軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

291 痛い

* * *

シャンパーニとベイリーズは、静かに戦慄した。

自分の主人がどれだけ“上”なのか、途端にわからなくなったのだ。

彼女たちにも矜持があり、信念がある。それを賭したとすれば、痛みの一つや二つ、我慢することなど簡単だ。

しかし、たった今セカンドが見せた 技術(・・) は、我慢の一言で片付くような単純なものではなかった。

そう、技術なのだ。「一時的に痛覚を遮断する」と表現してしまっても過言ではないほどの技術。

痛みを我慢できたとしても、恐れないことは難しい。それは人間という生き物がそのような仕組みでできている以上、逃れようのないことである。

それを「PvPでは不利だから」というただそれだけの理由で克服しようと訓練し、技術として習得してしまうことの異常性が、セカンドという人間をよく表していた。

彼女たちは、今まで、八冠王セカンド・ファーステストは自分たちの延長線上にいると考えていた。この道を真っ直ぐに進めば、いずれ追いつけるのではないかと、漠然と考えていたのだ。

どうやら、そうではないらしいと……何か途轍もなく恐ろしいものの片鱗を覗き、理解させられた。

アーク・パラダイス。このエルフは、明確に 一等級(・・・) 以上の実力があった。

使用人零期生の考える戦闘能力ランキング表において、一等級……すなわち、イヴやアカネコ、グロリアよりも実力を有していた可能性がある。

否、その三人がたった一撃でヘレスの剣を切断し、戦意を喪失させられるかと言うと、難しいだろう。

であれば、一等級以上、つまりは特等級。具体的には、エコやシルビアやラズベリーベル以上、ノヴァやミロクやあんこ以下。そのあたりの順位が妥当なのではないかと、彼女たちは短い時間でそう判断した。

シャンパーニは二等級、ベイリーズとヘレスは三等級である。もし、この三人だけでアーク・パラダイスと対峙した場合、三対一でも勝ち目は薄かっただろう。

アーク・パラダイスの最大の恐ろしさは、何をしてくるかわからない点であった。全身の装備が総じて謎めいていた。弓矢よりも速い遠距離攻撃武器と、ミスリルさえ切断する長剣。明らかな情報は、たったの二つだけ。対策の立てようがない。

もし、この場にセカンドがいなかったら……それを考えると、恐怖でしかなかった。

同時に、そんな相手に尻餅をつかせるセカンドへ、恐怖にほど近い畏怖が込み上げる。

そして二人は、できることなら、こう叫びながら王国中を練り歩きたいほどの気持ちであった。「これが私のご主人様だ!」と。「これがわたくしのご主人様ですわ!」と。

「マジごめん、手袋が……」

当のセカンドは、不意に「あっ」と気付いて、シャンパーニへと振り返り、申し訳なさそうな顔でそんなことを口にした。

黒のレースの手袋。女装をするセカンドのためにとシャンパーニが王都の高級衣料品店で買ってきたものである。

手袋は人差し指の部分だけ吹き飛び、その根元は焼け焦げて縮れていた。アークの持つアーティファクトの威力が窺えるその酷い有様に、シャンパーニは背筋をゾクリとさせる。

「大丈夫ですわ、ご主人様。気になさらないでくださいまし。それよりも、今は」

「そうです、ご主人様。奴は無法者、隙を見て逃げ出すかもしれない」

「そう? そうか」

アークがまだ何かやってくるんじゃないかと、使用人の二人はそう考え、若干の焦りを見せた。

もう試合は終わったとばかりに余裕を見せているセカンドを見て、不安に思ったのだ。

しかしセカンドは、相変わらずゆったりとしていて、アークを縛ろうとも殺そうともしない。

いったい何を考えているのかと、再び二人が口を開こうとした瞬間――。

「いィ゛――!?」

「そういう手札ばかりあってもなあ」

「な、クソッ! 何故ェ……!!」

アークの両腕がグンと引っ張られ、背中側で縛られた。その手から、カランと何かが落下する。

“ゴブリンメイジの角”であった。そう、アークは、セカンドの目を盗んでゴブリンメイジの角を自分に突き刺すことにより、4kmランダム転移の効果で逃走を図ったのである。

セカンドにとっては定番の緊急脱出方法。だが、このアイテムの効果を知らない者ならば、見逃してしまっていたかもしれない切り札。

ベイリーズは途端に自分の発言が恥ずかしくなり、反省した。この状況で、セカンドに隙などあるはずがなかったのだ。

そしてそれ以上に、たった今、セカンド・ファーステストを糸操術師として最大級に尊敬した。

今、セカンドは、拘束スキルである《金将糸操術》を発動していない。では何故、アークを拘束できたのか?

それは、周囲へと巧妙に散乱させた糸を《桂馬糸操術》で操作して、拘束したからだ。

ゆえに、金将では間に合わないところを間に合わせることができた。

アークがインベントリから何かを取り出そうとしている、その予備動作に反応して桂馬を発動し、序列九位のベイリーズでさえ俄かには信じられないような操作技術で瞬時に拘束する。

ただぼんやりと見ているだけでは気付けないような自然さで披露された高等技術だ。現に、ヘレスやマリポーサはその技術の高度さに気付いていなかった。

「……そうか……」

ハッとするベイリーズ。

この状況では、《金将糸操術》を発動準備状態にして見張るだとか、とっとと縛り上げて連行するだとか、そういったことを考えるのが普通。

しかし、セカンドからしてみれば、今この状況で最も隙のない形はこれなのだろう。あえて何もせず、抵抗させてから拘束する。アークの装備に応じた全ての「悪あがきパターン」に対応できるよう、あえて放置していたのだ。

相手を侮るがゆえの余裕ではなく、相手に敬意を持つがゆえの余裕。

最善を突き詰めれば、金将で拘束することが逆に隙となる。

それは、ベイリーズの全く知らない発想だった。

「痛い、ああ、痛い……! すまなかった、謝るよ! だから指を治してくれ! もう嫌だ……!」

抵抗を諦めたアークが、涙ながらに訴える。

セカンドに斬られた指が痛むようで、その声はあまりにも真に迫っていた。

「こいつどうしよう。騎士団のところに連れていけばいいのかな?」

「はい。騎士団で隷属の首輪を嵌めてもらうのがよいかと」

「じゃあマインとクラウスのところに連れていくか」

「それがいいですわ」

セカンドは「痛い、痛い」と騒ぎ続けるアークの言葉を無視すると、使用人二人と話し合ってアークの行く末を決めた。

マルベル帝国は一億九千五百万CLの賞金、キャスタル王国は一億七千万CLの賞金をアークへとかけている。

今回はキャスタル王国の王都で捕まえたということもあり、少し損ではあるが、王国へ提供するのが自然と考えた……ように、シャンパーニとベイリーズの二人は思っているが、実際のところ、セカンドは何も考えていないだけであった。

「じゃあ、すまんが、二人とも」

「はい」

「はい」

「ヘレスを頼む」

「……は」

「はい?」

セカンドは二人にそう伝えると、いつの間にやら《魔召喚》していたあんこに指示を出し、アークを《暗黒召喚》させる。

「き、消えた……!?」

セカンド本人はというと、突然消えたアークに驚いているヘレスの目を盗んで、ダッシュで逃げ出した。

《暗黒召喚》クールタイム一分経過まで、アークのことはあんこが見張るようだ。当然ではあるが、到底逃げられないだろう。

「あっ! どちらへ――!」

駆け出したセカンドに気付いたヘレスは、手を伸ばして引き留めようと声をかけたが、セカンドのAGIが高すぎて全く間に合わない。

風のように走り、すぐに見えなくなったセカンドの後ろ姿を見て……ヘレスがぽつりと一言。

「……素敵だ……」

シャンパーニとベイリーズは、頭を抱えたくなった。

セカンドの頼みは、このヘレスをどうにかして煙に巻けという意味だとわかったのだ。

そして、案の定、ヘレスの視線は二人の方を向く。女装したセカンドについての情報を聞き出そうというわけだ。

「君たちは、彼女の友達かい? よければ彼女について教えてほしい、助けてくれたお礼をしたい」

正当な理由である。

なおさら誤魔化し辛くなった二人は、回答に困った。すると……。

「……待て、気が動転してすっかり忘れていた。もしや貴女は、 四鎗聖(しそうせい) 戦のシャンパーニ嬢では?」

「!」

ヘレスが急に冷静さを取り戻す。

「やはり。であれば、彼女も……いや、待て」

それから、顎に手を当てて名探偵のように推理を始めた。

「お二方、私の聞き間違えなら申し訳ないが……彼女のことを ご主人様(・・・・) と呼んでいなかったか?」

「!!」

マズい。二人は顔を引き攣らせる。

「そして、これも私の見間違えでなければ……彼女は緋色の刀を持っていた」

「!!!」

いよいよ、バレた。二人は覚悟を決める。

「ああ、わかった、わかったぞ! もしや、彼女は――!」

ヘレスは推理の末に、名探偵のようにしてビシリと指をさし、言い放つ。

「――セカンド八冠の、姉君か!!」

「 」

「 」

「…………」

絶句するシャンパーニとベイリーズ、呆れ顔のマリポーサ。

「当たったようだな? ハッハッハ、安心していい、誰にも言わない。あれほどお強く、お美しい女性だ、表舞台に立てば八冠のように大活躍間違いなしだが、どうやら彼女はそうなることを望んではいないようだ。きっと、やんごとなき理由があるのだろう? 奥ゆかしい方なのだな」

彼女たちの反応を図星と捉えて、したり顔で語るヘレス。

「そ、そうですわ。黙っていて申し訳ございませんでした」

「ご主人様のためにも、今日ここでお会いしたことは、どうか」

「ああ、皆まで言わずともわかっている。だが、せめて、もう一度お会いして、直接お礼を申し上げたい」

「ええと、その」

「すみませんが」

「無理を承知で、頼む! どうしても再び会いたいのだ!」

「ヘレス様、そのくらいに。困らせてしまってはいけません」

「……そうか、そうだな。すまなかった、お二方」

食い下がるヘレスに対し、マリポーサがストップをかけた。

「では、せめて彼女の名前を」

「ヘレス様」

「いいではないかマリポーサ、名前くらい」

「失礼です、ヘレス様」

「いや、名前を聞いているだけなのだが」

「いいから行きますよ、ヘレス様」

「お、おい、ちょ、待ってくれ! マリポーサ! おい!」

そして、粘るヘレスをズルズルと引きずって去っていく。

「……助けていただきましたわね」

「後日、彼女へ菓子折りを届けておこうか」

おそらく、マリポーサはセカンドの女装に気付いていたのだろう。

シャンパーニとベイリーズは、ほっと胸を撫で下ろし、帰路に着いた。

その途中、ふと思い出す。

「そういえばご主人様、お召し替えは持っていらっしゃるのかしら?」

* * *

「――え、セカンドさん?」

「…………あ」

あんこの《暗黒召喚》によって、マインの目の前に転移した……は、いいものの。

しまった、着替え忘れた。

今から誤魔化せるか? いいや、無理だ。あんこを出してしまっている。というか既に名前で呼ばれてんじゃん。

「いや、その、ワケあって……な」

「……う、うん」

妙な沈黙が流れた。

「その自然な女声といい、似合い過ぎていて怖いものがありますね」

クラウスが沈黙を埋めるように口を開いたが、表情は見るからに引きつっている。

「その身長でそれって、相当ですよね」

マインも褒め言葉のようなものを口にしてくれているが、なんとも言えない顔をしていた。

やべぇ、急激に恥ずかしくなってきたぞ。

「ま、まあいい。ついさっき大通りの近くでアーク・パラダイスを捕まえたから引き渡したい」

「!」

あんこに指示を出し、アークの首根っこを掴んで乱暴に床へと転がせる。

この一分間であんこと何かがあったのか、アークは何もかもを諦めたような生気のない顔をしていた。

「……やはり、そうでしたか」

マインは三歩ほど近付いてアークの顔を観察する。

クラウスは「ほう」と感心したように声を漏らした後、マインが近付き過ぎないように間へ入って手で制した。

「マイン。相談なんだが、賞金はいらないから、こいつの持ってる持ち主不在のアーティファクトを貰えないか?」

「え、アーティファクトをですか?」

意外だったのか、マインは首を傾げる。

何処かから盗んできたり奪ってきたりしたアーティファクトは、持ち主に返してやらないといけないが、持ち主がもういないという場合も多々あるだろう。相続やらなんやらを考慮したとしても、行き場のないアーティファクトがいくつか出てくるはずだ。俺としては、金よりそっちの方が何倍も欲しい。

「んー……はい、いいですよ。正直、賞金をお渡しするよりそっちの方が助かりますし」

マインは暫く考えてから、頷いてくれた。

よっしゃ、言ってみるもんだな。

「クラウス」

「はっ」

俺が喜んでいる間に、マインがクラウスへと指示を送った。

すると、クラウスはインベントリから“隷属の首輪”を取り出す。

そして、第一騎士団の騎士を呼ぶと、三人がかりでアークを包囲しながら慎重に首輪を嵌めていた。

そんなにせんでも、当のアークは抵抗の意思など欠片も見えず、ぐったりと意気消沈している。多分、切断された指から出血し過ぎてグロッキーなんだろう。もしくは、あんこの威圧感にやられたか、そのどちらもか。

肉体的な痛みや、精神的な萎縮が、PvPにおいてどれだけ重要なことかわかる良い例だな。

「……っ……」

おお、なんだ、騎士からチラチラ見られてるな。

なるほど、世の女性が感じている視線というのは、これのことを言うわけだ。

この感じ、久しぶりだな。俺はいつの間にやらチラ見される対象からガン見される対象へと変わってしまったが、この世界へ来たばかりの頃は頻繁にこの視線を感じていた。

しかしあの頃の視線と比べると、なんというか、男からの視線は露骨で面白い。右のやつは尻を、左のやつは足を見てたな、多分。これ、視線を読む良い訓練になるなあ。

「セカンドさん、よく捕まえられましたね。いや、その恰好を見れば、なんとなくわかるんですけど」

「ああ、そうそう。誘き寄せ作戦な」

「ありがとうございました。これでまた王都が安全になります」

「いいってことよ」

マインが律儀にお礼を言ってくる。

軽く返すと、マインは少し呆れたような顔で言葉を続けた。

「いや、どうせ理解してないんでしょうけど、これ、世界的なニュースですよ」

「マジ?」

「アーク・パラダイスは世界中で恨みを買ってますから。セカンドさん的には味気なかったかもしれませんが、めちゃめちゃ厄介な大悪党です」

「まあ、確かに危ねーもん持ってはいたけど」

そうか、冷静に考えてみりゃあ、あんだけアーティファクト装備を整えてんなら、多少PSがなかろうがそこそこゴリ押しできちゃうもんな。

だからこそ、装備に甘えて調子乗っちゃったんだろうが。

そうだよなあ。世の中、そういう輩もいるもんだよなあ。

となると……いやあ、なんか色々と考え直す必要がありそうだぞ。

「どうかしましたか? セカンドさん」

「ん? いや」

俺は連行されていくアークを見ながら、ため息まじりに口にした。

「ずっとさあ、俺の持ってる知識をばら撒いて、皆を育てようとしてたんだ。でもな、アークのようなやつに知識が悪用される可能性ってのを全く考えてなかった」

「……世の中、善人ばかりではないですからね。残念ながら」

「残念だ」

本当に。

「ただ無差別にばら撒くのではなく、厳選してばら撒くのはどうでしょう?」

「まあ、今んとこそれが無難かな」

結局そうなるよなあ。

いっそタイトル戦出場者を集めて、講習会でも開くか。

いや、それだとプライドの高いロスマンとかは来てくれなさそうだな。

うーん、何か良いアイデアはないものか。

「あ、マイン。そういえば」

「なんですか?」

そうそう、講習会で思い出した。

「キャスタル王国魔術師会、早めに潰した方がいいぞ。上層部が金と利権に塗れて終わってる」

「それ本当ですか? 誰に聞きました?」

「ムラッティ」

「ガチガチのガチじゃないですか……」

頭を抱えるマイン。

「イーコイとも会ったが、うん、昔は有能だったんじゃないか? 昔は」

「特別栄誉教授ですね」

「オランジ王国の学術大会でノヴァに論破されて顔真っ赤にしてたぞ」

「学術大会にも行ってたんですか。そっちの方が驚きです」

「セスタさんにも会った。あの人は本物の学者だな。カレントさんとセットで国王みたいなところあるな、あの夫婦」

「顔広すぎません?」

んなこたぁない。

「えー、まあ、はい、わかりました。早急に魔術師会へ調査を入れましょう」

「おお、助かる」

「しかし魔術師会は貴重な資料を数多く保有しているので、潰すわけには行きません。本当はとても魔術師の役に立つ組織のはずなんです。なので、幹部の総入れ替えと、監査の徹底、これでどうでしょうか?」

「知らん。わからん。任せた」

「もうっ!」

マインは、ぷくっと頬を膨らませて怒る。

すまねえ、俺が馬鹿なばっかりに。

「最悪、魔術師会がぶっ潰れることになったら、俺ん家の図書館に資料を置いてもいいぞ」

「なんですかそれ。資料欲しいだけですよね?」

「バレた?」

「バレますよ、もう」

バレちゃあ仕方ないな。

でも、悪くないアイデアだと思うんだよな、図書館。

出入り自由にして、一般人でも魔術の資料を読めるようにするとか……。

「――ハァァッ!!!?」

「わぁ!? な、なんですかっ!?」

やべえ、忘れてた。

そして、閃いた。

「マイン! アークの持ってたアーティファクトのリスト、わかり次第でいい、俺にくれ」

「え、は、はい。クラウス、聞いてましたか? お願いしますね」

「承知しました」

プリンターだよ、プリンター!

なんのために女装してたかって、プリンターのためだ。

そう、そして、そのプリンターを使って、スキル習得方法、魔物の狩り方、ダンジョン攻略法、などなど、色んな本をつくって、印刷しまくるんだ。

それを図書館に置き、タイトル戦出場者限定で開放する! うん、素晴らしい。いや~、閃いちゃったな、こりゃあ。

「あんこ、帰るぞ」

「はい、 主様(あるじさま) 」

もう夜中だ、あんまり長居しても悪いから、とっとと帰ろう。

「嗚呼、主様。今宵はいつにも増して美しゅう御座います」

「そ、そうか、ありがとう」

なんだろう、皆メッチャ褒めてくれるじゃん、女装。

え、そんなに似合ってる? おいおい、変な自信ついちゃうよ俺。危ない危ない……。

* * *

「陛下、少々よろしいでしょうか」

「どうしました? クラウス」

翌日、アーク・パラダイスの所持していたアーティファクト整理を進める中、クラウスが困ったような表情でマインへと伺いを立てた。

マインは執務の手を止めて、顔を上げる。

「アーク・パラダイスなのですが」

「何か反抗的な態度を?」

「いえ、そうではありません」

クラウスはどうしたものかとため息をつきながら、言葉を続けた。

「最期に一度だけあの女に会わせてほしいと、死ぬ前に一言だけ伝えたいのだと、懇願しているのです」

「セカンドさんに?」

「はい。何を聞いてもそれしか喋らず、アーティファクト調査は隷属命令を使うよりありませんでした」

「……それは、気がかりですね」

マインは腕を組んで考え込む。

隷属の首輪をつけられ、地下牢に閉じ込められ、インベントリを空にされている以上、逃げ出すことは考えられない。あとは洗いざらい喋り、死刑を待つのみの状態だ。

その上で願うことが、セカンドに会いたい……?

「念のため、セカンドさんに伝えておきましょう。所持アーティファクトの一覧表もそろそろですね?」

「あと一時間といったところです」

「では頃合に、セカンドさんへ遣いを出してください」

「は」