軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

308 母は偉大、HAHAHA!

マサムネに《精霊召喚》をお願いする。

さあ、いよいよこの世で会えるぞ、0k4NNさん。いや、ここでは 零環(レイカン) さんか。

なんだかつい二か月ほど前に夢の中で会ったような気もするが、どんな話をしたのかうろ覚えだ。多分、精霊になって侍のもとに降臨してくれとかなんとか頼んだような、そんな感じだったっけ。

それにしても凄いよなあ、死んでも精霊になれるなんて。三百年以上もの時を越えて蘇り、再び新鮮なメヴィオンを楽しめるってことだろう? よし、俺も死んだらそうしよう。

「――Hello! セカンド、お久しぶりですネー」

そして、突然現れた、ぼさぼさの黒い長髪を後ろで束ねた無精髭の野武士のような男。

姿形は前世と全く違っているが、その独特な訛りですぐにわかる。間違いない、零環さんだ。

「お久しぶりです。あっちの生活はどうですか?」

「You know, の~んびり空間です。そういえば、ミロク育成しておきましたよ」

「え、マジィ? 楽しみです。暫く出してなかったので」

「HAHA! 待ちくたびれてるかもですネー」

あーっ……零環さんだ。凄く零環さんだ。

「ちょっとね、なんか嬉しくてそわそわします」

「ワタシもそう。落ち着かないネ」

「あの、零環さん、一つ聞いておきたいんですが……抜刀術実装前までしか知りませんよね?」

「That's true!」

やっぱりな。零環さんのメインキャラは、【抜刀術】実装の大規模アップデート前にログインしなくなって、それからパッタリだった。

つまり、今の零環さんは、それ以降のアップデートで実装されたあれやこれやを知らないということ。

「新要素、メッチャ増えましたから。お楽しみに」

「Yeah, ワタシの顔ニヤけちゃいますネー」

なんだろう、ちょっと羨ましい。

「ええと……二人はかなり特殊な関係なんだね?」

俺が零環さんと盛り上がっていると、マサムネが不思議そうな顔で口にした。

まあ、確かに簡単には説明できない間柄である。

「仲が良さそうで羨ましいよ。零環のそんな様子、ボク初めて見た」

「へぇ。零環さんって、普段はどんな感じなんだ?」

「凄く厳しいよ。鬼も裸足で逃げ出すくらい」

マジか。意外だ。

「HAHAHA! マサムネだからですよ」

零環さんは、そう言って笑っている。

マサムネだから。うん、わかる気がする。

いつの日か期待に応えてくれそうな、彼女の持つ努力の才能を、零環さんも感じ取っているのだろう。

「……楽しみにしててネ、セカンド。アナタ負けるのは、ワタシだけじゃない。ワタシとマサムネになるよ」

「!」

不意に、零環さんが、刀のように鋭い視線でそんなことを口にした。

そして、パチリとウィンクする。

なるほど。

なるほどなるほど! 面白いじゃないの……!

「何年かかるか数えていてあげますね」

「HAHAHAHA!」

ウケた。

煽りが全く効かないのも、本当に昔のまんまだな、零環さん。

「ま、今はスタンピードにfocusですネ! ワタシの知らない情報も、あるんでしょ?」

「勿論。じゃ、共有しときますか」

「OK」

情報共有するだけで、ここまで安心できる相手もそういないな。

マサムネについては、もう何も心配することなく全てを任せておける。

間もなくスタンピードというこの時に、これ以上ないほど心強い味方が駆けつけてくれた。

その上、俺に先々の楽しみまで用意してくれる始末だ。

ああ、流石はオカンさん。母は偉大なり――。

* * *

夜、大浴場、女湯にて。

スタンピードまで残り少ないこの時期になると、皆は経験値稼ぎやスキル習得といった比較的単純なフェーズを過ぎ、スキルを如何に使いこなせるかという一点を極限まで研ぎ澄ます複雑なフェーズへと移行していた。

これまでは目的に向かって直線的に努力していればクリアできたものが、次第にできなくなってくる。つまり、努力の方法について工夫を求められる段階に来たというわけだ。

そうなると、必然的に余裕のある者とない者とが出てきてしまう。言わば才能の差である。

「……私、魔物戦の才能、ないのかもしれません」

四鎗聖戦出場者のダークエルフのカレンが、湯船に肩までつかりながらそんなことを呟く。

彼女がファーステスト邸に来てから一か月半、あまりの手厚い環境にすっかり毒気を抜かれ、心を入れ替えたように真面目に直向きに訓練へと取り組んでいたが、ついに壁にぶつかってしまったようだ。

「ま、皆そう言うわよねぇ」

そんな愚痴を耳にしたシェリィは、少しも深刻に捉えずに、軽い調子でそう口にすると、湯船に入ってカレンの隣に座った。

「まるでとっくに通り過ぎた道とでも言いたげね?」

その横へ、体を洗い終えたヴォーグも腰掛ける。

「事実でしょ?」

「私は未だに思うこともあるわ」

「だってさ、カレン。元霊王がこうなんだから、あんた悩んでる暇なんてないわよ」

冗談めかしてシェリィが言うと、カレンは少しだけ表情を崩して口を開いた。

「なんだか少し、悩んでいるのが馬鹿らしくなりました」

「ちょっと、私を見て馬鹿って言うのやめてくれる?」

「なら未だに悩むことのある私は馬鹿らしいってこと?」

「私を励ましたいのか悩ませたいのかどっちなんですか……」

自然と、三人で笑い合う。

辛く厳しい訓練を二か月近く一緒に続けてきた三人の間には、友情のような何かが芽生えつつあった。

「――おや、失礼した。お三方はこの時間でしたか」

ガラッと浴場の引き戸が開くと、アカネコが現れた。

「邪魔するよ」

「し、失礼します」

「お風呂です、入浴です」「あ、鳥さん忘れた……」

続いて、レンコとアルファ、グロリアも現れる。

グロリアはシャンプーハットを被っており、お風呂の準備は万端かと思いきや、おもむろに脱衣所へ戻ると、檜でできた水に浮かぶ鳥のオモチャを持って再登場した。

「あんた、いい加減さぁ、自分で洗いなよ」

「嫌」「染みるです、痛いです」

「はぁ……今日が最後だよ?」

「わぁい」

グロリアの腰まで伸びた美しい銀髪を、レンコが仕方がなさそうな顔で優しく洗う。

一度グロリア一人で洗わせた時は、目を閉じたままろくに身動きがとれなくなりシャワーヘッドを探してへっぴり腰で右往左往した結果、転んで浴槽にダイブしたことがあった。

皆それを知っているので、誰かがグロリアの髪を洗うのが習慣となりつつあるのだ。

「エルフ族の姫が聞いて呆れるわよねぇ」

そんな様子を見て、シェリィが呟く。

エルフであるヴォーグは流石に笑えなかったが、カレンは「ふふっ」と微笑を漏らした。

「でも、あんなのがこの中で一番強いんでしょ? やれやれだわ」

呆れた顔のシェリィの言葉に、ヴォーグとカレンが同意するように溜め息をつく。

「変人が強いって決まりでもあるんですかね」

「あっはは、笑えるわねそれ。誰が一番変人かわかりやすくていいわ」

「ぷっ」

カレンの冗談に、シェリィが笑う。ヴォーグも姫の手前笑ってはいけないとわかっていたが、シェリィの言った「一番変人」の男の顔がパッと出てきて、つい吹き出してしまった。

「シェリィさん、ヴォーグさん、当日は転移などで世話になると聞きました。事によってはご迷惑をおかけするかもしれませぬが、我ら一同、粉骨砕身戦い抜く所存で御座います。どうか最後まで、何卒よろしくお願いいたしまする」

最初に湯船へと入ってきたのはアカネコだった。

そう言って頭を下げる彼女の相変わらずの真面目っぷりに、三人は面食らってしまう。

「あの、カレンさん、私……実はさっきの会話を聞いてしまって……私でよかったら、相談して? 自信ないの、私も同じだったから……ちょっとなら力になれるかもって、そう思います」

一方、アルファは恥ずかしそうに俯いて、小さな声でカレンに話しかけた。

メガネが曇っていて表情が全くわからないが、顔はほんのり赤っぽい。

「いや、そうは言っても……アルファさん、私と比にならないくらい強いですよね」

「ぜ、ぜん、全然、そんなことっ」

カレンが言葉を返すと、アルファはぶんぶんと首を横に振って否定した。

「はい謙遜~。私たち見たんだから、あんたたちの訓練。ね?」

「ええ、まあ、彼がしつこくナンパして連れてきたってだけあると思ったわ」

そこへシェリィとヴォーグが援護射撃をする。

「そ、そういうことでは、なくてですねっ! せ、精神的な面のお話です!」

アルファは自分に注目が集まっていることが恥ずかしいのか、ザバッと膝立ちになって必死に否定した。

そんな中、最後の二人が入ってくる。

「それもあるだろうけどさ、あいつが連れてきた理由って、あたいが思うに……」

レンコの視線の先には――アルファの体の一部。

「でっ……」

アカネコが思わず絶句するほどの大きさ。

「へ……? きゃっ!」

アルファは皆の視線に気付くと、慌てて湯船に体をつけて隠した。

「浮かんどるやないかい!」

「……あぁ、確かに、言われてみればそうかもしれないわね……」

謎の関西弁で指摘するシェリィと、謎に納得するヴォーグ。

「うわ、本当ですね。え、セカンド八冠ってもしかしなくても……巨乳好き!?」

カレンは、謎が解けたとばかりに手を打って口にした。

瞬間、「くっ……!」と声をあげる者が一名。

「シルビアは……まあちょっとあるけど! ウィンフィルドは! ウィンフィルドはどうなの!? ぺったんこの部類じゃない!?」

「相手は精霊ですし、恋仲というような風には見えませんね」

シェリィの反論に、カレンが至って冷静に返す。

「じゃあ最近増えたマサムネはどう説明つけんのよ!」

「シェリィさん、マサムネ殿は……さらし布を取ると意外と」

「ちくしょーめぇ!!」

「ご、ご乱心だ……」

荒ぶるシェリィと、落ち着いた様子のアカネコ。

しかし、アカネコも内心穏やかではなかった。とある事実に気付いたのだ。

「……ああ、私は気付いてしまいました。師の恋人は皆、頭抜けた強者ばかり……」

「!」

セカンドの恋人は、ユカリ以外の全員が、恐ろしいほどの強者なのである。

鍛冶師のユカリも、その仕事っぷりはまさしく強者のそれ。強者と言って差し支えないほどの能力だとアカネコは考えた。

「それもそうね。シルビア鬼穿将やノヴァ前闘神位は、今やどのくらい先にいるのかわからないほどだけれど……ええと、マサムネ? 彼女も強いのかしら?」

ヴォーグは納得しかけたが、マサムネだけ引っかかったようだ。

確かにと、シェリィとカレンもヴォーグに同意する。彼女たちは、マサムネを毘沙門戦でしか見たことがなかったのだ。

「……あぁ、ありゃあね」

すると、レンコが珍しく、呆れ笑いをしながらそう口にした。

「あの、私たち、たまたまマサムネさんの訓練を見かけたんですが……」

アルファが言葉を継いで、言い辛そうな表情で、アカネコへと視線を向ける。

アカネコは、暫しの沈黙の後、嫉妬と尊敬のまざったような複雑な表情で口を開いた。

「正直申しまして、今の私たちとは桁が違う域かと」

「――!」

マサムネと同じ侍であるアカネコが、断言する。

セカンドに次ぐ実力の侍であったはずのアカネコが、現状、そう認めざるを得ないほどの実力差なのだ。

それがどれほどのことかを理解した皆は、絶句するしかなかった。

「今はね~」「追いつけです、追いこせです」

静かになった浴場で、鳥の玩具を浮かべて遊ぶグロリアの楽しそうな独り言がこだました。