作品タイトル不明
第195話:買い物とイルミネーション
「ただいまー」
月曜日の夕方。放課後の作戦会議を終えて帰宅し、自分の部屋のドアを開ける。
すると、すでに合鍵で中に入っていた凛が、ぱたぱたと小走りで出迎えてくれた。
「あ、おかえりなさい、朝陽くん!」
「おう、ただいま。今からすぐ飯にするな」
手を洗い、エプロンを締めてキッチンに立つ。
冷蔵庫から食材を出してまな板に向かっていると、背後からスッと両腕が伸びてきて、俺の腰に回された。
「……今日もお疲れ様、朝陽くん」
「お疲れ。……今日はやけにくっついてくるな」
俺の背中にピトッと顔を押し付けたまま、凛は「んふふ」と嬉しそうに笑う。
先日の「実質の親」への挨拶を終えてから、彼女の甘えん坊モードにはさらに拍車がかかっていた。
料理をする俺の背中で、彼女の柔らかい温もりがゆらゆらと揺れる。
俺は野菜を切る手を止めず、少しだけ顔を横に向けて切り出した。
「あのさ、凛。今月の31日なんだけど……」
「うん?」
「隣町にある大きな公園で、イルミネーションが開催されるらしくて。ネットで写真を見たらすごく綺麗だったから……最近いろいろ頑張ってくれたし、息抜きに見に行かないか?」
あくまで「癒やし」のためにと誘ってみる。
すると、背中に回されていた凛の腕がギュッと強くなった。
「行く! 絶対に行く!」
「ははっ、そっか。じゃあ、31日は空けといてくれ」
「うんっ! わぁ……すっごく楽しみ……!」
背中に頬を擦り付けながら大喜びする彼女。
その振動が直接背中から伝わってきて、俺の口元も自然と緩んだ。
「でも、夜の公園って冷えるよね……」
出来上がった夕食を並べ、向かい合って食べている時。
凛が少し困ったような顔で呟いた。
「私、ちゃんとした冬服持ってないかも。最近、夜もだいぶ寒くなってきたし、寝間着ももっと暖かいのを新調したいんだよね」
「確かに。じゃあ、今度の休みに一緒に買いに行こうか」
「本当!? やったぁ!」
ぱぁっと顔を輝かせた後、凛は少し照れくさそうに、上目遣いで俺を見た。
「そういえばさ。イルミネーションに行く次の日……11月1日なんだけどね。私、誕生日なんだ」
少しもじもじしながら教えてくれた凛に、俺は普通に頷いた。
「ああ、知ってるよ。11月1日だろ? プレゼント、何か欲しいものあるか考えておいてくれ」
「えっ!? 私、朝陽くんに言ったっけ!?」
目を丸くして驚く凛。俺は少しバツが悪くなり、頬を掻きながら種明かしをした。
「この前、佐藤さんのプレゼントを買いに行っただろ。あの日の朝、こっそり佐藤さんにLINEで聞いたんだ。お祝いしたいから教えてくれって」
「……っ!」
俺の言葉を聞いた瞬間、凛の顔がポンッと赤くなった。
自分が言う前に、俺が裏でこっそり調べていたことが、よほど嬉しかったらしい。
「あ、朝陽くん……ありがと……っ」
「いいって。で、欲しいものは?」
「うーん……朝陽くんと一緒にお買い物できるだけで十分なんだけど……ちょっと、考えとくね!」
幸せそうにご飯を頬張る彼女を見て、俺は心の中で小さくガッツポーズをした。
食後のお風呂を済ませ、いつものマッサージのルーティンも終わり、凛を隣の202号室まで送り届ける。
ベッドに潜り込んだ彼女の頭を撫でながら、俺は尋ねた。
「そういえば、お買い物、いつ行く? 土曜日は凛、仕事だろ?」
「うん、お仕事……。じゃあ、日曜日の11日はどうかな?」
「分かった。日曜日にしよう」
「うんっ! お買い物デートだね!」
凛はホクホクとした笑顔を見せ、俺の撫でる手にすり寄りながら幸せそうに眠りについた。
それから数日間。
火曜日から金曜日までの学校生活は、少しずつ変化を見せていた。
体育祭でリレーを走ってから、ちょうど二週間。あの一時的なちやほやする空気はすっかり落ち着き、変に遠巻きにされることもなくなり、俺にとっては非常に過ごしやすい空気感になっていた。
クラスのみんなとは、ノートの貸し借りをしたり、次の移動教室の場所を教え合ったりと、ごく自然に普通に会話できる人間が明らかに増えた。
それは大輝や寺田さん、そして何より、いつも隣に凛がいてくれるおかげだ。
その安心感からか、最近の俺は自分自身でも「少し明るくなったんじゃないか」と感じるようになっていた。
そんな穏やかな日々を過ごし、土曜日は仕事へ向かう凛を見送り、俺は一人で部屋の掃除や明日の準備を整えた。
そして迎えた、10月11日、日曜日。
「わぁ……すっかりハロウィンだね!」
少し肌寒くなってきた秋空の下。俺たちは隣町の大型ショッピングモールの入り口に立っていた。
10月末に向けて、モール内はオレンジと黒を基調としたカボチャやオバケの装飾で賑やかに彩られている。
私服姿の凛は、楽しそうに辺りをキョロキョロと見回していた。
「昨日も一日、仕事頑張ってたもんな。今日はゆっくり好きなもの見よう」
「うんっ! 今日朝陽くんと一緒にお出かけするために、昨日のお仕事すっごく頑張ったの!」
俺の労いの言葉に、凛は花が咲いたような満面の笑みを向けてくれた。
「そうだな。とりあえず、まずは冬服から見るか」
「うんっ! 朝陽くんの服も一緒に選ぼうね!」
嬉しそうに俺の隣を歩く凛。
運命の日へのカウントダウンが静かに進む中、俺たちの甘い冬支度が始まった。