軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第276話:申し訳なさと、アドバイス

『週末に編集を教える時に素材が複数あった方がいいから、あと1週間あるし、もう1〜2本動画撮っておいてくれると後々楽かも!』

日曜日の夜。

グループLINEの最後に翔さんから送られてきた提案に、俺は『わかりました。平日、作りやすいメニューの時に撮っておきます』と返信し、スマホを置いた。

その後、俺は自分の部屋でゆっくりとお風呂に浸かり、上がったところでちょうどスマホが鳴った。

『お風呂出たよー』という凛からのメッセージを見て、俺は隣の彼女の部屋へと向かう。

「お疲れ。じゃあ、ちょっとほぐすか」

「うん……お願い」

いつものように凛の背中や肩をマッサージし、凝り固まった体をストレッチで伸ばしていく。

一通りケアを終えた後、俺はソファの横に座り、さっき撮ったばかりの親子丼の動画をスマホで見返していた。

凛の撮ってくれた映像は、手ブレも少なく、本当に美味しそうに撮れている。

だが、ふと思う。

(……この寄り引きの調整とか、三脚のアームを工夫すれば、俺一人でもできるんじゃないか?)

凛はプロのイラストレーターとして、日々忙しく作業をしている。

そんな彼女の貴重な時間を、俺の動画撮影のために毎回削らせてしまうのは、少し申し訳ない気がした。

「……なぁ、凛。次の撮影なんだけどさ――」

相談しようと顔を上げると、隣で丸くなっていた凛からは、スースーと規則正しい寝息が聞こえていた。

マッサージで体がほぐれ、安心して眠ってしまったらしい。

「……ふっ。仕方ないな」

俺は苦笑しながら彼女を抱き上げ、ふかふかのベッドへと寝かせた。

布団を首元までしっかりとかけ、無防備な寝顔にそっと呟く。

「おやすみ、凛」

部屋の電気を消し、静かにドアを閉める。

俺も自分の部屋へと戻り、温かい布団の中で深い眠りについた。

翌日の月曜日。

いつも通り二人で並んで登校し、学校という日常に戻ってきた。

2時間目の休み時間。

俺が自分の席で次の授業の準備をしていると、佐藤さんと寺田さんが連れ立ってやってきた。

「瀬戸、やっほー!」

「週末はご飯作ってくれてありがとね。すっごく美味しかったよ」

二人はそう言って、可愛らしいラッピングが施されたクッキーの詰め合わせを俺の机にコトンと置いた。

「いや、美味しかったならよかったよ。またいつでも、凛と遊んでやって」

「ふふっ、保護者みたい」

寺田さんがくすくすと笑う。

すると、隣にいた佐藤さんがニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そういえばさ、凛からプレゼントもらった?」

「ああ、ハンドクリームだろ? 水仕事で手荒れに困ってたから、すごく助かるんだ」

俺が正直な感想を伝えると、佐藤さんは呆れたように肩をすくめた。

「もう、相変わらず感想がオカンすぎるって! 凛ちゃん、瀬戸くんのために一生懸命選んでたんだからね?」

「彼女からのプレゼントなんだから、大事に使ってあげてね」

二人はからかうようにそう言い残し、クスクスと笑いながら自分たちの席へと戻っていった。

(……彼女からのプレゼント、か)

その響きに少しだけ照れくさくなりながら、俺は貰ったクッキーをカバンの中にそっとしまった。

そして、5時間目の休み時間。

お昼休みはいつも5人でご飯を食べているため、俺はこの時間を狙って親友の大輝を呼び出した。

少し人目のつかない渡り廊下へ移動し、真剣な顔で切り出す。

「なぁ、大輝。お前……寺田さんと、お泊まりしたことあるよな?」

「ぶっ!?」

俺の単刀直入すぎる質問に、大輝は驚いて目を丸くした。

「……お前、急に何聞いて……ははーん。なるほどな」

大輝はすぐにニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「とうとうお前らも、週末お泊まりするのか?」

「……まあ、な。だから、ちょっと先輩として気をつけることとかあるかなと思って」

俺が白状すると、大輝は「ふむ」と顎に手を当てて少し真面目な顔になった。

「そうだな。瀬戸は家事全般完璧だから、料理とか部屋の綺麗さに関しては俺が言うことは何もない。強いて言うなら……『洗面所のスペース』かな」

「洗面所のスペース?」

「ああ。女の子はお泊まりの時、スキンケアとかヘアケア用品とか、とにかく水回りで使う荷物が多いんだよ。だから、洗面台の鏡の周りとかに『冬月さん専用の小物を置けるスペース』を綺麗に空けておいてやると、喜ぶんじゃないか?」

(――なるほど!)

料理や寝具の準備ばかりに気を取られていたが、確かに水回りの使いやすさは盲点だった。

「お前、すごいな……。全然気づかなかった。帰ったら早速洗面台の整理するわ」

「ははっ、俺も紗季に怒られて学んだだけだけどな。あとは……」

大輝は俺の肩をポンと叩き、どこか大人びた優しい顔で言った。

「変に完璧におもてなししようとするな。お前ら、普段から隣の部屋同士で一緒にいるんだし。……お泊まりなんて、ただ『夜から朝まで、一緒に過ごせること』自体が一番嬉しいんだからさ」

「……ああ、そうだな。ありがとう、大輝」

親友からのリアルで温かいアドバイスをもらい、俺の胸の内にあったお泊まりへの妙な力みが、スッと心地よいワクワク感へと変わっていくのを感じた。

午後の授業中。

ノートを取りながらも、俺の頭の中は洗面台のレイアウト変更と、動画ストックのための夕飯の献立のことでいっぱいだった。

(今日の夕飯は、撮影しやすい『豚の生姜焼き』にしよう。千切りキャベツをたっぷり添えて……)

ただ、千切りキャベツは料理初心者には少しハードルが高いかもしれない。

キャベツ自体は冷蔵庫に余っているが、動画のネタとして「時間がない時や、千切りが苦手な人は、スーパーで売っているカット済みの千切りキャベツを使うのもオススメです」という紹介を入れたらどうだろうか。

それなら、料理のハードルがグッと下がるはずだ。

(よし、今日の帰りはスーパーに寄って、カット済みの千切りキャベツと豚肉を買って帰ろう)

放課後のチャイムが鳴る。

早く凛と一緒に帰って、スーパーで買い出しをしたい。

そんな当たり前で特別な日常の続きを思い浮かべながら、俺の帰路につく足取りは、いつも以上にふわりと軽いのだった。