軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

315 若しか証も

◇ ◇ ◇

ヴァニラ湖南東にて、クラウスが率いるキャスタル王国第一騎士団は苦戦を強いられていた。

長剣を持った甲冑の魔物、ハルバードを持った重装歩兵の魔物、薙刀を持った騎兵の魔物、そして棍棒を持った巨人の魔物。これらが入り乱れ、戦場は混乱している。

「チェリ、貴女もクラウス様の援護!」

「はい!」

アイリー率いる宮廷魔術師団は、主に巨人の魔物 以外(・・) の駆逐に専念していた。

ヒフミ式、ササシ式と推移していた作戦は、ついに“ヨン・ゴー式”となる。総員が持てる最大火力である肆ノ型と伍ノ型を絶え間なく撃ち続ける作戦だ。

この場において、伍ノ型を三発以上耐える巨人の魔物に通用する火力を持っているのは、クラウスただ一人だった。ゆえに魔術師団は、クラウスを援護するような形で広く陣形を取っている。

「魔術師団を援護せよ! 魔物を接近させるな!」

一方、第一騎士団は、その魔術師団の援護へと回っていた。

魔術の巻き添えを食らってしまうため、魔物に接近できないのだ。

そのため、魔術で倒し切れなかった、もしくは魔術を掻い潜ってきた魔物たちを魔術師団に近付けさせないよう、防衛の陣を築いている。

そして、その先では――巨人の魔物をクラウスが一手に引き受けていた。

巨人の魔物は、騎兵の魔物よりも更に移動が速い。ゆえに、魔物の軍勢から抜け出して、魔術師団や騎士団よりも前に出ているクラウス目掛けて、一斉に集まってくる。

攻撃力のない者からしてみれば恐怖でしかない光景だが、クラウスにとってはむしろ好都合だった。

「はぁッ!!」

巨人の魔物が良い具合に密集したタイミングを見計らって、全力の《龍王剣術》をお見舞いする。

クリティカルが出れば、一撃。クリティカルが出なくとも、《龍王剣術》の持つ 気絶(スタン) 効果で一時的に無力化できる。

「……ここはあえて待ち、次の密集で一度に攻撃した方が効率が良いだろう」

クラウスは何度か攻撃を繰り返し、そのような結論に至った。

わざわざ《龍王剣術》以外のスキルで気絶した巨人の魔物を処理するよりも、次に巨人の魔物が密集してきたタイミングで一気にまとめて始末した方が、より安全だと考えたのだ。

巨人の魔物がクラウスから横に逸れて、騎士団や魔術師団の方へと行ったとしても、一体や二体ならクラウスでなくとも問題なく相手できる。

これが最善。クラウスは剣を構えながら、「よし」と一つ頷いて、目つきを鋭くした。

――【剣術】が通用している。その手応えが、彼にとってはとても重要だったのだ。

ゆえに、【剣術】に拘る。

この二か月で、セカンドに言われるがまま【槍術】も【弓術】も【盾術】も【魔術】も、覚えられそうなものは手当たり次第に覚えた。

にもかかわらず、クラウスは未だ【剣術】しか使用していない。

【剣術】以外を使用しなければならなくなるギリギリの状況まで、使おうとはしていないのだ。

理由は、とても単純だった。

【剣術】こそが、彼が王家に生まれ、第一王子として暮らしてきた証なのだ。

彼には【剣術】しかなかったのだ。

二十年、騙され、利用され、誰にも愛されずに生きてきた。

その二十年間が、全くの無駄でなかったと言えるものは、もう、この【剣術】しかないのである。

空虚な操り人形だった二十年の中で、唯一、彼の身に付いた“確かなもの”なのである。

クラウスは証明したかった。

自分の存在意義を。

そして、問いかけていた。

自分は生きていてもいい人間なのかどうか。

誰か教えてくれと、もうずっと前から、静かに叫んでいるのだ。

「――なんだと!?」

そんな渇望が、彼の目を曇らせた。

一見して最善に思えた《龍王剣術》の連発は、実はそうではなかった。

気絶し、横たわる巨人の魔物。その巨体を 踏み台(・・・) にして、一体の巨人の魔物が、クラウスの《龍王剣術》発動の瞬間に ジャンプ(・・・・) をしたのである。

滅多にない現象。しかし、あり得ない現象ではない。

するりと、《龍王剣術》の範囲攻撃をジャンプで躱した巨人の魔物は……スキル使用後硬直中のクラウスへと棍棒で殴りかかった。

「ぐっ……ぁ!!」

フルスイングされた棍棒がクラウスの全身を強く叩き、10メートル以上もの距離を弾き飛ばす。

「っ……なんの……!」

クラウスは奇跡的にダウンせず、地面に剣を突き刺して着地を決める。

ダメージは決して軽視できないほど大きなものだった。しかし回復する余裕などない。巨人の魔物は、今にも追撃のために眼前へと迫ってきている。

「食らえッ!」

クラウスは咄嗟に《飛車剣術》と《火属性・参ノ型》を《複合》し、巨人の魔物へと放った。

複合魔剣術。この状況において準備の間に合う中で最高火力のスキルだった。

「よし!」

巨人の魔物が一撃で倒れる。

運良くクリティカルが出たことで、確実なキルが取れた。

クラウスは「まだ立て直せる」と目に生気を宿し、一歩前進する。

そして……眼前に広がる光景に、絶句した。

クラウスを標的として集まっていた巨人の魔物が、散ってしまったのだ。

今から騎士団や魔術師団に後退を指示しても遅い。

すぐに自分が突撃しても、一度散ってしまった巨人の魔物たちを再び誘い出すことは難しい。

すなわち、多方向に広がった巨人の魔物たちは、もう、騎士団と魔術師団が相手せざるを得ないということ。

あの棍棒の一撃で、ステータスの高いクラウスでさえHPを1/5も削られてしまった。

もしもクリティカルが出てしまえば、一般的な騎士や魔術師ならば一撃死もあり得るほどの威力。

「クソッ……!!」

クラウスは焦った。

そして、後悔した。

自分が【剣術】に拘ったせいだと。

単純な《龍王剣術》の連打よりももっと良い方法があったかもしれないのだ。

【剣術】に拘るあまり、考えることを放棄してしまった。

深い絶望がクラウスを襲う。

クラウスは己を恥じた。

また、自分は愚かな行いをしてしまったのか。

自分はずっと変われないままなのか。

仲間を危険に晒して、何が存在意義だ。

そんな二十年なら、そんな“確かさ”なら、捨てた方がマシだ――!

「――“騎士”とは」

何もかもかなぐり捨て、必死に駆けていたクラウスの耳に、突如、凛とした声が聞こえてくる。

次の瞬間――視界全体が、 青い(・・) 炎の海に飲み込まれた。

《火属性・伍ノ型》。炎はまるで波のように押し寄せ、魔物の軍勢を圧倒的火力で蹂躙する。

「ピンチに颯爽と駆けつける、正義の味方」

白い(・・) 羽織が風にはためく。

その背中には……黄金の“ 鬼穿将(きせんしょう) ”の刺繍。

「クラウス殿。余計なお世話かもしれんが、私はこう思う」

弓を構え、《龍馬弓術》《火属性・参ノ型》《風属性・参ノ型》《相乗》を準備しながら、口にした。

「武器など、実はどうでもよいのだ。重要なのは“意志”。剣も、鎧も、騎士であることになんら関係はないのだから」

「……っ!」

彼女は、以前からクラウスの内心を察していた。

過去の自分の境遇と重なっていたのだ。

だからこそ、何が重要なのかを誰よりもよくわかっていた。

そうして、セカンドと共に、仲間たちと共に、この道を歩んできたからこそ、今の彼女がある――。

「鬼穿将、シルビア・ヴァージニア参上」

……それからは、まさしく一方的だった。

誰よりも広い範囲攻撃で、誰よりも遠い射程距離で、誰よりも強い攻撃力で、魔物の軍勢を一瞬にして消し炭にしていく。

鬼穿将とは、斯くも凄まじいものなのかと、誰もが言葉を失ってシルビアの姿を見つめていた。

「一人でよく頑張ったなあ」

「!?」

放心していたクラウスの隣には、いつの間にかセカンド・ファーステストが現れていた。

セカンドは一緒に転移してきた 皆(・) の手を離すと、クラウスの正面に立って向かい合う。

「そう、くよくよするな。俺の弟子なんだから、俺の弟子らしく振る舞え」

彼らしい言葉だった。

大したことではなさそうに感じる、しかし物事の最も本質的で重要な部分を一突きで貫くような、そして、過去ではなく未来を見据えた言葉。

そのたった一言で、自分も輪の中に入れてもらえているような気がして、存在を肯定してもらえたような気がして、クラウスは目を潤ませた。

そして、だからだと納得する。だから、彼の周りには人が集まるのだと。

「……ぃ……はい……!」

クラウスは嗚咽を堪えながら頷く。

時刻は、13時59分。

間もなく、次の発生が始まる。

「セカンド殿、最初はここでよいのか?」

「ああ。まあ15時まではやることなさそうだし」

「セカンド~! 一緒に戦えて嬉しいぞ~!」

「おいおい、あんまり僕の前でベタベタすんじゃねぇーよ、気が散る」

「プリンスお前、リンリンさんいない時だけイキってるとさ、なんか……」

「なんだよ!? 人を憐れみの目で見んなテメェー!」

「プリンス殿、大声を出さないでくれ。レイヴ殿も怖がっているんじゃないか?」

「せ、セカンドさん、一緒に戦えて光栄ですっ!」

「相変わらずただのファンだなこの少年は……」

「そろそろか。エル、キュベロ、調子はどうだ?」

「今世紀最高の調子だぜ、ご主人様」

「十年に一度と思われた闘神位戦を上回る調子です、セカンド様」

「某ワインみたいに言うなあ」

ヴァニラ湖南東を担当するメンツは、軽口を叩き合いながら横一列に並ぶ。

セカンドとシルビアは、白の羽織を。ノヴァと、レイヴと、プリンスは、黒の羽織を。エルはメイド服を、キュベロは執事服を。

誰もが、その光景を忘れることなどできないだろう。

クラウスを、第一騎士団を、宮廷魔術師団を背にして並び立つ彼らは、何よりも頼もしかった。

何よりも、何よりも、頼もしかった――。