軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第219話:逆鱗と、守るための瞳

一時間目の授業が終わるチャイムが鳴った直後だった。

朝のホームルーム前よりもさらに人数の増えた男子たちが、再び俺の机をぐるりと取り囲んだ。

「おい瀬戸。さっきは先生が来たから有耶無耶になったけどな、俺たちはまだ納得してねえぞ」

先頭に立っている男子が、机をバンッと叩いて声を荒げる。

朝の「尋問」の時はまだ驚きや好奇心が勝っていたようだが、今は完全に「嫉妬」と「敵意」が剥き出しになっていた。

「正直、お前みたいなパッとしない地味な奴が冬月さんと付き合ってるなんて、到底納得いかねえんだよ」

「そうだそうだ! どうせ何か弱みでも握って脅してるんだろ?」

「お前みたいなモブ、冬月さんには不釣り合いなんだよ。さっさと別れろ!」

次々と投げかけられる一方的な罵詈雑言。

俺は小さく息を吐き、ただ黙って彼らの言葉を聞き流していた。

正直、俺自身のことをどう言われようが全く気にならない。

俺が地味なことなんて自分が一番よく分かっているし、彼らが「氷の令嬢」に強い憧れを抱いているのも理解できるからだ。

ここで俺がムキになって言い返せば、余計に話がこじれるだけだ。

「おい、なんか言えよ瀬戸!」

男子たちがさらにヒートアップし始めた、その時だった。

「……ちょっと、あんたたち。いくらなんでも言い過ぎじゃないの」

少し離れた席から様子を見ていた寺田さんが、たまらず立ち上がって声を上げた。

「なんだよ寺田。お前には関係ないだろ」

「関係なくないよ。……ちょっと待ってて、瀬戸くん」

寺田さんは怒ったような顔で男子たちを睨みつけると、そのまま足早に教室を飛び出していった。

どうやら、隣の二組へ向かったらしい。

それから数分後。

クラスの入り口が、にわかに騒がしくなった。

「……えっ、冬月さん?」

「なんで一組に……」

クラス中の視線が一斉にドアへ向けられる。

そこには、寺田さんに連れられてやってきた凛の姿があった。

凛は教室を見渡し、俺を囲んで罵声を浴びせている男子たちの集団を見つけると、その表情をスッと氷のように冷たくさせた。

彼女は迷いのない足取りで、男子たちの輪を割り進んでくる。

「……私の朝陽くんに、何をしているんですか?」

静かだが、ひどく冷え切った声だった。

クラス中が「朝陽くん」という名前呼びにどよめく中、先頭にいた男子が顔を真っ赤にして興奮気味に言い返した。

「ふ、冬月さん! なんで瀬戸なんかと付き合ってるんだよ! こんなパッとしない奴のどこがいいんだよ!」

「あなたたちには関係ありません。朝陽くんは誰よりも優しくて、素敵な人です。彼を侮辱するのはやめてください」

凛が一歩前に出て、俺を庇うように言い放つ。

その態度が、興奮しきっていた男子の感情に火をつけてしまったらしい。

「目を覚ませよ冬月さん! こんな奴――っ」

男子が声を荒げ、俺を指差そうとしたその手を勢いよく振り上げた。

そして、目の前に立っていた凛を俺から引き離そうと、彼女の細い腕を力任せにガシッと掴んでしまったのだ。

「っ……痛っ」

凛が顔を顰め、小さな悲鳴を漏らす。

――その瞬間。

俺の中で、絶対に切らしてはいけない理性の糸が、ブチッと音を立てて切れた。

「……ッ」

ガタッ!と椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、俺は凛の腕を掴んでいるその男子の手首を、横から全力で掴み上げた。

「いっ……!?」

俺はそのままギリギリと力を込め、男子の目を真っ直ぐに射抜く。

かつて、凛に絡んできたタチの悪いナンパ男を撃退した時に見せた、不良ですら蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる、底知れぬ怒りを込めた瞳で。

「……その手を、離せと言ってるんだ」

地獄の底から響くような、低く冷徹な声。

さっきまで俺を「地味なモブ」と見下して罵声を浴びせていた男子が、俺の目を見た瞬間、ヒュッと喉の奥で悲鳴を鳴らし、顔面を蒼白にさせた。

「ひっ……あ、ああ……っ!」

男子が弾かれたように手を離すと、俺はすぐさま凛の肩を抱き寄せ、自分の背後に隠すように守った。

背中に回った凛が、俺の服の裾をぎゅっと握りしめているのがわかる。

怖がらせてしまっただろうかと思ったが、振り返る余裕はない。

「いっっっだ……! なんだよ、お前……っ」

俺に手首を掴まれていた男子が、痛みに顔を歪めながら後ずさりする。

彼が押さえている自分の腕の袖をめくると、俺が強く握りしめた部分の肌が、赤黒く変色してくっきりと指の痕が残っていた。

「どんな握力してんだよ……」

その尋常ではない痕と、俺のまとっているただならぬ空気に、周囲を取り囲んでいた男子たちも完全に言葉を失い、恐怖で一歩、また一歩と後退していく。

教室が異様な静寂と緊張感に包まれた、その時。

ガラッと前のドアが開き、二時間目の担当教師が教室に入ってきた。

「おい、何を騒いでる。もうチャイム鳴るぞ、自分の席に着け!」

先生の呆れたような一喝が響き渡る。

俺は小さく息を吐き出し、スッと全身の力を抜いて、いつもの温厚な表情に戻した。

「……すみません。今、座ります」

俺がそう答えると、周りにいた男子たちは蜘蛛の子を散らすように、逃げるように自分の席へと戻っていった。

「凛、ごめんな。腕、大丈夫か?」

「うん……平気だよ。ありがとう、朝陽くん」

「……あとでちゃんと見せてな。じゃあ、休み時間にまた」

小声でそう言葉を交わし、凛も自分のクラスへと戻っていく。

二時間目の授業が始まる中、俺の周囲には奇妙なほどの静けさが漂っていた。

俺をからかう者も、文句を言う者も、もう誰もいない。

彼らは本能的な恐怖によって理解したのだ。瀬戸朝陽という男が、ただの大人しい「地味なモブ」などではないということを。