軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第205話:光の海と、秘密の穴場

暗闇に包まれた広場に、アナウンスの声が響き渡る。

それに合わせて、集まった大勢の人々が一斉に声を上げ始めた。

『5、4、3、2、1……点灯!』

その瞬間、パッと視界が眩い光に包まれた。

広場の中央にそびえ立つ巨大なツリーを中心に、周囲の木々や足元の芝生に至るまで、無数のLEDライトが一斉に息を吹き返したのだ。

「わぁっ……!」

凛が感嘆の声を漏らし、繋いでいない方の手で口元を覆う。

シャンパンゴールド、ブルー、ピンク……。色とりどりの光が織りなすその景色は、まるで地上に星空が舞い降りたかのような、圧倒的な美しさだった。

「すっごく綺麗……! 朝陽くん、見て、あっちのトンネルもすごいよ!」

興奮した様子で俺の腕を引く凛の顔は、イルミネーションの光に照らされて、きらきらと輝いている。

「本当に綺麗だな。じゃあ、ゆっくり見て回ろうか」

「うんっ!」

俺たちはしっかりと手を繋いだまま、光の海へと足を踏み入れた。

全長が百メートル以上もあるという光のトンネルをくぐり、様々な光のオブジェを見て回る。

写真を撮り合うカップルや、はしゃぐ子供たちの間を縫って歩きながら、俺は凛の横顔を見つめていた。

美しい景色を見て無邪気に喜ぶ彼女の姿は、周りのどんなイルミネーションよりも俺の心を惹きつけてやまない。

「少し冷えてきたな。何か温かいもの、買おうか」

一時間ほどゆっくりと散策したところで、屋台やキッチンカーが並ぶエリアに出た。

夜の寒さが本格的になってきたこともあり、温かいものが恋しくなる。

「あ、朝陽くん。あそこでホットココア売ってる!」

「よし、じゃあちょっと待ってて。チュロスも一緒に買ってこようか」

「わぁ、賛成! 私、半分こしたいな」

俺は列に並び、湯気の立つホットココアを二つと、シナモンシュガーがたっぷりかかった長いチュロスを一つ買って凛の元へ戻った。

「はい、ココア。熱いから気をつけてな」

「ありがとう……んっ、甘くてあったかーい」

両手で紙コップを包み込み、ふーふーと息を吹きかけてから少しずつ飲む凛。

俺たちはベンチに並んで座り、温かいココアを飲みながら、チュロスを二人で分け合った。

サクッとした食感とシナモンの甘い香りが、冷えた体に染み渡る。

「……ねえ、朝陽くん」

「ん?」

「今日、本当に連れてきてくれてありがとう。私、すごく楽しいよ」

凛が嬉しそうに目を細めて、俺の肩にコツンと頭を預けてきた。

ベレー帽の下の艶やかな黒髪から、いつもの甘いシャンプーの香りがふわりと漂う。

「俺の方こそ。一緒に来てくれてありがとう」

俺は彼女の肩をそっと抱き寄せ、冷たい風から守るようにした。

心臓が、少しずつ早鐘を打ち始めているのが分かる。

ココアを飲み終え、体も温まったところで、俺は立ち上がった。

「凛。こっちに、少し行ってみないか?」

「えっ? あっちって、メインの広場から離れてるけど……何かあるの?」

「まあ、ちょっとついてきてよ」

俺が手を引いて案内したのは、メインの広場から少し離れた場所にある、小高い丘へと続く階段だった。

事前にネットで調べておいた、地元の人間しか知らないような穴場スポットだ。

少し急な階段を上っていくにつれて、周囲の喧騒がどんどん遠ざかっていく。

「……着いたぞ。ここだ」

丘の上にある小さな展望デッキ。

そこにはベンチが一つあるだけで、周りには誰もおらず、静寂に包まれていた。

「わあ……っ!」

凛が展望デッキの手すりに駆け寄り、眼下に広がる景色を見て息を呑む。

そこからは、先ほどまで俺たちが歩いていたイルミネーションの光の海が、パノラマのように一望できた。

メインの広場にいるときには分からなかった光の全体像が、まるで宝石箱をひっくり返したようにきらめいている。

「ここから見ると、もっと綺麗だね……朝陽くん、こんな場所知ってたの?」

「ああ。どうしても、凛に見せたくてさ」

俺が隣に並ぶと、凛は嬉しそうに俺の顔を見上げた。

静かな丘の上。

眼下には色とりどりの光の海が広がり、夜空には澄んだ月が浮かんでいる。

冷たい風が吹き抜け、凛の艶やかな黒髪がふわりと揺れた。

イルミネーションの淡い光に照らされた凛の姿は、信じられないほど美しかった。

透き通るような白い肌。ふっくらとした桜色の唇。

そして、少し見上げるように俺を映している、大きくて澄んだ瞳。

その瞳の中に、無数のイルミネーションの光が星のように反射して、キラキラと輝いている。

(本当に……綺麗だ)

今まで見てきたどんな絶景よりも、今、俺の目の前にいる彼女が一番美しい。

その事実が、俺の心を大きく揺さぶり、そして確かな勇気を与えてくれた。

もう、迷いはない。

俺は、繋いでいた彼女の右手を、少しだけ強く握り直した。

「……朝陽、くん?」

俺の力強さに驚いたのか、凛が不思議そうに小首を傾げる。

俺は彼女の正面に立ち、真っ直ぐに、その宝石のような瞳を見つめ返した。

「凛。……話が、あるんだ」

静寂の中、俺の低く真剣な声だけが響く。

冷たい夜の空気の中で、俺の心だけが熱く、激しく燃え上がっていた。