軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結実

――――少し未来の話、大陸に構築中の砦の歩廊の上で

「はっはっはっは! 見えるか! ブライト!

これがお前の望んだ景色だ! 今ここに新たな世界が出来上がろうとしているんだ!!」

雲一つない太陽の光を吸い込んで真っ赤に燃える金の髪は腰まで長く、真っ赤なマントをなびかせて、身にまとう古式鎧は黄金の輝き。

今の時代の騎士達の戦いにおいてその鎧は全くの無用の長物だったが、それでもそんな声を張り上げた彼は好んで身に纏い、戦場では白銀の盾と剣まで両手に持って指揮を振るっていた。

彼の指揮は間違いなく天才のそれで、更にそれを押し上げているのが生まれ持った性格だった。

自信満々、物心がついた頃から自らを天才であると自覚し、天才の行うことだから間違いなどあるはずないと幼心で確信し、だからこそ命を賭した戦場であっても威風堂々たる態度で決断を下せ、迷うことなく進む道を決めることが出来る、だからこそ騎士達は勝利を確信して邁進することが出来て勝利を積み重ねていた。

そんな彼が唯一負けたと思った相手が弟のブライトだった。

自分を超える天才、性格は似ておらず苛烈な彼に対してとても温和で優しい子だったが、その思考、行動一つ一つが洗練されていて、絶対に勝てない相手だと確信させられる程の器だった。

そんな弟が山程の物資を送ってくれる、鎧や武器、魔法石、更には使い切れない程の資金まで……。

それには確実になんらかの思惑があるはずだ、ただ家族を応援したいだけなんて、そんなことがあるはずがない。

つまり弟はここで己の国を作れと、この兄に理想の世界を作ってそれを見せてくれと、そう言っているに違いがないと彼は確信していた。

そして彼は見事に支配地を拡大し……拡大出来るところまでしたなら、有り余る予算を使って砦群の構築を始めていた。

いくつもの砦を線のように並べて、あえて目立たせる形で構築し、その群れでもって相手を威圧し、戦意を奪おうとしていた。

彼が描く彼なりの平和な世界、領民達の幸福、それによってもたらされる豊かな未来。

絶対に陥落しない大陸領土、それを得てこそ本国の弟が輝くと彼は確信していた。

「しかしまさか王都王城を放棄してしまうとはな! この目をもってしてもそれは読めなかった!

だがそれも良いだろう! おかげで砦を作り上げるための資材が手に入った!

連中もまさか王城やそれに連なるもの全てを解体するとは夢にも思うまいよ!

豪華絢爛、豊かな歴史、美しい壁や屋根、そんなもの未来のためには全く役に立たん!

だからこうして役に立つ形に生まれ変わらせてやろうではないか!!

父上は唖然としておられたが、はーーっはっはっは! これが未来、新しい時代よ!!」

更に彼がそう声を張り上げる、すると側に控えていたローブで全身を包みこんだ男が細く高く、金切り声と言われそうな声を返す。

「し、しかし旦那様ぁ、この並べ方だと弱点と言いますかぁ隙間があって防備としてはぁ、完璧ではないと思いますけどぉ」

その男は王都で幽閉されていた男だった。

賢く視野が広く、戦略戦術に長けて優秀な男だったが、醜いというそれだけの理由で迫害され、それでもとその優秀さを活かしての進言を続けた結果、塔に幽閉されていた。

それを見つけた彼はその優秀さを買って自らの副官とし重用していた。

「それはあえてだ。

この砦群を見て普通ならば戦意が失われるはずだが、それでもと望むならその隙間を狙うことだろう。

そこを狙い撃つ……逆にこの隙間がなければ敵がどんな手に出てくるかが予想がつかん。

それでは対応が遅れてしまう可能性がある、ゆえにあえてこうした。

相手に奇策、妙策を打たせてしまうというのはそれはそれで問題よ、ゲストにどう来て頂くか、読みやすい手段で来て頂くということにも、ホストとしての器量が問われるのだ」

「さ、流石にございます、ジェラール様ぁ。

……も、もう一つ質問が、これ以上の領土はお望みにならないのでぇ?」

「……それには人手がなぁ、現状でも限界を迎えつつあるからな。

今この流れを逃してはいかんと分かってはいるが……どうやら世界がそれを許してはくれんらしい。

凡愚はこの勢いのまま突き進むだけ突き進んで破綻するのだろうがな……そうはしてくれるなと故郷の弟の目がこちらを見ているのだ」

「な、なるほどぉ。

弟君もジェラール様に負けず劣らず、優秀なお方なんですなぁ」

「ああ、お前も会えば驚くと思うぞ。

幼くしてアレ程の輝きを放てる人間が世界に……いや、歴史上にどれだけいたことか、あの輝きを前にしては神々さえも霞むことだろう」

と、その時だった。

言葉を返そうとしたローブ姿の男が何かに気付いて後方へと振り返る。

その視線は何かを追いかけるように動いていて、そのことに気付いたジェラールと呼ばれた彼が振り返ると、視線の先からこちらにやってくる女性の姿が視界に入る。

紫色のドレスが特徴的だが、それ以上に目を奪うのはその歩き方。

威風堂々、自信に満ち溢れて美しい自分を見よと一歩一歩でアピールをしてきている。

それでいて扇子で顔を覆い隠し、見えるのか見えないのか、なんとも絶妙な形でこちらの興味を引こうとしてきている。

数人のメイドと数十……50か60か、それ以上のスーツ姿の男達を引き連れてやってきたその女性は、ジェラールの視線が切れるか切れないかのギリギリの所までやってきてから足を止めて、じっとジェラールのことを見つめてくる。

近くの飛空艇港からやってきたらしい一団の到来を受けてジェラールは、相手からの自己紹介を待った……が、すぐにそこにいるのが女性であるということに思い至り、こちらからエスコートしろということかと理解し、声を張り上げる。

「オレはジェラール・ウィルバートフォース! 爵位も持たぬ無頼漢よ!

麗しき貴女は果たして何者であろうか!」

「貴殿の弟君に導かれたマリアンネ・ハミルトンよ、ただしこの程度の歓迎では納得出来ませんわね!」

納得、納得と来たかとジェラールは笑みを浮かべる。

「オレに下りてこいと言うのか、生意気な女め」

と、そんな小声を上げてから階段に向かい……歩廊から下りて女性の下へ足を向ける。

その途中で何事かあったのかと駆けつけた騎士達が合流し……ジェラールはローブ男と騎士を引き連れて女性、マリアンネと相対する。

胸を張って堂々と立ち、その高身長から女性を見下すが、女性はだからどうした、この美しさを見よと揺るがぬ瞳を返してくる。

生意気で強気、美しく色気もあり、堂々としていて高貴でもある。

ハミルトン……ハミルトン、その家名を頭の中で何度か繰り返したジェラールは、それが大公家の家名であることに思い至り、改めて女性と女性が引き連れてきた集団へと視線を向けて、それから声を張り上げる。

「ブライトめ! 最善や最良を飛び越えて史上最高の女を見つけてきたのか!」

「まぁ、無粋なこと。

女性を褒めるにしても褒め方と場所というものがありましょう」

すぐさまマリアンネがそう返すと、ジェラールはにやりと笑い……それからマリアンネの前に跪いて手を差し出す。

すると赤面したマリアンネはその手を取り……二人の中ではそれで全てが決着し、婚約が成立したことになってしまう。

「それで、マリアンネ。後ろの方々は?」

「我が家の家臣達です、ブライト様からはもっと人材を集めて欲しいと言われておりますので、今お父様はそのために奔走しております。

遠からずこの地を治めるために必要な人材を届けてくださることでしょう」

「はーっはっはっはっは!!

ブライトめ! 何もかも揃えてくれるでは、まったくオレがいくら奮闘しても、それが認められないままになってしまうぞ!!」

「おーっほっほっほっほ! そんなご心配は無用ですわ。

ブライト様は今も貴方様のことを敬愛しておられます、貴方様が認められるための道も当然考慮されているのでしょう。

そのための支援と人材、そしてワタクシとの縁! もちろんお父様である大公も尽力してくださいますわ、この土地のために」

呼応するかのように笑い声を上げたマリアンネが差し出した地図を見てジェラールは破顔と言って良いくらいの顔となる。

それはかなりの広さだ、しかも手に入れた土地の中央、重要な拠点となる。

それを大公は求めていて普通なら頷けない条件だったが、それ以上の価値を今目の前のご令嬢が示してくれている。

結果としてジェラールはもう笑うしかなかった。

「はーっはっはっはっはっは!」

それに全てを受け入れてくれたと察したマリアンネが応える。

「おーっほっほっほっほっほ!」

呼応し合っているかのように二人の声はどんどんと大きくなっていって、それから二人は笑いに笑い、笑い続けて……飽きるまで笑ったならその場で抱き合って口付けまで交わしてしまう。

そんな形で婚約したと報告を受けたブライトとハミルトン大公ブルースは、驚きと呆れの果てに頭を抱えることになるのだが、それはまだまだ当分先のことである。

――――同じく未来の話、王城で エリーク王

ハミルトン大公の離反。

それを察した王には驚くことも怒ることも出来なかった。

ただただ呆然とするだけ……詳細を知ると尚の事呆然とするしかなかった。

全く嘘は言っていなかった、なんらかの法に反する訳でもない、だから罰することなど出来ようはずもない。

むしろ大公は王命で行われている大陸侵攻を自らの判断と私財で支援しているだけとも言える訳で、文句を言うことすら出来なかった。

そもそもその王命が間違っていたとか、ここまでしろとは言っていないとか、そんなことを言いたくなりもするが、今更そんなことを言ってしまっても仕方ない。

明確な目標を定めず、戦果を挙げろとだけ言って戦場に追いやったのはどうせ敗北してくるだろうと思っていたからだった訳だが、そのせいで勝ち過ぎるなとも言えなくなっている。

予想外に勝ち続けて多くの領地を得たからってそれ以上勝つなとは言えない状況を自分で作り出してしまっていて……それでもと声を上げたなら多くの批判を招き、王権の維持すら怪しくなることは明白だ。

侵攻した国の王からもう止めてくれと、そんな話が来たならそれを理由にすることも出来たが……王は生き延びることに必死で、家臣をこちらに送ってくる余裕もないらしく一切の連絡が出来ない状態だ。

革命勢力に関しては指導者層が壊滅したとの噂があって、最早交渉が出来る相手ではなくなってしまっている。

それでも攻撃の限界点というものがいつかは来るはずだった、戦うことは得意としていても統治を苦手としているウィルバートフォース家だからこその破綻を迎えるはずだった。

……だと言うのにブライトと大公がそれを防いでしまった、これ以上ない形での支援を行い、もうどうやっても破綻することのない状況が出来上がってしまった。

そして王はそれを支援したということになってしまっている。

ハミルトン大公が流した噂によって、それを防ぐために王がわざわざ出向いてブライトとハミルトン大公を引き合わせたことになってしまっている。

……今回の行動を王は家臣達に相談はしていなかった。

相談したなら止められると考えていたから、無断で……夏季休暇という題目のもと独断で動いていた。

そのせいで今更本当は違うと言うことも出来なくなっている。

家臣達は王がやってくれたと、見事な手腕を見せてくれたと喜んでいて……だからこそその喜びに水を差すことが出来なくなっている。

……もうこれ以上王権を弱める訳にはいかないから、ただただ呆然としながら黙っていることしか出来なくなってしまっている。

全ては王自身が招いたことで、誰のせいにも出来ず、自らで受け止めるしかないのだが、それが出来ずに呆然とするしか出来なくなっている。

ここで動けば何かが変わったのかもしれない、王も成長出来たのかもしれない。

しかし王はただただ呆然とし続けるだけ……今回の件をどうにか出来るだろう最後の機を完全に失ってしまう。

何かすべきだったのだろう、考えるべきだったのだろう、王なりの精一杯を見せるべきだったのだろう。

しかし王は自らその機会を放棄してしまい……今回の件の影響は誰もが予想もしない形で広がっていくことになってしまうのだった。