軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第165話:明け渡したベッドと、回りくどい相談

テレビの画面に、映画のエンドロールが静かに流れ終わった。

俺の太ももの上では、凛が気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てている。

「……おい。終わったぞ、起きろ」

肩を軽く揺すってみたが、「んぅ……」と小さく寝返りを打つだけで、全く起きる気配がない。

しばらく待ってみたものの、彼女は完全に夢の世界へ旅立ってしまっていた。

「はぁ……仕方ないな」

見た目よりは軽いとはいえ、女の子一人を運ぶのはそれなりに骨が折れる。

俺は彼女の背中と膝の裏に腕を回してよっこらせと抱え上げ、隣の部屋へ行くのは諦めて、そのまま俺の部屋のベッドへと運んだ。

そっとマットレスに寝かせ、上からタオルケットをかけてやる。

幸せそうに丸まる寝顔を見下ろしながら、俺は小さくため息をついた。

「ほんと、無防備すぎるだろ……」

体育祭の練習で俺自身も疲労困憊だったため、押し入れから予備の布団を引っ張り出す気力は残っていなかった。

俺は部屋の電気を消し、リビングのソファに寝転がって毛布に包まった。

肩や太ももに微かに残る彼女の体温と甘い香りのせいで、その夜はなかなか寝付けなかった。

翌日。

放課後のグラウンド。凛がクラスの女子たちと障害物競走の練習に向かい、俺のリレー練習まではまだ少し時間があった。

俺はグラウンドの隅のベンチで暇そうにしている大輝を見つけ、重い足取りで近づいた。

どうしても、誰かの客観的な意見が聞きたかったのだ。

「大輝。ちょっと真面目な相談があるんだけど」

「ん? おう、どうした。改まって」

大輝が顔を上げたタイミングで、近くで休憩していた寺田さんと、佐藤さんも「何の話〜?」と面白がって近づいてきた。

「いや、大輝にだけ話そうと思ってたんだけど……」

「いいじゃんいいじゃん! 私たちも聞くよ。ねえ?」

佐藤さんがグイグイと迫ってくる。

俺と凛の事情をある程度知っている女子の意見も聞けるならその方がいいかと思い、俺は小さく頷いて、三人に囲まれる形で話し始めた。

「……最近、凛の距離感が近すぎるんだよ」

俺が深刻な顔で切り出すと、三人の動きがピタッと止まった。

「いくら俺がサポーターだからって、無防備に甘えられすぎてて本当に困ってるんだ。このままだと、俺の理性が持たない」

俺が切実な悩みを打ち明けると、三人は一瞬顔を見合わせた後、なぜか絶妙に引きつったような表情になった。

「あー……へ、へえ。そりゃあ、大変だな」

大輝が、口元をピクピクと引きつらせながら、生温かい相槌を打つ。

寺田さんと佐藤さんに至っては、下を向いて肩を小刻みに震わせている。なんだこいつら。

「なんだよ、人が真剣に相談してるのに」

「い、いや! 悪い悪い。ただちょっと意外だったっていうかさ。……でもさ、いくらサポーターだからって、そこまでくっつくか? 普通」

大輝は咳払いをして真面目な顔を作り、少し言いよどみながら、遠回しに探りを入れてきた。

「ほら、なんていうか……冬月さんも少なからず、お前のことを『ただのサポーター以上の存在』として意識してるとかさ。そういう可能性は、考えられないわけ?」

大輝の言葉に、俺は即座に首を横に振った。

「絶対ない。あり得ない」

「なんでそこまで言い切れるんだよ……」

「実はこの前……先週の木曜の放課後、あいつが第一体育館の裏で、陸上部の奴に告白されてるところを偶然見ちゃってさ」

俺がそう説明した瞬間、三人の息を呑む気配がした。

「もちろん、凜は断ってた。でも、その時にハッキリ言ってたんだよ。『今、絶賛片思い中の好きな人がいる』って」

「……」

「だから、あいつが俺にくっついてくるのは、ただの安全パイとして見られてるだけだ。あいつの中には好きな奴がいて、俺は男として微塵も意識されてないから、あんなに無防備なんだよ。……絶対にな」

俺が自分自身に言い聞かせるように結論づけると、目の前の三人は、声にならない悲鳴を上げるような、なんとも言えない顔で虚空を見つめていた。

(お前のことだよ!!!!)

と、三人の心の声が完璧にハモったのを、俺が知る由もなかった。

「……はぁ。瀬戸くんって本当に……。でも……そっか」

しばらくの沈黙の後、寺田さんが深い深い溜め息をつき、少しだけ優しい目つきになった。

「間違ってはないけど……大間違いしてるっていうか。あのね、瀬戸くん。女の子って、本当に安心できる人にしかそういうことしないの」

寺田さんの言葉に、佐藤さんも大きく頷いて加勢する。

「そうそう! だったら瀬戸は、変に拒絶したり突き放したりしないで、今まで通り全部受け止めてあげて? それが一番、凛のためになるから」

「……」

俺は腕を組んで考え込んだ。

(なるほど。男として見られてないからといって、ここで俺が変に突き放したら、サポーターとしての信頼関係にヒビが入ってしまうのか。それに……あいつのためになるなら)

女子二人のもっともらしいアドバイスに、俺は明後日の方向でストンと納得してしまった。

「分かった。……サポーターとして、あいつの気が済むまで受け止めるよ」

俺が真面目な顔で決意を新たにすると、大輝が「コントかよ……」とボソッと呟き、額を押さえて天を仰いだ。

「……まあ、お前がそれでいいなら、頑張れよ。マジで。色んな意味でな」

大輝からの謎の激励を受け、俺は立ち上がった。