軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

297 無謀ボム

「マサムネおるかー! マサムネはおらんのかー!」

「うわあ!? ビックリした! セカンド君!?」

早朝、俺は刀八ノ国の弁才流の道場を訪れていた。

一人で朝稽古をしていたマサムネは、突然の俺の出現に目を丸くして驚いている。

「おお、いたいた。付いてこい、洞窟に行くぞ」

「待って、洞窟っていうと、 岨岩屋(そわのいわや) かい?」

「知らんけど、東の崖の洞窟」

「岨岩屋じゃないか! あんな危険なところに朝から何をしに行くのさ!」

マサムネは嫌なようだ。

刀八島東の洞窟。確かに、マサムネのレベル帯からすると、あそこに出てくる魔物は少し上の強さだろう。

だが、仕方がないのだ。刀八島を出ずに経験値を稼ぐとなると、あそこくらいしか満足に稼げる場所はないのである。

「今日一日で安定して攻略できるようになるまで成長してもらうからそのつもりで」

「……セカンド君、ボクは確かに限界を突破して努力したと、毘沙門戦ではそう言ったけれどもね、別に好き好んで無謀なことをしたいわけじゃないんだよ」

「大丈夫だ、無謀というわけではない」

「というと?」

「限界の一センチくらい上を想像してくれ」

「世間ではそれを無謀と言うんじゃないかな?」

一理ある。

「ところでマサムネ、二か月後に魔物が大量発生する災害が起こるんだが、魔物が街になだれ込まないよう食い止めるのに協力してくれないか?」

「それを先に言っておくれよ!!」

うーん、一理ある。

「すまん。まあ、なんだ、その準備のために経験値稼ぎの方法を教えに来たってわけだ」

「ボクが協力するのは、聞くまでもないってことかい?」

「いや、断ってくれていい。命がかかっているしな。ただそれはそれとして、経験値稼ぎの方法は教えて帰るつもりだが」

「うん、まあ……協力する、協力するよ。でも、見透かされているようで、なんだか釈然としないなあ」

「ありがとう、助かる」

「……それほどでも!」

マサムネはぷくっと頬を膨らませてそう言った。

どうやら協力してくれるようだ。正直、大きな戦力としてマサムネには期待していたから、ありがたい。

さて、それじゃあさっそく洞窟へ行くか。

「ところでセカンド君、どうしてボクなんだい?」

道すがら、マサムネがそんなことを聞いてきた。

「ん?」

「いや、ほら、他にもマムシさんとかカンベエ君とか、精鋭がいるじゃないか」

「ああ」

なるほど、どうしてマサムネ だけ(・・) を連れ出したのかということか。

簡単だ。

「死ぬから」

「…………ええと」

マサムネは暫しの沈黙の後、物凄く不安そうな顔で俺を見上げた。

「まず、恐怖で体が竦んでしまうカンベエは論外だ。訓練して克服はできるだろうが、二か月そこそこの短期間では難しい。次にマムシだが、彼の独特な技術は対人戦には向いているが対魔物戦には向いていない。矯正にも時間がかかる」

「うん、それはそうかもしれないなぁ」

「対してマサムネ、お前はセンスがいい。何度も言うが、お前は後手が向いている」

「言っていたね。うん、最近は自分でもそんな気がするよ」

「そりゃそうだ。だってお前は元々、後手の基礎ができているんだ」

「おっと、それは初耳だな」

「 躱して斬る(・・・・・) 、この単純な基礎ができていない者は、意外と多い」

「!」

そう、躱して斬る。言葉にすれば単純。ただ、それを徹底できる者は少ない。

毘沙門戦でのマサムネは、優れた動体視力を活かしてまずは相手の出方を観察しようとしていた。これは対人戦においても、対魔物戦においても、抜刀術では重要な心得である。

出会った頃はできていなかった基礎だが、俺の「後手が向いている」というたった一つのアドバイスと、たった半年間の訓練だけで、ここまで成長した。そんな彼女を天才と言わずなんと言おうか。

きっとマサムネなら、死なずに済む。その確信があったから、彼女だけ誘ったのだ。

「魔物を相手に戦う際の、基礎中の基礎だ。これを意識しなくてもできるようにならなければ、呆気なく死ぬ」

「言われてみればって感じだね」

「そう感じるのは、意識せずにできているってことだろう」

「ん、そうかも?」

まあ、躱して斬ってるだけじゃあ話にならないから、二か月みっちり鍛えてもらうんだけどもね。

なんて話している間に、洞窟が見えてきた。

七世零環(ナナヨレイカン) を修理するために使う 緋緋色金(ヒヒイロカネ) を採掘しに訪れて以来だ。

この洞窟に出現する魔物の特徴は、HPとVITが高く、STRとAGIが低く、単体で出現しやすい。言うなれば、魔物の強さが二段階ほど上がった複数出現の少ないリンプトファートダンジョンというような感じか。

「じゃあマサムネ、とりあえず解説しながら手本を見せるから、俺の後ろを付いてこい」

「了解」

七世零環を腰に引っ提げて、洞窟へと足を踏み入れる。

とは言っても、使うスキルは【抜刀術】ばかりではない。マサムネ向けにチョイスした、いくつかの別スキルも使う予定だ。

「いいか、マサムネ。火力には大まかに三つある」

「火力かい?」

「ああ。瞬間火力、単発火力、継戦火力、この三つだ」

メヴィオンでは、こう分類されていた。

「なんだか違いがよくわからないよ」

「順に教えよう。まずは瞬間火力の考え方から」

ちょうど目の前にお誂え向きの魔物が現れた。ムクロムシャ――この洞窟内で最もHPの高い魔物だ。

「瞬間火力とは、限られた短い時間内で相手に与えられるダメージのことを言う。たとえば、この魔物を五秒以内に倒さなければ、次の魔物が湧き出てきてしまうとしようか」

「なるほど、じゃあ四秒くらいで倒したいところだね」

「そうだな。そこで使うべきは、当然、四秒間で最も火力を出せるスキルの連なりとなる」

「……うぅむ?」

なんだろう、と考えるマサムネ。既に二秒経過。これが実戦だったら、この時点でゲームオーバーだ。

そもそもパッと考えてわかるようなものではない。それこそ、定跡のように事前に覚えておくべきものである。

そして、各秒数や、魔物の種類、魔物の数、地形などを考慮し、その時その時の最高瞬間火力を大まかに把握しておけば、あらゆる状況に応用できるのだ。

「抜刀術で四秒なら、香車から二の太刀歩兵で納刀、溜めて銀将かな。ちなみに移動込みとする」

「へぇ! ボクは飛車かと思ったよ」

「飛車は移動がなぁ。あとクリティカルヒットを考えると、手数の多い方が火力が安定しがちだ」

「なるほど……!」

納得してくれたようだ。

マサムネが感心している間に、俺から香車・歩兵・銀将と三連撃を受けたムクロムシャが倒れ伏す。すると、その後方から、俺の存在に気付いたアシガルドッグが走り寄ってきた。

「次に単発火力。これは単純だ、スキル一発限りの火力を意味する」

「わかった。じゃあ最高単発火力は、龍王だね?」

「ああ。でもこの場合は満足に溜められないから、こうなる」

俺は《飛車抜刀術》を準備し、飛びかかってきたアシガルドッグの一撃を躱しながら、その腹部にぶちかます。

「四足系魔物の突進は、素直な直線攻撃が多いから躱しやすい。例外もあるが、高難度の甲等級ダンジョンくらいでしか出てこないから今は考えなくていい」

「待って、今、一撃で倒したの? え? というか、ダメージがおかしくない? 四万……?」

「ダメージを見るのはいい心がけだ。魔物のHPと、自分の出せるダメージを把握しておけば、相手に応じてスキルを選べるようになる。より効率を重視できるぞ」

「……ボク、一万ダメージも出したことがないんだけど」

「今日中にひねり出せ」

「やっぱり無謀だよ……」

とほほ、という顔を見せるマサムネ。しかしその目は期待に満ちていた。必死に食らいついていけば成長できるという確信と、それに伴う悦びを隠しきれていない。ああ、いいよねえ、やっぱり「侍」って。

「じゃ、仕切り直して、最後に継戦火力だな。これは、戦闘を継続していく中での火力を意味する」

「……ええと?」

伝わらんか。

「平たく言えばアベレージだ。数十分、数時間と戦い続けたとして、その間、如何に火力を維持して出し続けるか。如何に手を止めず、無駄をそぎ落とし、高効率で戦い続けるか。そういった考え方だな」

「それって、瞬間火力とどう違うんだい?」

「まあ、意味合いは概ね一緒だが、分けて考える意味もちゃんとある」

「短時間か、長時間かってこと?」

「その通り。瞬間火力は、目の前の魔物を想定した短時間の考え方。継戦火力は、ダンジョン周回などを想定した長時間の考え方だ」

「……うーん、わからないなぁ。結局、ダンジョンを進むにせよ、最高瞬間火力を出し続けたら一番効率がいいってことにならないかい?」

違うんだなそれが。

「抜刀術はSPを消費するし、ダンジョンでは魔物の複数出現もあり得る。SPの回復方法、魔物間の移動方法、多対一の戦闘方法など、継戦火力はそれら全て込みでの効率を求める」

要は、無駄のないコンボの繋ぎ方を実戦的に考えるということだ。

「まあ見てな」

俺はよくわかってなさそうなマサムネに対して、洞窟奥まで継戦火力を重視した戦闘を行って見せることで、理解させることにした。

さて、こうなってくると、【抜刀術】ばかり使っていられない。

ここで重要なのが、《飛車盾術》。もしくは少し速度の劣る《飛車槍術》か、コスパの悪い《龍馬体術》だ。

魔物から次の魔物への移動を如何に効率よく行うか、それを解決するのが突進系のスキルである。継戦火力を語る上では必須のスキルと言っていい。

そして次に、遠距離攻撃系スキル。《歩兵弓術》や各属性・参ノ型があるだけでも全然違う。

遠くにいる魔物を自分の方へ寄せることもできるし、距離をとったまま倒すこともできる。近距離の魔物を相手しながら同時に遠距離の魔物を相手することもできる。利点しかないのだ。

本当は《金将糸操術》などの拘束系や、《精霊憑依》や《変身》のようなバフ系など、いくつか安全マージンも欲しいところだが、贅沢は言っていられない。

マサムネは、【抜刀術】に加えて突進系スキルと遠距離攻撃系スキルを覚えるだけで、継戦火力が跳ね上がり、恐らくはこの洞窟の周回も可能なほどの実力となるのだ。

「……ってな具合に立ち回る。攻略のスピードが段違いだろ? 今俺が使って見せたような盾術や弓術は、これから周回しながら覚えちまおう。どうだ、行けそうか?」

洞窟の奥まで一通り魔物を倒して突き進み、振り返ってマサムネに話しかけると、彼女は半笑いでこう口にした。

「無謀と言ったのは撤回するよ、セカンド君」

「おお」

「超無謀だね」