軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後編

ヴィクトルがいる部屋には、ヴィクトルだけではなく、複数人の使用人と、医者らしき狼族が数人いた。恐らく、侯爵家のお抱えの医者だろう。

「お話する前に、一つご質問させてください、ログノフ侯」

「良いだろう。なんだろうか」

「ログノフ侯爵は、クリスティーナ夫人を誘拐して狼国に連れて来たのではありませんか?」

テスカーリの言葉に、ヴィクトルは予想外な言葉がかけられたとばかりに、目を丸くしていた。

周囲の使用人たちは、ヴィクトルを侮辱するに等しい言葉を発したテスカーリに、敵意を向けてくる。

「誘拐だと!? なんと無礼な!」

「クリスティーナ様はヴィクトル様の運命の番であったのだぞ!」

「皆、落ち着け……」

ヴィクトルは部下たちを宥めるように声をかけるが、怒りの滲んだ声は止まない。それらを黙らせるように、テスカーリはよく通る声で話を続けた。

「それは、ログノフ侯爵家側だけの理論でしょう。人族は運命の番という縛りはありませんから、見初められとしても、クリスティーナ様からすれば、ログノフ侯爵は初めて顔を合わせた赤の他人というだけだった筈です」

「た、確かにクリスティーナはただの人で、番を理解する事は出来ない。けれど、彼女は私の求婚を受け入れてくれた! そして、以前、間違って嫁いでいた夫と別れて、私の元に来てくれたのだ」

「それで、あのお話は出てこないと思いますがね……」

「何のことだ?」

テスカーリは視線を斜め後ろに向けた。

そこにいるのは、テスカーリがクリスティーナに質問をしていた際、同じ部屋に控えていた侍女の一人であった。

先ほどの話し合いの報告をする為に、来ているのだ。

侍女はテスカーリに見つめられて、顔を白くしながらビクリと肩を跳ねさせた。

「僕からより、信頼の厚いご自身の侍女からお聞きしてくださいませ」

「……教えてくれ」

侍女は視線を右、左、と視線を逸らしていた。けれど部屋中の人間から見られて、尾と耳をたれ下げながら答えた。

「…………そ、そちらの方が、一般的に、他国に嫁いできた人は祖国が恋しくなることはないのかという話を……されたのですが……」

変な事を聞きやがってという視線も刺さったが、テスカーリは彼らは見なかった。ただ、侍女の方を見ているヴィクトルを見ていた。

「奥様は……その……」

「クリスティーナは、なんと?」

「…………帰れないと。 私(・) は(・) 買(・) わ(・) れ(・) た(・) 奴(・) 隷(・) で(・) す(・) か(・) ら(・) 、と」

「…………は?」

ヴィクトルの、零れ落ちるような声が、静まった部屋に響いた。

侍女は気まずそうに、身を縮こまらせる。しかし消える事など出来はしない。今を生きている、生き物なのだから。

「ど、れい……? クリスティーナは、一体、何を言って」

「ヴィクトル様! 奥様の冗談でしょう。そうに決まって」

「ご自分を奴隷と揶揄する。……自己卑下にしても、あまりに言葉選びがおかしいと、侯爵閣下は思われないでしょうか」

「野良医者! 黙れ!」

怒りの唸り声が上がる。

自分に言われた訳でもないのに、斜め後ろにいた侍女は悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。

複数人の男からの唸り声が恐ろしいのだろう。

しかしテスカーリには、子犬が吠えているようなものでしかない。うるさいが、恐怖は感じない。

周りの有象無象を無視して、テスカーリはヴィクトルを見つめた。

「クリスティーナ夫人と話し始めて、最初に、彼女の状態に覚えがあると思いました」

ヴィクトルが、怯えるような顔で、テスカーリを見る。

「どういう、意味だろうか」

「クリスティーナ夫人は、とある女性に似ております。竜人の男に見初められ、祖国から遠い竜国に無理矢理嫁がされた女性に。――二十年と少し前、竜国でとある事件がありました。侯爵家のご当主ともあれば、御存じでしょう。ええ。アンジェリーヌの悲劇と呼ばれている事件の事です。番の儀を行う場で、番の縁を断ち切られた事件です。あの当時、五人の、ただの人族の女性が、運命の番であった竜人との絆を断ち切った。その女性の一人に、クリスティーナ夫人はよく似ておられる」

「クリスティーナが……?」

呆然としているヴィクトルをテスカーリは見下ろす。

(この人は、即座に攻撃に転じないのだな。まだ、マシかもしれない)

一方で、と視線を横にそらす。

侯爵家のお抱え医者や長年仕えているのだろう使用人たちは、歯茎が見えるほどに口を開きながら喚いている。

「ヴィクトル様! 平民相手の治療しかしないような野良医者の言葉に耳を傾けてはなりません! あの事件の関係者は皆、高位貴族だった筈です。こんな野良医者が、直接会った事などある筈が――!」

「母ですよ」

興奮して、開いた瞳孔の瞳が、テスカーリに向けられる。

彼らに、テスカーリはハッキリと告げた。

「あの日、番との絆を断ち切った女性の一人は、僕の実の母です」

――室内にいるすべての人間が、言葉を失っていた。

「……テスカーリ殿。貴方は――貴族、なのか?」

問われた言葉に、テスカーリは椅子からずり落ちるかと思った。

(重要なのはそこか)

はあ、と息を吐く。それから、首を縦に振った。

「ええ。家族からは縁を切られたりしておりませんので。祖国に帰れば、伯爵子息という立場があります」

歴史だけが古い伯爵家。それが、テスカーリが 実家(テスカーリ伯爵家) に抱いている印象であった。

誇り(プライド) だけが大きく、とてつもなく肥大化していた家だった。

(その果てが、『番に自ら絆を断たれた』という歴史に残る失態に名を連ねる事になったという、不名誉極まりないものだった事を考えれば……。遅すぎたしっぺ返しを食らったようなものだろうな)

この場で突然自分語りを始めたのは、周囲から同情やそれに類する感情を引き出す為ではない。

当(・) 事(・) 者(・) で(・) あ(・) っ(・) た(・) 身(・) と(・) し(・) て(・) 、この場にいる人々に伝える為だ。

「結婚こそしておりませんでしたが、僕の実母には、祖国に、婚約者がおりました。結婚まであと一か月という時期だったそうです。政略性に基づいたものではあったものの、お互いに想い会った関係だったと聞き及んでおります。それを、実父は引き裂きました」

ヴィクトルを見る。彼は硬直していた。

血色は良い状態であった頬は、白くなっている。

その顔に浮かんでいる感情が何か。テスカーリは想像は出来れど、突き止める事は難しい。

「竜人という立場を使い。国力の差を使い。言外に、従わなければ周囲を酷い目に遭わせると訴えて。そうして、実母が実父に嫁ぐしかない状態に持っていった」

「それは……」

「その際、実母は最後に、婚約者であった人物に別れを告げにいきました。勝手に行ってなどおりませんよ。事前に、最後の別れの許可も、実父に求めての逢瀬です。――その逢瀬で、距離が近いと、実父は婚約者だった男性に暴行を加えました。その怪我が元で、男性はまともに動けなくなり、一年後には命を落としたそうです。これが切っ掛けで、実母はずっと、実父を恨むようになりました」

その恨みをテスカーリの実母はずっと隠し続けていた。テスカーリ含め、三人もの子供を産んだ。

手段がなかったからかもしれない。確かに、ただの人族が、竜人に、一生の傷となるような攻撃をしかけるのは難しい。

テスカーリの思い出語りに反応するように、ビクリと、大きく肩が跳ねたのはヴィクトルと、数人の使用人だった。

テスカーリは切れ長の目を細める。

「まさか、クリスティーナ夫人の前夫の身に手を出されたので?」

「こ、殺してなどいない!」

「つまり、手は出したと」

「っ……」

ヴィクトルが俯く。

「し、仕方ないではないか。親し気に寄り添って、肩を抱いて……私の番なのに!」

そうですそうです。そんな言葉で、使用人たちはヴィクトルを慰めている。テスカーリは額に手を当てた。

「はぁぁ……。話を聞けば聞くほど、クリスティーナ夫人の状況は、僕の実母に似ているようだ」

(――それ故に、同一視してしまっているのかもしれない)

よくない事だと理解してはいるが、ここまで要素が似通っていると、どうにもクリスティーナの立場に添ってしまった。

ここまでは温厚だったヴィクトルも、使用人たちにおだてられ、その時の怒りを思い出したのだろう。声を荒げた。

「番に手を出したのはあちらだッ!」

「当日のクリスティーナ夫人は貴方の妻ではなく、かの男性の妻だったのでしょう? それならば、寄り添うのは普通の事でしょう」

「それは、だが、クリスティーナは、私のもので……」

一転し、ヴィクトルの声が落ち着いてくる。

(無駄に理性的になれる部分が、まだ救いがあるかと思っていたが――いや、逆に、だからこそ――)

「声が聞こえてまいりましたが……どうかいたしましたか?」

ドアが開く。

入って来たのは、クリスティーナと、彼女の専属だという侍女だった。こちらの侍女も先ほどの問答を聞いていたので、顔色が悪い。

「クリスティーナッ!!」

ヴィクトルは立ち上がった。そして、妻に向かって叫んだ。

「君は、わ、私の妻だ。番だ。そうだろうッ?」

「? はい。そうですね」

「そうだろう! そうだ、そうだよな……」

ホッと、安心したようにヴィクトルの顔が緩む。テスカーリは真顔で、落ち着こうとしている彼らの水面に石を投げた。

「その妻、や番、という言葉の意味合いが、先ほど夫人がおっしゃった奴隷という言葉に繋がるのでしょうか?」

掘り返すなよ、という視線が刺さったが、既にテスカーリは依頼も、依頼料も、何もかもどうでもよくなっていた。そうでなければ、こんな行動はとらない。

「ど、奴隷……」

ヴィクトルはそこで、奴隷という言葉を思い出したらしい。

狼国には奴隷の文化はある。けれどそれは、絶対に、『番』とは結ばれない概念だ。

『番』は唯一で。魂の半分で。――絶対に、奴隷ではない。

「く、クリスティーナ。先ほど彼が、君が、自分の事を、奴隷だから、祖国に帰る事も出来ないと、言ったと。冗談、なのだろう? 人族では何か、面白い。冗談。そうだろう?」

フラフラと、男が近づいていく。

花に吸い寄せられている、虫のように。

でもその花は、虫が止まる事も出来なさそうに、細くて頼りない。

今にも折れそうな細い花は、ほんの少しだけ、首を傾げた。

貴族夫人の動きで違和感がない程度の、首をかしげる角度。わざとらしくはないけれど、どこか女性らしさが滲んでいる動き。

「ヴィクトル様の仰っている意味が、よく分かりませんわ。やはり、ご子息を亡くされて、少しお疲れなのではありませんの?」

「 ジョレス(こども) を亡くした親なのは、君も、同じだろう!」

「ですから、私はジョレス様の実母ではありませんわ。確かに、未来の侯爵子息として、義理の母という役どころとして、母恋しいジョレス様のお相手はさせていただいておりましたが……」

「ジョレスは私と君の子だ!」

「書類上ではそうですわね」

「ジョレスは君の子だ! 君が産んだだろう! 産婆も呼んだ。君は、何時間も苦しんで、それでジョレスを産み落とした! それすらも忘れたというのか!?」

「まあ! ヴィクトル様。おかしな事を仰いますわね。私、 出(・) 産(・) な(・) ど(・) し(・) た(・) 事(・) が(・) あ(・) り(・) ま(・) せ(・) ん(・) わ(・) よ(・) 。狼族の冗談は、随分過激ですのね」

――クリスティーナ・ログノフは、ジョレス・ログノフを産んでいない。

現実がどうであろうと、クリスティーナの中の真実は、それだった。

その一言はヴィクトルになかなかの衝撃をもたらしたようだった。

膝から力が抜けたようになって、その場でしゃがみ込んでしまった。崩れ落ちた夫を、夫人は駆け寄るでもなく、ただ見つめている。

もし愛し合っているのなら、夫が崩れ落ちたら、駆け寄るだろう。助けようとするだろう。クリスティーナはそうした動きはしなかった。冷静に、使用人たちを見渡した。

「ヴィクトル様は、お疲れのようね。お客様のお相手をこれ以上されるのは、難しいでしょう。家令殿、お部屋にお連れしてちょうだい。お客様のお見送りは、私が侍女長と共にします」

侯爵家の夫人らしく、クリスティーナが指示を出す。

その姿は様になっていた。

使用人たちは、呆然としながらもしたがって動き出す。上位の存在たるクリスティーナの指示にあらがえない。そんな動きだった。運び出されるヴィクトルは、クリスティーナを必死に見つめていた。必死に、必死に。けれどクリスティーナは振り返らなかった。

それを見ながら――そして彼女の言動を聞きながら、テスカーリは思った。

(彼女にとって、全ては 役(・) なのかもしれない。侯爵夫人役。母親役)

勝手な妄想だ。本当の意味で、テスカーリがクリスティーナの気持ちを理解する事は出来ない。

竜人はどこまでいっても生命体として強くて、あまりに脆い人族の気持ちを正しく理解する事は難しかった。

それでも、クリスティーナを見ていて、つい、考えてしまうのだ。

(……母も、そうだったのだろうか)

七歳までしかともに過ごした事のない、実母。

もはや声も顔も、おぼろげにしか覚えていない。

正直なところ、どんな人だったかすら、正しく記憶出来ていない。

それでもその存在は、テスカーリの家ではいつまでも強かった。

番の絆を断ち切られた父は狂い、定期的に幻覚を見ては暴れた。

ついには押さえようとした部下を二人殺してしまったのを見て、兄は父を殺した。

名門伯爵家で働いているだけあり、部下たちも平民ではなく貴族階級であった。それを二人も殺して、無罪には出来ない。

ただでさえ家名に泥を塗る事になった父はもはや、その首でもって周囲の留飲を下げる役目を果たすしか、価値がなかった。

兄の代になっても、テスカーリの実家で、実母の存在は色濃く残っていた。

母との思い出がテスカーリより濃かった兄たちは、それぞれ母の肖像画や、母が使っていたものにしがみ付いていた。

末の子であったテスカーリに渡る母の思い出は記憶だけで、それも、時の経過と共に薄れていく。

「お医者様」

はっとして、テスカーリはクリスティーナを見た。

「本日は、お忙しい中、夫の申し出を受け、当家までお越しいただき、誠にありがとうございました。少ないかもしれませんが、謝礼もお渡しいたします」

「……いえ。謝礼は、お断りいたします。僕は、当初侯爵が望んだ働きは、何も果たせておりませんから」

移動にかかった費用は侯爵家が出している。帰りも含めてだ。

これ以上テスカーリが受け取るのは、いけないだろう。

(何より今の僕は、医者として動いていない)

医者として、患者に寄り添うのは良い。けれど、踏み込んで、同じ立場に立ってはならない。

医学の師に言われた言葉を、今のテスカーリは完全に無視してしまっている。それなのに医者としての謝礼を受け取るのは、問題に繋がる。少なくとも、テスカーリはそう考えた。

クリスティーナに導かれるように、テスカーリは屋敷の中を移動する。傍に控えている侍女たちは酷く警戒した面持ちだ。その警戒はテスカーリにだけ向けられている訳ではない。それが感覚で、理解出来た。

「――実は、お話を少し、廊下から聞いておりましたわ」

クリスティーナの突然の発言に、テスカーリは彼女を見下ろした。

クリスティーナは歩みを止める事も、振り向く事もなかった。だから自然、前を歩く彼女のつむじばかりを見下ろすような形になった。

「お母様は、婚約者を、亡くされたと」

「……はい。そう聞いております」

「そう。そうですか。きっと……お母様は、苦しかったでしょうね」

その言葉には敵意はなかった。

テスカーリは 首肯(しゅこう) した。

「きっと、辛かったと思います。愛する人を殺した男の子を、三人も産まねばならなかったのですから」

「……私は子を産んでおりませんから、お母様よりずっと……」

「僕の母と、貴女自身の在り方を比べてはいけません。僕の母の苦しみは僕の母だけのものであり、貴女の苦しみは貴方だけのものの筈ですから」

クリスティーナからの返事はなかった。

★ ★ ★

玄関口で、クリスティーナと複数人の侍女たちに見送られる形になっていたテスカーリは振り返った。

「これは、竜人なりの冗談ですが」

「? なんでしょう」

「貴女を祖国まで、お連れしましょうか。夫人」

その言葉に、侍女たちが殺気立つ。

明確な誘拐宣言だ。その反応が、自然だろう。

抜き身の剣が突き立てられるような緊張感が走る中、テスカーリはクリスティーナを見た。彼女はほんの少し、目を丸くしていた。

「僕は、今この場で貴女の背後の侍女たちを全て殺し、貴女一人を故郷に連れて行く事ぐらいのことは、簡単にできます」

それは事実だった。

仮令侍女たちが束になって、命を懸けてテスカーリを殺そうとしたって、簡単には殺せない。致命傷を受ける事はあるかもしれないが、それよりも、侍女たちが死ぬ方が先だろう。

「ですから、貴女が望むのならば、貴女を故郷にお連れする事が出来ますよ」

その言葉を最後まで言い切る前に、クリスティーナはくすくすと笑った。三十を過ぎた女性にしては、無垢な乙女みたいな、笑い声だった。

「お断りいたしますわ。私、愛していますの」

侍女たちの殺気が、収まっていく。

「愛していますのよ。家族を」

安堵したような顔で、彼女らは女主人を見つめていた。

――その家族が、誰を指すのか。

それを深堀りするのは、あまりに野暮だった。

「ですから私は、ここで。最期まで、仕事を全うするだけです」

殆どの侍女は良かったという雰囲気を出している。

そんな中で、何か違和感を覚えたような顔をしたのは、一人か二人だけだった。

テスカーリは目を閉じた。

目の前の女性は確かに、不条理に踏みつけられた花だったかもしれない。

(けれど、踏みつけられて傷ついて、花びらは欠けたかもしれないが、それでも自分で、咲いている)

その、彼女の今までの努力を、すべて無に帰すような提案であった。

全く笑えない話であったろうに、クリスティーナは少し茶目っ気のある言葉をテスカーリに向けてくれた。

「竜人の御冗談は、過激ですのね。狼族の冗談とはまた違って。……私、今日はなんだかとても賢くなったような気分ですわ」

「……ええ。竜人の言葉尻は強いのです。他の種族の方からは、随分と怖がられたものです」

「老婆心ながら。以降は先ほどのような御冗談は、あまりおっしゃらない方がよろしいわ」

「はい。以降、気を付けます」

テスカーリは屋敷を出た。

随分と移動してから、振り返った。

ログノフ侯爵家のお屋敷は、やはりどこか重い空気をまとっている。

ここがどんな場所かは、分からない。

だが彼女はきっと、ここにい続けるのだろう。

花が枯れる、その日まで。