軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談第22話 元町人Aは眠れぬ夜を過ごす

歓迎会を終え、俺たちは錬成した洋館へと戻ってきた。するとクラウスがすぐに声を掛けてくる。

「アレン卿、後は我々に任せ、ゆっくりお休みください」

「そうか?」

俺はじっとクラウスの顔を見る。 さっきまで歓迎会で飲んでいたはずにもかかわらず、まるで寄った様子はない。

どうやらかなり酒に強いタイプらしい。

「はい。長旅でお疲れでしょう。それにあれほどの大魔法をお使いになられたのですから」

「……わかった。ありがとう。それなら後は任せよう」

「お任せください」

「だが、クラウスもかなり飲んでいただろう? 無理はしないようにな」

「ありがたきお言葉! ですがあの程度は飲んだうちには入りません」

本当に酒に強いようだ。

「分かった。ではまた明日」

「は。お休みなさいませ」

「ああ、お休み」

こうして俺は後のことを任せ、自室へと戻ってきた。

八畳ほどの部屋で、その真ん中にはやや広めのベッドが、窓際にはテーブルと椅子が 設(しつら) えている。ただ寝るためだけのシンプルな部屋だ。

「……ちょっとベッドが広すぎたかな」

そんなことをぼそりと 呟(つぶや) いてしまった。

シングルか、せいぜいセミダブルくらいで十分だと思ってはいたのだが、どうやらアナと暮らしている部屋のベッドが基準になってしまったのだろう。当初の想定とはちょっと違う感じになっている。

「まあ、いいか。寝れば同じだ」

俺は内鍵を掛けるとすぐさま楽な格好へと着替え、そのままベッドに倒れ込んだ。

シンプルな板張りの慣れない天井が目に入ってくる。

……なんだろう? この寂しさは。

どこでも寝られるタイプだと思っていたが……思ってたよりも疲れていたのか?

いや、違うか。いつもの温もりが隣にないことが寂しいんだ。

「……アナ」

愛する妻の名前を呼ぶが、当然ながら返事はない。

俺はふうっと大きく息をつき、そのまま目を閉じる。

……眠れないな。普段であれば、この時間はもう寝ているはずなのに。

そうしているうちに再びアナのことを思い出し、悶々としていると廊下に何者かの気配を感じた。

……この歩き方、クラウスではなさそうだ。ならば他の先遣隊のメンバーか?

いや、違う。彼らならもう少し力強い足音になるはずだ。こんなに軽い足音なわけがない。

ということは、クラウスたちの警備をかいくぐってきた暗殺者か? いや、それにしてはあまりにも気配がバレバレすぎる。

俺はベッドから起き上がると念のためニコフを手に取り、外の様子を 窺(うかが) う。

足音はゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。歩幅も小さいようなので、この人物は小柄で体重が軽いのかもしれない。

そしてやはり隠す気配はなさそうだ。

そうこうしているうちに、その人物は俺の部屋の扉の前で止まった。

……やはり俺の部屋が目的地らしい。

俺はベッドの影に隠れ、いつでも発砲できるように準備をする。

だが俺の部屋の前にいる人物に動く様子はない。突入してくるわけでもなければ、立ち去る様子もない。

……もしや! こいつは扉の向こうにいる奴は囮で、別の暗殺者がいるのか?

そう考え、全方位を警戒し始めたそのときだった。

コンコン。

「っ!?」

普通に扉がノックされ、警戒していた俺は思わず息を呑む。

「あ、あの……英雄様」

外からは遠慮がちなレーアの声が聞こえてくる。

……なんだよ! 警戒して損したじゃないか!

自分の早とちりに頭を抱えつつも、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

「どうやってここに入ってきた? 俺は部外者の立ち入りを許可していないぞ」

「で、ですが……」

「いいから帰れ。お前は今日、ここには来ていない。いいな?」

「あ、で、でも……」

まったく。歓迎会のときから様子がおかしかったが、そういうことか。

俺はわざとらしく大きなため息をついた。

「帰れと命じている。俺は妻を裏切る気はない」

「あ、そ、その……」

「俺は帰れと命令しているんだ。もし帰らなければ、どうなるか分かっているのか?」

「ひっ!? も、申し訳ございませんでした!」

俺が脅すように低い声で言うとレーアは慌てた様子で謝り、すぐにパタパタと走っていった。

まったく。何が後のことは任せろ、だ。

それになんだかすっかり眠れるような気分ではなくなってしまった。

仕方がないので、クラウスに文句を言ってやろうと着替えて部屋を出る。そしてクラウスたちの部屋のある一階へと降りてきたのだが……。

「あっ! あん! あん!」

「すごい! すごいですっ!」

「あああああ!」

なんと先遣隊のメンバーに与えた部屋から嬌声が聞こえてくる。

……あいつら、一体何をやっているんだよ。

まあ、俺も男だ。気持ちは分からなくもない。

だが……って! そういうことか!

「はぁぁぁぁ」

俺は盛大にため息をつくと、自室へと戻るのだった。

◆◇◆

翌日の早朝、空が白み始めたころに俺はクラウスの部屋へ行き、乱暴に扉をノックした。

「おい、クラウス。起きているか?」

「ひっ?」

中から女性の声が聞こえてくる。

「お、起きてください! 隊長様! 英雄様が!」

「んー?」

「英雄様です!」

「へっ!? あ、わわわわわ。寝坊して申し訳……あれ? まだ?」

「いいからさっさと服を着ろ。このまま扉を開けてもいいんだぞ?」

「わ、わ、も、申し訳ございません!」

中からがさごそと音が聞こえ、すぐに扉が開かれる。

「アレン卿、おはようございます。このような時間に一体――」

「ああ、おはよう。昨晩のことには目をつむろう。だが今後、この館に女を呼ぶのは禁止だ。いいな?」

「へ?」

「ここは売春宿じゃない。なんだ? 昨晩の嬌声は。廊下に響いていたぞ」

「う……」

「大体な。俺は妻を裏切るつもりはない。お前らが女を抱くのは止めんが、それはこの館以外でやれ。分かったな?」

「は、はい……」

「お前もだ。分かったらさっさと帰れ」

「は、はい! 失礼しました!」

俺がそう言うと、クラウスの部屋にいた女性は慌てた様子で館から出て行ったのだった。