軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159 前提

「はいこれ予定表」

トレオダンジョンに到着し次第、俺は全員に体術合宿一泊二日のしおりを配布した。俺の殴り書きをユカリが清書してくれたものだ。

「えっ……これってよぉ、まさか……!?」

エルが驚きの声をあげる。俺はニッと笑って頷いた。

そら驚くだろうさ。だってそこには、歩兵~龍王まで全ての【体術】スキルの習得方法がこと細かに書かれているのだから。

「ダンジョンには、俺・キュベロ・リリィ・エルのグループと、レンコ・シルビア・アカネコのグループに分かれて入る。これなら多分、誰も死ぬことはない」

レンコとシルビアは《変身》を持っているし、アカネコは【抜刀術】があるから、丙等級如きなら心配無用だろう。まだ練度のいまいちな使用人たちは、俺が面倒を見ればいい。

「やることは全部しおりに書いてあるから説明は省く。何かわからないことがあったら適宜聞いてくれ」

「一ついいか」

「いいぞ、シルビア・ヴァージニア」

「何、この、なんだ……休まず1000体、とか、10連続コンボ、とか」

「言葉通りの意味だ」

「一泊二日だよな?」

「ああ。宿はもう取ってあるぞ」

「……間に合うのかこれ?」

「間に合う。以上」

質疑応答を終了する。

シルビアはまだしおりを全て読めていないらしい。今の質問の答えは、しおりの6ページ「トレオダンジョンの特徴」というコラムに書いてある情報から推察することができる。

丙等級ダンジョン『トレオ』――ここは、メヴィオンの中で最も魔物が“数湧き”するダンジョンだ。別名、無双ダンジョン。一定条件を満たせば、さながら無双ゲームのように魔物をバッタバッタと薙ぎ倒せる痛快アクションダンジョンと化すのである。

その条件とは、二人以上でダンジョンに入り、およそ同時のタイミングで二十体以上の魔物を倒すこと。こうすることで湧きの有人飽和数が一気に倍に膨れ上がり、雲霞の如く魔物が湧いて出てくる状態となる。

トレオダンジョンに出現する魔物は、オオツチアリやアースマンティスなど土属性の虫系が主で、群れを成して動く魔物がほとんど。火属性魔術に滅法弱いが、今回の場合は【体術】の習得条件を満たすため【体術】縛りで狩りを行うので、あまり関係はないだろう。

「じゃあ十五分後にアタックだ」

俺の号令に皆が返事をして、しばし準備時間となる。

ちなみに今夜のお宿は、かつて政争の最中に第一宮廷魔術師団と泊まったことのある高級旅館だ。トレオダンジョンからは相当に距離が離れているが、あんこがいるので大した問題ではない。

あそこの旅館はなかなか良かったので、また行きたいなと思い、あんことメイドに頼んで予約を取ってきてもらったのだが、今回は直前だったこともあり、残念ながら貸し切りにはできなかった。それでも一番良い部屋はたまたま空いていたらしいので、滑り込みで予約を入れることができたと言っていた。

「セカンド様、アタシたち、準備完了ですわよん」

「こちらももう構わないぞ、セカンド殿」

全員、準備が整ったようである。

「では出発」

いやあ、楽しみだ。さくさくっと習得して、さっさと旅館で卓球とトランプをしたいぜ!

* * *

side キュベロ

夢のような時間……と言えば、いいだろうか。

リリィとエル、この二人も私と同じ思いに違いない。

セカンド様が手ずから私たちに【体術】の指導をしてくださる。私たちのご主人様、あの史上最強の三冠王が、直々に。それは、一生の贈り物と言っても過言ではないほどの価値。

ああ、なんたる幸福か!

私は一語一句聞き逃すまいと、一挙手一投足も見逃すまいと、目と耳に全神経を集中してトレオダンジョンに挑んだ。

学ぶべきことは、まさに山のようにあった。

安全かつ効率よく魔物を狩る方法、ダンジョンの特性とそれを活かした習得条件の埋め方、体術における目から鱗が落ちるような技巧の数々、そして、未だ見知らぬ【体術】スキルの使い方さえも、セカンド様は懇切丁寧に実技を交えて説いてくださった。

私は思い知る。私がこれまで使っていた【体術】など、赤子の手遊びのようなものだったのだと。

私という男は、この拳一つで、二十四歳にして義賊R6の若頭まで上り詰めた。恥ずかしい話、「そこそこの使い手」だと、自分で自分をそう思っていた。

……愚かだった。まだまだ上がある。険しい山道が、先が全く見えないほど続いている。今日、私は、その麓に、ようやく立つことができた。

不思議と、スキルを覚えたという事実に、感動はない。

これから日々を過ごしていくにつれ肝臓打ちのようにじわじわと効いてくるのかもしれないが、「全て覚えていて当たり前」と仰るセカンド様の意見に同意している私としては、これしきで感動を覚えてしまってはいけないという意識さえある。

しかし、今、私は、全く別のことに、非常に強い感動を覚えていた。

セカンド様から、《飛車体術》《龍馬体術》《龍王体術》を授かった――この紛れもない事実に。

私は、数いる使用人の中から、選ばれ、期待され、認められたのだ。

期待に応えなければならない。否、期待以上の成果を上げ、セカンド様を笑顔にして差し上げたい。

その一心で、私はセカンド様のお教えを忠実に守り、魔物を狩り続けた。

わざわざ聞かずともわかる。リリィとエルも同様の考えだろう。

結果、初日の日程が終わる頃には、三人共が龍王の習得まで漕ぎ着けていた。

心地良い疲労感と達成感を味わいながら、セカンド様のもとへとご報告に戻る。

すると、セカンド様は驚きと喜びの入り混じった笑顔で、こう仰った。

「次か、その次には、出られるかもな」

……夏季タイトル戦、ないし、冬季タイトル戦。私たち三人は、そこに出場できるかもしれない、と。

私はその言葉を聞いて、脳の奥がじんと痺れ、思わず目頭が熱くなり、鼻奥がツンとなった。

ついに、ファーステストの使用人として、あの栄光の舞台に立てる時が来るのだ。

そのお墨付きを、他ならぬ私たちのご主人様からいただいたのだ……!

人生、何が起こるかわからない。本当にそう思う。

私をここまで育んでくれた全てに、ここまで生かしてくれた全てに、ここまで連れてきてくれた全てに、そして、親分に、弟分に、R6の家族たちに、心からの感謝を。

私は、私の愛するご主人様によって、世界へと羽ばたく翼をいただきました。

どうか、私がそちらへと向かうまでの間、地獄から私の勇姿を見守っていてください。

* * *

side リリィ

驚いたわ。アタシって、意外と器用だったのよ。

そう、活かせる場所がなかっただけ。といっても、こんなオネエを活かせるような場所なんて、この国の何処にもないけれどね。

でも、アタシ気付けたの。

好きな人に見られているってだけで、こんなにも頑張れる。

この想いが届かないなんて、百も承知よ。でもね、これから一生、届かない恋のために生きるっていうのも、アリっちゃアリじゃない? アタシなんて、特にね。

セカンド様。愛しのセカンド様。ああ、アタシのご主人様。

彼って、本当に正直。かつて食堂でお会いした時に仰っていた「芸術品のようだ」というお言葉、アタシは心の何処かで「おべっかなんじゃないかしら」って思っていたけれど、そんなことはなかったわ。

セカンド様ったら、しっかりと観察なさってるのよ! アタシの筋肉をッ!

それだけじゃあないわ。「更に引き締まったな、触ってもいいか?」なんて仰って、触れてくださったのよぉ!?

もう、もう、アタシ、限界ッ……ああっ、でも駄目っ! こんな大男に慕われても、彼に迷惑よ、きっと!

あぁん、どうすればいいの!? リリィちゃん困っちゃう!!

この想い、体術にぶつけるしかないのね!? そうなのねッ!?

いやん、揺れ動く恋心……リリィちゃんったら本当に乙女! でも大丈夫、セカンド様のために頑張っちゃうもんっ。

「リリィちゃん、イクわよッ……!」

* * *

side エル

隣のオネエがすっげぇ気持ちの悪ぃことを考えてやがる、多分。

それ以上に気持ちの悪ぃことを考えてやがるっぽい執事野郎もいる。

そして、更にそれ以上、気持ちの悪ぃことを考えるあたし……最低だ。

あたし、なんだかおかしいんだ。

未だかつてない至近距離で、ご主人様と行動を共にしてる。きっと、それのせいだ。この状況、あたしにとって、ちとマズいかもしんねぇ。

まず、ご主人様の匂いだ。あのド変態杖術使いメイドのコスモスを言えたことじゃないってわかってる。でもさ、良い匂いなんだよマジで! 嗅いじゃうだろーが!

後、なんなん? この視覚の暴力! ご主人様が何かするたびに、一枚の絵画にして部屋に飾って一日中愛でていたい衝動に駆られるんだよ!

極め付きは、その超絶技巧だ。もう、おかしい。ご主人様の凄さは、このメンツの中では毎日ダンジョン行ってるあたしが一番よくわかってると思う。もう、おかしいとしか言えないんだよこれ。何? ご主人様、ここに何年か暮らしてましたっけ? 体術一筋四十年のお方でしたっけ? じゃないと納得できねぇって。

駄目だ。頭ではわかってても、駄目だ。

あたしはメイド。それ以上でも、以下でもねぇ。でもさ、駄目なんだ。

どんどん好きになっていく。どんどん愛おしくなっていく。

その隣に立ちたいだなんて、クソみてぇに傲慢なことを思っちまう。

ずっと抱いていた敬意を遥か超えて、自分でも歯止めの利かない愛欲みてーなもんが、溢れ出てきちまう。

……まあ、我慢はする。ここは絶対に超えちゃなんねーって一線は、確実にある。大丈夫だ、まだ、我慢できる。まだ、大丈夫。

ファーステストのメイドとして、エル隊の隊長、十傑のエルとして、誇りを忘れるような真似は決してしねぇ。

でも、ちょっと、こう、なんだろう、今日のこの匂いとか、光景とか、そういうのは、あれだ、しばらく忘れらんねぇと、思うけどよ……。

「ちくしょーっ!!」

あたしは、この馬鹿げた欲求をなんとかして忘れられるよう、一心不乱に魔物を狩って狩って狩り続けるのだった。

* * *

side レンコ

「あんたら、凄まじいね……」

思わず呟いてしまう。

でも、それだけこいつらは凄かったんだ。

シルビアという弓の女は、合宿のしおりを準備時間に数分読み込んだだけで「ふむ、なるほど」と一言、以降はあたいがいくつかのアドバイスをするだけで、異常なまでの速度で【体術】スキルを習得していった。

一方アカネコという刀の女は、最初こそ時間がかかったものの、要領を掴んでからは見事の一言だった。魔物の集団へ微塵の躊躇もなく飛び込み、今やシルビアに負けず劣らずの速度で魔物を狩り続けている。

……未だに、あたいはあたいのことが何処か 特別(・・) なんじゃないかと思っていた。聖女ラズベリーベル様から直々に教えを受けた、唯一の侍女。特別じゃないわけがないと思うし、事実、一般的に見れば相当に特別な部類だろうさ。

でも、特別度合いで言えば、あの男には劣る。悔しいけど、これは断言できてしまう。

考えてみれば当たり前だった。あの特別な男が連れている女が、特別でないわけがないのだ。

「負けてらんないね、あたいも」

あたいは既に龍馬と龍王を習得している。ラズベリーベル様に習得条件を教えていただいたから。

でもさ、ハッとさせられたよ。

しおりの最終ページ。ここにはこう書いてある。

「全習得、全九段。これが、 前提(・・) 」――と。

……悔しい。とても悔しい。そして、とても腹立たしい。

けど……全くもって、その通り。

「やってやろうじゃないのさッ」

見てな、セカンド。

あたいだって、 闘神位(とうしんい) 戦に出場してやる。

タイトル奪取とは行かないまでも、あんたを相手に善戦してやる。

あたいの力で、あたい本来の力で、あんたに認めさせてやる。

今、この中で一番、闘神位に近いのは――あたいさッ!

* * *

side アカネコ

面白い。

抜刀術ほどとは行かないまでも、体術とは斯くも面白きものだったとは驚いた。

また、ダンジョンなる場所も非常に新鮮で心躍る。

遠く噂には聞いていたが、いざ実際に入るとなれば話は別。私はしばし緊張をしていた。しかし一度入ってみれば、なんとも取るに足りぬ場所ではないか。手応えのない魔物が四方八方から湧いて出る、肩慣らしにはもってこいの場所であった。

……などと私が慢心していると、シルビアさんが見かねてか忠告を口にする。

「油断するな。この倍は湧くと思っておいた方がいいぞ」

彼女は歴戦の猛者のようで、明らかにダンジョンに慣れた動きをなさっていた。

ありがたい。私は素直に彼女の言葉を聞こうと決めた。

「助言、痛み入りまする」

両の手を腿に置き一礼すると、シルビアさんは「うむ」と満足げに頷き微笑んだ。

その後、まさしく彼女の言った通りに、魔物の数は倍以上に膨れ上がる。それは、私が彼女を信頼するに足る十分な理由となった。

一方で、レンコさんもまた頼りになる。

今回の面々の中では、彼女のみ既に体術スキルを全て習得しているようで、やはり頭一つ抜けて実力がある。

そして、侍たちの中で育った私には、わかる。

彼女は、言わば“狂犬”――己の力を信じて疑わず、如何様な相手に対しても牙を剥き出しにして噛み付いていくだろう、更なる力に飢えた目だ。

……なるほど、彼女を見ていればわかる。体術とて抜刀術と同様、「覚えて終わり」ではないのだな。

セカンドは、否、 師(・) は、私にこう説いた。体術を抜刀術の糧とせよ、と。

私は単に、体術を覚えて得られる筋力や俊敏性を抜刀術に活かせばよいのだろうと、そういった解釈をしていた。

しかし、違うのだな。レンコさんを見ていて気が付いた。

体術に本気で取り組むことで、見えてくるものもあるということか。

体術を通じて、抜刀術を学ぶ。間接的に学習せよと、師はそう説いていたに違いない。

ああ、いつまでも腑抜けていては侍の名が廃る。

このアカネコ、 兜跋(とばつ) を捨てても、その精神は、侍の魂は捨てぬ。

刀を抜かぬ体術であろうと、それは変わらぬ!

「アカネコ、参る!」

* * *

side シルビア

なんだろう。アカネコが可愛いぞ……?

最初は「またライバルが増えるのか」と落ち込んだものだが、彼女と接しているうちに段々と彼女のことがわかってきたせいか、別に落ち込む必要はないのだと思えるに至った。

素直な後輩、といったところか。今まで身近にいたことのないタイプだ。

如何せん、周りが本当に無茶苦茶なやつばっかりなため、彼女のような まとも(・・・) な存在が嬉しくて仕方ない。

それに、こうしてセカンド殿を抜きにして彼女にアドバイスしていると、私が紛れもない“強者”だと自覚できる。私自身を見つめ直すことができる。

だって、そうだろう。私は 鬼穿将(きせんしょう) 戦挑決トーナメント優勝者だぞ? 一生誇れる栄誉だ。それが、セカンド殿と一緒にいるだけで「だから何?」程度の価値に落ちてしまう。

いや、当然のこととは思うし、セカンド殿のおかげでこの栄誉があるのだともわかるが、でも、たまには、ちょっとくらい、良い気分になってもいいではないか!

私はアカネコが気に入った。気に入ったったら気に入ったのだ! よし、この真面目で素直な後輩を可愛がろう。私はそう決めたぞ! そうしてファーステストに二人目のツッコミ役を配備し、私のツッコミ的負担をじわりじわりと減らすのだっ!

* * *

side エコ

「おいしーくれっと!」

これは、おいしい!

いままでにない、おいしさ!

ごまをかけると、あじがひとしおますかも!

「おかわりーふれっと!」

「エコ、それやめなさい」

……ゆかりにおこられた。

つかいすぎたのかもしれない?

あっ。

「ゆかりーふれっと」

「エコ、二度は言いません」

……こわい。

でも、うまいとおもうけどなー?