軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは祝賀会でおばさんのアイドルになる  7

「待ってください。相手は成人したばかりの御令嬢方ですよ?」

大伯母様やロゼッタ様までそんな過保護にしないで。

本人はその気がないのに、親に命令されて友人になってくれる相手なんていらないわ。

これから先もギルモアに気を使って本音でなんて話をしてくれないでしょ?

「五歳も年下なのに大人とばかり話をして王宮で働いて、爵位まで持っている子供との接し方に迷うのは当然です。それに今日は王弟殿下が横にいて、問題が起こらないように目を光らせていたんですから、話しかけられなくても仕方ありませんわ」

私のせいで女の子たちの親まで立場が悪くなるなんて駄目よ。

「それは、確かにそうね」

大伯母様がはっとしたように扇を膝に置き、頬に手を当ててため息をついた。

「王宮に来る機会の少ないお嬢さんもいるでしょうし……女の子だけのお茶会をするべきだわね」

「そうですね。シェリルは子供らしさが全くないんですもの。お嬢さんたちもそれは感じていたはずですわ」

大伯母様とロゼッタ様の怒りが解けたので、青くなっていた奥様方はほっとして私に感謝のまなざしを向けてきた。

こちらこそ保護者が無茶を言ってすみません。

普段はもっと分別のあるふたりなんですよ?

「男の子たちに話しかけられてもまったく相手にしていなかったでしょ? あなた、本当におかしいわよ」

「実は八十歳ですから。……九十歳でしたっけ?」

「どっちでもいいわよ。そんな勢いで歳をとって、何歳まで行く気なのよ」

「大丈夫です。次は七十八歳に若返ります」

「なんで若返る時は二歳ずつなの」

ロゼッタ様はボケにちゃんと返してくれるのがやさしいなあ。

お友達と話をする楽しさって、こういうのだと思うのよ。

ロゼッタ様をお友達なんて恐れ多くて言えないけど。

「まあ、仲良しなのね」

くすくすと笑い声が聞こえて、ロゼッタ様は周りに人がいたことにはっと気付いたようで顔を赤らめながらそちらを睨んだ。

「よかった。あなた本当に楽しそう」

「ひさしぶりに会ったら若返って綺麗になっていたから、きっと問題が解決したおかげかなと思っていたけど、ギルモアの方々といい関係を築けたのね」

「子供に付き合ってあげているだけよ」

おふたりは結婚する前からのお友達かしら。

ロゼッタ様に睨まれても気にしないで、嬉しそうに笑っている。

「私より、イールとの親子の会話が聞いていて楽しいんですよ」

「シェリル」

「だって仲良しじゃないですか」

「さっきちらっとお話ししたのよ。とてもいい子ね」

ほんわかとした雰囲気になったところで、私の前にスイーツのお皿とジュースが置かれた。

誰かが頼んでくれたみたい。

「わあ、ちょうど喉が渇いていたんです。ありがとうございます」

「夫から話は何度も聞いていましたけど、想像よりもずっと可愛くて、それに大人びていて驚きましたわ」

「キリンガム公爵夫人、いつも財務大臣には厳しくご指導いただいてお世話になっています」

「あら、あの人厳しいの?」

「はい。お仕事の時は」

「私にはべた褒めなのに。大人と同じように接しているということね。それでね、私、マガリッジ料理が気になっていたのよ。ギルモア侯爵家の方々は食べたことがあるのでしょう?」

「もちろんですわ。珍しい食材もあって美味しいんですよ」

「羨ましいわ」

「私も気になっていましたわ。新しいソースが美味しいんだそうですね」

なんで接点がなかったのにトールマン公爵夫人まで知っているの?

いやそれよりここ、ギルモア以外の奥様方もいるのね。しかも、身分の高い奥様方ばかりだわ。

来る場所を間違えたかもしれない。

「バリーソースのことでしょうか。バリークレアはキノコの種類が豊富なので、キノコと様々な香辛料を合わせたソースを作ったんです。マガリッジ風料理にそのソースがよく合うので、今ではあの地方の人達はバリーソースをどの家庭でも使っているんです」

「この子は暗記力がいいから、ほとんどの香辛料の味を覚えて自分で調合してしまうのよ」

大伯母様の言葉に驚きと感嘆の声が上がった。

「新しいスイーツまで作ったのよね?」

「はい。私の誕生日会には新しいスイーツをいくつか用意しますので、ぜひ食べて感想をお聞かせください」

「まあ、天才なだけではなくスイーツまで?」

「こんなに可愛くて頭もよくて。これは今後、殿方が放っておきませんわね」

うわー、おば様方に一気に褒められてしまっている。

こういう時、子供はどんな顔をすればいいの?

旦那さんたちには何度もお会いしていて慣れているんだけど、奥様方は初対面の人も多いせいで実はけっこう緊張しているの。

「あら、照れてるの?」

「ロゼッタ様、意地悪です」

「うふふ、真っ赤になっているわよ」

「もう、やめてください」

可愛いって声が更に周りから飛んできて、恥ずかしくなって両手で顔を隠した。

色男にしらじらしく褒められるより、こういう時のほうが反応に困るわ。

「誕生日会はたしか親戚を中心に招待するのよね?」

それはそうよ。

子爵家の子供の誕生日会に公爵夫人は招待しないわよ。

でもこれは、料理が食べたいって話よね?

何か機会を作らないとまずいんじゃない?

「あの、ギルモアで女性だけのお食事会とか……あの……」

待って。忙しいのに自分で自分の首を絞めている気がする。

でもここで公爵夫人を無視は出来ないわ。

「あら、それは素敵ね」

「シェリルがそういうのなら、私が主催しましょうか」

「ギルモア侯爵夫人主催なら、私もぜひ参加したいわ」

公爵夫人と侯爵夫人が集う食事会に参加か……。

厨房にずっといて、テーブルに顔を出さないでいいよって言ってくれないかしら。

「鉛筆の話も聞きたかったのよ? 可愛いデザインの鉛筆は、限定販売ばかりで手に入れるのが大変なの」

「今度は消しジールの種類が増えるんです。香り付きで鉛筆とセットのデザインのカバーが出ます」

「あら、素敵。予約できるの?」

「娘がほしがっていたのよ」

「お誕生日会では記念品としてご用意する予定です」

「まあ、楽しみだわ」

「ねえねえ、自分でデザインした絵柄で作ってもらえると聞いたのだけど」

なぜか商品説明会になってきたわ。

話題を探さなくて済むのだから喜ぶべき?

「シェリル、王弟殿下が戻ってきたわよ」

奥様方と盛り上がっていたら、ロゼッタ様に肩を叩かれた。

でも、座っているとソファーの背もたれに視界が遮られて周りが見えないのよ。

「あ、そろそろ帰らないといけない時間です」

立ち上がってもどこに王弟殿下がいるかわからないんですけど。

「あら、もう?」

「はい。成人していないので先に退場しないといけないんだそうです」

「残念だわ。もっといろいろ聞きたいのに」

「今度お茶会に招待させてね」

「私も。ゆっくりお話ししたいわ」

わーい。おばさまのお友達が増えたよー。

お茶会に招待してもらえるよー。

……やばい。勉強と仕事で忙しいのに、スケジュール大丈夫?

「ここにいたのか」

あ、王弟殿下のほうが私を見つけてきてくれた。

話しかけてほしそうに遠巻きに人が集まっているのに、殿下は全く無視して近寄るなオーラをまとっている。

あの雰囲気を身につけるにはどうしたらいいの?

「まあ、王弟殿下。エスコートの途中でいなくなってしまっては困りますわ」

「すまない。ちょっとした問題が起きてな。もう解決したのだが、行かないわけにはいかなくなってしまって」

大伯母様に注意されて、王弟殿下は申し訳なさそうに謝った。

「お忙しいでしょうから仕方ありませんけど、シェリルは変な娘に声をかけられてましたわよ」

「ああ、近衛に聞いた。それもあって戻ってきたんだ。帰る前に少し話を聞かせてくれ」

「まさか何かあるんですか?」

「今はシェリルはあまり時間がないから、細かいことはまた後ほど」

大伯母様とロゼッタ様にぐいぐい質問されて、高位貴族の奥様方に注目されるというのは、王弟殿下にとってもやりにくい状況なんだろうな。

ちらちらとこちらに助けを求める視線を送ってきている。

「では私は失礼しますね。とても楽しい時間でした。ありがとうございます」

何があったのかと興味津々なおば様方に一礼して、またねと手を振ってくれた方には笑顔で手を振り返したら、またかわいいー! と黄色い声で言われてしまった。

もしかして私、おば様方に大人気?

「ふたりが並ぶと美男美女でお似合いね」

「あら、年齢差が」

「王弟殿下はまだ十六歳よ」

「え!?」

背後から聞こえてくる声に笑い出しそうになってしまった。

私は中身が老けていて、王弟殿下は見た目が老けているのよね。

あ、中身もおじさんだっけ?

「なんであんなに気に入られたんだよ」

「さあ?」

むしろ私が聞きたいわ。

スイーツの力かしら。

「時間だから、シェリルを馬車まで送って行くぞ」

たくさんの人に囲まれていても王弟殿下は遠慮する必要がないし、相手が避けてくれるから両親に声をかけるのにとても便利だわ。

「おお、もうそんな時間でしたか。シェリル、すまないね。まったくそばにいられなかった」

「彼女は高位貴族の夫人たちに囲まれて、楽しく話が出来たようだから大丈夫だ」

「高位貴族の夫人?」

十歳の娘にお友達が出来ればと期待していたのに、よりによって高位貴族の御婦人方と仲良くなるってどういうことなんだと、お父様が言いたいのはわかる。

とんでもなく複雑な顔つきをしていて、笑えばいいのか悩めばいいのか迷っていそう。

でも大丈夫よ。

商会の仕事にもプラスになるし、社交界でのうちの立場もよくなるはずよ。

「そう……ですか」

「はあ」

お母様なんて深いため息をついているわ。

どうしよう。公爵夫人と食事会の約束をしたなんて言えない空気よ。

「ともかく彼女は大丈夫だから、安心してくれ」

お父様の肩を労わるように軽く叩いて、王弟陛下は私の手を取って歩き出した。

手を繋ぐのはエスコートではないと思うのよ。

子供を迷子にしないようにしているみたいじゃない。