軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オバサンは入学試験くらい平穏に受けたい  4

やっぱり警戒するよね。

ユーインと会ったのは、ヘンリエッタが問題を起こした前回の会合だけで、お互いの境遇を軽く紹介し合っただけだ。

彼がどんな性格なのか、何を考えているのか、そもそもどうしてアードモアの人間がバルナモアにいるのか、何も知らないのに突然現れたら何事かと思うわよ。

それに、私のことを心配してくれているんだよね。

なんであなたは、平気な顔をしてユーインと一緒にいるのよ。

何か事情があるのなら、なんで私は知らされていないの? って苛立ちもあるんでしょう。

わかる。私がローズマリー様の立場だったら同じように思うわ。

だからちゃんと説明しますよ?

「ローズマリー様」

でも周りには受験生も学園側の人達もいて、公爵令嬢のローズマリー様と見た目だけは無駄にいい私とユーインは注目の的なのよ。

ここにいる人の多くは、入学してからも関わる人たちなんだから、妙な噂をたてられないように余裕の笑顔で挨拶しましょう。

「おはようございます。とうとうこの日がやってきましたわね。体調は大丈夫ですか?」

「……おはよう。まったく問題ありませんわ。そちらはどうなのかしら?」

片眉をあげて不服そうな顔をしたのは一瞬だけ。

ローズマリー様も笑顔で返事を返してくれた。

「体調も準備も万全ですわ。そうだ。彼を紹介しなくては」

私の背後に隠れるように立っていたユーインの腕を掴んで引っ張り、私の横に並ばせた。

あなたのほうが背が高いのに、隠れられるわけがないでしょう。

私を守るとアレクシアに話していたくせに、背後に隠れるんじゃないわよ。

「彼はユーイン・アシュベリー。私の祖母の……」

「アシュベリー? アシュベリー子爵の関係者なの?」

「え? アシュベリーがどういう家かご存知なんですか?」

「当たり前でしょう。クロウリーがうちの派閥にいた時から、社交界で好き勝手言って顰蹙を買っていたじゃない」

徹底的にうちを目の敵にしているのね。

それなのにギルモアとうちが親戚だとわかった途端に掌を返したの?

先代が仲違いした妹である祖母を嫌うのはわかるのよ。

でもなんで息子までうちを目の敵にするの?

あ、お父様と現在のアシュベリー子爵とユーインのお父様は従兄弟だから、アシュベリー子爵だけ成功していないのか。

……単なる逆恨みじゃない?

こっちは存在さえ忘れていたのに。

「ローズマリー様がおっしゃっているのは、祖母の実家のアシュベリーですよね。あちらは祖母の兄が継いで、今ではその息子さんが当主です。ユーインは祖母の弟の孫にあたるんですよ」

「あら、違うのね」

「そうなんです。弟さんは父や兄のやり方に反対して家を出て、アードモア王国に行ったんです」

「そうでしたの。ユーインさんとおっしゃるのね。私はローズマリー・ワディンガムよ。悪いことは言わないわ。アシュベリーの名は捨ててしまったほうがいいわよ」

うは。そこまで言われるほどに、アシュベリーは社交界でまずい立場にいるんだ。

ユーインは早めに彼らから離れて正解だったわね。

「挨拶をしに行った時にかなり失礼な態度を取られたので、父とアシュベリー姓を名乗るのはやめようかと話していたところです」

「あら、あなただけが留学するのではなくて、ご家族もこちらに一緒にいるのね」

私とユーインがマジモンの親戚だったということは、ローズマリー様に伝わったようでよかった。

だからそろそろ受付を済ませてしまいましょう。

邪魔にならないように少し離れた場所で会話をしていたけど、さっきから横を通る人たちがちらちらこっちを見ているわ。

受付の人もそんなところで話していないで、早く受付しろよって顔をしている気がする。

「ちゃんと受験票は持ってきた? 忘れ物はない?」

「なんだよ、突然。ちゃんと持ってきたよ」

「ローズマリー様も忘れ物はないですか? 予備がありますから、今ならお渡し出来ますよ」

「急にお世話モードに入らないでよ。世話好きのオバサンみたいよ」

「あら」

いけない。お節介だったかしら。

こちらの子は侍女が荷物を準備してくれるから、忘れ物をしないのかもしれないわね。

でもユーインは侍女なんていないでしょ?

自分で準備したのなら、忘れ物の危険はあるわよ。

それともお母様が準備を手伝ってくださったのかしら。

想像するとほっこりするわね。

「ご家族でこちらにいらしたのは、お仕事か何かの関係で?」

受付の前に列が出来てしまっていたので並んでも、ローズマリー様はまだ話を続ける気みたい。

周りの子も友人と一緒に来ているのか、話をしている子がたくさんいて賑やかだからいいのだけど、やっぱり国民性がこういう時は出るわよね。日本だったらもっと静かなんじゃない?

「いえ……祖父は亡くなるまで、クロウリー男爵家に嫁いだ姉が幸せでいるのか気にしていましたので、一度、お会いしてお話をしたいと思いまして」

「子爵家になったんです」

「あ、そうでした。すみません」

急に私にまで敬語にならないでよ。別に怒っていないわよ。

ローズマリー様は、なんでそこで私の顔を見るんですか。

私もさっき会ったばかりですからね。

変な想像をしないでくださいよ……って言いたいけど、この場では言えない。

「お父様は何をしていらっしゃるの? ……あ、答えたくなければいいのよ?」

こんなに人がいる場所で、その質問をするの?

「祖父も父も冒険者です」

え? 答えるの?

いっせいに注目の的になっているわよ?

というか、なんでみんなして私たちの話を聞いているのよ。

学園側の人まで驚いた顔でこちらを見ないでよ。

「あら素敵」

え?

「アードモアでは貴族の次男や三男が冒険者になるのは珍しくないんですってね」

「そうなんです。貴族のほうが魔法を使える人間が多いので、活躍している冒険者も多いんです。功績をあげれば爵位ももらえるんです」

「まあそうなのね」

知らなかった。

冒険者って、ならず者みたいな人が多いイメージだったわ。

いやだって、ヘンリエッタ王女が冒険者に関わるのを嫌がっていたじゃない。

貴族の子息も多いのに、あの態度だったの?

「機会があったら、いろいろとお話を伺いたいわ。我が国にはダンジョンがないから、冒険者に会う機会もほとんどないのよ」

「俺は冒険者登録したばかりで、ダンジョンも浅いところしか行ったことがないですよ」

「あなたも冒険者なの?」

ローズマリー様、声が大きいですって。

自分でもまずいと思ったみたいで慌てて口を押さえながら周りを見たけど、周りの人が不自然に目をそらしているじゃないですか。

絶対に話を聞いていますって。

「ごめんなさい。驚いちゃって」

「いや、いいんですよ。アードモアには冒険者がたくさんいるんで、そんな反応をされると新鮮だな。国が違うとこんなに違うんですね」

いいやつっぽいのよね。

転生前も十代で亡くなった割にしっかりしているみたいじゃない?

若くてもしっかりしている子はいるし、年をとってもいい加減な大人はたくさんいるから、年齢では計れないけど。

「ダンジョンの中って虫はいるの? 魔獣って臭いのかしら?」

気になったから聞いただけなのに、ローズマリー様に引かれている気がする。

あれ? 受付のおじさんも呆れた顔で私を見ていない?

気になるわよね? 気になるでしょ?

「あなたはまったくもう、バルナモアには冒険者がいないから、物語に出てくる格好いいイメージがあるのに、虫がどうとか臭いかとか、変な質問をしないで」

受付を終えて廊下を歩きながら、ローズマリー様が文句を言って来たんだけど、

「あなた達、少しは話を聞きなさいよ。前を見て歩きなさい!」

私もユーインも豪華ホテル並みの建物に驚いて、ずっと落ち着きなくきょろきょろしてしまっていた。

「天井が高いな」

「贅沢な造りね」

けっして金ぴかではないのよ?

落ち着いた色合いのシックな内装なんだけど、床は木や大理石が複雑な模様貼りにされていて、魔道具が使われているのか照明がいっさい見当たらないのに廊下が明るいのよ。

「ちょっと」

「でも気になるじゃないですか。大きな黒いあいつがいたらどうします?」

「だからやめなさいよ。想像しちゃうでしょ。それに、まだいろいろ聞きたいことがあるんですからね」

受験生はみんな受験票に書かれていた教室に向かうから、多少ばらけたとはいえ、まわりにたくさんの人がいることは変わらない。

説明したいのはやまやまなんだけど、当分無理そうだわ。

「驚かせちゃってごめんなさい。実は私もここに来る途中で偶然彼に会ったんです。それまでは彼が親戚だなんて知らなかったんですよ」

ローズマリー様の隣に並んで、周囲に誰もいないのを確認して小声で説明した。

「はあ? どういうことよ」

「試験の間に休み時間が……」

「シェリルはここに来る途中で襲われかけたんだよ」

「……なんですって」

ユーイン! それを今ここで話さないでよ。

「その話を先に聞くわ。教室の隅でなら大丈夫でしょう。ほら、さっさと行くわよ」

わかりましたよ。五分もあれば説明できるんですから、ちゃんと話しますよ。

ローズマリー様ってこういう時は力が強いんだもの。

そんなぐいぐい引っ張らなくても、逃げませんって。

「まったく次から次へと。あなたの周りはいろいろ起こりすぎじゃない?」

私もそう思うんですけどね、本人はおとなしく平穏な毎日を過ごしているだけなので、対処のしようがないんですよ。

おかしいなあ。

学園を卒業するまでは、学業にいそしんで充実した学生生活を送りたいのにな。

「受験票に書かれている番号の席に座りなさい。私語は慎むように」

試験会場は普段は教室に使われている部屋を使っているらしい。

ここも立派ねえ。

半円形の階段教室で、椅子がね、座り心地のいいクッションのついている椅子なのよ。

貴族の子息は木製のベンチのような椅子には座ったことがなくて、お尻が痛くなっちゃうのかしら。

一列間をあけて座って、隣ともだいぶ間隔が開けて、すでに生徒が大勢座っていた。

これは教室の端で話す雰囲気じゃないわね。

「早く試験を書き終えれば外に出られるから、ちゃちゃっと答えちゃって」

「駄目ですよ。ちゃんと間違いがないかチェックして、解答欄もずれてたら大変ですよ」

「わかったわかった。わたしはあっちだから、あとでね」

ひらひらと手を振って、ローズマリー様は前のほうに階段を降りて行った。

私も前のほうだけど、ローズマリー様とは反対側なのね。

「おまえらといると、受験に来たということを忘れそうだ」

ユーインくん、そんなことを言って油断しないでよ。

名前を書き忘れちゃ駄目だからね。