軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 相変わらずこの学院には変な輩が多いな

「となれば、次の〝魔導神祭〟は大いに期待できそうですね」

そのノエルの言葉に、学院長たちが自信ありげに頷く。

魔導神祭というのは、幻の【超級職】とされている《魔導神》を讃えるため、二年に一度開催されているお祭りだ。

年度末に行われるのだが、今年はその開催年に当たっており、すでに都市を上げての準備が進められていた。

六つの学院が合同で主催する〝六学院魔法大会〟は、その目玉でもあった。

各学院の教員や生徒が参加し、互いの魔法を競い合うというものだ。

まさに現在議論している翌年度の交付金の額が、この大会の成績によって最終調整されることも多いため、どの学院も全力で勝ちにいく。

そのことが大会の盛り上がりに繋がっていた。

「現状、私どもが考えている来年度の交付金の分配率はこちらになります」

言いながら、ノエルが各学院長たちに資料を配っていく。

これを叩き台にして議論し、最終決定となるのが基本的な流れだ。

ただし魔法大会が行われる今年については、この場では〝仮〟決定で置いておき、大会の結果を待つことがほとんどだった。

ノエルが配った資料に目を通した学院長たちからは、珍しく反論は上がらなかった。

魔法大会に自信を持っているというのもあったが、それ以上に、どの学院も例年よりも分配率が大きく上がっていたからだ。

いや、ただ一人だけ、資料を見てわなわなと怒りで身を震わせる者がいた。

他の五学院の交付金が増加する中で、唯一大幅に減額させされている学院の学院長だ。

黒の学院の学院長、ブラグ=ラックロである。

「こ、こ、これは、どういうことだ……っ? な、な、なぜ、昨年より……四割以上も……へ、減らされている……っ?」

伸び放題の前髪の隙間からぎょろりとした目を覗かせ、ノエルを睨みつけるブラグ。

今にも呪い殺しそうな雰囲気だ。

ノエルはやや気圧されながらも、きっぱりと言う。

「むしろこれまでが多過ぎたのです。黒の学院は教職員数、生徒数、都市への貢献度、そのどれをとっても、他の学院の十分の一にも満たないものです。なのに交付金を受け取り過ぎている、もっと減らしてもいいのではないかと、他の学院からは常々、そういった意見をいただいておりました」

それに頷くのは、ブラグ以外の五人の学院長たちである。

「ですので来年度は、それに相応しい金額に是正させていただくことにいたしました」

「ば、ばかなっ……こここ、こんな額でっ……ま、まともな研究が、で、できるはずがないっ……」

声と身体を震わせ、ブラグは主張する。

それを鼻で笑ったのは、レッドラだ。

「おいおい、そもそもてめぇんところが過去に一度でもまともな研究なんてしたことあったか? どいつもこいつも、頭のおかしいイカレ魔法ばっかじゃねぇか」

「く、く、黒魔法をっ……ぶ、ぶ、侮辱する、な……っ!」

ブラグは裏返った声で怒声を上げた。

「黒魔法が国によっては禁呪指定されている危険な魔法であることは事実ですわ。この都市でもそろそろ考え直しても良い頃合いかもしれませんね」

ホワイトが言う。

白魔法の使い手である彼女は、それと正反対の黒魔法のことを毛嫌いしているのだった。

「く、黒魔法をっ、き、き、禁止するということか……っ!?」

「そうなりますわね。いえ、もちろんただの提案ですわ。……今のところは」

険悪なムードを切り返るように、ノエルが「ごほん」と大きく咳払いした。

「えー、今回その辺りのことを議論する予定ではありませんので」

「あら、そうでしたわね。余計なことを言ってしまい、申し訳ありませんわ」

「……とりあえず、暫定ですが先ほどの案でよろしいですかね? もちろん最終的には魔法大会の結果次第ということで」

「「「異議なし」」」

皆が頷く中、当然ながらブラグだけは納得がいかないという顔でノエルを睨んでいる。

「いえいえ、ブラグ学院長。申し上げた通り、まだ魔法大会がありますから。そこでの黒の学院の成果如何によっては、例年通りの額というのも十分にあり得ますよ」

ノエルはそう言うが、学院長たちは皆、万に一つもその可能性はないだろうと確信していた。

なにせ黒の学院は年々その規模を縮小し続けているのだ。

それでもブラグは何の対策も取ってこなかったし、彼は今さら改革ができるような器用さも持ち得ていない。

やがて会議が終わり、全員が忙しなくそれぞれの学院へと戻っていく。

ブラグもまた、半ば放心した状態で黒の学院へ。

しかし当初はフラフラだった足取りが、だんだんと早くなっていった。

「ぶつぶつぶつぶつ……」

何かを考えているらしく、不気味な声を漏らしながら歩いていく。

道行く人がぎょっとして振り返っているが、それに気づく様子すらない。

廃墟のような校舎が並ぶ学院へと戻ってきたときには、ほとんど駆け足になっていた。

途中、誰かにぶつかってよろめいたが、気にせず自身の研究室へと向かう。

「ふむ? 相変わらずこの学院には変な輩が多いな」

「……人のこと言えねェだろ」

「何か言ったか、マティ?」

「何でもありませン、ご主人サマ」

そうして研究室へと辿り着いたとき、彼の目には絶望ではなく、危うい狂気を感じさせる光が宿っていた。

「く、くくっ、くくくくくっ……くはははははっ! げほげほげほっ……」

慣れない笑い声を上げたからか、むせた。

「……こ、これならいける。貴様らが侮辱した黒魔法の力っ……み、み、見せてやろうじゃないかっ……」