軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第234話:ファッションショーと、アトラクション

「ちょっと待ってて! 今、持ってくるから!」

凛はパタパタと小走りで自分の部屋に戻ると、すぐに三着ほどの服を両手に抱えて戻ってきた。

「じゃじゃーん。明日の候補はこの三パターンです。しっかり吟味してね、朝陽くん!」

「おぉ……気合入ってるな。……スカートは一つもないんだな」

俺が確認すると、凛は「ふふん」と得意げに人差し指を立てた。

「明日は絶対に『観覧車』に乗るでしょ? スカートだと乗り降りのステップで裾を気にしなきゃいけないし、朝陽くんに余計な心配させちゃうのは嫌だもん。私も思いっきりはしゃぎたいから、今回は機能性重視、かつ可愛さも捨てないラインナップなの!」

凛のその気遣いが、俺には何よりも嬉しかった。

彼女の私服姿はただでさえ破壊力が高い。

余計なハプニングを心配せずに済むのは、精神衛生上とても助かる。

「じゃあ、一着目からいくよ」

凛は脱衣所へ向かい、一着目に着替えて戻ってきた。

白のゆったりしたオーバーサイズニットに、足のラインを強調するネイビーのスキニーデニム。

普段の清楚な冬月さんとは少し違う、年相応の活発な女の子という印象だ。

ニットの裾からチラリと覗くチェックのシャツもアクセントになっていて、とても爽やかだ。

「お、いいじゃん。遊園地っぽくて動きやすそうだし、何より凛に似合ってる」

「えへへ、でしょ? じゃあ次ね! 」

続いて現れたのは、厚手の黒タイツに、落ち着いたチャコールグレーのショートパンツを合わせたスタイル。

その上には、木のトグルボタンが可愛いキャメルのダッフルコートを羽織っている。

フードの縁に付いたフェイクファーが彼女の小さな顔を縁取り、守ってあげたくなるような愛らしさが凝縮されていた。

「…………」

「あ、朝陽くん? 固まってるよ?」

「いや……これも、すごくいい。冬のデートって感じがする」

「本当? よかったぁ。じゃあ最後、三着目!」

最後の一着は、黒のタートルネックセーターに、足首まであるシックなグレーのワイドパンツ。

そこに少し長めのチェスターコートを合わせた、都会的なコーディネートだった。

髪をコートの外に出してふんわりとさせている姿は、どこか大学生のような落ち着きがあって、ドキッとさせられる。

三着すべてを見せ終えた凛が、俺の目の前で期待に満ちた瞳を向けてきた。

「……どれも良すぎて迷うけど、俺の個人的な好みで言わせてもらうなら、二着目が一番いいと思う。遊園地の賑やかな雰囲気にも合ってるし、そのダッフルコート姿、すごく可愛い」

「ほんと!? えへへ、じゃあ朝陽くんが選んでくれたこの二着目にするね! 」

バシッと勝負服が決まり、凛は嬉しそうに着替えてからリビングへと戻ってきた。

服が決まったところで、俺たちはソファに隣同士でくっついて座り、タブレットを開いた。

「よし、次は作戦会議だ。どこから回るか決めておかないとな」

「うんっ! 画面、見せて見せて」

タブレットに表示された遊園地のマップを二人で覗き込む。

自然と肩が触れ合い、彼女の髪からシャンプーのいい香りが漂ってきて、俺の集中力は早くも削られそうになる。

「まずは、この『巨大立体迷路』じゃないか? 朝一番なら並ばずに行けそうだし」

「賛成! その後は……あ、このジェットコースター! 結構落差があるみたいだけど、朝陽くん大丈夫?」

「俺は平気だけど、凛は?」

「実は、ちょっとだけ怖いかも……。でも朝陽くんと一緒なら頑張れる気がする!」

そんな健気なことを言われたら、俺がしっかり支えてやるしかない。

「コースターで叫んだ後は、お昼だな。このエリアにあるオムライス専門店、有名なんだろ?」

「そうそう! 卵がふわとろなんだって。絶対食べたい!」

「よし、お昼はそこだな。午後は少し落ち着いて……あ、お化け屋敷はどうする?」

「お、お化け屋敷……? ……朝陽くん、私のこと守ってくれる?」

上目遣いで不安そうに聞いてくる凛を見て、俺は少しだけ悪戯心に火が点いた。

「……うーん、どうだろうな。怖がって歩けなくなったら、俺一人で先に逃げて置いてっちゃうかもな」

「えっ!?」

凛はぷくっと分かりやすく頬を膨らませ、俺の腕をポカポカと軽く叩いた。

「もー! 朝陽くんの意地悪! もしそんなことしたら、泣きながら皆に言いふらすから!」

(報復が笑えない…。)

「ははっ、ごめんごめん、冗談だって。ちゃんと最後まで手、繋いでてやるよ」

「……絶対だからね? 途中で離したら許さないから」

むすっとしながらも、少しホッとしたように俺の腕に寄りかかってくる。

「その後は、コーヒーカップで思いっきり回るか? 俺、結構加減せずに回すぞ」

「あはは、ダメだよ! 目が回って歩けなくなっちゃうでしょ? 優しく回してね」

他愛のない話で笑い合い、計画は着々と埋まっていく。

「そして最後は……もちろん観覧車だな。夕暮れ時か、夜景が見えるくらいの時間が一番綺麗らしい」

「うん、絶対乗りたいな。二人きりの空間……楽しみだね、朝陽くん」

凛は俺の腕に頭をこてんと預け、幸せそうに微笑んだ。

「ふぅ……作戦会議もバッチリだね。なんか、遠足の前の日みたいでドキドキして眠れないかも」

タブレットを閉じ、凛が照れくさそうに笑った。時計は二十二時半を回っている。

「気持ちは分かるけど、明日は朝早いからな。……そろそろ寝るか」

「うん。……じゃあ、行こうか」

俺たちは立ち上がり、二〇二号室へと向かった。

凛が部屋に入り、パジャマに着替えてベッドに潜り込むまで、俺はリビングの椅子に座って静かに待つ。

「……朝陽くん、準備できたよ」

寝室から控えめな声が聞こえてきた。

俺は立ち上がり、彼女の寝室へと入った。

そこには、布団を肩までかけて、少しだけ期待したような瞳で俺を見上げる凛がいた。

「……お待たせ」

俺はベッドの横に腰を下ろし、そっと手を伸ばした。

彼女の柔らかい髪を、慈しむように優しくポンポンと撫でる。

「今日もお疲れ様。仕事、よく頑張ったな」

「……うん。朝陽くんと明日沢山楽しむために頑張った!」

凛は幸せそうに目を細め、俺の手に擦り寄るように頭を預けてくる。

その猫のような仕草がたまらなく愛おしい。

「おでこにキスはしてくれないの?」

凜はニヤニヤしながら見つめてきた。

「何のことかな…。」

「ふーん…。そうゆうことにしておこう」

「明日は一日、思いっきり楽しもうな。……おやすみ、凛」

「うん……おやすみなさい、朝陽くん。また明日、楽しみにしてるね」

彼女がゆっくりと瞳を閉じるのを見届け、俺は部屋の明かりを落として自分の部屋へと戻った。

自室のベッドに潜り込むと、さっきのファッションショーの姿や、タブレットを見つめる彼女の横顔が頭の中をぐるぐると回っていた。

(……こりゃ、俺も遠足前の小学生と変わらないな)

公認カップルとして初めて出かける、堂々とした遊園地デート(課外授業)。

今まで隠れて過ごしてきた分、明日は世界で一番、凛を笑顔にしてみせる。

俺は胸の奥で燻るワクワク感に苦笑しつつ、静かに眠りについた。