軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109 我その名、荘厳美麗。入れビンゴ、嘘なのそれは(上)

夕刻。

我が家に続々とタイトル戦出場者たちが集まってきた。

パーティー会場は、敷地内の北西に位置する“水”をモチーフにした豪邸の一階。澄み切った水の青を主役に、生い茂る自然の緑と、建物や橋や地面の白黒茶色、全ての調和がとれた 荘厳美麗(そうごんびれい) な場所だ。

昼間に来ると、鏡のような水面に青い空が映ることでより一層美しい風景となるが、夕方もまた落ち着いた風情があって違った良さがある。パッと見、水没した遺跡のように見えなくもない。家というよりは城といった方が近い、まるでホテルのように大きな建物である。

参加者は予定通り全部で17名。 一閃座(いっせんざ) 戦からはロスマン、カサカリ、ヘレス、ガラムが。 鬼穿将(きせんしょう) 戦からはミックス姉妹とアルフレッドが。 叡将(えいしょう) 戦からはムラッティ、チェスタ、ニル、アルファが。 金剛(こんごう) 戦からはロックンチェアが。 霊王(れいおう) 戦からはヴォーグとカピート君が参加する。

ついでにシェリィとチェリちゃんも来てくれたうえ、マインとバレル・ランバージャック伯爵とスチーム・ビターバレー辺境伯からはそれぞれ大きな花輪が贈られてきた。

そして、マインからの花輪を届けてくれた男は、そのままパーティに参加する。そのための許可もマインから貰っているようだ。

彼の名はクラウス。元は第一王子であり第一騎士団長であった彼が、今や弟マインの奴隷であり従者である。丁寧な敬語を使いながら、今夜の三冠記念パーティーへの参加には何ら外交的な意図などなく、あくまで個人的なものなのだと、そう強調していた。

さて。これで役者が揃ったわけだ。

今宵はただのパーティーじゃあない。言わば、夏季タイトル戦へと向けた、出場者たちの決起集会である。

当然、使用人総動員でメシや酒には気合を入れた。飲んで食って、全員で楽しく交流するのも良いことだ。しかし、忘れちゃならないのが、アレだ。パーティーといえば、アレだよアレ。

「ビンゴ大会だよなぁ!」

あのちょっとしたドキドキ感、俺は結構好きなのだ。

景品は人数に合わせて17個用意している。

一等賞は“ 角換(かくが) わり”の付与されたミスリルピアスだ。クリティカル発生率5%アップの効果を持つ耳装備である。鍛冶師兼付与師のユカリによる「付与・解体・製作ループ」の過程で出てきたダブリ品のため、今回の景品とした。

二等賞と三等賞は、スキル習得方法伝授。知らないスキルの習得方法を何でも一つだけ俺が教えてやるというプレゼントだ。

四番目から十六番までは、乙等級程度の魔物の特徴や行動パターンを事細かに記したメモを渡す。つまりはダンジョン攻略法、並びに効率の良い経験値稼ぎの方法の伝授である。かと言って、いきなり強い魔物に突っ込んでいって死なれても困るので、乙等級中位から上位ほどの「適正ちょい下」だろうランクの魔物を書いておいた。これで彼らの経験値稼ぎが加速すりゃあ重畳である。

そして十七番。最下位の景品は、実は隠れた当たりらしい。その名も“アドバイス”。俺が何か適当に気付いたことを教えてあげるだけという内容なのだが、シルビアは「これが一番の当たりだな」と言っていた。確かに、振れ幅はでかいが、上ブレしたら大当たりかもしれない。結果、図らずしも残り物には福があるという形になった。

いやあ、ワクワクしてきやがったなあ。

寄って集って、談合に詐欺に妨害に、何でもありのビンゴ大会の始まりだ。

さあ。レッツ・ビンゴォ――!

* * *

総勢17人の参加者は、柄にもなくドキドキとしていた。

ここファーステスト邸へと足を踏み入れた時からそうであった。いかなタイトル戦出場者といえど、ここまで「馬鹿みたいな金持ち」はいない。ランバージャック伯爵家の兄妹も、王宮で生まれ育ったクラウスでさえ、敷地の広さに呆れていたほどである。

また、使用人のレベルも彼らの想像以上に高かった。熟練こそしていないものの、若さ溢れるパワフルな仕事ぶりで、質もスピードも両立されていた。加えてセカンドが三冠を獲得したがゆえ、更に気合が入っている始末。それぞれがそれぞれ、ファーステスト家の使用人として恥のないよう細心の注意をもって振る舞い、頭のてっぺんから足の先に至るまで一寸たりとも気を抜いてなどいなかった。

僅か数ヶ月前に雇った寄せ集めのはずの使用人が、どうしてこれ程までのチームワークとパフォーマンスを発揮できるのか。ファーステスト家の様子を初めて目にする者にとっては、メイド長ユカリによる途轍もなく水準の高い教育と、そこへかけられている莫大な額の予算など知る由もないため、簡単に理解できるものではなかった。

彼らの驚きはそれだけではない。会場の外観も内観も、料理も給仕も文句なしの一級。万能メイド隊エス隊の面々が楽器を演奏し始めた時には、主人であるはずのセカンドでさえ驚いていた。ユカリによるお祝いドッキリの一つだったらしく、びっくりしているセカンドの様子を見て、彼女もほんのりと嬉しそうな表情をしていた。

そして、宴もたけなわという頃。彼らを最大の驚きが襲う。

ビンゴ大会。普通ならば「へぇすごい」程度の景品を手に入れられる何てことはないイベントだが、今回に限り、その常識は通用しなかった。

景品一覧を目にして、まず、巨乳眼鏡エルフのアルファが声をあげる。

「あっ……!」

それはちょうど最下位の景品が明かされる瞬間であった。以前セカンドに“アドバイス”されたことのある彼女は、その 有用性(・・・) を身に染みて理解していたのだ。

「ほほう、これは」

「……ふむ」

それは彼女だけではない。カサカリとガラムもまた、更なるアドバイスを欲していた。双方、強烈な形でアドバイスを貰っている。

最下位狙い。これが実は「大当たり」だと知っている三人は、水面下で競合することとなった。

その一方で、異常に興奮する男が一人……。

「ふ、ふぉ、ふぉおおおっ! スキルを!? 何でも!? 嘘でしょお!?」

汗だくの眼鏡デブ、ムラッティである。彼はスキルの習得方法を何でも教えて貰えると聞いた瞬間から、脳内で捕らぬ狸の皮算用を始めた。悩ましくて仕方がなかったのだ。

“雷属性魔術”か、“魔魔術”か……彼にとっては究極の選択であった。

「チェリ。あんた何が欲しいんだい?」

「大叔母様?」

「あたしゃもうそろそろ引退さね。あんたが欲しいもんが当たったら、譲ってやろうかと思ってね」

「よろしいのですか? しかし引退って、まだお早いのでは」

「いいや頃合さ。これから叡将戦は新時代に突入するだろうからね。老骨にゃ無理だ、ついていけないよ」

チェスタは強い酒をちびちびと飲みながら、遠い目をして語る。

チェリは否定も肯定もできなかった。セカンドの登場で、叡将戦の常識はガラリと変わろうとしている。年寄りがまた一から鍛錬をやり直し食らいついていくのは、厳しいことだとよく分かっていたから。

この引き際に。彼女は、次世代へと何かを譲り渡そうとしている。そう気が付いたチェリは、深呼吸を一つ、口を開いた。

「……大叔母様。私、魔物の情報が欲しいです」

「おや。習得法でなくていいのかい?」

「ええ。ですが、大叔母様。いえ、チェスタ様。私に、火属性伍ノ型を教えてくださいませんか」

経験値稼ぎは、自分でやればいい。火属性はまだ壱ノ型しか覚えていないが、苦手意識など関係なく、これから全て覚えていけばいい。それは、セカンドの築き上げる新時代へと絶対に食らいついていくという、彼女の覚悟を明快に表す宣言だった。

「あんたが最後の弟子かねぇ……」

チェスタは感慨深そうに呟いて、優しげな顔で一つ頷くと、また黙ってちびちびと酒を飲む。

こうして、チェリはチェスタの弟子となった。世界初、ビンゴ大会中に弟子になった女と、ビンゴ大会中に弟子をとった師匠の二人組である。

「――で、一等が“角換わりミスリルピアス”って書いてありますね」

「なるほど。ありがとう、カピート君。助かったよ」

また別のテーブルでは、意外なメンバーが集まっていた。盲目のアルフレッドにビンゴ景品の内容を説明するカピート、この二人だけならば至って普通なのだが、問題は後の二人。ミックス姉妹であった。

彼女たちは、鬼穿将エルンテから見放され途方に暮れていたところ、新たに師匠となったアルフレッドの指示で、わけもわからぬままこのパーティーに連れてこられただけである。開催からもう1時間以上経つが、彼女たちと男二人との間では会話らしい会話が行われていなかった。

「いえいえ。ちなみにオレは二等狙いっすね。アルフレッドさんは?」

「私は……十七等だろうか」

アルフレッドはカピートの質問にそう答えながら、目を閉じて微笑んだままミックス姉妹の方へちらと顔を向ける。

ディーとジェイの二人は、ささやかな反抗のつもりか、ビンゴになど目もくれぬまま、料理をゆっくりと静かに食べていた。

「じゃあオレが十七等だったら交換しましょっか」

「それがよい。では私も二等か三等を祈っておこうか」

「あっははは」

カピートは笑いながらも、ミックス姉妹の様子を窺う。彼がこのテーブルのメンバーに選ばれたのは、その気遣い上手なところを見込んで、アルフレッドとミックス姉妹との間の潤滑油として働いてもらうためであった。事前にセカンドが相談したところ、彼は二つ返事で頷いた。爽やか犬獣人と呼ばれるだけはあるイエスマンっぷりである。

そして、彼は早速、動き出した。

「あのー、ディーさんジェイさん。ビンゴやらないなら、そのビンゴカード、オレ貰っちゃってもいいですか?」

「……好きにすれば」

「私も必要ありません」

「えっ、いいんすか!?」

わざと大袈裟にリアクションをとる。

アルフレッドはその狙いが分かったようで、カピートに続いて口を開いた。

「ディー。ジェイ。無駄な意地を張るな。自暴自棄になるな。君たちもこの景品の価値は分かっているだろう? せめてビンゴが終わるまでは持っておきなさい」

「師匠ヅラしないでくれる? あの男の手下の女に負けたくせに」

「え、お二人の元師匠って、出場者でもない その男(・・・) に二枚落ちで完膚なきまでにやられてたっすよね」

「……っ……それは……」

カピートとアルフレッドはしっかりと理解していた。ミックス姉妹には、自身を見つめ直す時間が、考える時間が必要なのだと。だが、このまま放置していては、二人が考え出すことは一向にない。ゆえに、何としても考えることを促してやらなければならない。その第一歩として、ビンゴ大会は非常に良い機会であった。

「君たちはエルンテよりも強くならねばならない。夏季までにだ」

「……無理よ。お師匠様は、強いわ。言うのとやるのとじゃ、わけが違う」

「よく考えなさい。その爺を軽く破った男が景品を配っているのだ。ご丁寧に、ぴったり17個。分からないか? 昨日の彼のスピーチを聴いていたのならば、答えはもう出ているはずだ」

「しかし、それでもお師匠様に勝てるとは……」

ミックス姉妹は、エルンテのこととなると途端に弱気になる。何十年もそういった教育を受けてきたからだと容易に想像がついた。

アルフレッドはギリリと奥歯でエルンテへの憎しみを噛み潰しながら、真摯に言葉を続ける。

「半年だけでよい。私を、彼を、少しだけでも信じてみてくれないか……頼む」

「オレからも、お願いします。アルフレッドさんも、セカンドさんも、絶対、間違ったことは言ってないと思うっす」

二人は、頭を下げた。

何故、認めてはいないとはいえ師匠の立場にある人が頭を下げているのか。何故、全く関係のない霊王戦出場者のドラゴンテイマーが頭を下げているのか。ミックス姉妹には全く以て理解できなかった。

だが、たった二つだけ分かる事実は。それが今までの人生で初めての感覚であるということ。そして、どうしてか、呼吸が苦しくなるということ。決して、嫌な感覚では、なかった。

「…………ふん」

ディーは不機嫌そうに、ビンゴカードの真ん中に人差し指を突き入れて穴を開けた。

そんな姉の行動を見たジェイも、渋々といった風に、ディーに続く。

「ありがとう」

二人が穴を開けた音に気が付いたアルフレッドは、心底、嬉しそうに微笑んだ。

カピートは、役目は果たしたとばかりに、静かに去っていく。

ばつの悪そうな姉妹と、微笑む盲目の男。

今日、この瞬間から、彼と彼女たちとの、一風変わった師弟関係が始まった。

「ねぇ。お兄様。二等か三等が当たったら私に寄越しなさいよ」

「嫌だ」

「何でよ。いいでしょそれくらい」

「私とて知りたいスキルはあるのだ。自力で頑張りたまえ」

「……フンっ」

「ぐワォ!? 何をする! 痛いではないか!」

「お兄様なんて嫌いよ」

「甘えん坊も大概にしろシェリィ!」

「何ですってぇ!? いいじゃないお兄様はもう出場条件満たしてるんだから!」

「今お前に足りていないのは経験値だろう! むしろ魔物の情報をくれてやるから二等三等が出たら私に渡せと言いたい!」

「私だって他に覚えたいスキルあるのよ! そもそも召喚術だけじゃ限界感じてるのよ最近!」

「私とて剣術だけでは駄目だと学ぶに至ったのだ! ここは譲れんッ!」

「うはっ……同じテーブルの兄妹が猛烈にうるさい件……」

ランバージャック兄妹と同じテーブルにされたムラッティは、小声で呟きながら辟易していた。セカンドは良かれと思ってコミュ障気味の彼が比較的絡みやすいだろうグイグイ来るこの兄妹と一緒にしたのだが、完全に裏目に出てしまっている。兄妹がうるさすぎたのだ。間にメイドのマリポーサがいなければ、この兄妹はいつもこのような感じである。

だが、そのおかげかムラッティは平静を取り戻した。熟考の末、二等三等が当たった場合は魔魔術の習得方法を教えてもらうことに決め、後はひたすらに祈るのみだと、大して信じてもいないナントカ神にへーこら祈りを捧げる。

「二等か三等、二等か三等、二等か三等……」

汗びっしょりの巨漢が体を縮こませ眼鏡を曇らせ鬼気迫る形相でぶつぶつと呟く様は、単純に表現して、キモい。

「う、うわぁ……」

「ううむ、流石に……」

気が付けば。ムラッティとシェリィとヘレスのテーブルは、若干一名の尋常ではない気合に押されてか、異様に静かになっていた。

「いやあ、大盤振る舞いですねえ」

「随分と余裕の表情ね、ロスマン。何等狙いか聞いても?」

「では、私は一等を。貴女は如何です?」

「そうね、じゃあ私も一等を狙いましょうか」

「はっはっは、折角ですからねぇ」

「ええ、折角ですから。うふふ」

「………………」

このテーブルもまた、おかしな空気であった。

メンバーは異色もよいところ。元一閃座ロスマンと、元霊王ヴォーグ、そして何故かニル・ヴァイスロイが座っている。

ニルは静かにマウントを取り合う豪傑と女傑の二人に挟まれ、何とも居心地悪そうに不機嫌顔で沈黙していた。

「おや、お二人とも一等狙いですか。では僕は二等三等狙いなので、もしもの時は交換していただけますか?」

そこへロックンチェア現金剛が姿を見せる。彼は今の今までエコと【盾術】について話し込んでいて、やっとテーブルに戻ってきたのだ。

「勿論、よいでしょう。ねえ?」

「いえ、私は交換しない主義だわ」

「……左様ですか。では私も貴女に合わせて交換はよしておきましょう」

「ふふ、そうですか。残念です」

子供のように意地を張るロスマンとヴォーグ。二人はそもそも一等の景品など欲していない。「とにかく自分が一番でなければ納得いかない」という変なプライドを曲げられないだけであった。本心を言えば二等三等が良いのだ。しかし、どうしても素直になれない。それは長年に渡って頂点に君臨し続けたがゆえの代償のようなものであった。

そんな二人の心情を分かっていながら、あえてからかうように揺さぶるロックンチェア。ニルはそんな彼の様子を見て、この男にだけは逆らわないようにしようと心に決めた。

「僕の顔に何か?」

「ッ……いや、別に。そもそも貴様の顔など見てはいない」

「これは失礼。それにしても、今朝のカレーは美味しかったですね。後でカサカリさんにお礼を言いに行きましょうか」

「フン、そこそこだった。この僕がわざわざ礼を言いに行く必要などない」

「ふふふふ、そうですか」

「……チッ」

ニルは内心を見抜かれているようで恥ずかしくなり、舌打ち一つ、ロックンチェアから顔を逸らしてビンゴに集中した。

途中、アルファの横顔が見え、ぎゅっと胸が締め付けられる。

「気持ちを相手に伝える努力すらせずに分かってもらえると思ったら大間違いだ」――不意に、今朝のセカンドの言葉が反芻された。

テーブルに置いてある、少し背伸びして頼んだ強い酒を呷り、ニルは思う。

「…………」

あいつは、何等狙いなのかな……?