軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 新年の贈り物

輝王歴六百四十六年一月一日

新しい年が明けた。この国では皆がこの日に一斉にひとつ、歳をとる。無事に新しい年を迎えられたことを祝って、贈り物をする日だ。

アンバーとクリスティアンは揃って二十八歳になった。

大広間にテーブルを並べて、今日だけはみんな一緒に朝食を食べる。その後で今年から主人になったアンバーから皆に新年の贈り物が渡される。

今年からブランドンがいない。夫の席だった場所に椅子は置かれず、その近くの椅子にクリスティアンが座っている。ベッキーやライラ、コニーも笑顔で座っている。

まずはアンバーからクリスティアンへ、それからコニー、執事のヘンリー、侍女頭のマーサと順番に主人からの贈り物を手渡した。皆、自分ではなかなか手が出ないような上等な贈り物に喜んでいる。

コニーは化粧品とシンプルなピンクの淡水パールのペンダントを見て涙ぐむ。

「こんな素敵な物を贈られたのは生まれて初めてです」と胸に抱きしめている。

ライラは新品の絵本だ。もう本を開いて夢中になって読んでいる。

使用人たちは暖かい靴下のセットに顔をほころばせていたが、ふと気づくとクリスティアンは受け取った小箱を開いたまま固まっていた。

「お気に召したかしら」

「アンバー、これ、新年の贈り物にしては高価すぎない?」

アンバーがクリスティアンに贈ったのは質の良いアメジストがはめ込まれたカフスボタンだった。

自分の髪や瞳の色と同じ物を贈るのは愛の告白になるが、クリスティアンもすみれ色の瞳だから重い意味にはならないだろうと思って選んだ品だった。

「気楽に使ってくれると嬉しいわ」

「ありがとう。一生大切に使うよ」

『一生』という言葉にドギマギするが、穏やかに微笑んだまま表情は変えずにその言葉を受け取った。

「アンバー、僕からも君やみんなに贈り物があるんだ」

「あら」

クリスティアンの足元には結構な大きさの箱が置かれていて、(何が入っているんだろう)と気になっていたところだった。

「君にはこれを」

箱から無造作に取り出したのは、小ぶりなサイズの油絵だった。

薄紙を外して絵を見たアンバーの表情が喜びにじわじわ染まる。

それは崖の上で潮風に吹かれてドレスの裾と長い黒髪をなびかせながら笑顔で海を眺めている横向きのアンバーだった。

絵の中のアンバーは屈託のない笑顔で幸せそうだ。

「クリスティアン、いったいいつの間に」

「僕は心に刻んだ風景は忘れないんだ」

クリスティアンは他のみんなにも次々に絵を手渡した。

アンバーの絵以外は水彩画でサイズも小さいものだったが、どれも動きがあり、その人が輝いている場面が描かれていた。

普段よく見る人物画はたいてい正装して正面を向いてポーズをとっているものだが、クリスティアンの絵は普段の服装で自分の役目を果たしている動きのある絵だ。そこがとても新鮮である。

執事のヘンリーはスーツを着てピシリと背筋を伸ばして歩いている姿、マーサは柔らかな笑顔でお茶を出しているところ。

料理人たちはそれぞれの担当の料理に取り組んでいる姿、侍女たちは侍女服を翻して家事をこなしてキビキビと動いている姿。

厩番の若者は馬にブラシをかけながら優しい顔で話しかけている姿。

ベッキーはハンドマッサージの施術をしているところだったし、コニーはライラの勉強を見ている姿だった。ライラは庭の花を覗き込んでいるところだった。どれもその人らしい一瞬を切り取って描かれていた。

平民の使用人たちは普通は画家に描かれることなど一生に一度も無い。

受け取った全員が互いに自分の絵を見せあい「そっくりだ」「いや、お前は五割増にいい男に描かれてる」「私って、クリスティアン様にはこう見えているのね」「ばかね、実物よりずっと美人に描かれてるわよ」などと大騒ぎしている。

「ありがとう。私、この絵を大切にするわ」

「できれば寝室の絵はこれに替えてほしい」

「あなた、私の寝室に入ったことがあったかしら?」

「君が過労で倒れた時に」

「あー……。わかったわ。すぐにこれに交換するわね」

クリスティアンが満足そうだ。

無表情を装っているが口の両端がわずかに持ち上がっている。クリームを舐めたあとの猫みたいだ。よほど他の画家の絵が飾ってあることが気に入らなかったらしい。

アンバーは十四歳年上の夫にひたすら従順に仕えていたせいか、自分と同じ年齢のクリスティアンの言動が可愛い男の子のように感じる。彼の芸術家らしい天真爛漫さもそれを助長しているのかもしれない。

騒ぎが落ち着いたところでそっとコニーが刺繍したハンカチをアンバーに渡した。アンバーの瞳と同じ色のすみれの花が丁寧に描かれていて、アンバーはハンカチを手にしたまま思わずコニーを抱きしめた。

「誰かに新年の贈り物をするのは生まれて初めてなんです」

抱きしめられたコニーがそう言って頬を上気させていた。

「コニー。あなたの心はなんて清らかなのかしら。あなたに出会えて本当に良かった」

彼女が生きてきた過去を思うと泣いてしまいそうで、新年早々泣かないようにアンバーはコニーをさらにギュッと抱きしめた。

夜は家族で豪華な夕食を摂るのがオルブライト家の習慣だ。

アンバーは夕食の時刻までは各店舗の売り上げのチェックと農作物の取引による収益の決算報告書を書くことに追われた。

明日は一日中予定を入れていない。

クリスティアンに頼まれた『丸一日をクリスティアンに付き合う日』だ。

(どこへ行くのだろう。私は何を着ればいいのだろう。馬車は要るのか、食事はどうするのか)

なんでもきちんと計画を立てて行動するのが習性になっているアンバーは気をもむが、クリスティアンからは何も言われていない。

(初めてデートに誘われた乙女じゃあるまいし、こんなにそわそわするのも変よね)

アンバーは苦笑してどこに誘われてもいいように何種類かのドレスや乗馬服を用意した。

その夜、食事の席に座るとクリスティアンは以前はブランドンが座っていた席に座っていた。

どうやらヘンリーとマーサは彼をアンバーの夫に準じる扱いをすることにしたらしい。

そのことには触れずに食事を始めたが、翌日どこに行くのかが気になってせっかくのご馳走を楽しむことができない。明日のことを聞いてもニコニコしているだけで相変わらずクリスティアンは行き先を教えてくれなかった。

(私を驚かすところから、なのかしらね)

アンバーは明日の予定を聞き出すことは諦めて、早めにベッドに入った。