軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.俺への指名依頼

そんなわけでギルドの応接室に来ている。

対面には昨日見た貴族の青年、ルナリスが座り、後ろにそのお付きらしい人々がずらっと並ぶ。そしてサイドの椅子にはギルドマスター。

エリークはいない。アウェー過ぎる!

「やあ、君が沼地の階層を最短で抜けたという冒険者か」

あ。

どうして俺に指名依頼なんて来たのかと思ったら、それが理由か。エリークと親しいから来たのかと思っちゃったよ。いや、これは建前で本音はそうなのかもしれないけど。

「ん、アスル」

「アスルは言葉が流暢ではありません。無礼は問わないでもらえると助かります」

ギルマスが俺の後から補足してくれる。ありがたい、アウェーじゃなかった!

「冒険者に礼儀を問うほど無粋じゃないつもりだよ」

「ありがと」

俺に目を向けて、ふわりとルナリスは微笑む。

美形だ。つり目で一見すると冷たい印象を抱くが、柔らかく笑うのでそれが覆されて、表情に目が奪われる。これがギャップ萌えというやつか。

「フードを取ってはもらえないのかな」

「んー……うん」

「そう、残念」

エリークからフードは取らなくていいし、取らない方がいいとも言われている。彼の中では俺が貴族疑惑は消えていないらしく、顔を覚えられない方がいい、と考えているようだ。

俺もあえて顔を売りたいとは思わないし、最近はフードを被っていることにも慣れてきた。礼儀を問われないなら被ったままでいるのが楽だ。

ルナリスはともかく後ろのお付きさんたちの視線は厳しい気がしたが、気にしないことにしておく。

本題のルナリスの依頼はというと「宝迷宮の中層に一ヶ月滞在したい」というものだった。

中層というと、30層以降60層以下。

えっ、たったそれだけ? と思ったが、ひとまず黙る。

「私は、恥ずかしながら魔力があまり多くなくてね。宝迷宮に長くいると、魔力が器に満ちると聞く」

「俗信です」

「だが、白髪の冒険者に色が満ちた話は珍しくない。そうだろう?」

ギルマスは難しい顔だ。

「それに俗信だとしてもすがりたいのさ。宝迷宮に滞在し、この身に魔力を満たしたい。そのために、君には護衛をお願いしたい」

「んー……」

出来るか出来ないかでいえば、出来る。要は安寧の間を見つけて、一ヶ月放り込んでおけばいいのだ。簡単だ。

問題は彼を連れて、40層の守護者を倒して帰れるか、というところになる。

それについては、エリークに情報をもらって、一度入ってみればわかる。つまり問題はというと。

「40層、俺、行ったことない」

「そうです。『睡蓮の宝玉』は迷宮変動が起きたばかりだ。この依頼をこなすのに適した場所ではありません」

ギルマスがすかさず掩護をしてくれる。たぶん彼も、この依頼には反対なのだ。

一ヶ月も貴族という足手まといを連れて宝迷宮に滞在しようというのは、冒険者からすれば狂気の沙汰だ。エリークの遭難だって一ヶ月で、かなり騒がれたのだから。

もちろん50層、60層となると数週間というのは珍しくなくなるそうだが、それは攻略に時間がかかるからであって、ただ滞在するのとは訳が違う。

「アスルは銅級の冒険者だと申し上げたはずです。しかも最近成人したばかりの」

「飛び級で銅級になった期待の星だと聞いているよ。 来訪者(ビジター) のようにね。その本来の実力は、冒険者ギルドの機能では計りきれない。そうだろう?」

「それでもです。先にも、冒険者を護衛とするには役者が不足していると申し上げたでしょう」

「私が真実求めているのは、護衛ではないんだよ」

お、おう。

ギルマスとルナリスがポンポン会話していて、俺は口を挟む隙がない。いや、話すことも別にないけども。

「君は 先導人(シーカー) だ」

ルナリスは俺を見据えて言った。無表情で、そのくせ唇だけ笑っている。

「そうでなければ、いくら強さを持っていたとしても一週間で1層から30層まで走り抜けることは出来ない」

「アスルは一週間かけて沼地を――」

「あいにく裏は取れているんだ。10層までを一日。20層までを一日半。30層までを三日で走り抜けたそうじゃないか」

えっ、怖い。

見られているもんなんだな。

情報屋って、やはりいるんだろうか。

「護衛ならこちらでいくらでも用意できる。だが、宝迷宮の 先導人(シーカー) は別だ。……君は、40層は行ったことがないと言った。行ったことのある階層なら可能なのかい?」

可能だ。

沼地でいいなら案内したっていい。いいけど、エリークは断ってほしいって言ってたんだよなあ。

「たくさんダメ」

「少人数なら可能だと?」

「アスル」

ギルマスは慌てたように止めるが、俺だって受けたいわけじゃないんだよ。

「つまらない、大変、何もすることない。命と交換になる、しない約束」

「ええと?」

困惑されてしまった。

エリーク助けて! 話が通じない!

「んんん、沼地よくない」

「……そうだね、沼地はよくないね」

そこは納得された。

あれだな、長い文を話そうとするとうまくいかないんだ。短い文で話さないといけない。

あとギルマスの敬語も、ルナリスの話し方も、普段聞いている発音と違っていて真似しづらい。どこに合わせたら変じゃないのか、わからなくて混乱する。

いつもならエリークの話し方に合わせられるし、ゆっくり話してくれるから、俺も話しやすいんだけども。

「40層、俺、行ったことない」

「うん、さっきも聞いたね」

「行ったことないとこ行ける、言えない。俺、40層行ってから話す、違う?」

すごい片言になってしまう!

「なるほど、私が急ぎすぎた。そう言いたいんだね?」

「ん」

いちばんにはそれだ。中層以降と言われても、まだ行けない俺は困ってしまう。

「つまり、行った後ならば依頼を受けてくれると?」

「急ぎすぎ」

俺がルナリスの言葉を真似て言うと、彼は楽しそうに笑った。お付きのひとたちにはめちゃくちゃ睨まれたが。

「たしかに。わかった、急がないよ。君に合わせよう。また依頼する。それでいいね」

「約束たくさん、お金たくさん。たくさんある」

「 魔術師(ロアー) を一月雇うんだ、覚悟しているよ」

「んー、うん」

依頼金いっぱい取るよ、は理解してもらえたけど、条件いっぱい出すよ、の方は理解してもらえなかった気がする。

……まあいいか。

次回依頼を受けたときまでにもう少し話せるようにしておかねばな。

※ ※ ※

【一人で作る貴族名鑑】

001 ノーブルだいちゅき♡

ノーブルな人のことをもっと知りたい♡知りたい♡

そんな好奇心だけで調べ抜いたことを記録しておくね!

こんなこと紙に書いたら殺されちゃうカモしれないぴ

個人で調べてるので、質問されても答えられない。

ゴメンネ

286 ノーブルだいちゅき♡

サフィルス迷宮公

通称、睡蓮迷宮公。

宝迷宮「睡蓮の宝玉」を保有する迷宮都市の領主。

妻が三人。息子が三人。娘がふたり。子どもは全員成人済。

詳細は不明ながら数年前から長男ソラリスが病に伏せているという噂があり、最近は姿を見せていないらしい。代わりに次男ルナリスがよく表に現れるようになった。

ルナリスは魔力が少ないことからかつては廃嫡も危ぶまれたが、王立学園を首席で卒業し、文官としての才覚を発揮したことからその身を留めている。

長男と次男は母違いの二歳違い。ルナリスと同母の三男は今年成人した。