軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第41話 紹介しましょう

魔導神祭、そして六学院魔法大会が始まった。

各地からやってきた観光客によって、魔法都市はいつにない賑わいをみせている。

主要な道路には屋台や露店が並び、どこもかしこも広場で開催されている日曜市のような活況ぶりだ。

中でも最も注目度の高い六学院合同の魔法大会は、祭りの二日目から、五日間に渡って行われる。

主催は各学院の持ち回りで、今年は緑の学院だった。

もちろん開催場所も、主催の学院の敷地内となる。

様々な方法で各学院が競い合い、最終的にはその総合成績によって、優勝校と準優勝校が決定される。

その中の一つに、新人部門というものが存在しており、これは入学二年目までの生徒という条件で、各学院が選んだ生徒たち六名によって行われる。

それぞれの生徒が魔法を使って幾つかの課題をこなし、その優劣を競い、最も優秀な生徒を決めるというものだ。

関係者は例年、慎重にこの生徒を選出する。

たった一名しか出場できないということもあるが、大会初日に行われることもあって、ここで高得点を取ることができれば、この大会をかなり有利に進めることができるからだ。

今日はその大会初日。

六学院の学院長たちは、会場となる緑の学院最大の競技場に設けられた貴賓席へと集まっていた。

「前回はこの初日で出遅れたがよ、今年はそうはいかねぇ。スタートダッシュで一気に突き放してやるぜ」

「生憎ですが、初日の首位をいただくのは青の学院で間違いないでしょう」

「いや、今年は我が学院も大いに自信がある。確実にトップを取らせてもらおう」

「かっかっか、残念じゃが、それは儂も同じじゃ。なにせ、うちから出場するのは、ここ十年、いや、ここ二十年でも断トツの逸材じゃからの」

「あら、それを言うなら、わたくしが選んだ生徒は学院始まって以来の逸材ですわ」

どの学院長たちも、自身の生徒が勝つと信じて疑っていないようだ。

それゆえか、例年以上の熱の入りようである。

「はっ、そう言ってられんのも今の内だぜ。……てか、一人足らなくねぇか?」

「黒の学院のブラグがいないのでしょう」

「言われてみればそうだな……例年であれば、すでに来ているはずなのだが」

「なに、どうせ、いつものようにこっぴどい負けを見るのに嫌気がさしたのじゃろう。もしくは、端から諦めたのかもしれぬ」

「黒の学院が廃校となる日も近そうですわね」

「……っと、どうやら来たようだぜ。今年の最優秀新人がよぉ」

赤の学院の学院長であるレッドラが目を向けた先には、一人の青年の姿があった。

こちらに向かって歩いてくる。

出場前に参加者が学院長陣に挨拶にくるという伝統があり、彼も教員か職員からそれを教えられ、ここ貴賓室へやってこようとしているのだろう。

年齢は十八か、十九ぐらい。

新人としてはやや歳がいっているが、入学から二年以内という条件を満たしていれば問題はない。

「私の学院の出場者も来たようですね」

と、青の学院の学院長、ブルーナが言う。

それに首を傾げたのは緑の学院の学院長であるグリンだ。

「……? 見たところ、こちらに向かって来ているのは、我が学院の出場者だけのようだが……」

さらに、黄の学院のイエロアと白の学院のホワイトが、

「それは奇妙じゃのう? 儂には儂の学院の出場者しか見えぬが……」

「それはわたくしの台詞ですわ?」

そんなふうに全員が同じことを主張する中、その青年が彼らの下へとやってきた。

「挨拶をしてこいと言われたから来たのだが」

青年がそう言った直後、

「紹介するぜ! こいつがうちの学院からの出場者、アレルだ!」

「紹介しましょう。彼が青の学院の出場者であるアレルです」

「紹介しよう。彼が我が学院が選んだ出場者、アレルだ」

「うむ、紹介するぞ。こやつが黄の学院の代表、アレル君じゃ」

「紹介いたしますわ。彼こそがわたくしが選んだ最強の出場者、アレルさんですの」

学院長たちの声が重なった。

「「「「「……え?」」」」」

◇ ◇ ◇

他の学院長たちが、それぞれが別々に想定していた人物が、まったくの同一人物であったことに気づく少し前のこと。

黒の学院の学院長であるブラグは、一人だけ大会の会場となっている競技場には向かわず、緑の学院の敷地内にあるとある建物の中にいた。

そこは現在、改築のための工事が行われている最中だが、祭りの期間は休みになるため、作業員も不在だった。

その地下に設けられていた魔法の実験室。

陰鬱とした、しかし広々としたその場所で、ブラグは昨晩からまったく休むことなく、ただ黙々とある作業に没頭していた。

「か、完成、だ……」

やがて手を止め、彼は満足げに口端を吊り上げて嗤う。

「く、くく……こ、これで……黒魔法の凄さを……あ、あ、あの、愚か者どもに……思い知らせることが……で、できる……はず……」

ほとんど一晩かけて、彼が床に描き切ったのは巨大な魔法陣だった。

そしてブラグが膨大な魔力を注ぎ込むと、複雑な文様で構成された魔法陣が発光を始めた。

「さ、さあ……い、出で、よ……ま、ま、魔界の……魔物よ……!」

直後、凄まじい光が噴出し、地下の実験室を真っ黒に染め上げた。

そう、それは禍々しい黒い光だった。

思わず目を瞑っていたブラグが恐る恐る瞼を開くと、そこに召喚されていたのは――

「お、おおっ……せ、せ、成功だっ……! こ、これが……ま、ま、魔界にしか、いない、さ、さ、最強の魔物……ぐ、グラト……っ!?」

その名を言い終えることができなかった。

というのも、現れたその魔物がいきなり 触(・) 手(・) を伸ばし、ブラグの細い身体を掴み取ったからだ。

「ま、待てっ!? わ、わたしは、お前の主人だ……っ! こ、こんなことっ、め、命じてなどいないぞ……っ? す、す、すぐに離せっ!」

彼は慌ててそう命令するが、

「なぜだっ!? な、な、なぜわたしの言うことを聞かない……っ!?」

応じる気配はまったくない。

それどころかブラグを引き寄せ、体内に取り込もうとする。

「か、か、身体がっ!? や、や、やめろぉぉぉっ!? ぎゃああああ――」

悲鳴が途切れた。

ブラグの身体を 吸(・) 収(・) したその魔物は、それだけでは満足しなかった。

――お腹が空いた。

ただただその欲望に突き動かされて。

美味そうな獲物を探し、魔物は地下の実験室から這い出していく。