軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 次の狙い

翌日。

俺はシルビアとエコと共に、校長室へと来ていた。

「エコを本日付で退学処理、そして俺の供としてA組への在籍許可をお願いします」

「します」

俺がそう言うと、エコも一緒になってお願いをした。

ポーラ校長は呆気にとられている。

自分でも無茶苦茶言っている自覚はあったが、この話が通る自信もあった。

何故なら、昨日の「エコ泥だらけ事件」が多くの人に目撃されていたからだ。

「……少し、時間をいただけますか?」

「構いません。どれほど待てばいいでしょうか」

俺は高圧的に出る。

怒りを前面に押し出して。

「昼に緊急で役員会議を開きます。その後には結論を出しましょう」

よし。おそらく俺の要求は通る。

「では結果を楽しみにお待ちしています。午前中は欠席とさせていただきます。それでは失礼します」

そうとだけ言って、俺たちは校長室を後にする。

「セカンド殿。何故あのようなことを?」

シルビアが聞いてきた。

「俺たちは留学生だ。それも異国の貴族の。その目の前で“いじめ”が発覚したんだ。それも獣人のな」

「……なるほど。もしジパングが獣人を丁重に扱う国だとすれば」

「厄介だと考えるだろうな。それにたとえそうでなくても印象はすこぶる悪い。その上、ここの教員たちはいじめを見て見ぬふりをしていたと言われても仕方のない状況だ。これ以上問題を起こしたくはないだろう。なるべく穏便に済まそうとするはずだ。ゆえに俺の要求は通って然るべきだ」

「せかんど、あたまいい!」

「ふふん、世界一位だからな」

図書室でシルビアの魔術勉強を見ていたら、あっと言う間に昼になった。

学食へメシを食いに行くと、マインが気付いてこちらにやって来る。

「セカンドさん! 聞きましたよ。エコさんをお供にするんですって?」

おい何故知っている。

この学校にはコンプライアンスのコの字もないのか?

「こいつは優秀な回復魔術師だ。それを見抜けないようじゃこの学校の程度も知れるな」

俺はついついイラっときてそんなことを言ってしまった。

すると、マインは「あはは」と笑い出した。

「どうした?」

「いやあ、セカンドさん相変わらずですね! ほんとに好きです」

「……お前やっぱり」

「セカンド殿っ!」

シルビアに小突かれる。「なんだよ」と言うと「またホモと言いかけただろう」と怒られた。つられて「ほも!」とか言い出すエコを「やめなさい!」と叱る。なんだか母親みたいだ。

「シルビアさんも相変わらずですね。エコさんも仲が良さそうでよかったです」

マインは俺たちのそんな様子を、微笑みながらもどこか羨ましそうに見ていた。

「おや、こちらでしたか」

俺が牛丼を食い終わった頃、ケビンさんが現れた。

「ああ、どうでしたか?」

そう聞くと、ケビンさんは頷いて答える。

「問題なく認められましたよ。エコさんはセカンド君の供として、今日から一緒にA組で過ごしてもらいます」

「そうですか、よかった」

俺が微笑んでそう返すと、ケビンさんも微笑んで去っていった。

「何故お供に?」「何故A組に?」などと聞かないあたり、彼は頭が切れる。もし聞かれたら「またいじめられないようにですよ」と皮肉たっぷりに言えたんだが。

「セカンド殿。ところで何故エコをA組に?」

……ああ、そういえばうちにはポンコツ女騎士がいた。

「なんで?」

エコも聞いてくる。

俺は言葉に詰まった。

またいじめられないように。そう答えるのは簡単だが、本当は違う。

一時はエコをいじめていた奴らに復讐してやろうかとも考えた。

逆に、エコはこんなにも成り上がったのだと、こんなにも役に立つ奴なんだと、見せつけて回ってもよかった。

でも、本人はそれを望まなかった。

たった一言、一緒にいたいと、彼女はそう言った。ただそれだけだった。

「……仲間だからだよ」

だから、俺はそうとだけ呟いて、席を立った。

何はともあれ図書室だ。

残りの留学期間は限られている。早くシルビアに魔術を覚えさせなければならない。そして俺も参ノ型の魔導書を手に入れる方法を考えなければ。

さぁて、忙しくなりそうだ。

俺は少し熱くなった顔を冷ますように、早歩きで図書室へと向かった。

あれから1週間が経った。

俺の懇切丁寧な講義が功を奏したか、シルビアはついに【攻撃魔術】《火属性・弐ノ型》を習得した。

マインに「こいつ1週間ちょっとで覚えたぞ」と言ったら「天才ですね!?」と驚いていた。普通はいくら短くても2週間はかかるらしい。ちなみにその最短というのはマインが覚えるのにかかった時間だとか。こいつもこいつで天才なんだな。

その上、シルビアは何かコツを掴んだのか「なんだか参ノ型も行けそうな気がするんだ」と言って、司書さんにその旨を伝えていた。

すると司書長シルクがずんずんとやって来て「シルビアさん素晴らしい才能ですわ! 是非とも貸し出させていただきますわ!」と随分あっさり許可が出ていた。俺の時は何だったんだオイと言いたくなる。「覚えられる可能性がない奴には貸さねーよボケ」ということだろうか?

ただまあ、そのおかげで俺にも覚えられるチャンスが巡ってきた。シルクに気に入られて(?)いるシルビアに頼んで四属性分を借りてもらって、横からチラ見する。結果、晴れて参ノ型を四属性すべて取得することができた。棚からぼた餅だ。

シルビアもかなり頑張っているようで、ここしばらく「あと少しで~あと少しで~」と何かに憑りつかれたように机に齧りつき、図書室に籠りっきりである。

もう俺はシルビアに教えるべきことは全て教えてしまったので、その間とても暇だった。

エコと2人で中庭でごろごろしたり、マインを加えて3人で簡単なゲームやキャッチボールなどをして遊んだ。

マインは特に「こしとり」が好きなようで、ことあるごとに俺に挑戦してくる。この間なんかは授業中にノートの切れ端に「コットン」なんて書いて渡してきた。トルクメニスタンと書いて返すと「知らない」「ずるい」みたいな顔をしてこっちを睨んできたから、中指を立ててせせら笑ってやった。マインは頬をぷくっと膨らませて「ふーんだ」とそっぽを向くが、また次の授業時間になったら「タンバリン」のメモ紙を渡してくる。なかなか可愛い奴だが、王子らしさみたいなものは欠片もないのでこいつ大丈夫かなとは思う。

授業の合間の小休憩中、マインが何か黙々と読んでいたのでこっそり後ろから覗いてみたら、あいつ「ん」で終わる単語を辞書で引いていやがった。流石にそれはズルだぞと、次のこしとりの開始時に「今回から最後が“ー”になる単語な。サッカー」と言ってやったら四つん這いになって落ち込んでいた。何やってんだ第二王子……。

とまあ、こんな感じでまったりとした日々を過ごしている。

一見して停滞しているようで、実は俺にはある目的があった。

それは「マインに気に入られること」だ。

もう既に目的は達成しているようだが……というか俺が特別何か行動しなくてもあっちから勝手に懐いてくるのだが、これじゃあまだ弱いと思う。

何故マインに気に入られたいのか。それは「肆ノ型」の魔導書だ。

肆ノ型は王宮にある。マインは確かにそう言っていた。

甲等級ダンジョン『アルギン』――甲等級の中では最も簡単なダンジョンだ。肆ノ型全属性の魔導書はここのボスからそれぞれ約10%の確率でドロップする。

現状、俺とシルビアとエコでは『アルギンダンジョン』を周回するのはキツイものがある。ただ、そうでなくてもダンジョンの周回は面倒くさいのだから、できれば周回しないに越したことはない。

俺はそう考えた末に、「お願いしたら王宮に連れて行ってもらえるくらいの関係」になるまでマインと仲良くしようとしているのだった。

「せかんど、これなに?」

そんなことを考えながら中庭でぼけーっと寝転がっていると、エコが拾ってきたチラシのようなものを見せてそう聞いてくる。

後になって気付いたのだが、エコは字があまり読めない。

すなわち、この世界の共通言語である日本語が不自由なのだ。

何故か。俺はすぐに思い当たった。そういえばメヴィオンの時、主要なNPC以外の獣人は『獣人語』を喋っていたのだ。

つまりエコは、この学校に来るために日本語をわざわざ覚えたのだろう。そして驚くべきことに、魔導書を辞書を引きながら一生懸命読み、攻撃魔術弐ノ型を既に覚えているというのだ。INTが低いので全く使えないが。

こいつアホそうに見えて実はものすごく頭が良いのかもしれない。

教会に行けば【回復魔術】《回復・小》の魔導書は置いてあるはずだ。自力で覚えられるなら、さっさと連れて行って習得させるのが吉か。

「……ほ?」

……いや、このぽかーんと口を開けたままのアホ面はとてもじゃないが頭が良さそうには見えないな。俺の思い違いかもしれん。

「ちょっと見せてみろ」

「うん!」

俺がそう言うと、エコは手に持ったチラシを渡してきた。

チラシの内容は『第51回魔術大会開催 参加者募集中』というもの。

どうやらこの王立魔術学校のバカに広いグラウンドで開催するみたいだ。日時は……留学の最終日だな。

「魔術大会があるんだとさ。毎年恒例みたいだな。優勝者には賞品もあるらしいぞ」

「へぇーっ。なにがもらえるの?」

「ん? えーと……――ッ!?」

俺は目を疑った。

優勝賞品は『追撃の指輪』と書かれている。

「……エコ。魔術大会出るぞ」

俺は即座に参加を決定した。