軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第23話 まだ十歳なんだぞ

〝アビスデビル〟なる集団の構成員たちがあちこちに転がり呻いている。

「こ、こいつ、マジかよ……」

「この数を、一人で……あ、あり得ねぇ……」

ミラのことを聞き出そうとしたのだが、答えてくれるどころか、いきなり襲い掛かってきたのでやり返したのだ。

そのうちの一人の傍にしゃがみ込んで、改めて聞いてみる。

「十歳になったばかりの女の子だ。と言っても、少し大人びているから十二歳くらいに見えるかもしれない。知らないか?」

「し、知らねぇ……」

「本当か?」

「本当に知らねぇから!」

どうやら嘘を吐いてはいないようだ。

だが〝アビスデビル〟がどれだけの規模か分からないが、恐らく構成員はもっと多いだろう。

全員に訊けば誰かが知っているかもしれない。

と、ちょうどいいところに彼らの加勢が来たようだ。

「何だこれはっ?」

「おい、どこの組の仕業だ!」

倒れていた一人が俺の方を指さしてきた。

「あ、あいつが……」

「は? まさかあのガキ一人にやられたって言うんじゃねぇだろうな?」

新手――今度は十五人ぐらい――が一斉に俺を睨んでくる。

次は彼ら聞いてみよう。

俺はただミラのことを知りたいだけなのだが、なかなか大人しく答えてくれず、結局また戦う羽目になってしまった。

やがて気づけば地面に百人ほど転がり、その倍近い数に取り囲まれていた。

だが数では圧倒的有利に立ちながらも、彼らは警戒するだけで動こうとしない。

「お前ら、油断するんじゃねぇぞ。この野郎、底が知れねぇ」

「てか、何なんだよ、こいつは? 何で後ろから飛んでくるナイフに対応してやがるんだ」

そのとき彼らの後方が騒がしくなったかと思うと、包囲の一部が割れた。

その向こうから一人の男が歩いてくる。

「ボス……」

「ボスが来たぞ……」

ふむ、どうやらこいつが〝アビスデビル〟なる組織のボスらしいな。

スキンヘッドで、相手を睨み殺そうとするかのような目つき。

レザージャケットを羽織っただけの上半身には、禍々しいタトゥーが掘られている。

スキンヘッドは辺りに転がった構成員たちを見回すと、額に青筋を浮かべた。

「随分とうちのシマで暴れてくれたみたいじゃねぇか、ああ?」

「ただ聞きたいことがあっただけなのに、話も聞かず襲い掛かってきたからだ」

「話だと?」

意外にも興味を示してきた。

見た目の割に少しは話が通じるのかもしれない。

「妹を探しているんだ。ミラっていうんだが、十歳の女の子で、この都市のどこかにいるはずなんだ」

「……ミラ、だと?」

スキンヘッドの頬がピクリと痙攣したように動いた。

「テメェはそのミラって女の兄貴なのか?」

「そうだ。何か知っているのか?」

「……ああ、知らないわけではねぇな」

「本当か? どこにいるんだっ?」

「うるせぇ、それ以上、オレに近づくんじゃねぇ」

スキンヘッドは殺気混じりに手を挙げて俺を制止すると、すんなり教えてくれた。

「ミラって女なら都市の最下層に連れて行かれたぜ」

「最下層?」

「何だ、テメェ、そんなことも知らねぇのか?」

スキンヘッドが言うにはこの都市は、上層、中層、下層、そして最下層という階層構造を成しているという。

監獄だった当時は、罪が重い犯罪者になるほど下の層に収容されていたそうだ。

そして現在も下の層に行くほど、より危険な連中が牛耳っているのだとか。

「中層や下層に比べりゃ、オレたち〝アビスデビル〟なんて可愛いもんだ。最下層となると、もはや想像したくもねぇ」

スキンヘッドは顔を歪める。

その最下層にいるのは、この都市の総領とその側近の連中だけという。

「総領ってのは何だ?」

「最強最悪の犯罪者にして元死刑囚――そして、かつて囚人たちを扇動し、この監獄を看守どもから奪い取った男だ。オレもその顔を見たことは一度もねぇが、その恐ろしい伝説は嫌でも耳にしている。この都市にルールなんてもんはねぇが、総領にだけは誰も逆らえねぇ。逆らったら最後、どんな凶悪な犯罪組織だろうと、組織ごと消されちまう」

ふむ。

つまりこの都市の創設者で、現在もトップに君臨しているということか。

「ミラって女は、その総領のところにいるみたいだぜ。詳しい経緯は知らねぇが、偶然、上層にいた総領が見初めたとかって噂だ。どんな扱いをされているかは知らねぇな。なにせ最下層はオレなんかじゃ足を踏み入れることすらできねぇ場所だからな」

俺は強い憤りを覚えた。

「なんてロリコン野郎だ! 確かにミラはとんでもなく可愛いし、最近一気に背が伸びて大人っぽくなたから美人と呼んでもいいくらいだが、それでもまだ十歳なんだぞ!」

「……」

なぜかスキンヘッドが半眼で俺を見てくる。

こうしてはいられない。

すぐにミラをその変態から助けないと。

だが情報提供の礼を言って立ち去ろうとした俺の前に、スキンヘッドが立ちはだかった。

「待てよ。テメェ、どうする気だ?」

「決まってる。その総領とやらのところに行って、ミラを取り戻す」

「言っただろ? 総領に逆らったら死ぬってよ。それより、オレの下に付かねぇか? うちの雑魚百人分以上の戦力はあるみたいだしよ、テメェがいればオレたちはもっと組織をでかくできる」

スキンヘッドが勧誘してくる。

もちろん返事はノーだ。

「悪いがお断りだ」

「そうか、残念だな。オレの手下になるってのなら、手下同士の喧嘩ってことで大目に見てやろうと思ってたんだがよォ――」

刹那、スキンヘッドの姿が消えた。

ふむ、それなりの速さだな。

しかも動くと同時に〈隠密〉スキルを使っているようで、普通の人間なら確実に見失っていただろう。

だがスキンヘッドが背後に回り込み、ナイフを俺の背中に向けて突き出してくるのが、俺には完全に見えていた。

振り返ってナイフを指で摘まむ。

「……な?」

「【上級職】の《暗殺者》ってとこか。だが暗殺するならそもそも最初から姿を現すべきじゃなかったな」