃと思っても、喉が締められているように声が出てこない。

「ま、次があるって! 春はCランク目指そうぜ!」

「ええ。絶対に惜しかったもの」

「──ありがとう、そうだね! いやー、悔しいなあ」

慌てて右手を頭にあてて「へへ」といつも通りの笑みを浮かべれば、二人ともほっとした表情を浮かべた。

大切な友人達に心配をかけたり気を遣わせたりしたくなくて、じくじくと痛む胸の痛みや、熱くなっていく目頭には気づかないふりをする。

「……あまりこういう話をするのは良くないが、本当に次のランクまであと一人二人の世界だったぞ。成績は間違いなくCランク平均に到達していた」

そんな私の側を通りがかった教師は「次も頑張れよ」と声をかけてくれた。そして前回は逆に、ギリギリのところでDランクの枠に滑り込んでいたのだという。

以前は落ちこぼれだったレーネに厳しかったものの、最近ではこうして気にかけてくれるようになっている。

「今回の試験に向けて、みんな頑張っていたものね」

「うん。すごく頑張ってた」

この学園は相対評価のため、各ランクの人数が決まっているのだ。いくら個人の成績が良くなっても自分より上がいれば、ランクが上がることはない。

頑張っているのは私だけではないし、誰もがこの学園で勝ち抜いていくために努力を重ねていた。

「あ、レーネちゃん! お疲れさ、ま……」

いつの間にかラインハルトがやってきていて、彼は私のブローチを見るなり今にも泣き出しそうな顔をした。

ラインハルトは私のことをいつだって全力で応援し、励ましてくれていたのだ。

何より二人でFランクから一緒に頑張っていたため、自分のことのように考えてくれているのかもしれない。

「ラインハルト、Bランクになったんだ! すごい!」

「……うん。ありがとう」

一方、彼は順調にBランクまで上がっていて、私も自分のことみたいに嬉しくなる。もちろん生まれつきの才能はあれど、ラインハルトはずっと頑張っていた。

「本当にすごいよ! おめでとう!」

「レーネちゃん……次も一緒に頑張ろうね。僕、レーネちゃんに教えられるようになるから!」

「ありがとう、ラインハルト。すっごく心強いや」

やはり私がDランクのままだったのを気にしているらしく、申し訳なさで胸が痛む。

「次は一気にBランクに上がれるくらい、頑張るね!」

だからこそ、私は全く気にしていない、大丈夫だという気持ちを込めて笑顔を向ける。

そうしていつも通り、ヴィリーとふざけ合いながらみんなでお喋りをしていたところ、再びドアが開いた。

「何を騒いでいるんだ」

そこには、吉田と王子の姿がある。実はこの後、いつものメンバーで試験のお疲れ様会をする予定だった。

吉田も王子も上位ランクをキープしていて、流石だ。

二人も私のブローチに視線を一度向け、王子はほんの少しだけ眉尻を下げた。吉田は無反応のまま。

「この後、どこに行く? 私お腹すいちゃった!」

「レーネの好きなものを食べに行きましょう」

「そうだね。僕、レーネちゃんの好きそうなものがあるお店をたくさんピックアップしてるから、任せて!」

「いや怖いな、すげーよお前」

「…………」

「ありがとう! 騒いでも怒られない所がいいよね」

「そうね。レーネのお兄さん達も来るんでしょう?」

「うん、ユリウスとアーノルドさんとミレーヌ様!」

みんなもいつも通りの雰囲気で、ほっとした。この後は気持ちを切り替えて、思い切りはしゃごうと決める。

──けれど今ちゃんと上手く笑えているだろうかと、少しだけ不安になった時だった。

「ギャッ! め、目が……!」

いきなり吉田に、目元を覆うように顔面を鷲掴みにされたのだ。そのまま吉田は私を連れて、歩き出す。

「おい、どうしたんだよ吉田」

「用事を思い出した。この集まりは延期だ」

「ええっ!?」

それだけ言うと教室を出て、廊下を歩いていく。指の隙間から見えた吉田の手元には、私の鞄だけがある。

「よ、吉田? いきなりどうしたの?」

「…………」

やがて校門の前に停まる我が家の馬車まで来ると、中へ押し込まれた。

私は突然のことに驚きを隠せず、すぐに身体を起こして馬車の前に立つ吉田に向き直る。

「び、びっくりした、本当にいきなりどうし──」

「お前は頑張った。次がある」

「……え」

私を見つめる吉田は、ひどく真面目な顔をしていた。笑顔を作るのも忘れ、見つめ返すことしかできない。

「これまでの努力が無駄になることなど、絶対にない。いずれ必ず結果はついてくる」

「…………よしだ」

励ましてくれているのだと、ようやく気付いた。吉田のまっすぐな言葉が、胸の中に広がっていく。

「じゃあな。ゆっくり休めよ」

私に鞄を手渡すと吉田はくるりと背を向け、片手を振って校舎へ戻っていった。

私は小さくなっていく背中を見つめながら、きつく手のひらを握りしめる。

──きっと吉田は、気付いていたのだ。私の空元気な様子や、少しだけ無理をして笑っていたことに。