軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117 良いこと尽くめ、クズと来いよ

お家のベッドでぐっすり寝て、翌日。

俺はウィンフィルドにアドバイスを貰うため、ユカリに《精霊召喚》をお願いする。

「……少しだけですよ」

ユカリはちょっぴり口を尖らせて、渋々といった風にウィンフィルドを喚び出してくれた。

嫉妬心だな、気持ちはよく分かる。俺も、明らかにユカリに気がある相手をユカリに会わせたいとは思えない。

特に独占欲の強い彼女のことだ、日帰りとはいえ、あんことの二人旅についてもあまり良くは思っていないだろう。いや、ユカリだけではない。シルビアも寂しい思いをしているかもしれない。

何処かで二人に埋め合わせをしないといけないな。あーあ、まるで何股もしているクズ野郎だ。いや、事実、三股しているが……ぎりぎりクズ野郎ではないと思いたい。まだクソ野郎程度だ。

「やーやー、セカンド、さん。何かなー?」

「単刀直入に聞いていいか」

「どーぞー。カメル神国を崩壊させる方法? 聖女を奪還する方法? それとも、両方? もしかして、ボコボコー?」

「YES! 相変わらずエスパーだなお前……」

「それほどでも~」

なんで知ってんだよ、というツッコミを飲み込む。そういえばユカリが、ウィンフィルドはメイド隊を使ってカメル神国周りの内偵調査をしていたと言っていた。俺の知らない所で色々と頑張ってんだな、こいつも。

「教会を、ボコボコにする方法は、いっぱいあるけど、どんなのがいい?」

「なるべく楽で、なるべく安全で、スッキリするやつがいいな」

案がいっぱいあるらしいので、レンコの意見も取り入れつつ相談してみる。

「んー。じゃあ、 革命(・・) 、しちゃおっか」

「革命?」

「うん。オルドジョーの、西の西のそのまた西に、反教会勢力が、潜伏してる。いわゆる、革命軍みたいなやつだね。といっても、武装した、農民とかだけど」

ゲリラ? レジスタンス? パルチザン? よく知らんが、多分そんな感じの勢力だろう。

「そいつらを利用するってわけか」

「そ。革命軍を、蜂起させて、その混乱に乗じて、聖女を奪還。これで行こー」

なるほど、確かに楽だ。俺とあんこだけでやろうとしていた面倒事を、ある程度は革命軍に任せられるようになるということだからな。ただ……。

「そんなに簡単に行くか?」

「もっちろん、セカンドさんは、裏で、革命軍に協力してね。革命軍、チョー弱いから。蜂起と同時に、教皇暗殺くらいできたら、御の字ねー」

教皇の暗殺。何となくこれやっときゃ間違いないような気がして、「とりあえずビール」みたいに思っていたが、これって果たして本当に効果があるのだろうか? というか、教皇が諸悪の根源で間違いないのだろうか?

「そもそも教皇ってどんなことしてんの?」

「ヤベーやつだよ。ブラック教皇っていうんだけど、もうカメル神国は、カメル神の国じゃなくて、ブラック教皇の国って言った方が的確なくらい、私物化してるよ。国民から、知も、富も、力も、ぜーんぶ奪ってる。全てはカメル神の前に皆平等、とか言って、その実、反抗しないようにね。お勉強したら粛清、お金稼いだら粛清、勝手にスキル覚えたら粛清、みたいな。あ、粛清って、死刑のこと。教会中を恐怖で支配して、国民には、ただただ信仰させるだけ。それで、自分に都合の良い教義をぽこぽこ作って、信者にただ働きさせるわけだね」

うわ懐かしい。思い出した、ブラック教皇だ。いたなぁそんなの。わりと早めに死ぬNPCだった気がするが、まだ教皇やってんのかよ。メヴィオンのストーリー上でも、あいつはとんでもないクズだった。この世界のブラック教皇は、更にクズに磨きがかかっていそうである。

「よーく分かった。そいつの暗殺はなかなかに効果がありそうだ」

「うん。でも、タイミングが、重要だよ。単に暗殺するんじゃ、掻き乱すだけで、あんまり効果ないから。第二第三の、ブラック教皇が、生まれちゃう」

「暗殺と同時に革命派が政権を握らないと駄目ってこったな?」

「そうそう。後、絶対、セカンドさんが暗躍したって、バレちゃダメ。面倒くさいことになるよ」

革命が失敗したらあっちとこっちで大戦争になるだろうが……そうか、成功したらしたで、一部には恨まれ、一部には英雄視されるわけだな。

加えて「キャスタル王国にいるジパング国の全権大使がカメル神国の内政に干渉した」という意味不明な事実ができあがる。俺は国際的に要注意人物と警戒され、信用はがた落ち。そのうえ聖女が俺の敷地に移り住んでいたとくりゃあ、もはや何も言い訳できない。

俺だけならまだしも、ファーステスト全体の問題として考えてみると、途端に頭が痛くなる。そりゃ確かに面倒くさいわ。

「了解。ただ、バレないようにする方法がなぁ……」

ぼろのローブだけでは些か心もとない。あんこに全て任せてしまうのも手だが、それだと今度はあんこを人前で召喚しづらくなる。あんこにローブを着せて仮面をつけるか? しかし気付く人は気付きそうなものだしな……修道院では運良くバレなかったが、カメル神国の中枢にそういった情報に詳しい人間がいてもおかしくはない。

「セカンド、さん。“レイス”って、テイムできる?」

俺が頭を悩ませていると、ウィンフィルドがおもむろに尋ねてきた。

レイス! その手があったか。だが……。

「……かなりムズイ。最短でも一週間はかかると思う」

「そっかー」

変化(へんげ) を得意とする魔物“レイス”は、平時でも何らかの魔物に化けてうろついている。大まかな出現場所は把握しているが、山一つ分ほどと如何せん範囲が広い。そのうえレイスはなかなか出現しないレアな魔物である。ゆえに、探して回るのは相当に骨だ。

また、テイム方法も難易度が高い。レイスはHPとVITが非常に低いため、テイムの条件である「HPを8割削る」という工程をすっ飛ばして一撃死させてしまいやすいのだ。今の俺のステータスなら、16級の《歩兵槍術》でも下手したらワンパンである。だからと言って、魔物を素手で殴って回ったら、今度はその魔物がレイスじゃなく本物だった場合、反撃でこっちが痛い思いをすることになる。

「んじゃ、仕方ないね。ぎりぎりまで、レイスのテイム頑張って、もし駄目だったら、暗殺は、あっち側の 武器(・・) に、任せよう」

「あっち側の武器?」

「レンコって、窓口の子、結構強いんじゃない?」

「お見通しか……」

ウィンフィルドの言う通り、一般人にしては強かった。恐らく、フランがスキル習得条件や経験値稼ぎの方法をこっそり教えて育成したのだろう。

つまり、フランはレンコを 利用(・・) している――カメル教会の呪縛から自身を解放するための武器として。

……確かに。彼女に暗殺を任せてしまえば、楽で、安全で、俺にとっては良いこと尽くめである。だが、何処か、スッキリしない。

理想は、俺がレイスをテイムして、変装を完璧にすることだろうな。

「よし、概ね理解した。俺はこれからレイスのテイムに向かって、今夜の密談でレンコに作戦を伝えてくる。その後は、革命当日までテイムを粘ってみるわ」

「じゃー、私は、革命軍に、話を通しておくね」

「ああ、助かる。ありがとうウィンフィルド」

「なーに。こっちこそ、感謝、だよ。面白くなりそうで、わくわくしちゃうねっ」

感謝を伝えると、ウィンフィルドは実に楽しそうな顔で笑った。

相変わらず、こいつは政争をゲームか何かだと思っているようだ。

その笑顔を見ていると、思わずこちらも口角が上がってきてしまう。

「そういうとこ、わりと好きだぞ」

つい、口が滑る。

彼女は「へっ……?」と小さく声を漏らし、目を点にして沈黙したのち――ボフンと顔を真っ赤にした。

「終了ーッ! 終了です! ご主人様、さっさとテイムに出かけてください!」

鬼の形相のユカリによる《送還》で、軍師への相談は幕を閉じた。

ふと思う。やっぱり俺、クズ野郎かもしれへん……。

「お嬢が!?」

レイスのテイムへと出発する前。

俺はひとまずの報告をしようと、キュベロを呼び出し、レンコの件について伝えた。

「ああ。ただ、何かワケアリのようだ。レイなんて女はもう死んだんだと、そう言っていた」

「左様ですか……いえ、しかし、無事でよかった。セカンド様、この義賊R6若頭がキュベロ、心より感謝を申し上げます……!」

キュベロは安心したような顔を見せ、それから俺に頭を下げる。

クールなキュベロにしては珍しく、普段より少しばかり声がでかい。ビサイド以来、ようやっと見つけた生き残りだ。感極まっているのだろう。

「まあ、お礼は置いといて。何か思い当たることはないか?」

「思い当たること……で、御座いますか?」

「そうだ。彼女がレイという名前を捨てレンコとして生きている理由。それが分かれば、もしかしたら連れ帰る方法が見つかるかもしれない」

できることなら、会わせてやりたい。そう思い、尋ねてみると、キュベロは考える人のポーズで黙し、それから数秒後に口を開いた。

「お嬢は昔から一本筋の通ったお人でした。並の若い衆より侠気があるといいますか、義理堅く人情に厚いお人です。ですから……何ゆえか、レンコと名乗らなければならない義理のようなものができたのではないかと、私はそう推察します」

「義理?」

「はい。リームスマの娘の名を捨ててでも、確りと義理を通す。一生の借りは一生を賭けて返すでしょう。お嬢ならば、きっと」

「なるほどな……何となく分かった」

「……お嬢を、何卒よろしくお願いいたします」

「任せろ」

再び頭を下げるキュベロを尻目に、俺は家を出る。

……義理、か。

聖女ラズベリーベルへの義理、だろうな。

さて、吉と出るか、凶と出るか……。

「――待たせたかい?」

「いいや。待ち時間は昨日より1分短いな」

「ふん。時間に細かい男は嫌われるよ」

「時間にルーズな女よりはマシだ」

深夜0時1分。

昨夜と同じ森の中で、レンコと合流する。

ん? テイムはどうだったかって? うるさい黙れ。

「で、聖女サマは何だって? きちんとセンパイの言うこと聞きなさーいってか?」

「っ! あんた、本当に気に食わないね……っ」

図星だったようだ。

「じゃ、作戦を練ってきたから共有しよう」

俺はさっそく本題に入ろうと、今朝ウィンフィルドと話し合った作戦をレンコへ伝えることにした。

すると、レンコは舌打ち一つ、俺の話を遮るように口を開く。

「……話に入る前に、ちょいといいかい」

これまでにない、真剣な表情。

そして、彼女は、驚きの言葉を口にした。

「あたいと勝負しな」

………………。

え、なんで?