軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9.ワイバーンこわい

宝の守護者の間の、前までやって来た。

でかい門があって、ここから入ると守護者の間へ入ることになる。入ったら倒すまで出られないとかそういうことはないけれど、門は異様な雰囲気を放っていて、油膜のように虹色に歪んでいる。見上げるといつも緊張する。俺がへまをした扉だ。

エリークが言った。

「君は外で待っていてほしい」

「いやだ!」

ここで一人にされるのは勘弁してほしい。あわててエリークを見ると彼は困ったように眉を下げた。

「心配せずとも、ワイバーンなら問題ない」

「ワイバーン、ないかもしれない」

「大丈夫」

エリークはやわらかく微笑む。

俺が言葉を覚えるようになってから、エリークの態度が明らかにやわらかくなった。やはり神聖語なんか使ってるやつとは距離感を計りかねていたのだろう。元から――怪我が治ってからは微笑んでいることが多かったが、今はその表情も自然に見える。

つまり微笑ましいものを見ている、ような感じということで、大変悔しい。今に見てろよ、すぐ流暢になってやるからな。

「おれもいく」

エリークは困った顔をして、それでも俺が一緒に守護者の間へ入ることを拒否しなかった。

二人で門に触れると、油膜が溶けるように消えて向こう側が見えるようになる。生き物の気配と同時に、重たい圧迫感。それから独特の獣臭さに総毛立つ。

闇に埋もれるように同じ色をした、漆黒のワイバーン。

「すぐに片付ける」

エリークがそう言って、固まった俺を置いていく。悔しい。

動ける。俺だって動けるはずなのに、あの牙が切り裂いた痛みが、尾を打ち付けられた衝撃が、俺を地面に縫いつける。

せめて視線だけはワイバーンに向けていようと睨み付ける。といっても、やつは俺のことなんか眼中になくて、エリークとだけ対峙している。ちくしょうめ。

ワイバーンの懸念はもっともで、エリークは一方的だった。

あっという間に切り裂かれる翼、飛ばされる尾に、脚。彼の 杖(ファセレ) が振られるたびに閃光が走り、紫の血が迸り、甲高い絶叫が耳をつく。

エリークの 魔術(ロウ) を嫌がってワイバーンが長い頚を振る。やつの口の中に青い火が揺らめいた。

「っ、エリーク!」

炎息吹(ブレス) だ。突如巻き起こった熱風に異臭が混ざり、引火するように炎が走る。エリークが外套を翻して飛びすさるのが見えた。しかし長い炎の舌は、その彼の元まで悠然と届いてしまう。

俺は咄嗟にベルトポーチから 水鱗(レピ) を取り出して宙へ撒いた。

「 凍てつけ(コンゲラレ) !」

『氷結』によって 魔術触媒(カタリス) が風に乗った端から凍りついていく。炎と相対して水蒸気が巻き起こり、またそれが凍りついて視界が真っ白に染まる。

その瞬間、ボンッと爆発するような音がしてワイバーンの首が弾けとんだ。

エリークが首を取ったのだ。

怨めしげな目をしたワイバーンの首を見下ろして、俺はゆっくりとしゃがみこんだ。

「さっむ……」

終わってみれば実に呆気なかった。エリークの「問題ない」は本当だった。

ついでにあとで聞いたら彼の外套には防火が付与してあるので、 火息吹(ブレス) は無傷でやり過ごせたそうだ。

俺、なんの役にも立ってない。寒くしただけだ。余計なことをしてしまった。

「あの量の 魔術触媒(カタリス) を一言の 呪文(ベル) で 魔術(ロウ) にしきるのは並大抵のことではないよ。君は強い 魔術師(ロアー) だ」

「エリークにいわれたくない」

強い 魔術師(ロアー) はそっちだろうよ。

二人で手分けしてワイバーンをぶつ切りにしていく。そのままでは魔法鞄に入らなかったのだ。

『切断』の 魔術(ロウ) が便利。

「それに燃えなかったから、品質がいいし」

「んーー……、うん」

それはそう。

燃えてたら鱗とか駄目になってたと思うし。腐ってもドラゴンの一種、ということでワイバーンの鱗も高級な 魔術触媒(カタリス) の一種である。分けてもらえるそうなので、楽しみだ。

「君は 魔術触媒(カタリス) が好きだな」

「 魔術(ロウ) 、好き」

元の世界にはなかったものなので、楽しい。

魔術触媒(カタリス) がないと 魔術(ロウ) にならない、というところも、 呪文(ベル) や 発動具(ファセレ) じゃないと扱えないというのも、ちょっと不自由で、万能じゃなくて面白い。

「他に好きなものはあるか?」

「好き? わからない」

いきなり言われてもなあ。

「どうして?」

「街に行ったら、何がやりたいのかと思って」

ワイバーンの首から逆鱗を切り取りつつ、エリークが尋ねる。

やりたいことか。

三年間、ひとつだけずっと望んでいたことがある。

「空がみたい」

「……そうか」

ずっと石造りの天井の下にいたから、いい加減高い空が見たい。天井のない場所へ行きたい。外に出たい!

魔法鞄に入れてもらおうと、ワイバーンの尻尾(輪切り)を転がしていたら、何か考え込んでいたエリークが顔を上げた。

「アスル」

「なに?」

どういう意味の単語だろう? 首を傾げると、エリークは微笑んだ。

「君の名前だ。アスル。空色のこと。どうだろう」

「アスル」

それで好きなものを聞いたんだろうか。蜂蜜とか言ってたら俺、ハニーになってたの?

いや、アスルはいい名前だ。

うなずくと、エリークは手を伸ばし、そっと俺の頭を撫でた。そういえば、俺の髪の色も空色だ。案外、安直なのかも。

「街へ戻ろう、アスル」

「うん」

宝の守護者を倒したことで、転移陣が出現していた。夢にまでみた、街への扉だ。わくわくが止まらない。

ちなみに守護者が守っていた宝箱は小型が5つあった。大豊作だな。開けようとしたら、エリークに街までそのまま持っていくように言われた。街で開けると箱も残るので、売れるらしい。現金収入は歓迎です。エリークと山分けだ。

転移陣へ乗る前に、エリークは俺の長い髪を束ねて外套の中へ仕舞わせ、しっかりとフードを被せた。

うん? やはり空色の髪ってアニメみたいだし、目立つんだろうか。ちょっと早くも気が滅入る。

「街についてからも、悪いようにはしない。俺を信じてくれるか?」

「信じる」

悪人ではありません、とノアも言っていたし。信じます。

「ありがとう」

エリークはまた俺の手を取って、額に当てた。ほんとなんなんだろ?

俺も真似をして彼の手を取り、額につける。苦笑されてしまった。

だってわからないんですよ!

エリークは俺の頭をフードの上からぽんと撫でて、背を押して俺を転移陣へ導いた。手がふるえているの、きっと気づかれただろう。ちょっと、怖じ気づいていたことも。

輝く道を踏み、周囲が光に包まれていく。

こうして、俺の三年の宝迷宮生活は終止符を打ったのだった。

※ ※ ※

【商人立身出世物語!】

001 成り上がる商人

見たれ、俺は必ず成り上がってやる。

俺のスペック→

中肉中背平凡な容姿

元四十代サラリーマン(製造業・設計士)

ノアには記憶を持てるだけ持っていきたいと頼んだ

魔力は平均値

開拓民

最速で市民権取ったるからな!!

002 名無しの転移者さん

金儲けの話?

003 成り上がる商人

そう。でも軌道に乗るまでは何をやるかはないしょな!

004 名無しの転移者さん

なんだただのオッサンの妄想か

つまらん、解散

005 成り上がる商人

まあ体はピチピチだけど、心はオッサンやで。

利権とか絡むから話せることがまだ全然ない。

でも俺が必ずこの世界をいい世界にしてやるから、待っとれよ。