軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第243話:お疲れの夜と、料理動画

「お疲れー!」

「朝陽、冬月さん、また来週な!」

時刻は十七時過ぎ。

薄暗くなった学校の駐車場で、俺たちはクラスメイトたちと手を振り合った。

楽しかった遊園地への校外学習も、これにて終了だ。

「大輝たちも気をつけて帰れよ。また月曜な」

俺と凛もバスから荷物を下ろし、連れ立って学校の正門へと向かって歩き出す。

そのすれ違いざま、まだ残っていた他のクラスの男子グループから、ひそひそとした話し声が耳に届いた。

「おい見ろよ、瀬戸たちだ。やっぱ手繋いで帰るんだな」

「……今日の冬月さん、マジで信じられないくらい可愛かったよな。ショートパンツ姿、ヤバかったわ」

「お前あんま見んなって、瀬戸に睨まれるぞ。でも、あれは羨ましすぎるだろ……」

(……しっかり聞こえてるっつーの)

思わず苦笑いが漏れる。

だが、他の男子から「羨ましい」と言われるほど可愛い彼女が自分の隣を歩いている事実は、男として純粋に誇らしかった。

「ん? 朝陽くん、どうかした?」

「いや、なんでもない。……今日一日、本当にお疲れ様」

「うんっ、お疲れ様!」

俺は、繋いでいる凛の小さな手を少しだけ強く握り返し、家路へと足を踏み出した。

マンションへ帰る道すがら、俺たちは駅前の大きなスーパーに立ち寄っていた。

いつもなら俺が夕飯を作るのだが、今日は二人とも絶叫マシンやお化け屋敷で予想以上に体力を削られており、完全にお疲れモードだったのだ。

「今日はさすがに疲れたし、スーパーのお惣菜で済ませようか」

「賛成! あ、じゃあさ、せっかくだから色んな種類を買って、二人でシェアしようよ!」

「そうだな、食べたい物が沢山あるのか?」

「そう! ちょっとずつ色んなものを食べたい気分なんだよね」

凛は目を輝かせながら、夕方の割引シールが貼られ始めたお惣菜コーナーへと小走りで向かっていく。

俺もカートを押しながらその後を追った。

「これ美味しそう! 焼き鳥の盛り合わせ!」

「じゃあ俺はこの海鮮太巻きにしようかな。あと、オニオングラタンスープも買うか。夜は冷えるしな」

「いいねいいね! あと、食後のデザートにプリンも買っちゃお!」

普段の自炊では作らないようなメニューをポンポンとカゴに入れていく。

「これ半分こしよっか」と話し合いながら二人で夕飯を選ぶこの時間は、なんだか一緒に暮らしている家族みたいで、不思議と心が温かくなった。

スーパーからの帰宅後。

俺の部屋で広げたお惣菜パーティーは、お腹を空かせていた俺たちによってあっという間に平らげられた。

「ごちそうさまでした! はぁ〜、お腹いっぱい!」

「ああ、美味しかったな。それじゃ、お風呂にお湯張ってくるな」

「うん、今日はこっちで入っていい?」

「わかった、服取りに行っておいで」

「やった!」

その後、順番にお風呂に入り、マッサージや歯磨きを終え、あとは寝るばかりになった。

今度は俺が凛の部屋へと移動し、二人でソファに並んでテレビを見ていた。

「そういえば、あのスカイサイクルの時さ——」

俺が今日撮ったスマホの写真を見せながら話しかける。

しかし、隣からは何も返事が返ってこない。

「ん? 凛?」

ふと横を見ると、凛はソファの背もたれに深く寄りかかり、気持ちよさそうに目を閉じていた。

「すー……すー……」と、規則正しい寝息が聞こえてくる。

(……寝付き良すぎだろ)

俺は思わず小さく吹き出した。

お風呂上がりで体が温まり、お腹もいっぱいで、おまけに今日は一日中歩き回ったのだ。無理もない。

とはいえ、このままソファで寝かせては風邪を引いてしまう。

俺はそっと立ち上がると、眠っている凛の背中と膝の裏に腕を差し入れ、ゆっくりと持ち上げた。

「んぅ……あさひ、くん……?」

「ん、寝てていいよ」

お姫様抱っこの状態になり、凛が微かに目を開けるが、俺の顔を見るとすぐに安心したように再び目を閉じて、俺の胸にすりすりと顔を擦り付けてきた。

そのままベッドまで運び、そっと彼女を下ろして掛け布団を肩までかけてやる。

幸せそうに丸まったその寝顔を見ていると、俺の胸の奥まで温かいもので満たされていくようだった。

「おやすみ、凛」

俺は彼女の頭を撫でてから部屋の電気を消して、静かに自分の部屋へと戻った。

翌朝、土曜日。

俺が目を覚ましたのは、時計の針がすでに九時を回った頃だった。

「ふわぁ……ちょっと寝すぎたな」

大きく伸びをしてベッドから抜け出す。

体の節々に疲労感が残っている。

顔を洗い、キッチンに立って目玉焼きとトーストという簡単な朝食を作りながら、スマホで凛に『おはよう』とメッセージを送る。

しかし、三十分経っても既読はつかなかった。

(まだ寝てるのか)

俺は念のため、持っている合鍵でそっと隣の部屋のドアを開けてみた。

「凛ー? 起きてるか?」

「…………すぅ……」

ベッドの中には、毛布にくるまってイモムシのようになった凛が、昨日と全く同じ寝息を立てて爆睡していた。

昨日あれだけはしゃいでいたのだから、そりゃ疲れているだろう。

俺は苦笑いしながら、彼女を起こさないように静かにドアを閉めた。

自分の部屋に戻り、一人で朝食を済ませ、洗濯と簡単な掃除を終わらせる。

時計はまだ十一時前。

ぽっかりと時間が空いてしまった。

俺はソファに寝転がり、暇つぶしにスマホの動画サイトを開いた。

最近、俺がよく見ているのは『料理系の動画チャンネル』だ。

以前はレシピ本を開くことが多かったが、動画だと細かい手元の動きや、火加減のリアルな様子が分かりやすいのだ。

「へえ、このアングル、真上から撮ってるのか。食材を切る音がASMRみたいでいいな」

画面の中では、顔出しをしていない配信者が、手際よくパスタを作っている。

テロップの入れ方や、見ている側を飽きさせないテンポの良い編集。

ただ「料理の作り方」を学ぶだけでなく、最近は『どうやって見せているのか』というクリエイター目線で動画を眺めることが増えていた。

(……俺が普段作ってる料理も、こういう風に撮ったら面白いのかもな)

なんとなく、そんな考えが頭をよぎる。

しばらく動画を眺めていると、玄関のチャイムがピンポーンと鳴った。

ドアを開けると、そこには寝癖をピョンと跳ねさせ、パジャマ姿で目をこすっている凛が立っていた。

「……おはよう〜、朝陽くん……」

「おはよう。よく寝たな」

ぼんやりとした顔の彼女を見て、俺は思わず頬を緩める。

最高に楽しかった遊園地デートが終わり、またこうして、穏やかで温かい二人の日常が始まっていくのだった。