作品タイトル不明
オバサンはちょっとやりすぎがち 5
やばい。
私は何をしてしまったんだろう。
帰宅するために馬車に乗って、ひとりでゆっくり考えられるようになって、自分がしでかしたことを思い返して冷や汗が出た。
保護者になって守ってくれている人に、何を偉そうに意見しているのよ。何様なの私ってば。
大伯父様はそれでも真摯に話を聞いて、自分の言動を振り返って反省までしてくれた。
改めて考えても素晴らしい人すぎる。
これはきっちり謝罪しなくちゃいけないわ。
両親に話して、大伯父様に面会出来るように約束を取り付けてもらわなくちゃ。
それも出来るだけ早くしないと駄目よ。
可愛がられているからと調子に乗っているって思う人もでてくるわ。
ううん。たぶん本当に調子に乗っていた。
前世で専業主婦をしていた頃は、社会から取り残されているような気分で過ごして、離婚してからは自分と子供を守ることが第一で、周囲から注目されることも褒められることもなかった。
平凡などこにでもいるオバサンだったくせに、ヒロインになって注目されたからって浮かれすぎなのよ。
「ごめんなさい!」
これでギルモアとの関係が悪化したら、すべて私の責任だわ。
「姉上って昔は無口で陰気で、今は考えるより先に行動して元気が余ってそうで、両極端だよね」
会議での話を帰宅して家族に話したら、ギルバートに呆れられた。
はっきり言ってくれるだけまだいい。
両親なんて考えこんだまま黙ってしまっている。
うう……どうしよう。
商会の仕事からは手を引いて、ギルモアの人達ともひとりで会わないようにしたほうがいいかも。
「お姉様、悪いことをしたの?」
セリーナも七歳になったので、家族五人で行動する機会も増えてきた。
ただ彼女は普通の子供で、人生二周目の私だけじゃなく、妙に大人びているギルバートの七歳の頃よりもだいぶ幼い。
彼女が世間一般の七歳の女の子なんだけどね。
両親もそれはよくわかっているので、三人とも性格も発育も違って当たり前だと言ってくれているから安心する。
いろんな人たちと接するようになって、いろんな家族関係を見てきて、クロウリー男爵家に生まれてこられた幸運を改めて感じる今日この頃。
それなのに私は両親に迷惑をかけてしまっている。
「姉上はもしかすると、大伯父様が嫌な気持ちになるようなことを、言ってしまったかもしれないんだ」
「それはいけないわ。私のお友達にもいつも嫌な気持ちにさせる子がいるの。私のすることをなんでも悪く言うのよ」
小動物系のほんわかやわらかい女の子が、鼻の穴を膨らませてぷんぷん怒っているのは可愛いけど、話している内容は大問題よ。
嫌がらせをしてくる子がいるってことでしょ?
「誰だ、それ」
私も詳しく聞きたいところだけど、今はぐっと我慢。それはギルバートに任せよう。
今は深刻そうな両親と話をしなくては。
「大伯父様にお詫びしないといけないと思うんです。それで……」
「たしかにシェリルの行いには問題があった。でもね、それは謝罪して終わりというわけにはいかない問題なんだ」
え? 謝罪しても許されない!?
どうしよう!
「シェリル、落ち着いて。あなたを責めているんじゃないのよ」
真っ青になった私を母が抱きしめてくれた。
「ああ、すまない。驚かせてしまったな。そうではなくて、実際ギルモア内にゴダード伯爵夫人に嫌がらせをしていた人はいると思うんだ。なぜなら、私たちも一部の人達にかなりひどいことを言われているからね」
「ええ!?」
父はまあ、男爵風情が王宮で注目されてムキ――! って嫉妬されるのはしかたない。
そんなの予想の範疇よ。
でも母はギルモアの血を引いている人間で、ひいお爺様にも大伯父様にもあんなに大切にされているのに、嫌がらせしていることがばれたらまずいって考えないの?
「侯爵邸にいつもいる御老人たちとその家族が、侯爵夫妻とは古い付き合いだからと特別扱いされているようでね。やりたい放題なんだ。でも侯爵夫妻は、彼らが陰で何をしているか気付いていないんだよな?」
「誰も言えないんでしょう。長く社交界にいるあの方たちは人脈もあるし、口もうまいのよ。しっかりした証拠でもあればいいけど、いえ、あったとしてもよほど力のある貴族でないと、仕返しがこわくて話せないわよ」
「デイルやエディが妙な話を信じて確認してきたって、前に話していただろう? どうやらそれも、その人たちが変な情報を吹き込んでいるようなんだ」
そんなはっきりと問題の存在が明らかになっているのに、侯爵夫妻もひいお爺様たちも気付いていない!?
だとしたら、かなり立ち回りが上手い人達よね。
「先代夫妻や侯爵夫妻のことは心酔しているようで失礼な態度は絶対に取らず、後継者になりそうな男性はおだてて気持ちよくさせて、女性ばかりを狙っているようだ。だからゴダード伯爵もデイルも彼らを気に入っている」
質(たち) が悪いなあ。
それじゃあ嫁にきた若い女性なんて、いいカモだったんじゃない?
私は屋敷に行ったのはお披露目の日だけだったから、今まで接点がなくて助かっていたのね。
「お父様、くわしいですね」
「商会の仕事の付き合いとアマンダなら現状を変えられるかもしれないという期待から、いろいろ話してくれる人が何人もいるんだよ」
「期待されているんですか……。どうしましょう」
「そうね、このままではいけないとは思うけど、私たちが動くのはどうなのかしら」
「新参者だからね。いい結果にならないかもしれない」
特に私はまずい。
十歳の子供がこれ以上何か言うのは、いくらなんでも無理がある。
ここは大人に任せるべきところよ。
でも、うちの両親までつらい思いをしていたと聞くと気になってしまう。
ギルモアとの関係も、もとはといえば私を守るために両親や王弟殿下が動いてくれた結果だから。
「セリーナ、なにも全員と仲良くしなくてもいいんだよ。一緒にいて楽しい子供とだけ遊べばいいんだ。それにそろそろ貴族と平民の立場の違いも学ばなくちゃいけないんじゃないか?」
ギルバートの声が耳にはいって顔をあげると、セリーナが眉を寄せ口をへの字にして彼を睨んでいた。
「でも私が嫌いって言ったら、あの子が親に怒られちゃうって聞いたもん」
「だったら、その子はセリーナと仲良くできるように意地悪をやめなくちゃいけない。セリーナが我慢するのはおかしいよ」
シェリルの話も基本はギルモアの問題と同じね。
自分が優位に立てるように誰もが動いている。
「失礼します。王宮より使者の方がおみえになっております」
そこに執事が急いだ様子で部屋に入ってきて告げた言葉で、家族全員がいっせいに私を見た。
「姉上、なにをやったんだ?」
「何もしていないわよ。……そりゃ会議に出て多少は目立っちゃったけど」
「僕はそんな話は聞いていないよ?」
そういえば大伯父様との話を先にして、会議での話はまだしていなかったわ。
うわーん、ごめんなさい。お父様が頭を抱え、お母様は額を押さえて背もたれに倒れ込んだ。
「悪いことはしてないわよ? 陛下にお言葉をいただいたのよ」
「国王陛下に!?」
林業と木工が主産業の田舎の成金男爵家では、王宮に招待されるなんてまずない話よね。
ましてや国王陛下にお目にかかってお言葉をいただけるなんて、一生の宝にするような経験なのよ。
たぶんお爺様に話したらひっくり返ってしまうわ。
「陛下に変なことを言ったりは?」
「してないわよ」
ギルバートの私の印象がどんどんひどくなっている気がする。
放っておくと何をやらかすかわからないとか思っていない?
そんなことはないのよ。常識人なの。
「みなさん、落ち着いてください。正式な使者だそうですが、いらしているのはイーガン子爵です」
「レイフ様? なんだ。じゃあ王弟殿下からの連絡なんじゃない?」
「いえ、お嬢様。王宮からの公式の使者だとおっしゃっていました」
どゆことーーー!?
「ともかくお通ししてくれ」
「かしこまりました」
家族の慌てた様子を見ても表情を変えないで立ち去る執事は素晴らしいわ。
私にもそういう落ち着きがほしい。
「お姉さまが他にも何かしたの?」
セリーナにまで変な印象を持たれてしまってる。
「いや、たぶん大丈夫だよ。きっといい知らせだよ。そうですよね父上」
「……そうかな」
悪い知らせを受けるようなことはしていないわよ。失礼ね!
「突然の訪問、失礼します」
でも内心はドキドキだったから、部屋にはいってきたレイフ様が明るい顔をしているのを見てほっとした。
これは悪い知らせではないはず。
公式の使者という立場でレイフ様はきているので、今日ばかりは家族全員が立ち上がって出迎えた。
セリーナも可愛くカーテシーをしているのを見て、つい口元が緩んでしまったわ。
「本日は国王陛下よりこちらの招待状を預かってきております」
レイフ様は従者に持たせたカバンから、書類を何枚かと封筒を何枚か取り出し、黒いトレイに乗せて父の前に差し出した。
「国王陛下? 王弟殿下ではなく?」
「あなた、落ち着いて。話を聞きましょう」
招待状だから。召喚状じゃないから。
悪い話じゃないのよ。
「陛下は商会で培った経験で得た知識を国のために惜しまず開放し、また新しい製品を特許料も取らず、国民が豊かに生活のために広めようとするクロウリー男爵家に非常に感銘しておられます。よって、クロウリー男爵の子爵への陞爵が決定しました。また、まだ十歳でありながら驚くべき成果をあげているシェリル嬢の準男爵への叙爵も同時に行うことが決定いたしました。おめでとうございます」
………………へ?
「え? 今、なんて?」
「子爵? 準男爵?」
「三か月後をめどに王宮にて正式に式典と祝賀会を開催します。こちらは王弟殿下が主催を務めます。また、こちらの招待状の日時に王宮にて国王陛下との謁見が行われます。必ずおふたりで登城してください」
爵位? 私に?
しかも王宮で祝賀会!?
「僕が子爵!?」
お父様はまだ驚きから立ち直れていないようで固まってしまっている。
「そんなに驚くことですか? あれだけ功績をあげれば当然でしょう」
いつもの雰囲気でレイフ様が笑ってくれたので、ようやく少し落ち着いたわ。
まだドッキリじゃないかって疑っているけどね。