軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは祝賀会でおばさんのアイドルになる  8

でも周囲の印象は違ったらしい。

「まあ、あのふたりはずいぶん仲がよろしいのね」

「そのようだな」

「手を繋いで、可愛いふたりね」

腕を組むより手を繋ぐほうが親密さは上……だよね。

ちょっと殿下、まずいんじゃないですか。

「……」

なにも気にしていない風を装っているけど、そこまで考えてなかったでしょ。

手を繋ぐ力がちょっと弱くなったから、放したほうがいいかなと思って私も力を緩めたら、ぐっと手を掴まれた。

なんで? 逃げないよ?

ここで急に走り出すわけがないでしょう?

「どういう関係なんでしょう?」

「大公になったら、領地に連れて行くという話もあるそうだよ」

私って人より耳がいいのかしら。

それとも、みんな遠慮しないで大きな声で話してる?

しっかり聞こえているわよ。

特別な関係じゃないですから。

この人は私を無事に馬車に乗せるまで、見失わないように捕まえておくことしか考えてないだけなんですよ。

そうだ。

「大丈夫ですよ、王弟殿下。私は迷子になったりしませんし、知らない人について行ったりしませんよ?」

「……また危ない目に遭っては困る」

「あんなことはもう起こらないですよ」

私が周りに聞こえるように話しかけたら、意図に気付いた殿下が話を合わせてくれた。

「そういえば……」

「ああ、以前のことがあって心配で……」

まったくもう。

手を繋いだりするからでしょう。

扉の前についたので、ふたり揃ってくるっと振り返り、

「シェリルは成人していないため、これで退場する」

「みなさま、お祝いしてくださってありがとうございます」

子供らしく笑顔で挨拶して、ぺこりと頭を下げたら拍手が沸き上がった。

結婚式の新郎新婦の退場を思い出しちゃったわ。

「手を放してくださいよ」

「ビヴァリーに声をかけられたそうだな」

うへ。連れ出されそうになったことを知ってたんだ。

「アレクシアに聞いたんですか?」

「アレクシア?」

違うの? じゃあ近衛騎士のほうか。

「ロイド様に聞いたんですね」

「……アレクシアにビヴァリーを追わせたのか」

「察しが良すぎます」

「誘いを断ってよかったな。中庭にはジョナスが待っていて、きみを王宮から連れ出して王都を連れまわす予定だったそうだ。それだけ一緒にいれば、きみが自分に惚れると思っていたようだ」

「うへえ」

どうせそんなことだろうとは思ったわよ。

そして私がジョナスを気に入ってついてきたとか、婚約するとか、適当なことを言う気だったんでしょ。

そんなの誰も信じなくても、何日もジョナスとふたりだけで過ごしたという事実があれば、何かあったかもしれないと他の縁談はこなくなるんだよね?

おかしくない?

それで何かあったら犯罪だよ?

私、十歳だからね?

「心配しなくても、今はふたりとも捕まえて取り調べを受けている」

「はあ。なんで私だったんでしょう。お金のためなら、もっと口説きやすそうな年齢の近い女性を狙うんじゃないですか?」

「そうだな。それか嫁ぎ先のない高位貴族の娘と結婚すれば、借金なんてすぐに返してもらえるだろうな」

今まで関係を持った女性は、もっと年齢の近い人達だったはずだからロリではないのに、よりによって一番目立つ主役の私を、祝賀会の会場から連れ出すメリットってなんなんだろう。

「殿下の問題のほうは大丈夫だったんですか?」

「ああ、無事に捕獲したので大事にはならずに済む……が、陛下がお怒りだ」

そりゃそうよ。

第一王子の行動は、陛下の決断に不満があるって言っているようなものだもの。

「大公になるのが延期になるかもしれない。誰かが手伝わなくては、王宮を抜け出すことなど子供には出来ないからな。王子たちの周りの人間を徹底的に調べなくては」

また仕事が増えちゃうのかあ。大変そうだわ。

王族派の中にも第一王子派と第二王子派に分かれているんでしょ?

まだまだいろんなことが起きそうよ。

「あ」

「どうした」

「もしかしてそっちがメインで、私のほうは王弟殿下が身動き取れないようにするために仕組まれたとか?」

「ほう、よくそこまで考えたな」

はっ、いけない。

周りに近衛がいるのを忘れていた。

いえ、王弟殿下だけしかいなかったとしても、余計なことは言わないほうがいいのに。

「まあいい。ともかく寄り道しないでまっすぐ家に帰るんだ。アレクシアがいるなら、王宮を出たら転移で帰ればいい」

そこまで警戒するほどのことではないでしょう?

ジョナスは捕まっているって言っていたじゃない。

「返事は?」

「はい」

王族で上司という上下関係を考えると、素直にお返事するしかないのよね。

疲れてるから、早く帰りたいしな。

二時間くらいしか会場にはいなかったのに、気を使いまくっていたからぐったりよ。

連絡がいっていたらしく、建物の正面にすでにうちの馬車が停まっていた。

両親とは帰る時間が違うので、馬車はいったん屋敷まで行ってまた王宮に戻ってこないといけなかったんだけど、転移で帰れと言われたので御者にとってはラッキーだね。

ドアを開けて顔を見せたアレクシアは、私が近衛に囲まれて王弟殿下に手を掴まれているのを見て、そのまま馬車の中に戻ってしまった。

挨拶くらいはしなさいよ。

「いちおうは無事に終わってよかった。転移だから大丈夫だとは思うが気をつけて帰れよ」

「はい」

「アレクシアはシェリルを送り届けたら戻ってくるんだぞ」

「ええ!?」

王弟殿下の声が聞こえたので、さすがに無視は出来なくて再びアレクシアが扉から顔を覗かせた。

出てこなくていいの?

不敬罪で捕まるわよ?

「レイフをひとりにする気か。それにこういう場で顔を繋いでおくべきだろう」

「……はい」

正論ではあるんだけどさ、融通が利かないなあ。

子供じゃないんだから、帰るかどうかはアレクシアが決めればいいのに。

「送ってくださってありがとうございました」

王弟殿下に一礼して、近衛の方々にも会釈してから馬車に向かった。

「シェリル」

「はい?」

馬車の段差って注意しないと落ちそうな怖さがあるんだから、乗ってる途中に声をかけないでよ。

返事だけして、しっかり馬車の中に入ってから振り返った。

「慌ただしくて悪かった」

「いいえ。いつもお世話になっている方々の奥様達とお話しできて楽しかったです。今度食事会をするんですよ」

「……また保護者が増えるのか」

「失礼します」

ぶつぶつと何か言っていたけどまあいいでしょう。

それより私は疲れているのよ。

馬車のドアを閉めて椅子に腰を下ろして、靴を脱いで向かいの座席に足を乗せ、ずるずると体を沈めてしまった。

ようやく他人の目を気にしないで済むわ。

「お疲れ様」

「私はもう帰るからいいけど、アレクシアは会場に戻るんでしょ?」

「そのようね。だからさっさと報告するわ。あの男、あなたの手にさわろうとしたでしょ?」

「うん」

「あの時に手の甲にキスしながら、あとで中庭に来てくれって書いて小さく折りたたんだ紙を渡そうとしたんだって」

「あほなの?」

子供相手にそんな手が通用するわけがないでしょう。

「ビヴァリーもそう言っていたわ。子供相手に大人と同じ口説き方をすればいいと思っている馬鹿に、あの子を連れてこられなかったからって文句を言われたくないって。自分は王弟殿下にくっついているあの子にムカついただけだから、もう協力しないって」

「邪魔だからって誘拐の協力をするってひどくない? あのふたりは前からの知り合いだったのよね」

「そうみたいよ。ジョナスは学園に五年もいたから、接点はあるわよ。ふたりともパリピっぽいし」

「パリピ?」

「あ、知らない言葉だった?」

「知っているわよ」

貴族はだいたい三年で卒業する学園に五年いたって、勉強しないで遊んでいたんでしょ。

そのうえ女性問題を起こして賠償金で家が没落しそうになっているなんて、親不孝者め。

その夜は祖父母も屋敷に来て家でお祝いをしてくれたので、その時にアレクシアから聞いたことを報告し、次の日には王弟殿下から報告を受けた大伯父様夫妻とも話をした結果、こちらとしては王宮側の処分に異議を唱える気はないという結論になった。

だって誘い方があまりにあほらしいでしょ?

十歳の子供にどこぞの奥様に不倫の誘いをするようなやり方をしたのよ?

「もし手渡されていたら、何か渡されましたって両親か王弟殿下にその場で見せてましたよ」

という私の台詞と一緒に、全員が脱力していたわ。

それに私は以前、誘拐されかけた経験があるんだから、そんな誘いに乗るわけがないのよ。

「王族が主催した祝賀会で王弟殿下がエスコートしていた少女をさらおうとしたんだ。我々が何も言わなくても、重い処罰が下されるだろう」

という大伯父様の考えのとおり、ジョナスは王宮の牢獄住まいになっている。

いっさい表に出てこないけど、第一王子がゴールディングに会いに行こうとしたこととの関連性も調べられているんだろうな。

それに今回のことでジョナスはすっかり笑い者になってしまった。

顔がよくてもそんなアホとは付き合いたくないって女性たちに相手にされなくなったんですって。

社会的制裁ってやつね。

ビヴァリーは一週間ほどで釈放されたそうだけど、王宮だけではなく王都への立ち入りも禁止されてしまったので領地に帰り、友人たちにも背を向けられてひとりで寂しく生活しているそうだ。

両親が後妻でもいいからと縁談を探しているみたいだから、無理矢理どこかに嫁がされるのかもしれない。

私のほうは奥様方とのギルモアでの食事会を行ったり、お茶会に招待されたりと忙しいけど平穏な日々を送っている。

お茶会の席に子供を連れてくる人もいて、歳の近い知り合いも増えたのよ。

そして祝賀会からひと月ほど経った頃、ジョナスの父親であるピアソン伯爵が自殺したとの知らせが入った。

当初は借金苦と息子の起こした騒ぎのせいで、更に経営が厳しくなったせいだと思われていたんだけど、ジョナスの証言でまた騒ぎが大きくなったの。

「父は殺されたんです。祝賀会でアッシュフィールド準男爵を誘い出そうとしたのは、成功したら借金を肩代わりすると言われて、父が私に指示したんです。そうじゃなかったら子供を誘うわけがないでしょう。父に絶対に話すなと言われていたから黙っていたのに殺されるなんて……」

まさか指示を出した第三者が存在していたなんて。

「殺人までするなんて信じられない」

「そういう世界なんだよ」

職場でピアソン伯爵の死を聞かされた私に、王弟殿下は平然とした顔で言った。

なれている様子からして、今までもこういうことがあったのかもしれない。

「私かクロウリー子爵家への恨みか、王弟殿下を足止めして第一王子を連れ出すためか、どっちかですよね」

「そんなことはきみが考えなくてもいい。一番気にしなくてはいけないのはきみの身の安全だ」

「警備は厳重過ぎるほどなので大丈夫です」

私より、王弟殿下のほうが心配よ。

次から次へと問題が起こるせいで、最近はいつもお疲れモードなんだから。

和食のお弁当でも作って差し入れしようかしら。