軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150 格上

「お前、さては人を 吸収(・・) しているな……?」

「――!」

思い当たった単語を問いかけてみる。

すると、ミロクは目を丸くして驚いた後、笑みを浮かべて言った。

「セカンド、 余(よ) は 其(そ) の 方(ほう) に興味が尽きぬ!」

つまりは肯定だろう。

【吸収】スキル……それって、確か。

「…………」

不意に、ゾッ――と、する。

【吸収】は魔物やプレイヤーの死体からスキルを吸収するスキル。

そう、 魔物特有(・・・・) のスキルである。

吸収して習得できるスキルの上限は一つ。その死体が最も得意としていたスキルのみ。以降は、新たに吸収したスキルが上書きされ、ランクもリセットされてしまう。

問題は、既に吸収したスキルと同一のスキルを吸収した時である。

その場合、吸収したスキルのランク等がリセットされることはなく、吸収対象のステータスに応じて僅かながらに自身のステータスが伸びるのだ。

「……まさか、お前」

俺の中に、一つの仮説が立った。

こいつ、もしかして、あの大きな墓場に埋まっている人たちの分、全て吸収しているんじゃないか?

その殆どが【抜刀術】をメインとする人間、つまり“侍”なのではないか?

【吸収】のスキルシステムを深く理解し、【抜刀術】をメインスキルとした人間のみを【吸収】し続けられるよう、意図的に“侍の国”を作り上げたんじゃないのか?

だとすると、どうなる?

一千年もの間、【吸収】を使ってステータスを伸ばし続けているということだぞ……?

「余の特性を見抜いたか」

「ああ、見抜いた。お前、 魔人(・・) だろう」

「然様。余は 付魔神(つくまがみ) …… 人形(ひとがた) と化した魔である」

「ツクマガミ?」

「レイカンより教わった。長き時を経て人と化す 術(すべ) を手に入れた魔を、付魔神と呼ぶらしい。実に良い呼び名だ、余は気に入っている」

いや、普通は 付喪神(つくもがみ) じゃないのか? 0k4NNさんの造語だろう、それ。

「さあ、歓談は仕舞いぞ。さあさあ、構えよ」

ミロクは手をポンと叩いて、俺を誘った。

やれやれ、やる気マンマンだな。

俺もだ。

「先手を取らせてもらう」

「承知した」

ミロクは後手でいいらしい。

OK、後悔させてやる。

「ッ――!」

「!?」

手加減などしない。いや、できない。

ここは【抜刀術】奇襲戦法――『地下鉄飛車』で行く。

俺は《桂馬抜刀術》で間合いを詰め、空中キャンセルの後、 蹲(うずくま) るように地面へ伏せ、ミロクの足元に転がった。

【抜刀術】にて最も対応しづらいのは 足元(・・) 。そして無理に対応しようとすると……一歩退く必要がある。

「鮮烈! 未だ見ぬ抜刀術なり!」

結果――ミロクは感嘆を一つ、俺をひょいと飛び越した。

冷静だ。それは最善の一手。

瞬間、俺の準備していた《飛車抜刀術》が空を切る。

くるりと振り返り、《銀将抜刀術》を準備するミロク。

俺は《金将抜刀術》を準備しながら立ち上がり、納刀する振りを見せ――

「まさか!」

そう、まさか。

ミロクの《銀将抜刀術》キャンセルとほぼ同時に《角行抜刀術》を発動、納刀しきらず二の太刀で即座に突きを入れた。

下方から展開した飛車は誘導、本当の狙いはずっと通していた 角筋(かくすじ) にあるのだ。

「くっ」

ミロクは《歩兵抜刀術》でギリギリ対応した。

歩兵と角行だ、あちらが力負けして然るべき局面。

勝負はついた……と、思ったが、しかし。

「……仕切り直しか」

ミロクは、三歩後ずさっただけだった。

大して効いていない。

どうやら、俺とあちらとで、なかなかにステータス差があるらしい。

「は……」

暫しの沈黙。

ミロクは「信じられない」といったような顔で俺を見つめる。

そして。

「はは、はははは! 愉快! 愉快なり! 抜刀術とはまだこれほどに奥が深い! 余は嬉しい!」

笑った。

楽しくて仕方がないという風に。

「 戯(たわむ) れている暇はなさそうだ。すまぬ、暫し待て。今、姿を変える」

……姿を変える。

そう発言した直後、ミロクは何やら念仏のような呪文を唱えだし――

「おいおいおい……っ」

――瞬時にして、身長2メートル強、顔が三つ、手が六本の魔人となった。

面をつけた人間が二人、ミロクと合体したような姿。

腰には二本の刀、手前二本の手は胸の前で合わせられ、後ろ四本の腕は一本ずつ抜き身の刀を持っており、顔の両脇に増えた面の瞳は左右をじっと睨んでいる。背後には燃え盛る大きな環状の何かが浮かんでおり、ぐるぐると回って俺を威嚇していた。

……思い出したぞ。

ミロク、こいつの本当の名は――『 阿修羅(アスラ) 』。

【吸収】のユニークスキルを持つ、 日ノ出島(ひのでじま) 固有のボス魔物。

「 三面六臂(さんめんろっぴ) 、攻守に隙なし。これが余の真の姿。余の名はミロク、刀神の化身なり」

抜刀の化身と言ってみたり、刀神の化身と言ってみたり、忙しいやつだ。

ただ、ミロク。お前は神でもなんでもない。阿修羅という名の魔人……それだけだ。

さあ、名乗りを受ければ返すが礼儀。

「俺の名はセカンド・ファーステスト。人呼んで、世界一位の男」

「 善(よ) き 哉(かな) ! 余が試して進ぜよう……ッ!」

ミロクは六本の腕を躍動させ威圧するように、俺へと向かってくる。

新感覚だ。未だかつて、こんな相手と戦ったことはない。

どう対応すればいいのかちっともわからない。

こんなに面白いことはない……!

「これなんてどうよ!」

「通じぬ!」

鼻先をかすめるほどの距離を維持したまま後退、《金将抜刀術》を準備する。

のべつ幕なしに斬撃の雨が降る中、俺は《金将抜刀術》の準備を終えたが……瞬間、ミロクは二歩後退、俺と間合いを取った。

なるほど、 きちんと(・・・・) 考えているようだ。

いやあ、厳しい。行動パターンに縛られず 考える(・・・) 魔物ほど厄介な相手はいない。

そもそものステータス差が、それを更に厳しい状況へと押し上げている。

そのうえ相手が魔物のため、セブンシステムも殆ど通用しない。

……え、どうすんのよこれ。

「手詰まりか? セカンド」

「まさか」

ミロクをガッカリさせてはならないため強がってはみるものの、現状これといって打開策が思い付かない。

……仕方がないな。力戦調の勝負に持ち込んで、怪しい手を連発して相手の間違いを誘うしかなさそうだ。

メヴィオン初期に散々やった、対格上の常套手段。

格上を相手に勝負するなんて、果たして何年振りだろうか。

昔を思い出すにつれ、不思議なくらい自信が湧いてくる。

ああ、そうだ。格上が嫌がることなんて、長らく格上側であり続けた俺が一番よくわかっているじゃないか。

格上も格下も知っているんだ、もはや怖いものなど何もない。

「じゃあ、存分に怯えてくれ」

頂上に立つことは、最初のうちは全く慣れないものだ。

追う側から追われる側に変わると、途端に見えないものが見えてくる。

考えなくてもよかったことをつい考えてしまうようになる。

焦るんだ。怯えるんだ。下から這いあがってくるやつらに。決して負けられないというプレッシャーに。そうして、次第に思い切った行動ができなくなる。

雑念でしかない。焦りが背中に絡みつき、怯えが視界を曇らせる。ここぞという勝負の場面で、何も無駄を考えることなく「ええい!」と前に出られなくなるというのは、大きな損だ。

お前も、そうなるんだよ。上に立つ限りは。

「ぬるい!」

俺の《銀将抜刀術》の準備開始を見て、ミロクが怒鳴った。

確かにぬるい。腕が六本もあるミロクにしてみれば、一本の腕で受け、残り五本の腕で総攻撃できるようなスキルの選択。

ゆえに、ミロクはほぼ同時に《銀将抜刀術》を溜め始めた。

最善だろう。

これで逆に向かってこられたら、俺は《金将抜刀術》で対応せざるを得ない。

進むも戻るも修羅の道。ならばと、俺は酷い目に遭うとわかっていながら《銀将抜刀術》で突っ込む。

「正気か?」

ミロクは驚き呆れた。

この先の負けが見えているのに突撃する意味がわからないのだろう。

さて、ここで俺がどう切り返すかだが……正直、自信はない。大きな賭けだ。

しかし、こんなギリギリの賭けを繰り返すことでしか、勝ちの目は見えない。

「行くぞ」

間合いを詰め、鯉口を切り《銀将抜刀術》の発動を見せる。

ミロクが左前の手で鯉口を切りながら、同じく《銀将抜刀術》を発動したところで――俺はスキルキャンセルした。

「何!?」

混乱するだろう。何が狙いかわからないだろう。

直後、俺はミロクの抜刀を躱すことだけに集中する。

ゆっくりと、ミロクの一撃が、俺のわき腹をかすめた。

大丈夫、服を斬られただけだ。

「…………」

刹那、俺は心の底から願う。

焦燥を浮かべるミロクの顔を見て。

そう、そうだ……焦れ、怯えろ、追撃をしろ……!

来い、来い、来い……!

「――ふぅっ!」

よし、来た!!

俺は追撃に対して即座に《歩兵抜刀術》で対応の準備をする。

どうやらミロクもシステムの例に漏れず、同時に一つのスキルしか発動できないようだ。腕が六本もあるのに、使用できるスキルは一つ。つまり、残りの腕で即座に攻撃しようとすると、スキル なし(・・) での攻撃となる。だからといって逐一スキルを使用するとすれば、六本の腕を持つ 意義(・・) は大いに薄れるだろう。

ゆえに、二の太刀はスキルなしの最速で来る。

焦り、怯え、自身の持ち味を無理矢理に活かそうとする。

分の悪い賭けだった。

だが、その予想は、当たってくれた。

「オラァ!!」

俺は《歩兵抜刀術》を思い切りミロクの二の太刀にぶち当てる。

スキル自体の倍率と、抜刀ボーナスの128%とで、流石に競り勝った。

「まだまだァ!!」

《角行抜刀術》による追撃。バランスを崩しているミロクの胸部に二の太刀を浴びせる。

「ぐあっ!」

ミロクは突きを喰らった胸を押さえ、後方によろめいた。

与えられたダメージはそれほど大きくはないが……この賭けに、中盤の小競り合いに勝ったのは大きい。

俺はミロクが体勢を立て直す前に三歩後退し、間合いを取って納刀する。

再び、仕切り直し。

だが、これまでの仕切り直しとは、ちと違う。

ミロク不利での、仕切り直しだ。

現状、格上が、不利なのだ。

……もっと焦る。もっと怯える。

お前の力は決して発揮させない。これよりも、もっと、もっとだ。

「………………」

ミロクは、静かに立ち上がり、納刀した。

その美しい顔からは、これまでの余裕が消え失せている。

「さあ、お遊びは仕舞いだな。さあさあ、構えろよ」

終盤戦、突入だ。