軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話:私服の学校と、思い出のバス

金曜日の朝。

いつもより少しだけ早く起きた俺たちは、朝食を済ませてそれぞれの部屋で着替えを終えた。

「朝陽くん、お待たせ!」

玄関で合流すると、そこには昨日俺が選んだ服を着た凛が立っていた。

私服姿の彼女と学校に行くというだけで、なんだかとても新鮮な気分になる。

「おはよう。やっぱりその服、すごく似合ってるな」

「えへへ、ありがとう。……朝陽くんも、すごくかっこいいよ!一緒に買った服着てくれて嬉しい!」

「そりゃどうも。凛の隣を歩くのに、見劣りするわけにはいかないからな」

俺が今日着ているのは、告白の少し前に凛と一緒に買い物へ行った時、彼女が「絶対にこれがいい!」と熱押しして選んでくれた服だ。

ネイビーのハイネックのトップスに、細身のシルエットが綺麗なグレーのチェスターコート。

下はコートに合わせて黒のスキニーパンツを選んだ。

普段の地味な俺とは違う、凛のお墨付きをもらった大人っぽい勝負服だ。

アパートを出て、二人で手を繋いで歩き出す。

肌を撫でる十一月中旬の空気はツンと冷たいが、繋いだ手から伝わる体温が心地よい。

「なんか、これから学校に行くって感じが全然しないね。普通に休日のお出かけみたい」

「そうだな。周りを見ても、同学年の奴らはみんな私服だしな」

すれ違う同じ学年の生徒たちも全員が私服姿で、通学路は完全にデートスポットに向かう道のようになっていた。

俺たちはワクワクした気持ちを隠しきれないまま、学校までの道のりを楽しんだ。

学校に到着すると、校内は普段とは全く違う空気に包まれていた。

学年全員私服という非日常感のせいで、あちこちで服を褒め合ったり、そわそわと浮き足立っている。

「じゃあ、俺はこっちだから。また後でバスでな」

「うんっ、また後でね!」

二階の廊下で、凛の教室の前で手を振って別れる。

凛がガラッとドアを開けて自分の教室に入った瞬間。

『うおぉー!!』

『冬月さん、私服めっちゃ可愛い!!』

『やば、モデルじゃん!』

ドア越しに、クラスの男女からどよめきのような歓声が上がったのが聞こえた。

(……相変わらず、すごい人気だな)

俺は少しだけ誇らしいような、気恥ずかしいような気分になりながら、自分の教室へと向かった。

教室のドアを開けると、こちらでもいつもの面々が賑やかに騒いでいた。

「お、朝陽じゃん! おはよう!」

「おはよう、瀬戸くん! ……ほう、それが凜ちゃんに選んでもらった服だね?意外と似合ってる」

俺の姿を見るなり、大輝と寺田さんが目を丸くして駆け寄ってくる。

「意外とは失礼だな。俺だってたまにはちゃんとした服くらい着るぞ」

「いやー、いつも大人しいからさ! そのチェスターコート、大人っぽくてめっちゃ似合ってんじゃん!」

「まあでも、彼女があの氷の令嬢だもんねー。隣を歩くなら、これくらいおしゃれしないと大変だよね!」

大輝がバンバンと俺の肩を叩き、寺田さんがニヤニヤしながらからかってくる。

周囲のクラスメイトたちも「瀬戸、キマってんな!」と声をかけてくれる。

そこには嫌味や僻みは一切なく、誰もが好意的に接してくれる平和な空気があった。

ホームルームが終わり、学年全体が校庭に停められた大型バスへと移動を開始する。

指定されたバスに乗り込み、決められた座席へと向かう。

俺と凛の席は、1号車の一番後ろ、五人掛けのシートのうちの二席だった。大輝たちはもっと前の席だ。

「凛、景色が見えるように窓際に座りなよ」

俺が一番端の窓側を譲ろうとすると、凛はフルフルと首を横に振った。

「ううん、私がこっち側がいい。朝陽くんが窓側に座って」

「え? 俺は別に景色とか見なくても……」

「ダメ。私がここがいいの」

有無を言わさない圧に押され、俺は大人しく一番端の窓側に座り、凛が俺の右隣に座った。

そして、凛のさらに右隣に、別のグループの女子生徒たちが座ってくる。

(……危なかった、変わってなかったら気まずくなるところだった)

「冬月さん、おはよう! そのダッフルコート可愛いね!」

「おはよう! ありがとうございます、そっちのワンピもすごく似合ってるね」

隣の席の女子生徒が、凛に気さくに話しかけてくる。

「ねえねえ、今日ってどこから回るの?」

「立体迷路に行ってから、コースターに乗ろうと思ってるんだ」

「へえー! あ、瀬戸くんって、冬月さんから見てどういうところがかっこいいの? 料理うまいって噂だよね!」

女子特有の突然の恋バナのパス。

窓際に追いやられている俺の耳にも、その会話はバッチリ聞こえている。

「えっとね……料理が美味しいのはもちろんだけど……すごく優しくて、いざという時に頼りになるところですかね。」

凛が少し頬を赤くしながら、楽しそうに答える声が聞こえてくる。

(……頼むから、俺が隣にいる時に惚気るのはやめてくれ)

俺は窓の外を向いたまま、必死に赤くなった顔を隠した。

やがてバスが静かに発進する。

「……そういえば」

凛が俺の袖をちょこんと引っ張った。

「こうやって二人でバスに並んで乗るの、あのイルミネーションの時以来だね」

「……そうだな。あの時は、まだ付き合ってなかったしな」

「うんっ。……えへへ」

当時の初々しい緊張を思い出し、お互いに顔を見合わせて照れ笑いをする。

あの時とは違う、はっきりとした安心感と幸せが、この席には満ちていた。

バスの道中は約二時間。

途中、サービスエリアでの休憩を挟みつつ、車内は終始、学生らしい賑やかな空気に包まれていた。

俺の前の席の奴らもトランプをして盛り上がっているし、凛も隣の女子たちと楽しそうにアトラクションの情報交換をしている。

そして、大きな渋滞に巻き込まれることもなく、バスは無事に目的地の駐車場へと到着した。

バスを降りて少し歩くと、目の前には巨大で華やかな入園ゲートがそびえ立っていた。

その奥には、空高くそびえるジェットコースターのレールや、ゆっくりと回る巨大な観覧車が見える。

見上げれば、雲一つない見事な秋晴れの空が広がっていた。

「わぁ……着いたぁ!」

凛が目をキラキラと輝かせ、両手でギュッと拳を握りしめて気合を入れる。

「よーし! 今日は一日、思いっきり楽しむぞー!」

はしゃぐ凛の姿は、まるで小さな子供のように無邪気で、最高に可愛らしい。

俺はそんな彼女の姿を優しく見守りながら、そっと横に並んだ。

「ああ。一緒に行こうな、凛」

「うんっ!」

俺たちはしっかりと手を繋ぎ、笑顔を交わし合って、ゲートの向こう側へと足を踏み入れた。

待ちに待った、遊園地デートの始まりだ。