作品タイトル不明
第197話:期末の足音と、ニヤニヤする友人たち
「お前ら、分かってると思うが来週の水曜……21日から3日間は前期期末テストだからな。部活も明日から休みに入る。しっかり計画立てて勉強しろよ」
月曜日。
朝のホームルームで、担任が黒板の端のカレンダーを指差しながらそう宣言した。
教室中から「はぁ……」「とうとう来たか」という重いため息が漏れる。
前期期末テストの時期が近づいているのは当然分かっていたが、いざ面と向かって言われるとやはり気が重くなるらしい。
俺はノートにテストの日程を書き込みながら、ふと、隣のクラスにいる凛のことが頭に浮かんだ。
彼女は元々成績優秀だし、毎日うちでコツコツ勉強しているのを知っているから心配はしていない。
問題は、うちのクラスにいる赤点ギリギリの常連たちだ。
昼休み。
今日は教室ではなく、人がまばらな中庭のベンチで、大輝と寺田さんと三人で弁当を食べていた。
すると、食べ終えるなり、大輝と寺田さんが俺に向かって手を合わせた。
「……瀬戸先生。どうか、どうか俺たちを助けてください」
「お願い、瀬戸くん! 今回マジで数学と理科がヤバいの! バイト入れすぎちゃって……!」
二人が必死の形相で拝み倒してくる。
大輝と寺田さんは、赤点を取ると補習で休みの予定が潰れてしまう。
それを何としても避けたいのだろう。
「お前らなぁ……前からテストの範囲は分かってただろ」
俺が呆れながらため息をついた、ちょうどその時。
ポケットに入れていたスマホが、ブルッと短く震えた。
画面を見ると、凛からのメッセージ通知だ。
学校では周りの目もあるため、俺たちはあまり直接話さず、こうしてLINEでやり取りをすることが多い。
『陽菜から、勉強教えてほしいって泣きつかれちゃったんだけど……もし朝陽くんがよければ、今週末、うちでみんなで勉強会しない?』
画面の向こうで少し困りつつも気遣ってくれている凛の顔が目に浮かび、俺は少しだけ口元を緩めた。
そしてスマホをポケットにしまい、目の前で拝み続けている二人に視線を戻す。
俺は周囲に他の生徒がいないことをサッと確認してから、声を潜めて言った。
「……ちょうどよかった。今度の日曜日、俺の部屋で勉強会やろうか。凜と佐藤さんも来るから」
「えっ、マジ!? 行く行く! 助かったぁ……!」
「瀬戸くん神! 本当にありがとう!」
二人はパァッと顔を輝かせて、大げさにガッツポーズをした。
だが、喜んだのも束の間。
大輝と寺田さんは顔を見合わせて、何やらニヤニヤと悪巧みをするような笑みを浮かべた。
「……なんだよ」
「いやー? 瀬戸の部屋に集まるってことはさ」
「つまり、告白保留中の瀬戸くんと凛ちゃんの、『おうちでの普段の様子』が見られるってことよね〜?」
二人のからかうような言葉に、俺は思わず顔を熱くした。
こいつらは、凛からの告白を現在「保留」にしていることを知っている。
だからこそ、家で一緒に過ごしている俺たちの距離感を観察しようと面白がっているのだ。
「ば、バカ言え。真面目に勉強するぞ。赤点取っても知らないぞ」
俺がわざと険しい顔を作って声を潜めたまま釘を刺すが、二人は「はいはい」と楽しそうに笑いながら頷いた。
その日の放課後。
いつものように少し時間をずらしてアパートへ帰り、俺たちは201号室のダイニングテーブルで向かい合って麦茶を飲んでいた。
「日曜日、みんなで勉強会だね」
「ああ。大輝と寺田さんは本当にギリギリらしいからな……。みっちり教え込まないと」
「ふふっ。朝陽くん、スパルタ先生だね」
凛がグラスに口をつけながら、くすくすと笑う。
「俺は数学と理科を見るから、凛は英語と国語を頼めるか?」
「うん、任せて! 陽菜にもしっかり教えないとね」
「あと、昼飯だな。5人分だから、ミートソースパスタとか、フライパン一つでたくさん作れるものがいいか」
「じゃあ、私にも手伝わせて! 二人で作った方が絶対早いし、それに……楽しいから」
凛が少しだけ照れたように微笑むのを見て、俺もつられて口元が緩んだ。
「ああ、助かる。じゃあ、日曜はよろしくな」
「うんっ」
テストに向けての準備と、日曜日のみんなとの勉強会。
やるべきことは増えたが、こうして凛と一緒にあれこれと相談する時間は、不思議と苦にならなかった。
むしろ、彼女と一緒にいられるなら、テスト勉強すら楽しいと錯覚してしまいそうになる。
「私たちも、みんなに教えるからにはしっかり復習しておかないとね」
「そうだな。じゃあ、飯の前に一時間だけ勉強するか」
「賛成!」
俺たちはカバンから教科書やノートを取り出し、テーブルに広げた。
静かな部屋に、シャープペンシルが紙を走る音だけが響く。
時折、分からないところを教え合いながら、俺たちの期末テスト期間が静かに幕を開けた。