作品タイトル不明
学園祭は恋の予感 3
「ど、どうも……」
バレてしまった以上、いつまでも隠れているわけにはいかない。とてつもない気まずさを感じながら、木の陰から恐る恐る出ていく。
するとユリウスは一瞬、驚いたように切れ長の目を見開いたものの、片手で目元を覆うと溜め息を吐いた。
「ご、ごめんなさい、色々とわざとではなく……」
「どうせアーノルドのせいでしょ」
「よく分かったね、僕が無理やり捕まえてたんだ」
「レーネがああいうの、盗み聞きするわけないし。つーか触んなって言ってんだけど」
当然のようにそう言ってくれたことで、先ほどのこともあり、少しだけ泣きそうになってしまう。
私が想像していたよりもずっとユリウスは、私のことを信用してくれている。それが、すごく嬉しかった。
何よりもう、さっきみたいに辛そうな、悲しそうな顔をしてほしくはない。
私はこの先も絶対にユリウスを傷付けないし、裏切ったりしない。それを伝えたくて私はユリウスの手を掬い取るとぎゅっと両手で包み、見上げた。
「私、ユリウスのことが大好き、いつもありがとう!」
大きな声でそう告げると、ユリウスはきょとんとした表情を浮かべた後、ふっと口元を緩ませる。
そして気が付けば、思い切り抱きしめられていた。
「あはは、やっぱりレーネはすごいな。……俺って、そういうのに弱いみたいだ」
「弱い?」
「こっちの話。ほんとかわいいね、お前」
言葉の意味もよく分からないし顔も見えないけれど、ユリウスの声色がとても嬉しそうで、ほっとする。
「うんうん、二人末長く仲良くね」
「あ、ありがとうございます」
「ねえユリウス、俺っていい仕事したと思わない?」
「お前は黙ってて」
いつか私も自分のことを話し、ユリウスの事情も聞くことができたらいいなと思った。
そして放課後は、みんなでしっかりランク試験に向けた勉強をした。ラインハルトは未だに吉田との勉強を続けているらしく、驚くほど成績が伸びていた。
正直、私はDランクのキープはなんとかできたとしても、Cランクまでの壁はかなり高い。帰宅後もユリウスに魔法付与の練習に付き合ってもらわなければ。
「……そもそも、今の魔力量って誰の好感度が影響するんだろう? 共通は全員なのかな」
友人達の好感度と結びつけて考えたくはないものの、気になるところではある。そもそも、共通ルートがどこまでなのかも分からないのだ。
「あ! そうだ」
アンナさんに会った時、時間がなくてあまり詳しい話は聞けなかったものの「何か困ったことがあったら、手紙送って」と言ってくれたことを思い出す。
早速レターセットを取り出し、好感度についてやルート分岐のタイミング、実は気になっていたアーノルドさんに見覚えがなかった件についてなど、いくつかの質問を書き綴っていく。
そして送り先を聞いていなかったことを思い出し、ひとまずセシル宛に手紙を送った。
◇◇◇
「では、今日から接客練習を始めようと思います」
いよいよ接客練習の日を迎え、私達はいつもの空き教室に放課後集まっていた。
今日はユリウス、アーノルドさん、イケメン先輩という上級生チームの練習の予定だ。そしてミレーヌ様の隣には、初めて見る美少女の姿があった。
「練習相手は私やレーネじゃ緊張感もないでしょうし、他クラスの友人を呼んできたわ。大富豪の娘よ」
「さ、流石……! よろしくお願いします」
「よろしくね。私、美形にとても弱いから怖いわ」
ミレーヌ様の友人というリタ様は、ふわふわとした可愛らしい雰囲気を纏っており、ミルクティー色の長い髪がよく似合っている。美女の友人は美女らしい。
事前にみんなに接客の流れは説明してあるため、ひとまず仮のメニュー表でやってみることとなった。
「まずは誰からにしましょうか?」
「誰もいないなら、俺からやろうかな」
「はい、ぜひお願いします」
アーノルドさんが名乗り出てくれ、簡易的に作ったボックス席に二人は腰を下ろす。
ちなみに実際のホストクラブのように何人も交代して接客するシステムは難しいため、入口で最初から指名をしてもらう予定だ。男本という男性プロフィールメニューも作ることになっている。
かなり本格的になってきて、本当にこれを学園祭でやっていいのかという懸念を抱いているくらいだ。
早速アーノルドさんは接客を始め、女性慣れしているコミュ強パワーにより会話は弾んでいるようだった。
「リタちゃんって言うんだ、かわいいね」
「は、はい……アーノルド様も、今日も素敵で……」
「俺のこと、知ってくれてたんだ。嬉しいな」
「ひっ……あう……」
茹でダコみたいに真っ赤になっているリタ様は、既にかなり押されているようだった。本当にイケメンに弱いのが伝わってくる。
「飲み物、なくなっちゃったね。次はどうする?」
「え、ええとこのあたりの紅茶を……」
「こっちはダメ?」
「流石にこのお値段は……うーん……」
やがてアーノルドさんはお高い紅茶をお勧めし、リタ様も悩む様子を見せていたのだけれど。
「これ頼んでくれたら、ちゅーしてあげる」
「何杯でも頼みま「ちょっと待った」」
アーノルドさんの手がリタ様の顎にかけられたところで、私はすかさず止めに入った。本当に待ってほしい。
学生のカフェの域を超えており、あまりにもセンシティブすぎる。アーノルドさん、やはり油断も隙もない。
「レッドカードですよ! 健全にお願いします!」
「やだな、冗談なのに」
「全然冗談に聞こえません」
予想通り恐ろしい色恋ホストが爆誕してしまい、いきなり不安になってくる。
「レーネちゃん、待って……私、もう持たないかもしれない、色々と……こんなの破産してしまうわ……」
よろよろとこちらへ戻ってきたリタ様は、一人目にして既にHPが限界突破しかけていた。とは言え、あんな色気に耐え切れという方が無理がある。
「そ、それでは少し休んでから次いきましょうか」
「うん。次は俺でもいい?」
そうして次に手を挙げたのは、ユリウスだった。