軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158 五つの下準備

「作戦会議ィーッ!」

「!!!」

ラズとミロクを連れてリビングに戻るやいなや、俺は高らかに号令した。

エコが目をカッと見開き、耳をピンと立てて俺を凝視する。いつものように叫ばないのは、口いっぱいに昼メシをもぐもぐしているからだ。

「なんだ 藪(やぶ) から棒に。というかその男は誰だ?」

シルビアが怪訝な表情で問いかけてくる。

「み、ミロク様。 弥勒(みろく) 流家元、 刀八ノ国(トウハチノクニ) 至高の侍……とでも申せばよいだろうか」

俺の代わりにアカネコが何故かビビリながら答えた。まだ 畏敬(いけい) の念があるらしい。

しかし、それでは答えになっていない。

「言ってしもたら、魔物や。今はセンパイがテイムしとる」

「んなっ、何を申す!?」

ラズの説明を聞き、アカネコは驚きの声をあげた。

そうか。そういえばミロクが魔物だと説明していなかったな。そりゃ驚くわ。

「魔物、ですか」

その隣で、ユカリが警戒レベルを一段階上げる。ああ、なるほど。

「心配するな、あんこのように 血気盛ん(・・・・) じゃあない」

「血気盛んで片付けていい問題じゃなかったぞ……」

シルビアが呆れ顔で溜め息をついた。まあ確かに初対面で殺されかけちゃこうもなるか。

「アカネコ、お前も今のうちに慣れておけ。俺が忙しい間は、ミロクに抜刀術の稽古をつけてもらうんだからな」

「なんだと!?」

あれ、てっきり喜ぶかと思ったんだが……アカネコはまさに絶望といった風な表情を浮かべている。

「どうした。嫌なのか?」

「嫌というわけではないが……しかし、勝てる光景が 微塵(みじん) も思い浮かばぬ」

「……へぇ」

驚いた。こいつ、勝つつもりでいたのか。

いいねぇその意識。やっぱり俺の見込んだ通りだ。

ただ、一つ気に入らないことがある。

「俺には勝てるつもりでいたのか?」

ミロクには勝機がないが、俺には勝機がある。アカネコの言い草は、そんな風に聞こえたのだ。

「正直、まだ可能性があるのはそちらの方かと――」

「――アカネコ」

予想は当たっていた。じゃあ文句の一つでも言ってやろうと、そう思っていたところで、誰かが口をはさんだ。

シルビアだ。彼女は珍しく真剣な顔をして、アカネコに語りかける。

「一切、期待するな。手が届くなどと思い上がるな。お前は知らないことが多すぎる。まずは知ることだ。でないと、必要以上に苦しむことになるぞ」

説得力抜群だった。アカネコは何も言い返せず黙り込む。

至って真面目な場面なのだが、俺はつい笑ってしまった。

「な、何故笑うのだ?」

「いや、シルビアも成長したなと思って」

「……馬鹿者っ」

シルビアは俄に顔を赤くして、味噌汁を飲むフリをしてお椀で表情を隠す。

「ねー。ねーっ。さくせんはー?」

おっと。あまりにも横道に逸れた話をし過ぎて、エコ様がご立腹だ。そろそろ本題に移ろう。

俺は咳払いを一つ、口を開いた。

「作戦その一、体術合宿開催!」

「体術、合宿? それはどのような」

ユカリのもっともな疑問。ただ、内容は言葉の通りである。

「体術スキルを覚えたいやつ全員、俺と一緒に合宿だ。歩兵~龍王まで全て覚えさせてやる」

「!?」

全員が驚いたのがわかった。

いや、そんなに驚くようなことか?

「ちなみにシルビアとアカネコは強制参加」

「うむ」

「な、何故、私も覚えなければならぬ?」

シルビアは当然と頷き、アカネコは困惑した様子。ちなみにレンコにも参加してもらう予定だ。

「体術スキルを上げて伸びるSTR・DEX・AGIは、全て抜刀術に適している。ゆえに効率が良い。育てておいて損はないぞ」

「さ、左様か」

自分の専門としているスキル以外をこれといって育てようとしない。この世界のやつらの悪い癖だな。

己が強くなればなるほど弱い魔物では経験値を稼ぎ難くなるから、死んだら終わりという状況を考えると仕方ないのかもしれないが。

「作戦その二、槍術・杖術・糸操術を覚えたいやつ募集!」

「……まさか、ご主人様」

ユカリが気付いたようだ。

「ああ。使用人でも誰でもいい。とにかく覚えたいやつは、体術と同じで俺が覚えさせてやるから一緒に来い」

「何か条件は御座いますか?」

「そうだな。最低限、乙等級ダンジョンの魔物の相手をできるくらいのステータスは欲しい」

「では、現状ですと序列上位の者ばかりとなります」

「わかった、それでいい。ユカリの方で声をかけておいてくれ」

「かしこまりました」

序列上位の使用人が数人集まりそうだ。よきかなよきかな。

「作戦その三、斧術覚えるぞエコ!」

「わぁーい!」

「STRガン上げだぜ! やったな!」

「やっふー!!」

いいなそれ。やっふー!

よーし、この流れでやっふーな作戦も発表だ。

「作戦その四、地獄の特訓!」

「…………」

おお? なんか急に静かになったぞ。

「シルビア、エコ。楽しみにしておくように」

「やっぱりか畜生!」

「う、うん」

名指しすると、シルビアは頭を抱えながら、エコは青い顔をしながら返事をした。かわいそうに。でも二人が本気で 鬼穿将(きせんしょう) と 金剛(こんごう) を獲りたいのなら、そうも言っていられない。

まあ地獄と断言するのは少々おかしな言い方だったかもな。正確には生き地獄だ。

「作戦その五、刀の修理と装備の作製!」

「私ですね。しかし、修理ですか?」

「そうだ。これはユカリにしか頼めない。だがかなり難しいと思う」

「……ええ、承知しました。腕が鳴るというものです」

頼もしいな。

「で、夏季タイトル戦へ至る、と」

「ちょい待ちぃ! え、うちは? なんかないんか?」

「これといって特にない。やりたいようにやれ」

「ド、ドライやなぁ……」

いやいや、信用の表れと言ってほしいね。

お前は放っておいても勝手に強くなるだろうさ。カラメリア依存症の治療薬開発さえ終われば、すぐさまタイトル戦へと出てくるに違いない。

ああ、楽しみだ。どれくらい先になるだろうか。 一閃座(いっせんざ) 戦で大剣を振り回していた頃のお前を、もう一度見たくて堪らないぞ、俺は。

「さあ、会議は終わりだ。ユカリ、さっそく使用人に声かけて、体術合宿の参加者を募ってくれ」

「かしこまりました、ご主人様」

……で、集まった面々がこれと。

「よろしくお願いします、セカンド様」

「お願いいたしますわぁん、愛しのセカンド様」

「おう、よろしく頼むぜご主人様」

執事のキュベロに、 園丁頭(えんていがしら) のリリィ、メイドのエル。加えて、シルビアにアカネコ、それとレンコ。

実に濃い。

「ああ、よろしく」

俺が返事をすると、三人から「はい!」と威勢の良い声が返ってきた。

目の前にずらりと並ぶ皆は、若干二名を除いてやる気に満ち満ちている。その二名とは、アカネコとレンコ。アカネコは「よもや私が抜刀術以外を……」と未だ実感できていない様子で、レンコは「なんであたいが今更」みたいな顔をしている。

アカネコは置いておくとして、レンコはこれ、もしや今から何をするのかわからずに連れてこられたんじゃないか?

大方、普通に呼んでも義賊R6の活動で忙しくて来ないから、こいつの大好きなラズの名前を使って「ラズベリーベル様がお呼びですよ」なんて騙して誘ったんだろうな。レンコのこの機嫌の悪さ、きっとそうに違いない。

「じゃあ行くぞー」

あんこを《魔召喚》し、次々と転移&召喚してもらう。

行き先は、丙等級ダンジョン『トレオ』――メヴィオン内で最も短いダンジョンとして有名な場所。

何故ここにしたのか、理由は単純である。【体術】スキルの習得条件によく合致した魔物が出現するからだ。

ジャンジャン狩って、バリバリ習得条件を満たす。まさに合宿。

あいつら全員、この合宿中に、歩兵~龍王までを習得だ。後は、経験値を稼ぎ、全てを九段まで上げれば、立派に 闘神位(とうしんい) 戦出場者。

待ち遠しいな。

さあ、ちゃっちゃと覚えちまおうか。