軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第185話:昼休みの報告と、スマートな略奪

午前中の授業がすべて終わり、待ちに待った昼休み。

俺は自分の席で弁当を広げ、いつものように大輝と寺田さんと一緒に昼食をとっていた。

「そういえばさ、朝陽」

唐突に、唐揚げを頬張っていた大輝がニヤニヤしながら身を乗り出してきた。隣の寺田さんも、お茶を飲みながら期待に満ちた目を向けてきている。

「金曜の夜、体育祭のあと……冬月さんと何か進展あった?」

「ぶふっ!?」

俺は思わず食べていた卵焼きを喉に詰まらせそうになり、慌ててお茶で流し込んだ。

俺は周囲に誰も聞き耳を立てていないことを確認してから、二人に顔を近づけ、限界まで声を潜めて言った。

「…………告白、された」

俺の報告を聞いた大輝と寺田さんは、驚くどころか顔を見合わせてニヤリと笑った。

「それでそれで? どうなったの?」

寺田さんがワクワクした様子でさらに身を乗り出してくる。

「いや……保留にしてもらった」

俺がバツが悪そうに答えると、二人は呆れたように深くため息をつき、やれやれと肩をすくめた。

「やっぱ保留にしたか。お前のことだもんなぁ」

「うんうん、瀬戸くんなら絶対そう言うと思ってた」

「……なんかお前ら、あいつが告白すること、最初から知ってた風じゃないか?」

あまりにも予想通りといった二人の反応に、俺はジト目を向けた。すると、大輝と寺田さんはわざとらしく視線を逸らした。

「や、なんとなくわかるよ! 」

「そうそう、なんとなくね!」

二人はあははとはぐらかしつつ、俺に向き直った。

「で? なんで保留にしたわけ? 両思いなんでしょ?」

大輝の問いに、俺は箸を置いて真面目に答えた。

「あいつは本当に真っ直ぐ気持ちを伝えてくれたんだけど……俺自身がまだ、あいつの隣に立てるくらい自信がないからさ。だから、俺が胸を張って『ふさわしい男』になれたら、俺の方からちゃんと告白するって……そう言って、待ってもらってるんだ」

俺の不器用で面倒くさい説明を聞いて、二人はどこか温かい目で俺の決意を受け入れてくれた。

「まあ、せいぜい早く自信つけて、かっこいい彼氏になってやれよ」と大輝に肩を小突かれ、俺は「言われなくても、そのつもりだよ」と照れ隠しに笑い返した。

昼食を終え、俺は次の授業で使うプリントを取りに行くため、一人で職員室へ向かおうと廊下を歩いていた。

「あ、瀬戸くん! 見ぃーっけ!」

突然、背後から声をかけられた。

振り返ると、午前中の休み時間にも遭遇した、少し派手めな他クラスの女子グループだった。

「えっと……どうかした?」

「あのさ、今週末に体育祭の打ち上げでカラオケ行くんだけど、瀬戸くんも来ない?」

「えっ?」

「そうそう! リレーのヒーローがいないと始まらないっしょ! 陸上部の子たちも来るし!」

予想外の誘いに、俺は完全にフリーズしてしまった。

今まで女子からカラオケに誘われるなんて経験、俺の人生には一度もなかったからだ。

「あ、いや……俺はそういうの、ちょっと苦手だから……」

「えー、そんなこと言わずにさ! とりあえずLINEだけ交換しよ? ね?」

一人の女子がスマホを取り出し、俺の目の前にQRコードを突きつけてきた。

香水の甘い匂いと、逃げ場を塞ぐような女子たちのフォーメーションに、俺は完全に圧倒されて身動きが取れなくなっていた。

「いや、本当にLINEとかは……」

「いいじゃんいいじゃん! 減るもんじゃないし!」

どう断れば角が立たないか、必死に頭を回転させていた、その時だった。

「――瀬戸くん」

背後から、凛とした涼やかな声が響いた。

その声に、騒いでいた女子たちがピタッと動きを止める。

振り返ると、そこには完璧な『氷の令嬢』の仮面を被った凛が立っていた。

表情は普段と変わらない冷ややかなものだが、その身から放たれるオーラは、明らかに周囲の温度を数度下げているように感じられた。

「あ、冬月さん……」

女子たちが気圧されたように声を漏らす。凛は真っ直ぐに俺の目を見て、静かに言った。

「瀬戸くん。少し手伝ってほしいことがあるんだけど……今、来てもらえるかしら?」

俺はこの千載一遇のチャンスを逃すまいと、即座に頷いた。

「あ、ああ! 分かった、すぐ行くよ」

俺が答えると、凛は次に、困惑している女子グループの方へと視線を向けた。そして、凛とした佇まいのまま、丁寧ながらも隙のない笑みを浮かべて口を開いた。

「ごめんなさい、取り込み中のところ。彼には至急手伝ってもらいたい用件があるので、お借りしてもいい?」

「あ……は、はい! 全然大丈夫です!」

「すみません、邪魔しちゃって……!」

その完璧すぎる振る舞いと有無を言わさぬオーラに、女子たちは「それなら仕方ない」という表情で、素直に道を空けた。

「ありがとう。……行きましょう、瀬戸くん」

凛は短く告げると、俺の制服の袖を軽く、しかし逃がさないようにぎゅっと掴んだ。俺は彼女に引かれるがまま、女子たちの間を通り抜けてスタスタと廊下を歩き出した。

背中越しに、取り残された女子たちや周囲の生徒たちのざわめきが聞こえてくる。

「え……なに今の。冬月さんが直々に呼びに来るとか……」

「しかも今の言い方、なんかすごく特別感なかった?」

「この間もあったけど、また瀬戸くん、連れて行かれたぞ……?」

周囲の戸惑う声なんて気にも留めず、凛は無言のまま、俺の袖を掴んで足早に廊下を進んでいく。

その横顔からは表情が読み取れなかったが、掴まれた袖越しに伝わってくる彼女の微かな震えと力強さから、俺の中に一つの確信が生まれていた。

(……助けてくれたな……)

申し訳ないと思いながらも、そんな風に俺を求めてくれる彼女のことが、どうしようもなく愛おしかった。