軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第206話:氷を溶かす、熱熱の告白

眼下には、宝石箱をひっくり返したようなイルミネーションの光の海。

周りには誰もいない、俺たち二人だけの静かな展望デッキ。

俺が真っ直ぐに見つめて「話があるんだ」と切り出すと、凛は少しだけ肩を揺らし、コクリと小さく頷いた。

その大きな瞳が、不安と、そして何かを期待するような色で微かに潤んでいるのが分かる。

冷たい夜の空気を肺いっぱいに吸い込み、一度大きく深呼吸をする。

心臓が肋骨を突き破りそうなほど激しく鳴っていたが、もう迷いはなかった。

「……まずは、ずっと待たせてごめんな」

俺が静かにそう言うと、凛は少しだけ首を横に振って、俺の次の言葉を待ってくれた。

「俺さ、ずっと自信がなかったんだ。成績優秀で、誰が見ても綺麗で、学校中の高嶺の花である『氷の令嬢』。それに、イラストレーターとしての仕事も、すごく頑張っていて……。そんな凄い奴の隣に、ただの平凡な俺なんかが立っていいのかって」

自分の情けなかった本音を、一つ一つ、包み隠さず口にする。

「釣り合わないんじゃないか、周りから何か言われるんじゃないかって……ずっと、そんなことばっかり気にしてた。凛から想いを伝えてもらった時も、本当は凄く嬉しかったのに、逃げ道を作って『保留』なんて卑怯なマネをした。本当に、情けない男だと思う」

凛は何も言わず、ただジッと俺の目を見つめて、俺の言葉を真っ直ぐに受け止めてくれていた。

「……でも」

俺は言葉を区切り、凛の瞳を真っ直ぐに射抜いた。

「凛と一緒にご飯を食べて、笑い合って、同じ時間を過ごしていくうちに……そんなちっぽけなプライドや不安なんか、どうでもよくなったんだ」

一緒に食卓を囲んだ日々。

夏の同居生活。

二人で見た花火。

色々な思い出が脳裏を駆け巡る。

「この間、学校で噂になった時、俺は自分の保身のために『ただの仲のいい女の子』なんて言い訳をして、凛を傷つけた。あの時、凛の悲しそうな顔を見て、心底自分が嫌になったんだ。俺は自分のちっぽけなプライドを守るために、一番大切な人を不安にさせてるんじゃないかって」

俺の言葉を聞いて、凛の瞳からポロリと、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「俺はもう、逃げない。誰に何を聞かれても、周りからどう見られても……胸を張って『凛は俺の彼女だ』って言える男になる。そう決めたんだ」

俺の中にあった熱い感情が、堰を切ったように溢れ出していく。

もう、隠すものなんて何もない。

「俺の作ったご飯を、誰よりも美味しそうに食べてくれるところ。ちょっとヤキモチ焼きなところ。今日みたいに、俺のために一生懸命可愛い服を選んで、お洒落してきてくれるところ。……凛の全部が、どうしようもなく好きなんだ」

俺は、繋いでいた凛の右手を、自分の両手で大切に、優しく包み込んだ。

凛の手は緊張からか、小さく震えている。

「凛」

「……っ、はい」

涙声で返事をした彼女に、俺はありったけの想いを込めて、言葉を紡いだ。

「俺と、付き合ってください。これからは『隣人』じゃなくて……俺の『恋人』として、ずっと俺の隣で笑っていてほしい」

静寂に包まれた丘の上。

俺の告白の言葉が、冷たい夜の空気に溶けていく。

その瞬間、凛の大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がとめどなく溢れ出した。

眼下に広がるイルミネーションの光が彼女の涙に反射して、キラキラと宝石のように輝いている。

凛は繋がれていない方の手で口元を覆い、何度も何度も、小さく頷いた。

「……っ、はい……! 私でよければ……よろしくお願いします……っ」

泣き笑いのような、世界で一番綺麗な笑顔。

その言葉を聞いた瞬間、俺の胸の奥でずっと張り詰めていた糸が、フッと解けるのを感じた。

「……よかった」

俺は心の底からの安堵の息を吐き出し、包み込んでいた凛の手をそっと離した。

そして、涙を流して立ち尽くす彼女に向かって、優しく両腕を広げる。

「ありがとう。……おいで、凛」

俺がそう呼んで微笑みかけると、凛は涙でぐしゃぐしゃになった顔で「……うんっ!」と力強く頷き、俺の胸の中に勢いよく飛び込んできた。

ドン、という小さな衝撃とともに、彼女の華奢な体がすっぽりと腕の中に収まる。

俺は腕を回し、その体をしっかりと、力強く抱きしめ返した。

「ずっと、待ってたよ……っ。もしかしたら、本当はダメなのかもって……時々、少しだけ不安だったから……っ、すごく、嬉しい……っ」

俺のコートの胸元をぎゅっと掴みながら、凛が泣きじゃくるように本音をこぼす。

「待っててくれる」と信じきっていた俺の背後で、彼女はずっと健気に、一人で不安と戦ってくれていたのだ。

「ごめんな。もう絶対に、不安にさせないから」

俺が彼女の艶やかな黒髪を優しく撫でると、凛は俺の胸に顔を埋めたまま、フルフルと首を横に振った。

「ううん……。その代わり、私だって……これからは、本当に遠慮なんてしないからね。恋人になったんだから、今まで以上にいっぱい我が儘言って、いーっぱい甘えるんだから……ちゃんと、覚悟しててね」

涙声のまま、それでも少しだけ悪戯っぽく宣言する彼女が、どうしようもなく愛おしい。

「ああ、望むところだ。いくらでも甘やかしてやるよ。幸せにする。」

俺が笑って答えると、凛は「ふふっ」と小さく笑って、さらに強く俺の背中に腕を回してきた。

髪から漂う甘いシャンプーの香りと、腕の中から伝わってくる確かな温もり。

冷たい風が吹いているはずなのに、俺の体は芯から熱く、たまらなく幸せだった。

今日、この瞬間から。

俺たちはもう「隣人」でも「ただの友達」でもない。

世界で一番お互いを想い合う、本物の「恋人」になったのだ。

眼下に広がる光の海は、まるで俺たちの新しい関係の始まりを祝福してくれているかのように、いつまでも優しく、美しくきらめいていた。