軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110 我その名、荘厳美麗。入れビンゴ、嘘なのそれは(下)

ビンゴ大会は熾烈を極めた。

俺の予想通り二等三等が大人気で、皆それぞれリーチのかかったやつのところへ群がって交換だ何だと大騒ぎしている。

一体どんな手口で交渉しているのかは分からないが、かなり高度な情報戦が繰り広げられているようだ。しかし如何せん酒が入っているせいか、少々やかましい。

「お前は交換しなくていいのか?」

「ええ。こういった類の催しは、欲を出した者が負けるようにできているものです」

俺は隅っこの方でクラウスとまったり酒を酌み交わしていた。

流石は元王子というべきか、なかなか深いことをサラリと言う。

「お前が丁寧語だと少し違和感があるな」

「……過去の話は、ご容赦していただきたいところですね」

「酷かったもんなあ……」

「お恥ずかしい限りです」

凄まじい変貌ぶりだ。俺に対して上から目線で「第一騎士団へ入れてやる」なんて迫ってきた頃が嘘のようである。

「別に無理して猫を被らなくてもいいんだぞ」

「そうか……ではセカンド三冠がそう仰るなら、そうしようか」

「ああ、それでいい。若干お前らしくなった」

やはり無理があったみたいだ。

「お待ちを。勘違いしないでほしい。実はオレは貴方のことを心の底から尊敬しているのだ。ただ、長年で染みついた横柄な喋り方がなかなか抜けてくれない」

「そりゃ嬉しいね。まあ、仕方ねえな。立場が立場だったからな」

「仕方がないか、ハハハ。しかし陛下は王子といえども幼少から己を律していたぞ」

「いや、お前のおかげでもあると思うぞ。苛烈な兄がいたから、控えめな弟が立派に育ったってわけだ」

「……そう言ってもらえると助かるな」

マインをいじめていたことへの後悔があるのだろう。クラウスは苦い顔をして酒を一口含んだ。そして、話題を変えようと口を開く。

「ところで、セカンド三冠。オレは、どうしても、貴方に剣術を習いたい。現状、弟子はとっていないか?」

「マジか。弟子は、考えてたっちゃあ考えてたが……」

随分といきなりな話だ。

「一閃座戦をこの目にして、オレは甚く感銘を受けた。陛下の許可は得ている。貴方の技術を少しでも身に付けて、近衛としての腕を磨きたい」

なるほどなあ。

正直言えば、弟子をとったことなんて一度もないから、上手く教えられるかどうか分からない。シルビアとエコも少しの期間だけとはいえ弟子として育成したが、結局タイトルを獲らせてやれなかった。

だが、クラウスはそれでも構わないから弟子にしてくれと言っているのだろう。そのくらいの熱意だ、俺にも分かる。

「そうだな……三つ条件がある」

「何なりと」

「一つ、剣術スキルを全て九段にしろ。魔剣術が使えるんだろう? 何属性だ」

「水属性と風属性を参ノ型まで」

「じゃあ水・参の複合でロイスダンジョンを周回しろ。あそこは火属性の魔物ばかりだ。ボスを倒す自信がなければ浅い階層をぐるぐる回るだけでもいい」

「承知した」

「龍馬と龍王の習得方法は知っているか?」

「ああ、王家に伝わっている」

「ならよし。余裕を見て挑め。慎重にな」

第一条件は大丈夫そうだ。これで死なれても寝覚めが悪いので、ビンゴ景品は抜きにして多少のアドバイスは許してほしい。

「二つ、一閃座戦に出場しろ。近衛のためにってのは、気に食わない」

「……それは」

「俺の技術は、世界一位に君臨し続けるためのものであって、誰かを護るためのものではない。習うからには、対岸の火事では済まされんぞ。お前も業火の中に身を置くことになる」

「分かった。覚悟しよう」

第二条件も呑んでくれた。なら、最後だ。

「三つ、お前の 恥ずかしい秘密(・・・・・・・) を教えろ。そしたら俺も何か恥ずかしい秘密を明かす。これをもって師弟の契りとする」

「なっ……は、恥ずかしい、秘密を?」

「そうだ。誰にも言えないような、ドぎつい秘密だ」

「…………ッ」

過去の件があるので、クラウスのことをいまいち信用しきれない。ゆえに恥ずかしい秘密を明かしてもらう。

クラウスの キャラ的に(・・・・・) 、これが一番キッツイだろうと考えての第三条件だ。

俺も秘密を明かすのは、礼儀というもの。男同士の契りってのはそんなもんだ。師弟ってのは一にも二にも信頼関係だろうと、勝手なイメージである。

「……くっ……!」

クラウスは悩んでいた。弟子になりたい、しかし秘密はどうしても明かしたくない。そんな苦悩だろう。

こいつは分かっている。生半可な秘密じゃあ駄目だということを。そうして真摯に考えている時点で、俺は彼のことを思わず信用してしまいそうだったが、それはそれこれはこれである。別に秘密を聞きたいわけではない。秘密を明かし合わなければ契約は成されないのだ。決して、秘密を聞きたいだけではない。

「……よかろう。明かそうではないかッ」

数十秒後、クラウスは覚悟を決めた。鉄火場へと足を踏み入れる男の顔だ。

「よし、言ってくれ」

「…………」

しかし、次の言葉が出ない。

酒のせいではないだろう。見る見るうちに、クラウスの顔がゆでだこのように真っ赤になる。

「お、オレ、は……」

そして、蚊の鳴くような声で、呟いた。

「……ふ、フロン第二王妃の、こと、が」

「分かった。みなまで言うな」

とんでもない爆弾だった。

…………。

「お、俺の秘密を明かそう!」

勢いで押し切る。

今、俺がどんな顔をしているのか分からない。クラウスの表情を見るに、酷い顔というのだけは分かる。

「言うぞ」

「はい」

やめときゃあよかった。誰も得しないわこれ……。

「……お前の弟、可愛すぎない? 正直イケる」

「………………」

うわあ俺こんな顔してたんだな。明日隕石が落ちて人類が滅ぶと言われた方がまだマシな顔をする自信がある。

「は、ははは、ははははは!」

「ハ、ハハハ、ハハハハハ!」

俺たちはどちらからともなく笑い合った。

もう笑うしかなかった。

奇妙な友情が芽生える。

こうして、新たな弟子候補が生まれた。

「くそおおおっ! セカンドおおおお! ぐあああああ!」

「うわっ」

ビンゴ大会が終わり、俺が各テーブルを回り始めると、初っ端からヤベェことになっていた。

「どうしたんだこいつ」

ニルが荒れている。というか泣いている。

「アルファさんに改めてフラれたらしいですよ。それに、僕が見ている間だけで三杯は飲んでいました」

ロックンチェアが説明してくれた。

フラれてやけ酒か……。

「聞けぇ! 無視するか普通!? 僕は何等狙いか聞いただけだぞ!」

「いや、無視されても仕方ないことしてるしなお前……」

「くそがああああああッ!」

かなり強い酒のはずなのに、ニルはがぶがぶと水のように飲んでいる。こりゃ、今日は家に泊めるしかなさそうだ。

「ところでお前らは何等だった? 良いのは当たったか?」

俺は騒々しいニルを放置して、残りの三人に話しかける。ロックンチェアと、ロスマンとヴォーグだ。

この三人には期待している。きっとまだ伸びしろがある。来季までにどれだけ準備してくるか、今から見ものだ。

「私は残念ながら四等でしたねえ」

「そうね、私は五等よ。残念ながら」

何故か空気が悪い。この二人、あまり仲が良くないのだろうか。

「意地を張り合っているんですよ」

ロックンチェアがこっそり耳打ちしてくれた。なるほど、つまり二人とも子供っぽいと。分かる分かる。俺も相当な負けず嫌いだからな。一番でいる期間が長く続くと、どうしても負けられなくなるもんだ。

「ちなみに僕は一等でした」

キランと、ロックンチェアの耳で“角換わりミスリルピアス”が輝く。

「へぇ! やったなあ」

「ええ。そして、セカンド三冠の言わんとされていることも分かりました」

「そうか。なら、一等がお前でよかった」

「お二人も、ああは言いつつ分かっていると思いますよ」

ロックンチェアは「ありがとうございました」とお礼を言って、別のテーブルへ行く俺を見送ってくれた。

角換わりミスリルピアスを当てたやつに伝えたかったことは、たった一点。装備の《性能強化》と《付与魔術》の重要性、即ち鍛冶師の必要性である。

このピアス、実は三段階中三段階まで強化してあるのだ。おまけ程度とはいえ、上昇するステータスは無視できるような数値ではない。その上“角換わり”は本来、魔物からのドロップ品に付与されているもの。しかしミスリルピアスはドロップするアクセサリではない。つまり「人工的に狙った効果を付与できる方法」があるということの証明。もし仮に全身の装備へ“角換わり”を付与できた場合、クリティカル率の上昇は並大抵のものではなくなる。

一等を当てたのがロックンチェアで本当によかった。あの口ぶり、恐らくあいつは既に「付与・解体・製作ループ」に薄々気付いている。そして、それに莫大な金がかかるということも。人間初の 金剛(こんごう) 獲得者であるがゆえ、多少の金は入ってくるに違いない。きっと上手いことやってくれるんじゃないだろうか。

加えて、ロスマンとヴォーグも真意を分かってくれているらしい。四等から十六等までは簡単だ。「安全かつ効率良く魔物を狩って経験値を稼げ」と、それだけである。俺が教えた魔物だけに限ってはいけない。自分で調べて、安全を確保して、毎日毎日狩りまくることの大切さに気付いてほしい。お前らは、今までサボっていただろうそれを、俺が出てきたことによってまた一生懸命やらなければいけなくなったんだ。やったなオイ。まだまだ楽しいぞ、まだまだ先は長いぞ、メヴィオンは。

「おン待ちしておりましたセカンド氏ぃ! ささ、魔魔術を! 拙者に魔魔術を!」

「近い近い近い! 離れろ気色悪い!」

油断していた。考えごとをしていたら、もう次のテーブルに到着していたみたいだ。危うくムラッティと接吻するところだった。

「ん、待て。ということはお前に二等か三等が当たったのか?」

「イグザクトリィ! 拙者、死に物狂いで二等をゲッチュしたで候」

「そうか。じゃあ後日教えるから。また今度な」

「あれ、何か冷たい件……でもそれもイイ!」

テンションが天元突破していて付いていけない。思えばムラッティは俺と話している時は常にアクセル全開だ。絡みやすいんだか絡みづらいんだかこれもう分かんねぇな。

「おお、来たか。朝ぶりだな」

「私は久しぶりね、セカンド」

ムラッティに背を向けると、そこにはランバージャック兄妹がいた。この二人がそこそこ静かということは、どうやら三等は当たらなかったみたいだ。

「よおヘレス、カレーぶりだな。シェリィは応援ありがとう、しっかり聞こえていたぞ。二人とも、その感じだとハズレだったか?」

「ああ、いやまあハズレと言えばハズレだが、本来なら大当たりもよいところだ。なあ?」

「そうね。常識では考えられないくらいの豪華景品ね。これまでの私の努力が馬鹿みたいに感じるわ……」

「むしろ努力がキツくなるのはこれからだと思うが……まあいいや。喜んでくれて何より。これから経験値稼ぎ頑張ってくれ」

「任せたまえ。来季一閃座戦までには追い付いて見せよう」

「ふんっ。年がら年中ぶらぶら放浪してるお兄様じゃ無理な話ね。セカンドは私が霊王戦で倒すから。見てなさい!」

「ハハ、まだ出場資格すら得ていないお前が何を言うか」

「お兄様こそ瞬殺されたくせに!」

「何だと!」

……また兄妹喧嘩を始めたので、俺はそそくさと退散する。

お次は、チェリちゃんとその大叔母さんチェスタ、加えてアルファのいるテーブルだ。

「おや、来たかい色男」

「どうも、お姉さん」

「あっはは! こりゃいい。聞いたかいチェリ、アルファ。お姉さんだとさ!」

「……あまり露骨なお世辞は止めた方がいいですよ」

「えっ、あ、その、はい。そうかもしれません」

このテーブルは何とも姦しいな。アルファも仲良くやれているようで重畳だ。

「皆ハズレだったか?」

「えっと、それが……」

尋ねてみると、アルファがおずおずと手を挙げた。

「三等、当たっちゃいました」

マジか。

「……は、ははは!」

「え、えへへ……?」

思わず笑った。俺が一番「当たってほしい」と思っていたのが彼女だったからだ。

アルファも俺に合わせて嬉しそうに笑った。相変わらず眼鏡と髪で表情は分からないが、その仕草で分かる。

「なあ。俺の弟子になってみないか」

「――っ!」

言ってみると、彼女の縮こまった体がビクッと跳ねた。

「ほ、本気ですか……? 私なんかを……?」

「本気も本気だ。お前、自分で気付いてないかもしれんが、めちゃくちゃセンス良いぞ」

壱ノ型によるヒットアンドアウェイを僅か2日でものにしていたうえ、試合中に指導した“ 伏臥(ふくが) 詠唱”をすぐさま応用するなど、そのセンスの良さは枚挙にいとまがない。特に後者だ。「怪しい一手で局面を難解にしてチャンスを作り出そう」というその感覚は、恐らく生まれ持っての才能、ここぞという場面での勝負強さをこれでもかと感じる。センスだけで言えば、出場者で一番かもしれない。

「もしよかったら、弟子にならないか」

「……家に、聞いてみないと」

「家は一先ず置いておけ。お前はどうなんだ?」

「!」

アルファがニルとあのようなことになったのも、当然ニルが悪いが、彼女の主体性のなさも一因にあると思う。それか、もしくは家の影響力が余程強いのか。

プロムナード家がどんな教育方針なのかは知らないが、仮にアルファが弟子になりたいと思っている上でその邪魔をしてくるようならば、強硬手段も辞さない腹積もりである。

とか何とか考えながら彼女の言葉を待っていると、アルファは意を決したように沈黙を破った。

「私、なりたい……なりたいです」

「じゃあ、話がまとまったら家に来な」

「はい!」

こうして、クラウスに続き新たな弟子が誕生した。

背中に「やっぱり胸ですかっ」というチェリちゃんの失敬なツッコミを受けながら、次のテーブルへ。

「いらっしゃった。新一閃座殿」

「お久しぶりです。セカンド三冠」

「どもー……セカンドさーん……」

俺を出迎えたのは、すっかり出来上がったオッサン二人と、酔いつぶれた若者一人。カサカリとガラム、そしてカピート君である。

「カサカリ。今朝、皆でカライというカレーの店に行ったぞ。かなり美味しかった。教えてくれてありがとう」

「ええ、ええ。カピート殿から聞きましたよ。お気に召したようで何より。ではお返しに郷土の舞いを」

「よせ。特に見たくない」

一応は止めたが、カサカリはちっとも耳を貸さずにくねくねと踊り始めた。これだから酔っ払いは……。

「ガラムは長剣にしたんだな」

「ええ。誰か様に指摘されまして」

「ほお。その誰かってのは分かってるなあ。さぞ良い男なんだろう」

「とんでもない男ですよ。初出場で前人未到の三冠を獲ったとか」

「そりゃ凄い。何処の誰だろうなぁ?」

「はははは、相すみません。その節は申し訳ないことをした」

「いいさ、むしろ感謝している。シルビアとエコの成長に繋がった」

「あのお二人も素晴らしく成長なさった。もう一対一でも勝てそうにない」

「まだまだこれからだ。俺もお前もあいつらもな」

「違いない」

一杯だけ飲んで、席を立つ。三人ともビンゴはハズレだったようだ。

机に突っ伏しているカピート君の介抱はキュベロに頼んでおいた。会場で吐かれちゃたまらん。早いところ解毒ポーションを飲むか胃の中身を出すかして、スッキリしてほしいところだ。

さて、最後のテーブルは……。

「お待ちしておりました、セカンド三冠」

俺が近付くと、まだ声もかけないうちから視線すら向けずに挨拶をする男がいた。盲目の弓術師アルフレッドである。盲目ゆえか、感覚が鋭い。足音か、地面の振動か、空気の流動か、繊細に感じ取っているのだろう。

「おう。遅くなってすまん」

「……っ」

「…………」

俺は言葉を返しつつ、アルフレッドの横、ミックス姉妹へと視線を向ける。

姉のディーは怯えて硬直するように、妹のジェイは敵意を向けるように、表情を変化させた。

土下座させた件がまだ響いているようだ。当たり前か。

「さて、十七等は誰が当てた?」

この中にいることは分かっていたので、いきなり尋ねてみる。

すると、アルフレッドが苦笑いしつつ口を開いた。

「私です。しかし、一つ頼みが」

「言ってくれ」

「セカンド三冠には例の件で世話になるだろう。ゆえに、私は恩恵を得すぎている。どうか、アドバイスは彼女たち二人に譲ってやれないだろうか」

アルフレッドは頭を下げて嘆願する。

「二人に、か……」

なるほど。例の件というのは、盲目を治す【回復魔術】についてだな。俺がカメル神国まで行って調査すると約束した。その上アドバイスまで受けるとなると、確かに貰いすぎと思ってしまうのも無理はない。

かと言ってその十七等のビンゴカードをミックス姉妹のどちらかと交換してしまえば、不公平になる。アルフレッドはエルンテが捨てた彼女たちを拾い師匠となったはずだ。師としてそれはできない。ゆえに、あえて自分が十七等のビンゴカードを持っておいて、二人共にアドバイスを渡せる可能性を残したということか。

なかなかに狡猾。しかし嫌いじゃない。

「よし。後日、三人で家に来い」

「……ありがとう。貴殿には頭が上がらない」

「いいってことよ」

自分が教えるより、俺が直接アドバイスした方がミックス姉妹にとって良いと思ったからこそ、アルフレッドは頭を下げたのだろう。元より彼は、エルンテへの復讐のために、そしてエルンテからミックス姉妹を救うために鬼穿将戦へ出場していたのだ。人のためにそこまでできる彼を尊重せずしてどうする。

「そうだ、例の件について」

去り際、俺はアルフレッドへと小声で話しかけた。

「ごたごたとしているから出発は少し遅くなるかもしれん。想定外のことが起こらない限りは」

「承知した。幸運を祈っている」

ムラッティなんかは明日にでも押しかけてきそうな勢いだった。カメル神国へは、このごたごたが収まってから旅立とうと思う。

……さて。

「ただいま」

「おかえり。どうした、お疲れか」

「まあまあ。お前こそ疲れてんなぁ」

「うむ。まあまあだ」

ぐるっと一周して、会場正面にある自分のテーブルへ帰ってきた。出迎えてくれたシルビアは、俺と同じように疲れた顔で笑っている。彼女も俺と同じように挨拶回りをして、今帰ってきたばかり。相手は錚々たるメンバーだ、流石に気疲れするだろう。

「ただいまー!」

そこへ元気なのが戻ってきた。

エコは皿いっぱいに料理を貰ってきて、いそいそと着席すると、実に嬉しそうな顔でもぐもぐと食べに食べている。

「元気でいいなあエコは」

17歳女子が何やらおばさん臭いことを呟いている。

「ご主人様。こちらをどうぞ」

「さんきう」

ユカリが俺とシルビアの料理を持ってきてくれた。俺の目の前に置かれた皿には見事に俺の好物ばかりが並んでいる。夕飯に精のつく料理が多ければ 合図(・・) なのだが、見たところ今夜はなさそうだ。正直なところ助かった。

……段々と、いつもの感じに戻っていく。

自分に嘘は吐けない。この風景、俺は好きだ。

世界一位と両立しなければならない。日常生活を捨てて挑んだ頂へ、今度は日常生活を携えて挑まなければならない。

敵はいない。だが、まだまだ、頂には程遠い。

あの頃の頂には。

「忙しいなあ」

「うむ。忙しいな」

「んむーっ」

「エコ。食べながら喋ってはいけません」

育成しなければならない。

サブキャラだったセカンドを。三人を。使用人を。弟子を。出場者を。そして、この世界の、全てのキャラクターを。

まったく、忙しい。

こんなに忙しくて、楽しい日常は、人生で初めてだ。