軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園祭は恋の予感 2

ユリウスがそれはもうモテることはもちろん知っていたけれど、こうして実際に告白現場に出くわすと、やはりすごいなあと驚いてしまう。

正直すごく気になるものの、他人の告白を覗き見るなんていけないと思った私は、再びこの場を離れようとしたのだけれど。

「あれ? レーネちゃん、何してるの?」

「!!????」

突然耳元でそんな声がして、咄嗟に口元を両手で覆う。悲鳴を上げなかった自分を心底褒めてあげたい。

恐る恐る振り返った先には、笑顔のアーノルドさんの姿があった。一体いつの間に。

「ユリウスに用事があって探しにきたんだけど、お取り込み中みたいだね」

「そのようなので我々は一度ここを離れ……ってちょ、ちょっと何をしているんですか」

一緒に離れようと提案したものの、なぜか背後からがっしりとホールドされ、身動きが取れなくなる。

「3秒で終わるだろうし、ここで待ってようよ」

「さ、3秒……?」

一体どういうことだろう。アーノルドさんは想像していた100倍力が強く、全く解放してくれる気配がないため、諦めてこの状態で待つことにした。

やがて、意を決したように女子生徒は口を開く。

「1年の頃からずっと、ユリウス様のことが好きです」

その声色や言葉からは、どれほどユリウスのことを想っているかが伝わってくる。

そしてそれを本人に伝えるというのはきっと、すごく怖くて勇気がいることなのだろう。ユリウスは感情の読めない表情のまま、黙って彼女の話を聞いている。

「ユリウス様とは二回くらいしかお話をしたことはなくて、一方的に遠くから眺めているだけだったので、私のことなんて覚えていないかもしれませんが……」

「覚えてるよ」

ユリウスの言葉に、女子生徒の瞳が揺れた。私の後ろでは、アーノルドさんが「あれ」と首を傾げている。

「ずっと伝えたくて、でも勇気が出なくて……学園祭シーズンをきっかけに友人達に背中を押されて、こうして告白することができました」

「…………」

「お時間をいただき、ありがとうございました」

告白というのは、付き合ってほしいと相手に乞うものだと思っていた。こうして相手に思いを伝えるだけという形もあるのだと、私は初めて知った。

「こうしてお話できて、嬉しかったです。好きだってちゃんと伝えられて、本当に良かった」

「……そっか。ありがとう」

ユリウスがそう答えると、女子生徒は驚いたように潤んだ目を見開いたけれど、すぐに「こちらこそ、ありがとうございました」と微笑んだ。

そして丁寧にお辞儀をし、その場を立ち去っていく。

「…………」

その姿を見つめていた私は、ぎゅっと胸を締め付けられていた。何故だろうと思っても、理由は分からない。

けれどきっと私が「妹」という立場でなければ、ユリウス・ウェインライトという人は関わることもない、ひどく遠い存在なのだと実感していた。

「意外だったな。何度かユリウスへの告白場面に遭遇したことはあるけど、いつも『そういうの、迷惑だから』って言うだけでバッサリだったのに」

未だに私を解放してくれないアーノルドさんは、本気で驚いたようにそう呟く。

「みんな泣いてて可哀想だなって思ってたんだけど、今日は別人みたいで驚いたよ」

だからこそ、アーノルドさんは3秒で終わると言っていたのだろう。それにしても過去の兄、非情すぎる。

『……本当、無駄なことするよね。そんなことをしたって、俺はあの子達のことなんて好きにならないのに』

『恋愛感情に振り回されるような子は好きじゃないかな。なりふり構わない姿とか見ると、吐き気がする』

とは言え、過去の発言を思い出すと、そんな態度になってしまうような辛い経験があったのかもしれない。

一番身近な存在だと思っているけれど、私はやはりユリウスのことを何も知らないのだと改めて思い知る。

「見てたよ、びっくりしちゃった」

「ほんと悪趣味だね、お前」

そんなことを考えているうちに、アーノルドさんは私を木陰に放置し、ユリウスの元へと向かっていた。あまりにもマイペースすぎる。

「珍しいね、あんな優しい断り方」

「まあ」

「何か心境の変化でもあった?」

「あー……」

ユリウスは首の後ろに右手を回し、少し何かを考え込むような様子を見せた後、口を開いた。

「他人に好意を伝えるとか、普通にすごいなって」

「えっ、気持ち悪いね。急にどうしたの?」

「二度とお前とは会話しない、死ね」

「ごめんごめん、冗談だよ。ユリウスがようやく人間らしくなって嬉しいな」

アーノルドさんはユリウスの肩に腕を回し、一方のユリウスは離れろと眉を顰めている。

私もユリウスがそんな風に思っていることを知り、内心かなり驚いていた。

「レーネちゃんのお蔭かな」

「だろうね」

ユリウスがあっさりそう答えたことで、思わず口からは「えっ」という言葉がこぼれる。私をきっかけにユリウスの考え方が変わった、ということなのだろうか。

「よかったね。でもユリウスって、どうしてそんなにレーネちゃんがかわいいの?」

そして世界一空気の読めないサイコパスであるアーノルドさんは、とんでもない質問を投げかけた。私がここで聞いていると分かった上でなのだから、鬼すぎる。

「レーネって、何も考えてないじゃん?」

ドキドキしながら次の言葉を待っていた私は、隠れていた木に思い切り頭をぶつけそうになった。

「あいつらと違って打算的な考えもないし、一緒にいて安心するんだよね。絶対に他人を傷付けたりしない、俺を裏切らないっていう確信があるからかな」

けれどすぐにそんな言葉が続き、息を呑む。やはりユリウスにとって私は、唯一安心できる家族なのだろう。

それほど私を信用してくれているのが嬉しい一方で、ユリウスが他人に対して心を閉ざして生きてきたことを思うと、悲しくなった。

「……それに、レーネは母様と違って弱くないからね。それが一番の理由かな」

そう呟いたユリウスの横顔は、ひどく傷ついているような、悲しげなものに見えた。

亡くなったユリウスのお母さんについても私は何も知らないけれど、辛い過去があったのかもしれない。

「そっか。確かに真っ直ぐでたくましいレーネちゃんはユリウスにとって、ぴったりな女の子だね。ユリウスにちゃんと安心できる相手ができて、本当に良かったよ」

アーノルドさんはどうやらユリウスの事情を知っているらしく、とても優しい眼差しを向けていた。

色々とぶっ飛んではいるものの、親友であるユリウスのことを大切に思っているのが伝わってくる。

「ちなみに、そのレーネちゃんもそこにいるよ」

「……は?」

そしてそんなアーノルドさんはご丁寧に、限りなく最悪のタイミングで私の紹介をしてくれたのだった。