軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは運命を変える?  7

なにも被害に遭っていないのに助けてくれちゃった人たちと馬車に乗って、王弟殿下の執務室前の出入り口に到着した。

他の人達は顔パスだったり身分証を提出したりしてどんどん建物内に入っていくけど、あいにくこの国の大人は身長が高い人が多いから、私の身長では窓口に頭の先しか届かない。

「おはようございます!」

棚に掴まりながらつま先立ちすれば、目から上は窓口の人に確認してもらえるから、身分証を高く掲げて挨拶した。

「おはよう。今日も元気だね」

振り返らなくても、この場にいる全員がほほえましく私を見守っているのはわかっている。

でもこれもきっと一年もすれば変わるんだから。

十歳女子は身長伸び盛り。アレクシアと肩を並べる日ももうすぐよ。

それにしてもこの国の人は、本当に身長が高い。

前世でも北欧はこんな感じだったんだろうけど、東洋人だった私は家具の高さにびっくりした。

それと窓口の開放部の小ささにもびっくりする。

誰かが攻撃しようとしても中の人を守れる大きさなのは、普段から武器を携帯している人が当たり前にいる世界ならではね。

窓もおしゃれに格子が入っているのは、ガラスを割ればすぐに部屋に侵入出来ては危ないからだって聞いたわ。

警護がいないと令嬢が外出できない世界って、よく考えたらそれだけ危険だってことよ。

先に行ってくれてかまわないのに、馬車で一緒になった人たちまで私のペースで歩いて執務室に向かう。

扉を開けて中に入ると、いっせいに中にいた人がこちらを注目した。

「おはよう。シェリル嬢。いや、準男爵と呼ぶべきかな」

「おはよう。そしておめでとう」

「おはようございます。もうみなさんご存知なんですか?」

王弟殿下やレイフ様が説明してくれたのかな。

不満に思っているって顔に出している人がいないみたいで、ほっとした。

「ワディンガム公爵令嬢が応接室にいらしているよ」

「はい。王弟殿下にご挨拶してから向かいます」

「彼女はいくつ? きみは八歳だから」

「私、十歳です」

入り口近くの椅子に座っていたおっとりした眼鏡の事務官に、思わず勢いよく言い返してしまった。

「ええ!? もう十歳!?」

「そうですよ。ここで働くようになってから一年以上経っているんですよ」

「そんなに経つんだっけ!?」

「そうか。早いなあ」

「十歳にしては……小さい?」

最後の人の台詞は無視。

私にとっては記憶を取り戻してから怒涛の展開続きで、かなり王宮で長く働いている気分だったから、大人の人達と感覚に違いがあるのね。

そうか。中身はオバサンでもちゃんと子供の感覚になっているのね。

いえ、正確に言うと中身はオバサンと少女の合体生物だったわ。

「私、身長低いですか?」

やっぱり、いちおう無視しておいた台詞も拾っておこう。

身長なんてどうでもいいんだけども。

「どうなんだろう。うちの子も十歳の頃はそのくらいだった気もするなあ」

「子供って手足が長くて小鹿みたいだよね」

「それが可愛いんだ」

まともな答えが返ってこないじゃない。

可愛いかどうかは、身長よりどうでもいいのよ。

「アレクシア嬢が大人っぽいし背が高いから、並んでいると小さく見えるんじゃないかな」

「うふ」

アレクシアめ、笑ったわね。

十六歳になって急激に大人びて、身長も伸びてスタイルも抜群で、でも可愛い服装と気さくな性格で若い男性からの人気急上昇らしいのよ。

中身の年齢差のせいでいつも私がお姉さんポジにいるから、アレクシアのほうが大人っぽいと言われると嬉しいみたい。

「朝から大変だったんだって?」

奥の殿下の部屋からレイフ様と近衛騎士団第四部隊隊長が出てきた。

たしか、オーモンド伯爵だ。

アーモンドみたいだって思った記憶があるわ。

ということは、もうイールのことが報告されたってこと?

私は馬車の出発を待った分、タイムロスがあったとしても早すぎない?

「殿下、シェリルが到着しましたよ」

「馬車乗り場に騎士をひとり待機させましょうか」

何を言い出すのよ、このアーモンドおじさん。

「大丈夫です。今日も何もなかったんですよ。親戚が声をかけてきただけだったんです」

「確かに騎士がいてくれると安心ですね」

無視? 私の意見はスルー?

「レイフ様、やめてください。そんな特別扱いをしていただかなくてはいけないのなら、ここで働く資格がないじゃないですか」

え? なんでみんな驚いた顔をしてこっちを注目しているの?

だっておかしいでしょう? ただの事務員なのよ。

相談役がいるだけでもおかしいのに、騎士の護衛付きで通勤なんて苦情が出るわ。

「そもそもそんな仕事を押し付けられる騎士が気の毒です」

「楽しいんじゃないかな?」

レイフ様ってもう少し常識のある人だと思っていたんだけど。

「何を騒いでいるんだ」

今日もラスボス殿下は見目麗しくて目の保養になるわ。

金髪がつやつやで後光がさしているみたいよ。

「謁見の件で説明したいことがある。ローズマリーも来ているから、応接室に行くぞ」

「はい」

「殿下、このお嬢さん、いまだに自分の価値が理解できていませんよ」

「警護はアレクシアがいれば充分だ」

「そうでしょうか」

わかった。アーモンドおじさんにはお嬢さんがいるんでしょ。私と年齢が近いんでしょ。

それで心配しているのね。

「アレクシア、護衛のために必要な時は王宮内での魔法の使用を許可する。周囲への被害は最小限にしろよ」

「はい」

「ひえええ。そんな許可出さないでください!」

ちょっと誰か止めてよ。

殿下までなんなの?

「騎士の護衛のほうがいいか?」

「……いえ」

私も魔法を習得しているから、いざとなったらなんとでもなるもの。

アレクシアも羨む成長速度よ。

防御魔法だけを覚えるつもりだったけど、魔法ってね、攻撃魔法のほうが簡単なのよ。

あらゆる攻撃から自分や周りを守るって大変よ。

でも私は人を傷つけるのはためらってしまうと思うので、しっかり防御魔法もマスターするわよ。

「……もしかして私って、結構危険な状態なんですか?」

「……今更か」

「ええええええ」

どこかで恨みを買ってた?

やっぱり十歳で準男爵なんて生意気だってこと?

「おまえの頭脳を欲しがるやつは大勢いるんだ。そろばんと鉛筆は他国でも知られてきている。そこにあの会議だ。拉致されては困るだろう」

いやいやいや。転生者全員、あのくらいは出来るんですよ。しないだけで。

それに職人とギルバートが頑張ってくれたおかげで商品が出来たんであって、私だけじゃ何も出来なかったのよ。

なんてことは、少女をさらって働かせて稼ごうなんて考える人には関係ないわね。

もしかして私が王弟殿下の部下だってことも問題だったり?

でも陛下に気に入られて……ああ、あのお言葉も私を囲うためだけじゃなくて、王宮内の権力争いに巻き込まないためだったのかもしれない。

「ところで、一昨日の会議ではやってくれたなあ」

「ああああ、大変申し訳ありませんでした!」

そうだ。謝らなくちゃって思っていたのよ。

「落ち着け。頭をあげろ。俺が虐めているみたいに見えるだろう」

「まさか折れ線グラフを、今まで誰も使っていなかったなんて思わなかったんです」

「話を聞け」

聞いているけど、申し訳なくて殿下の顔を見られないわよ。

……さっきは目の保養だなんて、アホなことを考えてすみませんでした。

「会議の報告書の作成なんて、俺もレイフもしないからな」

ですよね。

報告を聞くほうですもんね。

「そのせいで準男爵だなんて、本当に申し訳なくて」

「おまえもクロウリー男爵も、あまり嬉しそうではなかったとレイフに聞いている。まあ、浮かれるよりは慎重なのはいいことだ。ほら、会議室に行くぞ」

「はい」

事前に相談くらいしろってもっと怒られるかと思ったけど、意外にもあっさりしていたわ。

私のほうもいろいろありすぎて、まだ頭の整理が出来ていなかったから、殿下のほうも忙しくてそれどころじゃないのかもしれないわ。

「おはよう」

応接室のソファーにちょこんと座っているローズマリー様は、今日も一段と可愛かった。

ライラック色のドレスは紫色の小さなリボンが袖口や襟についていて、ボリュームアップパニエで広がったスカートは動くとレースがひらひら揺れる。

私やアレクシアは仕事用に黒い服を選んでいるので、同じような服を着ていても華やかさが違うわ。

「おはようございます。先程ジョシュア様にお会いしましたよ。王女様に鉛筆を届けに行かれるんだとか」

「そうよ。あなた忘れていたでしょ」

「はい。王妃様の分もありますか」

「あるわよ。殿下にはあげたの?」

いつものようにローズマリー様の横に腰を下ろす。

応接室には転生者仲間しかいないので、遠慮なく殿下より先に座ってしまった。

テーブルを挟んで向かいの席に殿下が座り、レイフ様が私の左側の椅子に座った。

でもアレクシアは立ったまま。ドアの傍から動こうとしない。

「アレクシアも座ったら?」

「気にしないで。自分の役目を果たすだけだから。ここでも会話には参加できるわ」

「でも」

ジョシュア様が使っていたのと同じ、部屋の外に会話が聞こえないようにする魔法が使われた感覚がした。

アレクシアは魔法を使って、更にドア近くで外の気配を探っているんだ。

「誰かが会話を聞こうとしている?」

「具体的に誰がというわけではない。だが、ワディンガム公爵家の令嬢と俺達が会合して、その後ローズマリーは王女とも会う。余計な勘繰りをするやつも出るかもしれない」

「実際は私のデザインした鉛筆を渡すだけなのにね」

ローズマリー様は肩をすくめて言ったけど、今まではここまで警戒していなかったわよね。

私が準男爵になることになって、一気に警戒度合いが高まった気がするわ。

「時間がもったいない。話を進めよう。昨日夕刻、ギルモア侯爵が登城し法務局でいろいろな手続きを行った。その件についてシェリルは知っているのか?」

殿下にじっと見つめられて、私は視線を合わせられずに下を向いた。

どこまでなら話しても問題ない?

いえ、下手なことを言うよりは何も話さないほうがいいのでは?

身内の大事な人たちの問題を、他所で話したりできないわよ。

でも相手は王族で、いろいろとお世話になっている王弟殿下よ

ここで嘘はつきたくないわ。

「あの……私は……話さなくてはいけないでしょうか」

「え?」

殿下は目を瞬かせ、背凭れから身を起こした。

「待て待て、誤解するな。何が起きたのかギルモア侯爵から必要な話は聞いている。俺たちがきみから話を聞こうとしたら、きっときみは苦しい立場になるだろう。そうならないようにギルモア侯爵が先に話しに来てくれたんだ」

「あ……」

ギルモア侯爵は、いえ、ベネディクト大伯父様は私を信じて、心配して、息子の不祥事を王族に話すのはつらいだろうに、先手を打って報告してくれていたんだ。

「俺が聞きたかったのは、シェリルがちゃんと事情を知っているのかということと、クロウリー男爵家に影響はありそうなのかということだ」

「事情は知っていますし、うちは大丈夫です」

「ならいい」

やだもう、なんでみんなこんなにやさしいの?

年をとると涙腺が弱くなるんだからやめてよね。うるうるしちゃうじゃない。

それに、殿下が私から情報を聞き出そうとしているんじゃないかって一瞬でも疑ったことが恥ずかしくて、きっと顔が真っ赤になっている。

両手で顔を覆って見えないようにして、どうにか心を落ち着かせようとしていたら、

「シェリル? 泣いているの?」

「え!? 殿下、シェリルを泣かせたの?」

ローズマリー様とアレクシアが心配して傍に来てくれた。

ふたりとも話を聞いていたでしょう。何を言っているのよ。

「違うの。大伯父様と殿下の思い遣りに感動していたの」

手を少しだけ下げて目だけ出して、正面に座る殿下を見たら今度はしっかり目が合った。

「なんで真っ赤になっているんだ?」

駄目だ、この男は。そこは気付かない振りをしなさいよ。

感動が半減したわよ。