軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

104 霊王戦 その1

霊王(れいおう) 戦挑戦者決定トーナメント準決勝。

俺の相手は、犬獣人の爽やか青年カピート君。

「緊張してる?」

「あ、はい。初参加なもんで……それに」

「ん?」

「まさかオレがこうして憧れのセカンド二冠と向かい合う日が来るなんて……数ヶ月前の自分に教えてやりたいっす」

光栄だな。

「じゃあ、その憧れの俺から、お前に一つ言っていいか」

「はい、何でしょう」

「その二冠という呼び方をやめろ」

「えっ……お嫌でしたか?」

「いや。そろそろ三冠になるから。来季には八冠になるし、ややこしいだろ?」

「……あ、あははっ! 分かりました、セカンドさん。でも、オレが阻止して見せますよ!」

「望むところだ!」

気合が入ったようだ。俺もエンジンをかけていこう。

「両者、位置へ!」

審判の指示で、互いに距離を取る。

霊王戦の場合は、他のタイトル戦よりも更に少しだけ所定の位置が離れている。両者が魔物や精霊を前方に召喚した際に、適正距離となるようにだ。

「――始め!」

号令がかかった。

カピート君は間髪を容れずに《魔召喚》を発動する。なかなかの反射神経。

「おおっ」

闘技場がざわめいた。

彼が召喚したのは――“アースドラゴン”。全長7~8メートルほどの、地属性の巨大なドラゴンである。

なるほど。こいつを《テイム》できたのなら、トントン拍子に経験値が稼げたというのも頷ける。

「憑依」

俺はアースドラゴンを眼前にして、アンゴルモアを《精霊召喚》するとほぼ同時に《精霊憑依》を発動した。コンマ何秒といえど、できる限りの無駄を削ぎ落とすのが、召喚術師にありがちな“隙”をなくす有効な方法である。

「くっ……!」

カピート君は読んでいたようだ。俺の《精霊憑依》を見てから、アースドラゴンの陰に隠れるようにして後退した。

召喚術師の弱点は、召喚術師そのものである。「狙われたら終わり」と、警戒しての動きに違いない。

まあ、皆そう思うだろう。

加えて、俺の場合、【剣術】【弓術】【盾術】【魔術】と様々なスキルを上げに上げている。即ち、累積経験値の量が半端ではない。つまり、純ステータスの高さが窺い知れるというもの。そこから更に《精霊憑依》で全ステータスを4.5倍にしているので、各種スキルを使わなくとも十二分に強い。もはや生身のままで人間凶器である。

だから、その4.5倍となった尋常ではないSTRやAGIを活かして、素早くカピート君に接近し、一発お見舞いすることで、一瞬で決着がつくと、観客は皆そう思っていただろう。

それじゃあ面白くない。

大いに活躍し、適度に挑発する。そうして夏季タイトル戦にツワモノどもを集める計画。あれは何も叡将戦に限ったことではない。

ゆえに、今日も遊ばなければ。否、遊びたい。

……アースドラゴン。その強さは、メティオダンジョンの緑龍~赤龍くらいと言われている。白龍の2倍程度の強さだ。

制限時間、1時間。武器、なし。スキル、《精霊召喚》のみ。行けるか……?

「いいや、行っちまおう」

「(何? 我が出るわけではないのか?)」

「(お前が暴れたら一瞬だろうが。そんなもん、つまらんぞ)」

「(我が希うは、骨のある相手か)」

「(俺も一緒に願っといてやるよ)」

「(……ところで、地龍を相手に丸腰で何をやっておる?)」

「(いや、観客の度肝を抜いてやろうと思って)」

「(そうか。い、いや、まさかな……ちょっ、待て、おい! 我がセカンドよ! せめて剣くらい使え!?)」

「(つまらんぞ)」

「(おい、おい! よせ! 何だ、気に入ったのかその言い回し! おい!)」

俺はアンゴルモアを憑依させたまま、アースドラゴンに素手で殴りかかった。

「ええええええ!?」――と。観客席のあちこちから驚愕の声が聞こえる。よかった、盛り上がったようだ。

俺のパンチはクリティカルヒットする。ダメージは《歩兵剣術》に毛が生えた程度。うーん、クリティカルでこれなら、まあ、行けなくはないだろう。

アースドラゴンは痛かったのか「グオォン!」と唸りつつ、反撃しようと体をねじった。斜め下方向に顔を逸らす。尻尾攻撃の予備動作だ。

「ほっ」

俺はその場に伏せて尻尾を回避する。ブオンッと空気が切り裂かれるような音とともに軽自動車ほどのコブのついた巨大な尻尾が頭上を通り過ぎた。おー怖。

さあ、こっちのターンだ。《精霊憑依》中はAGIがクソほど高まるがゆえに瞬間移動じみた立ち回りが可能となるため、相手の攻撃を躱す際に十分な余裕がある。そして、STRも同様に高まっている。つまり、ダメージを稼ぐなら今のうちである。

「オラオラオラァ!」

アースドラゴンの脚部をタコ殴りにする。ダウン値を蓄積させつつHPを削るのだ。

「(間もなく切れるぞ)」

良い感じのところで、《精霊憑依》のタイムアップがやってくる。早いな、もう310秒経ったのか。次の使用が可能となるのは250秒後。それまで完全に生身だ。

「ふぅ……」

憑依が解ける。急に体が重くなったように感じた。

しかし、アースドラゴンはお構いなしに襲いかかってくる。

「アォン!」

間抜けに鳴いた。ブレスが来る。俺はアースドラゴンを中心に大きく円を描くように回避行動をとった。直後、アースドラゴンは口から火砕流のようなビームを吐き出す。来ると分かっていれば、避けるのは難しくない攻撃だ。

ここで憑依中なら攻撃に転じたが、あいにく後231秒は使えない。ゆえに、俺はひたすら回避に徹する。

飛び上がったら、プレスの合図。アースドラゴンの進行方向と垂直方向に走って全力で回避がベターだ。

二歩後退したら、突進の合図。ギリギリまで引きつけてから左右どちらかへ飛び退けば、追撃の恐れなく回避できる。

……さて。そうこうしている間に、前回使用から250秒経った。

「憑依」

1セット約560秒。制限時間3600秒。つまり、これを繰り返せるのは後6回半。それでアースドラゴンを倒しきれるだろうか?

感覚的にはギリ行けそう……だと、思う。こりゃ賭けだな。

良いねぇ、ひりついてきたじゃないか。

「勝負だ……ッ」

* * *

オレは目の前の光景にただただ呆然とするしかなかった。

試合前。きっとセカンドさんは、精霊憑依の状態でオレを狙ってくるに違いないと、そう思っていた。

それをオレの相棒が防ぎ切れるかの勝負だと。オレはそう思っていたんだ。

それが……いや、ナンダコレ。

普通、アースドラゴンに素手で殴りかかるか?

だって、ドラゴンだよ? 有り得る? いやいやいや、有り得ないよ。

この人って実はアホなんじゃないかと思ったさ。

でも、時間が経つにつれて、オレはセカンドさんの真意がだんだんと分かってきた。

これが“魅せる”ってことだ。誰をも魅了してやまない彼の底なしの魅力の一角なんだ。

試合中だってのに、オレまで見惚れちまった。

すげえよ。やっぱ最高だよ、あんた……!

「――オラァッ! 見たか! ギリギリじゃあッ!」

試合時間残り10秒を切ったところで、セカンドさんがアースドラゴンをスタンさせた。

勝ったんだ、この人は。一時間もかけて、アースドラゴンに、素手で、勝ったんだ。

残り5秒。このままオレが逃げてしまえば、互いにHPが減っていないので、引き分けとなる。

まあ、しないけどな。そんな恥ずかしいこと。

「参りました」

オレは、笑顔で、投了した。

「そこまで! 勝者、セカンド・ファーステスト!」

――瞬間。闘技場全体で、今までにない大歓声が沸き起こる。

そりゃ、盛り上がらないわけがない。残り10秒で倒しきるなんて、まるで演劇みたいだ。

多分、セカンドさんとしても“賭け”だったと思う。行けるか行けないか、ギリギリのところをあえて挑戦したんだ。じゃなきゃ、剣か何か装備していたはずだろう。この霊王戦という舞台で、そんな賭けをするのはセカンドさんくらいなものに違いない。

舐められた? 馬鹿言え。舐められて当然。実力には天と地の差がある。むしろ、瞬殺せず良い勝負にしてくれたことを感謝するくらいだろう。それに、セカンドさんのことだ。アースドラゴンを倒しきれなかったとしても、最後まで素手で戦っていたと思う。たとえ引き分けになろうが、負けようが。

……変わらないな。言いたいことを言い、やりたいことをやる。それができる芯があって、そのための力がある。初めてセカンドさんを見た頃から、何も変わっていない。何も。

あの人は、冒険者ギルドの中で、新人狩りをする冒険者を相手に「冒険者ギルドが悪い」と言ったんだ。堂々と、ハッキリと。しかもギルド内の一人一人を見渡して。登録したばかりのFランク冒険者なのに。「先生はダメな生徒の面倒を見て注意する義務がある」と。そう、言ったんだ。

目と目が合った時、全身に衝撃が走った。同時に、思わず目を逸らしてしまった自分を、心の底から恥じた。恥じに、恥じた。

もう、あの頃のオレには戻らない。

オレはあの人のようになりたい。

言いたいことを言い、やりたいことをやれるような、芯のある力強い男に。

「決勝、頑張ってください」

「言われなくても、ここにいる全員を仰天させてやる。ああ、あと、明日は三冠記念パーティやるからお前も来い」

「はいっ! 絶対、行きます……絶対!」

清々しい敗北。

オレ、まだまだだ。まだまだ。

負けたというのに、不思議とやる気が漲ってくる。

よっしゃ、頑張ろう……!

* * *

「――セカンド、よいところに。少し頼みたいことがあります」

初戦が終わって観戦席へ行こうと通路を歩いていると、突然、背後から話しかけられる。

「あ? なんだマインか。どうしたこんな場所で」

振り返ると、そこにいたのはマインだった。

「言葉遣いに気をつけなさい。それより、頼みたいことがあるのです」

「ああ? あー、とりあえず言ってみな」

俺を呼び捨てにしたり、妙に硬い雰囲気だったりと、少々違和感があるが、恐らくここが“外”だからだろう。相変わらず大変だなあ、国王陛下は。

「ロイスダンジョンで魔物が大量発生しているとの報告を受けました。現状、確認と同時に対処できるのはセカンドしかいません。どうか行って様子を見てきてはくれませんか」

「ロイスか。別にいいぞ」

「……えっ」

「どうした?」

「霊王戦は、よろしいのですか?」

ああ、そうか。マインはあんこの存在を知らないんだったっけ? こんなこともあろうかと、王都周辺の主要スポットは既にあんこを連れて殆ど訪れている。転移し放題だ。

「大丈夫だ、任しとけ」

「そうですか。それではよろしくお願いします」

こくりと頷いて、マインは去っていった。

あいつ護衛も付けずに一人で大丈夫なんかな?

うーん……まあいいや、そんなことよりロイスダンジョンで魔物が大量発生の件だ。“スタンピード”イベントか? にしては唐突すぎるし、そもそもダンジョンの魔物はダンジョンから出てこないからなぁ……何だろうな?

よし、行こう。こんなところで考えていたって仕方がない。行ってみりゃ分かるんだから。

「何もおらへんやんけ!!」

俺は怒っていた。

あんこに頼んでロイスダンジョンに転移してみたのだが、入り口付近は何ら変わりない様子。周辺を調査してみても、大した変化は見当たらない。念のためにサクッと一周だけ攻略してみたが、結局、最後の最後まで何の変哲もないロイスダンジョンだった。

結果、1時間少々の時間を無駄にしただけである。次の試合には間に合うが、準決勝のMr.スリム対ビッグホーンは観戦できなかった。

「マインめぇ……いや、誤報を入れた誰かめぇ……!」

マインに怒っても仕方がないので、誤報を入れた誰かに恨みを募らせる。

闘技場裏口の人目につかない影に転移してから中へと入り、通路を歩く。時間的に観戦席へ寄っている暇はなさそうだ。

「おっ」

通路の奥にカピート君が見えた。俺が直行するのを見越して応援に来てくれたのかな?

「どうした、俺の応援――」

「セカンド。お前の大切な人は預かった。返して欲しくば次の試合で負けろ」

「…………はい?」

大切な人?

「どういうこと?」

「人質だ。負ければ教えてやる」

カピート君はそうとだけ言い残し、俺に背を向けて去っていった。

俺の大切な人を人質にとった……ということか?

…………え、何のために?

ユカリからは何の連絡もないぞ?

それにシルビアとエコが何処ぞの誰かに後れをとるとも思えない。

そもそもカピート君ってあんなこと言うキャラだっけ?

んー……?

「……まあいいか」

次の試合に負けろとかごにょごにょ言っていたが、よく分からない。特に問題なさそうだし、このまま決勝だ。

俺は通路を進んで、舞台へ出る。

そこには既に対戦相手が待っていた。

かなりの長身でシルクハットを被った燕尾服のひょろっと痩せている男。ああ、一発で分かった。あいつがMr.スリムか。

いやあ、しかしものすごい人気だ。俺が姿を現しただけで観客から歓声があがるようになってきたぞ。こっそりサインの練習しといてよかった。

「セカンドさーん! 頑張ってくださーい!」

おお、カピート君も出場者用の観戦席から声援を送ってくれている。

俺は「ありがとう」と手を振り返した。

…………。

………………。

ん!?

え、さっきの人質云々は何だったの!?

「如何いたしましたかな? セカンド二冠」

俺が困惑していると、スリムが何やら話しかけてきた。

「いや少し混乱することがあってな」

「それは大変だ。私のことはお気になさらず、どうかそちらの解決を」

スリムはシルクハットを取って一礼する。なかなか様になっている。帽子の穴からハトが出てきそうだ。

「こりゃどうも。でも試合が終わってからにするよ」

「然様で御座いますか」

すぅっと目を細めて、シルクハットを被りなおす。

ん? 今、何か……。

「両者、位置へ」

審判の指示に従って、移動する。

……あぁー……はっは、なるほどなぁ。分かったぞぉ、違和感の 正体(・・) が。

そりゃカピート君も忠告するわけだ。確かに、この世界の人たちにとっちゃあ、厄介だろうなこいつは。

「どうぞ、よろしくお願いいたします」

スリムが紳士らしくお辞儀をした。その腹ん中は微塵も紳士じゃないクセに。

……てめぇ、よくもやってくれたな。目にもの見せてやる。

「ああ、よろしく。 カメレオン(・・・・・) 使い」