軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサン、おじさん(?)と出会う  5

「お互いのことがわかったところで、きみの計算能力を見せてもらおうか」

会うための口実かと思っていたのに、本当に確認するんだ。

まさか魔法のほうも確認するのかしら。

「殿下、その前に誓約をしてもらいましょう。シェリル嬢、こちらが我々の秘密のグループの誓約書です。すでに名前が書かれているメンバーは、もうシェリル嬢の知っている方ばかりです。あとは殿下の元で仕事をしている男がひとり。彼にはすぐ会えるでしょうから改めて紹介しますよ。シェリル嬢の名前が追加されることは他のメンバーには通知済みです」

出たわね、誓約。

また私の体に新たな紋様が刻まれてしまうのね。

誓約の内容は実にシンプルだ。

転生に関しては、この誓約書に名前の記されているもの以外には、いっさい話してはいけない。

他の誓約者を傷つける行為、立場を悪くするような言動は禁止。

そして王弟殿下と他の数人のメンバーが了承した時に、新しいメンバーが追加されることがある。

助け合いに関しては書かれていないのは、転生者とは関わらないで生きていくのも出来るってことなんでしょうね、

この国で記憶が戻っている転生者は、今のところこれだけなのね。

少し安心したわ。

攻略者のほとんどが転生者だったらどうしようかと思った。

王弟殿下が誓約書の締結用の魔道具を使うと、前回の時のように光が私のほうに飛んできた。

他の人はもう紋様が出ているから、何も起こらないのね。

そうよね。外を歩いていたら光が飛んできたらびっくりしちゃうわ。

「紋様は脇腹に出ているはずだ。帰宅してから確認してくれ」

「はい」

どんな紋様なんだろう。

今度は侍女たちに、なんて言い訳をしよう。

王弟殿下の仕事の内容を他言しないって誓約だって言えばいいわね。

「では、この書類の計算が合っているか確認をお願いします」

レイフさんが大きなテーブルの端に積み上げておいた書類を持ってきた。

どうやら王弟殿下の執務室で出費したひと月分の経費をまとめた物と、その前の段階の個人が提出した経費の書類のようだ。

「間違っていたら赤鉛筆でチェックをつけてください」

「はい」

このテストが何の役に立つかはわからないけど、商会の伝票の量に比べたら数は圧倒的に少ない。

でもこれ、社外秘じゃないのかしら。

本当に誓約が必要じゃないの?

王弟殿下や執務室の人が何をどのくらい買っているか、全部わかってしまうわよ。

片手で伝票をめくりつつ、メモに使っていいと渡された紙に計算式も時折書きながら、でもほとんど暗算で確認を進めていく。

シェリルは本当に賢い子なのよ。

オバサンにはこんな暗算能力はなかったわよ。

でもそろばんがあればもっと早く正確に計算が出来るわ。

好きな色合いの木を選んで、一生使えそうなそろばんを作ってもらおう。

計算に集中して書類をパラパラめくり、しばらくしてパタッと計算をやめた。

この人はひどい。

項目に書き込まれている字が汚いし、計算も間違いだらけだ。

「あの」

殿下もレイフ様も自分の仕事をしていたので、私が声をかけたらはっとして顔をあげた。

「この方の伝票は全部見直したほうがよろしいかと思います。これは先月分ですよね。ではそれ以前もひどかったんじゃないですか」

レイフ様が私の差し出した伝票を受け取り、ちらっと視線を落としてから殿下のほうに顔を向けて頷いた。

「ああ、そいつは推薦してきたアホ親もろともクビにする。仕事なのだから気に入った者だけ執務室に集めるのはよくないと言って、そんな無能を寄越しやがって。第一王子派の貴族は俺が邪魔でしかたないんだ」

「はあ」

曖昧に微笑んで仕事の続きに取り掛かる。

そういう政治的な話を子供の前でするのはどうかと思うわ。

わざと私を巻き込むために、そういう話をしているのならやめてよね。

「今までは当たり障りなく目立たないようにやってきたのに、とうとう本性を出すんですか?」

「なんだそれは。兄上の邪魔にならない程度にまじめに仕事をしてきただろうが」

「邪魔どころか役に立ちすぎて、第一王子派に目をつけられているんですよ。陛下と王妃様は、殿下は王冠に興味がないと理解してくださっているんですけどね」

ふたりの会話は聞かずに、掛け算を間違えて覚えていそうな問題の人の伝票は横にまとめて置いた。

そして続きに取り掛かり、またしばらくして、

「あ、この人」

一枚の書類を摘まんでレイフ様に差し出した。

「割り増し請求しています。こっちもです。その商品の値段より一桁多く請求していますよ。こっちは二桁も増やしている」

レイフ様は書類を見て私を見て、また書類を見た。

「もとの請求書を確認しないで、どうしてこの商品の単価がわかるんですか?」

「は? レイフ様は知らないんですか?」

「あ……自分で買い物はしないので」

うわーーー、金持ちはだから嫌よ。

ほしい物があったら店の人を呼びつけて、値段を見ないで買うんでしょう?

ましてや生活必需品や食料品なんて、自分で買うわけないもんね。

あれでしょ。

この店にあるものを全部買おうとか言っちゃうんでしょう?

あー、いやだいやだ。

そしてほとんど使いもせずに、しまわれたままで終わってしまうのよ。

確かに貴族が買うことで多くの人が仕事を得られるけど、それでもどこかの誰かが一生懸命作った商品を、雑に扱う男は駄目よ。

特に女性へのプレゼントを、相手の好みや似あうかどうかも考えずに、まとめて購入するなんて駄目!

数より質!

数より思い入れと愛情よ!

「執務室にいる方は、みなさんそれなりの身分のお家の貴族の方ですよね。では、そもそも伝票に高い金額がかかれている場合は、どうするのですか?」

「きみにたのもう」

「私!? え?」

「殿下、驚かせない話し方をしてあげてください」

「そうしてください」

私とレイフ様に睨まれて、殿下は楽しそうに笑いだした。

「きみは商会の仕事をしているから、いろんな商品の単価を覚えているんだろう?」

「はい。それに商会の近くを散歩するので、並んでいる商品の値段はなんとなく見ています。季節によって値段の違う商品もあるので面白いです」

「なるほどね。経理にはそれを仕事にしている者がいる。市場をチェックして伝票の不備を見つけるんだ」

そうか。そうよね。

そういう部署があるんだわ。

でも王宮全部の伝票ってとんでもない数よね。

全部はチェックしきれないから、こういう不正をする人間がいるのね。

「しかし、とうとうこいつもやったか。これで仲間で同じやり方をしているのは確実だな。経理に名簿付きで知らせてやれ。それと何人か捕まえて細かいことは本人たちに聞こう。俺の目の前で不正を行ったんだ。多少は痛めつけてやらないと気が済まない」

うちの王族が乱暴です。

たぶん、自分で口を割らせに行く気です。

ラスボスはおとなしくしているとストレスがたまるようになっているのかしら。

「終わりました」

テーブルに鉛筆を置いていったら、レイフ様と殿下がふたり仲良く目を丸くした。

「は?」

「え? もう全部確認したんですか?」

「掛け算が出来ない人の分はそこに退けたのでやっていません」

「早いな。これはいい」

「素晴らしいですね。ぜひうちで働いてもらいましょう」

認めてくれたのは嬉しいけど、待って。

八歳でもう王宮で働くの?

それはありなの?

「まあ、まかせろ。それだけきみが天才だという流れを作るさ。アレクシアのように妬まれないようにしないといけないからな。きみがこの先、いろんな意味でいろんなやつに狙われるのは確実だ。俺の目の届くところに置くほうが安心だ」

今は好かれやすいだけの能力も、年頃になれば恋愛感情を向けられやすい能力になるかもしれない。

役に立つと思われれば、身分を笠に縁談を迫る家だって出てくるだろう。

確かに王弟殿下の庇護下にいるのは、私にとっても悪い話じゃない。

「家族も守ってもらえますか?」

「当たり前だろう」

「あの……魔法は」

「魔道省に入りたくないんだろう? だったらそれでいい。我が国は比較的安全だ。きみが魔法を使えなくても問題はない。幼い女の子に強制的に魔法を覚えさせ戦わせなくては存続出来ない国なんて、我々王族が無能だということだ。だが、身を守る魔法は覚えておいたほうがいいぞ」

ありがたい。

家族の心配もしなくて済むし、無理矢理魔法を覚えさせられる心配もない。

経理の仕事を少しするだけでいいのよね。

…………あれ?

「……もしかして王宮に行って働くんですか?」

「そりゃそうだろ」

えええええ。

王宮での仕事を得るためには、推薦者が必要で試験だってあるはずよ。

それなのに八歳から、もう働いてしまっていいの?

第二級事務官になったら、準男爵になれちゃうのよ?

「こんな小さなうちから働くなんて嫌でしょうけど、毎日来てもらう必要はないので安心してください」

「きみの能力と後ろ盾に王族や高位貴族がいることが王宮で認知されれば、きみの身を守ることに繋がる。それに他所に行かれるのは困るしな。全て事情を知っている人間が傍にいるのは楽だろう」

私が嫌がっていると思っているの?

ふたりしてどうにかして説得しようとしているわよね。

何を言っているのよ。

日本でいえば国家公務員になれるのよ。

これで仕事が出来る。就職先が決まったわ!

話さなくてはいけないことがたくさんあったうえに、伝票チェックまでしたせいで結構な時間が過ぎてしまった。

さすがにそろそろ帰らなくてはまずいだろうという話になり、部屋を出ると、ドナが心配して駆け寄ってきた。

王弟殿下に情報を流していたかもしれないなんて、疑って申し訳なかったわ。

いつも私が怪我をしないように、気を付けていてくれた子だった。

他の侍女たちまで笑顔にするような、明るいいい子なのよ。

「大丈夫。たくさんお話をしたの」

「そうなんですね」

王弟殿下やレイフを前にして、今もまだ緊張しているみたいだ。

それが普通なのよね。

同じ転生者だと思うと油断してしまうのは、本当に気をつけなくてはいけないわ。

彼らは大丈夫だと思うけど、他の転生者の中にはおかしな人だっているかもしれない。