軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89 品位

休日。

俺は三人を連れて王都へとショッピングに出かけた。

特にこれといった目的もなく、王都の店々をぶらつく。これがことのほか面白い。

ありとあらゆる物が目については、俺に真新しい情報を与えてくれる。

例えば唐辛子だ。メヴィオンでは唐辛子という名前の食材アイテムが一つ存在するだけだったが、この世界ではその唐辛子だけで何十種類もある。それぞれ産地も違えば、色も形も違う。勿論、味も。誰が何処でどのようにして育てて出荷しているのか。興味は尽きない。

ゲームという観点から見れば取るに足りないただの食材アイテムの一つだが、そこには俺の想像すらつかないほどに大規模な市場が隠れていたのだ。

ゲームと現実の混在。この一見してミスマッチな融合が、この世界に得も言えぬ深みを与えていた。

「セカンド殿。少しポーション屋に寄るぞ」

シルビアが入ったのは、見覚えのあるポーション専門店だ。以前訪れた時より幾分か外装が煌びやかになったような気がする。

続いて入店すると、奥にいた店主と思われるオッサンがハッとした顔をして、駆け寄ってきた。

「閣下! これはこれは。ご来店、誠にありがたく存じます」

……閣下?

「ご主人様は全権大使です。正式な敬称は閣下となります」

はてなとしていると、ユカリが耳打ちしてくれた。なるほどそうなのか。

「俺を覚えているのか?」

「勿論で御座いますとも。弊店がここまで繁盛したのも、ひとえに閣下によるものと。折を見てご挨拶に伺おうと考えておりました」

何かしたっけ、と考えて、ふと思い出す。そういえばこの世界に来て間もない頃、『ダイクエ戦法』でポーションを10億CL分くらい買い込んだ。

「同じポーションをあれほど買って、迷惑ではなかったか?」

「まさか! 事前にご購入される数を伝えてくださったではありませんか。感謝こそすれ迷惑などとは、とてもとても」

良かった。俺のせいで経営が難儀しているようなことはないらしい。

「調合師は大変だっただろう。なんせ毎日1000個くらい買っていたからな」

「嬉しい悲鳴というものですよ。今では笑い話で御座います」

ハハハと笑う。何とも爽やかなオッサンだった。

「ところで閣下、本日はどのようなご用件で? ひょっとすると、タイトル戦へ向けてのご準備でしょうか?」

「まあそんなところだ。よく分かったな」

「やはり! 先の内戦での閣下のご活躍は聞き及んでおります。きっとあの方ならば冬季でタイトルを獲得なさるだろうと、店員同士で話していたのです」

「そうだったか。出場者はよく来るのか?」

「はい。つい先ほども、今王都中で噂になっているお三方がご来店くださいました」

王都中で噂になっている三人? 誰だ?

名前を聞こうにも、守秘義務を破ってまでヒントを教えてくれた店主には無理だな。

「良いことを聞いた。ありがとう」

「いえ。これからも何卒ご贔屓に」

買い物を済ませて、店を出る。

俺がユカリに目を向けると、彼女は聞かれるまでもなく語り出した。

「エルンテ 鬼穿将(きせんしょう) でしょう。その弟子のミックス姉妹も鬼穿将戦に出場するようですね」

「よく知ってるな」

「むしろご主人様がご存知でないことの方が驚きです。今王都は鬼穿将含む三人の王都入りで話題が持ちきりですよ」

「タイトル保持者ってのは、それほどスターなわけか」

「スターどころか、まるで一国の王のような扱いですね」

「じゃあ三冠になったらどうなると思う?」

「……ご主人様の言葉を借りるなら、ヤベェことになります」

「ヤベェことになるのか」

楽しみだ。

と、ここでエコが「おなかすいたー」と腰に絡みついてきた。時計の針も丁度メシ時を指している。

「じゃあメシにするか」

「やったー!」

エコはそのままよじよじと俺の背中を上って、肩車を強要してきた。仕方なしに足を持ってやると、何とも楽しげにぐわんぐわんと前後左右に揺れる。まったく元気なことだ。

「思ったのだが、セカンド殿はエコに特別甘いな?」

「ええ、私もそう思います」

こんなに可愛い猫耳の子に甘くならないわけがない。

「昼メシは王都で一番高級なレストランをキュベロに予約してもらった。それで機嫌を直してくれ」

一瞬で二人の機嫌が直った。二人って、意外とこういうの好きだよな。

「お待ちしておりました」

レストランの前に到着すると、そこには既にキュベロが待っていた。

キュベロの案内でレストランの中へ。ファーステストの豪邸に負けず劣らずの豪奢な内装だ。

一番良い場所だというテーブルについて、キュベロを除く四人で談笑していると、入り口の方からざわざわと言い争うような声が聞こえた。

「様子を見て参ります」

給仕をしていたキュベロが一つ言い残し、いち早く行動する。流石は敏腕執事である。何処に出しても恥ずかしくないな。

暫くすると、キュベロが早歩きで帰ってきた。

「エルンテ鬼穿将と弟子の二人がここで昼食を取りたいと希望しましたが、どうやら予約をしていなかったようで、レストラン側と揉めています。如何いたしますか?」

「ああ、なるほど。俺は構わないと伝えてくれ。いいよな?」

恐らくキュベロは“貸し切り”で取ったのだろう。ただこの広いレストランを俺たちだけで独占するのは些か申し訳ない気もする。ここは一つ心の広さを見せよう。

三人に聞くと、三者三様で頷いた。シルビアは勿論と、ユカリは渋い顔で、エコはもう料理のことしか頭にないといった具合で。

「伝えて参ります」

キュベロは颯爽と去っていった。

直後、言い争う声が止む。解決したのだろう。実に役立つなあ、うちの執事は。鼻高々だ。

……しかし、それから5分待てど10分待てど、キュベロが戻ってこない。

何かあったのかと思い、席を立とうとしたところで、キュベロがレストランの責任者と思しき正装のオッサンと共に帰ってきた。

「どうしたんだ?」

俺が聞くと、責任者のオッサンが恐る恐るといった風に口を開く。

「誠に失礼ながら……鬼穿将ご一行に、ご挨拶へ伺っていただくことはできませんでしょうか」

「は?」

挨拶?

「セカンド様。挨拶など必要ありません」

怒り顔のキュベロ。オッサンは冷や汗を垂らしている。

「……なるほど、理解しました。あちらの方々は、大使より鬼穿将の方が立場が上と主張しているのですね」

ユカリが静かに言った。

「全く愚かしい。上も下もないでしょう。ご主人様がそういったパフォーマンスに利用されるなど、反吐が出ます。店を出ましょう」

「ユカリ様の仰る通りです。むしろ向こうがセカンド様へと挨拶に訪れるのが筋というものでしょう」

激怒する二人。ただただ頭を下げるオッサン。シルビアとエコは戸惑い顔で俺を見ている。

……うーん。

「俺は今日、この店で昼メシを食いたかった。しかし、邪魔が入った。だから、逃げるのか?」

オッサンは大使と鬼穿将とで板挟みにあっている。気の毒だ。どうしようもないだろう。じゃあ、俺が当事者と話をつけるしかない。

「何が起きようと、誰が何と言おうと、今日はここでメシを食う。誰にも邪魔はさせない。オッサン、俺はあんたの味方だ。鬼穿将が何だ。向こうがどんな理不尽を言ってこようが突っぱねろ。俺が味方してやる。権力の上に胡坐をかかせるな」

「随分な物言いね」

俺がオッサンに話をしている途中で、後ろから女の声がした。

ゆっくり振り向くと、そこには美人のエルフが立っていた。

尖った耳、スラリとした体、やけに整った顔立ち、エメラルドグリーンの長髪、つり上がった切れ長の目。見るからに性格のキツそうな女だ。

「貴方、大使なんですって? 何処の小国かは知らないけれど、こちらは鬼穿将よ? 挨拶に訪れて然るべきじゃない?」

「――ッ」

一歩前へ出ようとしたキュベロを手で制す。

……立ち居振る舞いで分かる。この女、かなり強い。

「それに何? 鬼穿将を差しおいて、一番良い席を使うなんて。挨拶をして、席を譲って、さっさと出ていくのが礼儀ってものでしょ? 信じられないわ。厚顔無恥とはこのことね」

聞いていて清々しいくらいの暴論。しかし厄介なのは、この女がそれを“当たり前”だと思って発言していること。

こいつがエルンテか? だとしたら残念だ。タイトル保持者となって皆にちやほやされた結果、ここまで高慢になれるものなのか。

「貴女、ディー・ミックスですね」

「そうよ。貴女は誰? ダークエルフがこんなところに居ていいの?」

「狐と呼ばれていますよ」

「狐?」

「虎の威を借るしか能のない獣風情がよく囀る」

「……良い度胸ね、貴女」

ユカリが真正面から喧嘩を売る。エルンテではなくディー・ミックスと呼ばれたエルフの女は、0.5秒とかからずにインベントリから弓を取り出した。

おいおい、ここでやり合う気か? と俺が疑問に思った直後、ディーから殺意が奔流する。うわあ、こいつ 本気(マジ) だ。

「馬鹿者」

「きゃっ!」

瞬間、ディーの後頭部にゲンコツがめり込む。

彼女の背後から現れたのは、白いヒゲを胸元まで蓄えた仙人みたいな爺さんだった。

「弟子が失礼をした」

「お師匠様! 頭を下げることなどありません!」

「お前が下げさせておるのだ馬鹿者が!」

「きゃあ!」

また殴られている。そして一緒になって頭を下げさせられている。

誰だこのジジイ? と口から出かけたところで合点がいった。こいつがエルンテ鬼穿将か。

「別にいいけどね俺は。ここでメシ食えれば。ただ弟子の教育はもっときちんとした方がいい」

「ははは、耳が痛いわい」

「貴方、何よその口の利き方は! 言っておくけど私の方が何倍も年上なんだから! それに貴方こそ、その奴隷の教育をきちんとするべきだわ! それとも性奴隷には教育しない主義なのかしらね!」

こいつ年上の方が無条件で偉いと思っているタチか? そもそも鬼穿将が偉いのはさておいて、その弟子がここまで威張り散らせるものなのか? 極め付きにダークエルフ差別と来たもんだ……数え役満だな。

「姉さん、いい加減にした方がいいですよ。お師匠様が怒っています」

「でも、こいつら失礼だわ! ジェイもそう思うでしょう?」

「ですが、お師匠様が……」

エルンテの横から、ディーによく似たショートカットの女エルフが出てきた。ジェイというらしい。どうやらディーの妹のようだ。

「仕舞いじゃ仕舞いじゃ。姉妹の話は仕舞いじゃ。なんちって」

不意の駄洒落に、ミックス姉妹はガクッとずっこける。

おどけたエルンテは咳ばらいをひとつ、真面目な顔で俺たちの方を向いた。

「済まんのう、迷惑をかけた。お詫びにここは儂が払おう。どうじゃ、和解の印に食卓を囲まんか?」

「何故このような者たちと!」

「黙っとれぃ!」

「うぎゃっ」

ゴツーンとエルンテの鉄拳が飛び、ディーは涙目で黙り込む。

……この状況で、食事を一緒に? このジジイ何考えてんだ?

俺はワケが分からず、エルンテの顔を観察する。ニコニコと、人の良さそうな微笑を浮かべていた。掴みどころのないジジイだ。

シルビアとエコは未だ困惑顔。ユカリとキュベロは怒り顔だった。「平和な休日」を思えば、共に食事を取るという選択肢はない。

だが、俺は興味に負けた。この世界のタイトル保持者がどのような者か、この目で見てみたくなった。

「いいぞ。俺はまだ和解したとは思っていないがな」

若干の敵意を込めてジジイを睨む。エルンテはニッと笑って口を開いた。

「素晴らしきかな。では昼餉としよう」

「改めて自己紹介じゃ。儂はエルンテ鬼穿将である。この姉妹はディーとジェイ。儂の弟子じゃ」

「そうか。俺はセカンド。順にシルビア、エコ、ユカリだ。ファーステストというチームを組んでいる」

「ほう、チームか。その者は?」

「キュベロ。俺の従者だ」

「皆なかなかの実力者じゃのう」

「分かるか、爺さん」

「爺さんですって!? 口を慎みなさい!」

「ジェイ。ディーを抑えておきなさい」

「かしこまりましたお師匠様」

「ちょ、ちょっと、ジェイ!」

ディーはいちいち噛み付いてくるな。ちらりと見ると、ジェイという妹の方もあまり良い顔はしていない。二人は余程このエルンテのことを尊敬していると見える。

爺さん、相当強いんだろうなァ? 俺は期待に胸が躍った。

「さっきは年上だと誇っていたが、三人は何歳なんだ? 俺は17だ。シルビアも17、エコは16、ユカリは19、キュベロは24だな?」

問いかけつつ言うと、キュベロが「覚えていて下さったのですね!」と目をキラキラさせて感激していた。何だそれ。

「ほっほ、若いのう。儂は今年で確か403じゃ。ディーは丁度100か。ジェイは盤寿じゃな。まだまだひよっこよ」

400……マジかよ。ジジイとかいう次元じゃなかった。というか100歳? 盤寿って81歳だろ? このドぎつい美人とカワイコちゃんもババアじゃねーか!

「私はまだ99よ! そして未成年で鬼穿将となる初めてのエルフよ。覚えておきなさい」

「儂を倒すというのか?」

「……この冬季でお師匠様に恩返しをして差し上げるわ」

「であるか。では、期待しておこう」

エルフの成年は百歳のことを言うらしい。ユカリの耳打ちである。

しっかし、この差別のデパート女がタイトル戦出場者か……品格が問われるな。

「うちのシルビアも鬼穿将戦に出るぞ。よろしく頼む」

「ほう」

「…………」

俺が何の気なしにそう言った瞬間、場の空気が一変した。

エルンテは品定めをするようにシルビアを見つめる。

そして、ディーは――

「はっ!」

「馬鹿がッ」

つい、俺の口から罵倒が飛び出た。

何てことはない通常の姿勢から、ディーが即座に弓を構えて《歩兵弓術》を射やがったのだ。

こちらの五人で反応できたのは俺だけだった。

左手に持っていたスープの皿で《歩兵盾術》を発動しながら、矢に重ねてパリィする。

……危ねぇ。0.0何秒遅れていたら皿を貫通していたところだ。俺の世界一位現役時代から衰えを知らない反応の速さに感謝だな。

「へえ。それで鬼穿将戦に出るですって? 私の歩兵弓術に瞬きしかできなかったのに? お笑いね。お仲間に護られてなかったら貴女、胸を貫かれていたわよ? 弓術を舐めないで頂戴。貴女のような雑魚が出場すると、鬼穿将の品位が下がるわ。どうか辞退してくださらない?」

不意打ちしてから、言いたい放題言いやがる。マウント取りまくりだ。

品位。品位ねぇ……確かに、良い早撃ちだった。構えを感じさせない体勢からの切り替えは見事と言う他ない。しかし、だ。食事の時間にやることではない。

「…………」

シルビアは無言で俯いた。自分にも思うところがあったのだろう。だが、落ち込む必要はないぞ。お前はまだ組手すらやっていないのだ。位置にすらついていない状態で勝手によーいドンと言われてレースに負け、あーだこーだと罵られたところで、痛くもかゆくもないだろう?

「……お主、今」

ジジイもジジイだ。呆けた表情で俺の方を見て何やら呟いているが、それより前にすべきことがあるだろうが。お前が弟子をしっかりと見ていないから奔放が過ぎるんじゃないのか?

「はぁ、目に余る。実に目に余る」

ため息とともに呟く。

もう怒った。思い知らせてやる。

「何よ? 私、何か間違ったことを言った?」

冷たい視線を送ってやるも、ディーは悪びれる様子もない。

なるほど。確かにそうだ。間違ってはいないんだろうな、お前の中では。じゃあ俺も、俺が正しいと思うことをしよう。

「来い、あんこ。アンゴルモア」

俺は立ち上がり、《魔召喚》と《精霊召喚》を同時に発動する。

どす黒く沸騰する闇と、七色に輝く光とが、俺の両脇を包んだ。

「な、何を……!」

ディーは咄嗟に弓を構え、スキルを準備する。どうせ《金将弓術》だろう。

「あら、あらあらあら」

あんこは普段から細まっている目を更に細めると、口元に指をあてて笑った。

「哀れなり小娘。我がセカンドに牙を剥くなど」

アンゴルモアは言葉とは裏腹に、楽しそうに笑った。

ディーは一歩後退すると、それでも自信あり気に弓をこちらへと向ける。

「あまり私を舐めないことね」

「ディー、ならん!」

エルンテが制止する。が、少し遅かったな。

ディーは俺が一歩踏み出した瞬間、《金将弓術》を発動した。一定範囲内の敵をノックバックさせるスキルである。

「変身」

俺は《変身》の無敵時間で《金将弓術》を無効化し、それどころかディーを吹き飛ばした。

あんこにアンゴルモアに変身にと、全部盛りである。

「アンゴルモア、風」

「御意」

「あんこ、暗黒魔術」

「はい、 主様(あるじさま) 」

ディーを這いつくばらせ、そのHP残量を強制的に1にする。

……想像を絶する恐怖だろうな。身動きを取れないままHPが1になるなんて。

「後輩よ、そう威嚇するでない。可哀相に。こやつめ、小スライムのように震えておるではないか」

「先輩こそ楽しそうで何よりで御座います」

あれほどいがみ合っていた二人も心なしか打ち解けたように見える。共通の敵を見つけると仲良くなりやすいというアレかもしれない。

「済まなんだ。どうかディーを許してやってくれぬか」

「姉がとんだ失礼を。誠に申し訳ありません」

焦った様子のエルンテとジェイが俺に謝罪してくる。

遅いんだよなぁ……こっちの力が明らかになってから謝るんじゃ遅いんだよ。卑怯だ。ちっとも誠意を感じない。

「悪いが見逃せない。こいつは殺人未遂を犯した。そして殺そうとした相手は、第三騎士団の騎士であり、大使館の職員だ。この意味が分かるか?」

三人が青い顔をする。

だから、遅いんだって。どうせこっちはタイトル戦出場者くらいの実力もあるはずがないと侮っていたんだろう? 力があってもシルビア程度なら、実力者三人がかりで暗に圧力をかければ黙ると思っていたんだろう? 馬鹿が。いざとなったら三人相手でも勝ってやる。

「今までやりたい放題やってきたツケを払う時が来たぞ」

俺たちが相手じゃなかったら、今までのように握り潰せただろう不祥事なのかもな。

……ガッカリだよ。パワハラとかいうレベルじゃねえよ。「能力でも権力でも誰も自分に逆らえない」という驕りが、人をこうも増長させるのか?

クソが。タイトル戦の品位を落としているのは、お前らなんだよ。

「…………」

三人は「どうすれば」という表情で沈黙する。何百年も生きてきて、謝罪の方法も知らないのか?

「土下座しろ」

俺はこの日、生まれて初めて老人と女の頭を踏みつけた。

思ったほど、気分の良いものではなかった。

* * *

「ハハハ! ハッハハハハ!」

とある酒場にて。メイド服を着た女の報告を受けた美形の男が、腹を抱え大声で笑っていた。

「笑いごとではありません。あの鬼穿将を土下座させたのですよ?」

「面白いではないか! 否、最高だ! やはりシェリィが気に入るだけの男であるな!」

「まったく……」

メイドは呆れた顔を見せる。

「ただ、あの爺は老獪だ。相手を鬼穿将戦出場者と知っていて接触を図ったのだろう」

「弟子の暴走をあえて止めなかったのも?」

「恐らくな。土下座と引き換えに情報を手に入れたと考えれば、エルンテの方が得をしたと私は考える」

「まさか。自分のひ孫にも満たない若者を相手に土下座をしたのですよ?」

「エルンテは端から余裕を見せていた。400年も生きていれば、土下座など屁でもなかろう」

「そういうものですか……」

男は酒を一気に呷り、ふぅと一息つくと、立ち上がった。

その腰には、見るからに業物と分かる長剣がぶら下がっている。

「行くぞ、マリポーサ」

「かしこまりました、ヘレス様」

「……くそう、しかし悔しいな。私も彼のようにイケイケなことをしてみたいと思ってしまった」

「絶対にやめてください」

「これは嫉妬か?」

「知りません」

「ああ、彼と剣を交える日が楽しみだ……」