軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンの周りはなにかと慌ただしい   1

その日の夕方、私たちは食堂近くにある広い部屋に集まっていた。

家族がのんびり過ごす時に使う部屋なので、客間のようにきっちりと室内がコーディネートされていなくて、いろんな形の椅子が何か所かに集められて置いてある雑然とした部屋だ。

でも広いおかげで空間に余裕があるせいか居心地がいいのよ。

テーブルを中心にいくつか椅子が集められている場所にはラグマットが敷かれているので、小さい時にはそこに座り込んで大人が会話している間、本を読んで過ごしたものよ。

今日は入り口に一番近い場所を選んで、全員が思い思いの椅子に座っている。

うちの両親とバイロンさん夫婦は、それぞれソファーにきちんと腰を下ろしているけど、ギルバートは寝椅子の上に体育座りしているし、ユーインなんてオットマンに座っているのよ。

「それは足置きよ」

「運べるから便利なんだよ」

背もたれもなくて小さくて座り心地がよくないでしょうに、何か修行でもしているの?

セリーナはお母様の隣に座ってクッションに凭れ掛かっている。

難しい話が長く続くと眠くなってしまうので、最初から寝てしまっても大丈夫な姿勢にしているのかも。

お父様に聞いたところ、祖父母はさっそくアシュベリーの領地の屋敷に乗り込んで、使えない使用人を追い出して、連れてきた使用人たちに掃除をさせたそうよ。

警備の人達や魔道具をチェックする人もいるので、屋敷はけっこう賑やかになっているので、今頃はお嬢さんたちに事情を説明して今後のことを話している頃のはずだ。

「まずは俺から報告させてくれ」

膝の上に肘をついて、バイロンさんが話し始めた。

「さっき家族に相談をして答えが出たので、大公領に住んでレオン殿下の護衛になることに決めた」

え?

「即決!?」

「そんなに驚かれるとは思わなかったな」

私が思わず大きな声を出したので、バイロンさんに笑われてしまった。

「だって、今後の人生を決める重要な決断じゃないですか。まさか、今日決めてしまうとは思ってなくて」

「まだ返事はしていないよ。家族と相談してから最終決定すると答えてあるんだ。さっき話して家族も賛成してくれた」

勢いよくユーインのほうを振り返ったら、むしろなんで驚いているんだって言いたそうな顔をしていたけど、そりゃあなたは転生者仲間だから殿下を信用しているんでしょうよ。

でもバイロンさんはその辺の事情を知らないでしょう?

「それと大まかな点で合意した後、ギルモア侯爵とフェネリー伯爵とハワードをレオン殿下が呼んで、アシュベリーの件で話し合ったんだ」

お父様を名前で呼ぶ人って珍しいわね。

いえ、今はそんなことより、殿下ってば仕事が早いな。

もう親戚を集めて、互いの情報に偏りがないようにしたのか。

「イールからだいたいの状況は伝わっていたようだけど、ギルモアだけ情報が伝わるのが遅かった場合、あとで問題になりかねないだろう?」

お父様が言い訳じみたことを言っているわ。

べつに私は文句なんて言いませんよ?

ギルモアに内緒にする気なんてなかったし。

「うちはギルモアにお世話になりっぱなしだから、それがちょっと心配だっただけですよ」

「お世話になりっぱなし?」

お母様が呆れた声で言った。

「シェリル、ギルモアはむしろクロウリーに恩がありすぎてまずいって話しているのよ。特にあなたに」

「私? 何かしましたっけ?」

ああ、ロゼッタ様関連の話?

そんなの日頃何かと気にかけてもらっていることへの、ささやかな恩返しでしょ。

「それでレオン殿下の人となりを彼らにも聞けたし、バルナモアはアードモアに比べて風通しのいい雰囲気だと感じたよ」

アードモア国王と王弟殿下を比べるのは危険よ?

あの人はバルナモア王族の中でも、珍しいタイプだから。

「確か大公になる時に、オーモンド伯爵が近衛騎士団をやめて大公家騎士団団長になるんですよね? バイロンさんもそこに加わるんですか?」

「俺には騎士団は無理だよ。目立たないように陰で護衛をすることになった」

「ちょっと待って」

それは聞き捨てならないわ。

思わずテーブルに手をついて腰を浮かせ、前のめりになって片目を細めた。

「それって諜報活動をするってことじゃないですよね? 冒険者をやめたのに危険な仕事をするなんて反対ですし、そんな仕事をやらせる王弟殿下は軽蔑しますよ」

「護衛だけだよ。冒険者時代の仲間を呼んでもいいと言ってもらえたんだ。それに屋敷を建てる土地もくださって、そこは周りに兵士や騎士団関係者の宿舎や屋敷があるから、町全体の治安がかなりいいそうなんだ」

騎士団関係者が昼夜問わずうろうろしている町か。

店に強盗にはいったら、客がみんな軍人だったなんてことがありえそうね。

「それに王弟殿下が大公として領地に住まいを移すのは来年になるそうだから、それまでは拠点づくりをしながらのんびり過ごせるんだ。ああ、それと人工コア作成の手伝いも少しだけするよ」

「へえ」

前のめりの体勢から身を起こして立ち上がってから、私って態度が大きいなって気付いて、いそいそと椅子に座った。

バイロンさんは私の様子にすっかり慣れたのかしら。

全く驚かないわね。

「ダンジョン最奥の壁や地面の成分が知りたいそうだ。そこに含まれる砂や石なら、そこに生息する魔獣のコアと何か関連性があるかもしれないだろう?」

「取りに行くんですか?」

「いや。鉱石も高く売れるものがあるから、手元にいろいろあるんだよ」

アードモア国王がS級冒険者を国外に行かせたくない理由のひとつに、そういう情報もあるんでしょうね。

彼の情報のおかげで人工コアが完成したら、すごい功績になるわよ。

男爵どころか子爵になれるかもしれないわ。

「レオン殿下は面白いしすごい人だね。まだ十七歳とは信じられないよ。彼と仕事をするのは楽しそうだし……敵に回したくない」

「え」

「冒険者になっていたら、彼はS級になれたと思うよ」

さすがラスボス。やっぱりそうなのか。

ということはゲームで彼の仲間だったローズマリー様も、本気を出せばかなり強くなるってことよね?

え? かっこよくない?

むしろ実は今でも強いのに隠しているだけだったり?

「明日は家族三人で大公領に行こうと思っている。町の様子を実際に見たいからね。屋敷が完成するまで借りられそうな家を、いくつか見繕ってくれるそうだからそこも見に行きたい」

至れり尽くせりだなあ。

殿下は転生者仲間を大事にするから意外ではないけど、たぶんバイロンさんのことを気に入ったんでしょうね。

「仲間たちもすぐにこちらに合流できそうなんで、落ち着ける場所は早めに確保しないとね。そうだ。仲間からの返事に面白いことが書いてあったよ。東のコウラン王国で新しいダンジョンが発見されたそうだ」

コウランって米を栽培している国よね?

ゲームでは和風テイストの国がひとつあるのは定番だって、ローズマリー様が話していたわ。

「そこがアードモアのダンジョンより広大で階層も多そうなんだ」

「ほお。ではこれから新しい素材は、コウラン産が増えるかもしれないね」

商売人のお父様の目が輝いているわ。

お米がほしくて、ギルモアと協力してコウランとの関係を築いていたのはラッキーだったわね。

「必ずそうなる。なにしろアードモアの残りふたりのS級冒険者が、コウランに移動すると宣言しているそうだ。冒険者は国に縛られない存在だ。冒険者組合に登録し、各国を旅しながら仕事をするのが冒険者なのに、国王が卑劣な手段に訴えようとしているという話を国中に広めているんだ」

うは。大丈夫かこれ。

大きなダンジョンがあるのに、冒険者がごっそり引っ越してしまったらスタンピードが起こる危険があるんでしょ? 大問題よ?

「S級冒険者同士は仲がいいのかい? てっきりライバルなのかと思っていたよ」

「ふたりとも世界中を飛び回っているので滅多に顔を合わせないが、三人で協力して魔獣を倒したことが何度かあるんだ」

「そうなのか。しかしこれは……アードモアはかなりのダメージを負うことになるね」

「最近の国王はずいぶんと横暴になっていたからね。いずれはこういうことになると思っていたよ」

お父様とバイロンさんの会話を聞きながら、私は別のことを考えていた。

ゲームではコウランにダンジョンはあったのかしら。

ユーインは父親が亡くなったことをきっかけに冒険者をやめて、バルナモアで新しい生活を始める中でラスボスとの争いに巻き込まれていくストーリーだと聞いたわ。

ここはゲームの中の世界ではないから、もうゲームのストーリーとはまったく違う展開になってはいるけど、NPCは影響を強く受けているって誰か言っていたような気がする。

だったらこの展開は予測できた?

ヘンリエッタが保養所に移動して薬草づくりを始めたのって、今になって考えるといいタイミングなんじゃない?

国王の力が弱まっても巻き込まれないで済むでしょう?

光魔法を使って薬草を栽培して新しい薬を作りたいなんて、国民からしたら素晴らしい王女様よね?

考えすぎだとは思うけど、彼女にしては短時間で最善の行動をしたなと思っていたのよ。

あのままだったら、転生者の記憶は消されていたんだもの。

「こちらからも報告があるんだ」

お父様が居ずまいを正して話し始めた。

「今日の昼頃、アシュベリーのタウンハウスを訪ねてきた人物がいる。身なりのしっかりした紳士だったそうだ。アシュベリーは領地に引っ越し、タウンハウスは売りに出されると聞いて帰っていったそうだ」

「それだけでは俺たちに関係があるかどうかわからないな」

「ないかもしれない。というのは、きみに会いたいという手紙が、すでにうちに何通も届いているからだ。普通の貴族ならアシュベリーにはいかないだろう。手紙はあとで渡そう。数に驚くぞ」

「うへえ」

バイロンさん、嫌そうだなあ。

でも彼らと連絡を取りたければ、クロウリーにたのめばいいと考える人ばかりってことよね?

アシュベリーは今までの行動で信用を失っているから、彼に借りを作ろうとは思えないんだろう。

だったら、その男はなんでアシュベリーに接触しようとしたの?

うちには接触できない理由があるのかもしれないわね。