軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは運命を変える?  1

お世話になっている方々に知らせた結果、謁見当日まで私の予定はすべて埋まってしまった。

明日にはもうギルモア侯爵家に報告に行って、その後ドレスを作るためにお店に行くでしょ?

次の日は王宮で仕事をして、その次の日はローズマリー様とお勉強会だ。

彼女にもちゃんと報告したいから、忙しくてもキャンセルは出来ないわ。

その後もドレスを受け取りに行ったり、謁見の時の手順を礼儀作法の先生に教わったり、もちろんフェネリー伯爵家への報告も行かなくちゃいけない。

謁見の後も目の前でどんどん予定が埋まっていくので、アレクシアが侍女じゃなくて秘書になってきた。

でもそのほうがいいわね。

秘書兼護衛のほうがいろんな場所に一緒に行けるんじゃない?

有能な彼女には、もっと給料をあげないといけないわ。

考えなくちゃいけないことはたくさんあるけど、私はもう十歳の体に無茶はさせないと決めたの。

子供って楽しいとまだ平気って思っちゃうのよ。

でもそれを親が止めて寝させるから、健康に遊べるのよね。

私は中身が大人なんだから、自分でしっかりしないと。

ベッドにはいったら何も考えないうちに一瞬で爆睡して、ぐっすり眠って起こされる。

眠りが深いから起きるのはちょっと大変だけど、起きてしまえば元気いっぱいよ。

今日はギルモア侯爵家に行くんだから、気合を入れないとね。

「セリーナも連れてきてもよかったんじゃないですか?」

ギルモア侯爵家に向かう馬車の中で、ギルバートが言い出した。

彼が七歳の時には、もう領地に行って職人と仕事の話をしていたから、確かにひとりでお留守番はかわいそうな気がするわ。

「今日はギルモアの直系が集まって話し合いをしているんだそうだ。それで全員いるから報告にちょうどいいとは言われたんだが、揉めているようなんだよ」

最近のギルモアは揉めてばかりいるそうよ。

大伯父様がしっかり一族を束ねているから揺らいだりはしないだろうけど、その下の代からは不安が山積みみたい。

「それにあそこは……」

お母様が言い淀んでちらりとお父様を見た。

「今日もいるのかね」

「いると思うわ」

「誰が?」

そんな態度だと気になるじゃない。

なになになに?

「ギルモア侯爵家の玄関ホールに、大きな暖炉があるでしょ? そこに十人くらいは座れるソファーセットがあるじゃない」

「はい。ありますね」

「あそこにご老人方が毎日集まっているの」

ご老人?

「どこのご老人ですか?」

「侯爵夫人のお友達や古くからギルモアに仕えている家のご老人ね」

侯爵夫人のお友達なら、まだ五十代なんじゃないの?

ご老人って言わないであげてよー。

「何を言われても気にしないで通り過ぎればいいのよ」

「アマンダ、侯爵に相談したほうがいいよ」

「でもお世話になっているのに、これ以上ご迷惑をかけられないわ」

むむっ。

もしかしてお母様に何かしてくるの?

それは許さないわよ。

「セリーナを連れてこられないくらいにひどいことを言うんですか?」

さすが男の子。

ギルバートのほうが私よりも、母を守ろうとする気持ちは強いみたい。

前のめりになって聞いているわ。

「どうかしら。男性がいる時は、それほどでもないかもしれないわ」

はいはい。

そういう人たちって、たいてい女を攻撃するのよね。

男は本気で怒らせたら怖いと思っているんでしょう。

でも女だってしたたかに戦えるんだから。

心の中で拳を握りしめて意気込んでいるうちに、馬車はギルモア侯爵家に到着した。

私はこの屋敷に来るのはまだ二度目なの。

一度目は私たちのお披露目のパーティーに参加する時だったので、玄関ホールには大勢のお客様が詰めかけていた。

普段の屋敷は当たり前だけど静かな佇まいで、お母様の話を聞いた後だと、ホラーゲームの舞台のような雰囲気に見えてくるわ。

黒いドレスを着てくればもっとそれらしく見えたかもしれないのに残念。

大人びて見えるように渋い青色のドレスにはしたんだけど、このドレスを選ぶのも大変だったのよ。もっとかわいいドレスがたくさんあるのにって侍女たちががっかりしてたわ。

「あら? 馬車が来たわよ」

「あの紋章はひいお爺様たちじゃないかな」

玄関に歩き出してすぐに、門のほうから一台の馬車が近付いてきた。

ギルバートの言う通り、窓からちらっとひいお爺様がこちらを見ているのを発見した。

家族が集まって話し合いをするって言っていたのに、ひいお爺様とひいお婆様は参加していなかったのね。

「行くわよ」

「あ、はい」

両親が歩き出したので慌てて後を追って玄関を入り、話に聞いていた暖炉のほうに目を向けた。

あれだけ大勢の人がいたから広い場所だなとは思っていたけど、誰もいなくてがらんとしている玄関ホールは思っていたよりもっと広かった。

暖炉もソファーセットも大きいのに、ホールが広すぎるせいでこじんまりしているように見える。

ああ、あれか。確かに七人のご老人が何か話しているわ。

雰囲気としては、前世で伝染病が問題になる前の病院の待合室よ。

いつも決まった顔ぶれが揃って、そこで知り合いを見つけて話し込んでいる感じがそっくりだわ。

暇なんだろうな。

違うのは、彼らはめいっぱい着飾っているってことくらい。

高そうな服に重そうな宝石のついたアクセサリーをこれでもかとつけている。

私のドレスと同じような色の服を着ている人がいるってことは、この色は年配の御婦人向きってこと?

いやでもほら、私はふわりと膨らんだ膝丈のドレスでお揃いの色の靴が可愛いのよ。

レースだって……レースはあの人のドレスにもついているわね。

これって大人びて見える以前に、私のセンスが疑われてしまうんじゃない?

「あ、こっちに気付いた」

思わず呟いてしまった。

そして笑ってしまった。

七人とも、振り返った顔が性格の悪そうな雰囲気なんだもの。

今日のいけにえが来たから、どうやって虐めてやろうかって考えているのか楽しそうだわ。

前世の私は事なかれ主義というか、多くの日本人と同じで面倒ごとは避けて通っていた。

突然、初対面の相手に刺される事件もあるんだから、それも防衛手段ではあるわ。

でも転生した私はどうやら感情を押さえられないんじゃなくて、こういう時にうずうずしてしまう厄介な性格らしい。

駄目よ。今日はおとなしくするの。

昨日のような馬鹿なことはしないのよ。

「ギルバート、ちょっとたのまれてくれる?」

「なに?」

「ひいお爺様のところに行って、しばらく隠れて話を聞いてもらってほしいの」

「それはいいね」

まあいやだわ。

ギルバートまであそこの御老人たちのような悪い顔になっているわよ。

あ、たぶん私もね。

「シェリル、それはいい考えだ」

お父様にも褒められてしまった。

自分で戦えない時は、強い人にお願いするのが正しい行動よ。

ひいお爺様は私たち家族の保護者なんだし、このご老人たちの本性を知ってもらったほうがギルモアのためにもなるはず。

「でしょう? じゃあ、いつも通りにいじめてもらいましょう」

「アマンダ、演技は得意だろう?」

「まかせて。さっきまで暗い気持ちだったのに、今ではわくわくしているわ」

よかった。

お母様の顔色が悪いから心配していたのよ。

三人で顔を見合わせて頷き合って、何もなかったような平然とした様子で玄関ロビーを進んでいく。

母が少しだけ怯えた表情をしているのは演技よね。

ソファーセットは、端のほうにあるくせに奥の廊下に進みたい時には横を通らなくてはいけない絶妙な場所にあった。

それでここにいる人たちが関所みたいに通行人を捕まえるのね。

彼らはうちより身分が上よね?

だからうちから声をかけるのは失礼にあたるので、お父様とお母様は会釈だけして彼らの横を通り抜けようとした。

「あら、クロウリー男爵家のみなさん、ごきげんよう」

「まあ、お揃いで。最近よく見かけますわねえ」

「そんなにたびたび押しかけられては、侯爵夫妻のご迷惑じゃないのか?」

おお、これはすごいわ。

ここまでストレートに文句を言ってくるとは思わなかった。

それに、侯爵夫人のお友達の割には、全員本当にご老人じゃない?

友情に年齢は関係ないけど、もし侯爵夫人と同年代だとしたら老けすぎよ。

不摂生な生活をしているんでしょ。

「みなさんは旦那様がご招待したので、本日いらしていただいてます」

私たちを案内してくれている人は侯爵の執事さんよ。

従者じゃなくて執事さんが迎えてくれるってだけでも、うちの両親が特別扱いだってわかるでしょう。

「だとしても侯爵に甘えすぎだろう」

執事の言葉に苛ついたのか、神経質そうな老人が苛立った声で言った。

「いくら認められたとはいえ、駆け落ちした娘の家族のくせによく顔を出せるもんだ」

うは。ギルモアの人間じゃない人がそんなことを言っちゃうんだ。

ほら、向こうにいた従者が慌てて駆け出して行ったわよ。

「あなた、クロウリー男爵夫人は侯爵の姪御さんですから、そんなことを言っては駄目ですよ。でも嫁いだらもう夫の家の人間。男爵風情が侯爵に馴れ馴れしいのはいかがなものかしら」

「では、あなたは?」

「え?」

まさかお母様が言い返すとは思わなかったのか、銀色の髪の青いドレスの女性はきょとんとした顔になった。

この人とドレスの色が似ているのよ。

今後はもっと明るい色を着るわ。

「嫁いでも私がギルモアの血を引いている人間だということは変わりません。その私を侮辱するあなたは、ギルモアの血縁でしたかしら。まさか親戚でもない人がギルモアのことに口出しなさるおつもりですか?」

「な、何を言っているの!」

逆上した御老人は叫びながら立ち上がった。

「私は侯爵夫人とは昔から大変親しくしているのよ。男爵風情がえらそうに!」

「子爵です。うちは子爵家になりました」

けど、お父様が横からにこやかに言いだしたせいで、一瞬黙り込んだ。

さすがに彼らは、功績を認められて男爵から子爵になることの大変さをわかっているわよね。

「な、なんですって」

「それはめでたいね、娘さんの功績のおかげで子爵になれたのか。親孝行な娘をもって幸せだな」

あのジジイ、髭をむしってやろうかしら。

でもここは我慢よ。

ひいお爺様が聞いているんだから、もっと言って。

「そうなんです。娘がこんなに立派に育ってくれて、親としては鼻が高いですよ」

「だが本来は娘さんが認められるべき話だろう? その功績を掠めとるなんて親としては……」

「大丈夫です。娘も準男爵になりましたから」

「は!?」

今度は沈黙ではなくて驚きの声がホールに響き渡った。

化け物でも見つけたみたいなまなざしで私を凝視しながら、それぞれ頭をフル回転しているのがよくわかる。

でも中には考えることを放棄した人もいたみたいで、

「十歳で準男爵ですって!? 子供にあんなにいろいろ考えつくはずないじゃない」

「気持ち悪い」

言葉の暴力を子供に向けてきた。

ほら、やっぱり気持ち悪いって思う人はいるのよ。

「今、なんておっしゃいました?」

お、おおお、お母様の声がこわい。

これは本気で怒っている。

「ふざけるな! もう聞いていられん! 今、なんて言った!!」

背後からも怒鳴り声が。

ひいお爺様ったら、もう飛び出してきちゃったの?

慌てて後をついてくるひいお婆様を、ギルバートがしっかり支えているのに感心したわ。

それにしてもワディンガム公爵家といいギルモア侯爵家といい、私と関わった家で問題が勃発しているわね。

もともとくすぶっていた物が燃え出した感じだから、関係ないとは思うんだけど。

フェネリー伯爵家は大丈夫よね?