軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦略的報告

――――貴賓室で エリーク王

この日、王は貴賓室で真新しいソファに体を預けながら頭を悩ませていた。

次はどんな一手を打つべきかと悩みに悩んでいた。

悩みすぎて遅きに失していたのだが、それに気付くことなく悩みに悩み……そこにハミルトン大公がやってくる。

「陛下、話がまとまりました」

そして間を置かずに報告が入り、王は顔を綻ばせ言葉を返す。

「おお、おお、まとめてくれたか。して、仔細はどうなった?」

「は、ひとまずは顔合わせからの婚約という方向で話が進み、娘はこのまま婚家であるウィルバートフォース家に預けることになりました。

彼の秘蔵である飛空艇に乗ることが出来るだけでなく、領地の視察も行えるようで娘と臣下達が視察を行い、報告を上げてくれることになっています」

「そうか! 色々とこじれた上にあの態度、話がまとまることなどまず不可能だと思っていたが、そこまでやってくれたか!

これは褒美を約束せねばならんな、何が欲しい、何でも言ってみるが良い!」

ソファから身を乗り出し、食い気味にそう言ってくる王に大公は苦笑しながら言葉を返す。

「いえ、そういった話は全てが無事に終わってからにしましょう。

まずは婚約の成立から……そのために私はしばらく忙しくなると思われます、婚家を見張り、管理する人材を集めなければなりませんので。

今回の話を上手くまとめるためにも私が先陣を切って動き、全てを指揮するつもりです、その旨どうか受け入れて頂きたく」

「おぉ……そこまでやってくれるのか!

こんなにも優秀な忠臣がこんなに身近にいたとは気付けなんだ。

余の不明を恥じるばかりだ。そしてそこまでまとめ上げてくれた大公の腕を疑う程愚かではないつもりだ。

好きにやると良い、必要なら王宮から予算を出しても構わん」

「いえ、婚姻は我が家のことですから、我が家の予算でなんとかいたします。

陛下には余計な横槍が入らぬよう牽制だけしていただければと思います」

「うむ、心得た。

その通りに計らい、尽力することを約束しよう。

……これで、これで最大の懸案事項が決着することになる、今後の見通しが一気に明るくなるぞ」

そう言って立ち上がった王は、貴賓室の隅にあるワイン棚へと足を向ける。

そのまま作戦成功の乾杯でもする気のようで、そうと察した大公は王が何かをするよりも何かを言うよりも早く声を上げる。

「では陛下、急ぎ娘に伝えなければならないことがありますのでこれで失礼をいたします。

既に娘はウィルバートフォース伯と懇意にし、その下で動いています……何かが起きる前に可能な限りの知恵を授けたいのです」

「おお、そうか、確かにそうだな。

我が子を過酷な辺境に送り出すのだからそれも当然か……分かった、すぐに言ってやると良い。

貴殿の娘は良い父親を持ったものだ」

その言葉に大公は一礼で応え、それからすぐに貴賓室を後にする。

それを見送った王は、改めてワイン棚へと向かい、そこにあるワインとグラスを手にとって、駆け寄ってきた従者に渡す。

選び、分け与え、そうしながら極上の一杯は自分のものに。

それもまた王の義務であり……乾杯の相手を失った王は、従者を相手に乾杯をし、存分なまでにその一杯を堪能するのだった。

――――一方、ホテルの部屋では ブライト

「とまぁ、今頃はそんな会話が行われているはずだ」

大公と密約を結んだ翌日、マリアンネ嬢の身柄を預かることになったということもあって俺達は、外に出ることもなく部屋で大人しく過ごしていた。

上座というか部屋の主が座る特別豪華なソファに腰を下ろしながら、今あちらで起きているだろう光景の話をするとすぐに反応が返ってくる。

「うわ、ひっでぇ、嘘は言ってないけども、完璧に騙してんじゃん、それ。

おにー様との婚約を結ぶために行動して、おにー様の未来の妻としてあっちの領地を視察して、確かにウィルバートフォース家が婚家ではあるけども、話が全然違ってくるじゃんか」

真っ先に反応したのはソファに少しだらしなく、何故だか色っぽく腰掛けたフィリップで、その顔は呆れの色で染め上げられている。

「この程度で騙したどうこう言われてもな、そもそも王城とはもっと悪辣で複雑な権謀術数渦巻く場所……のはずなんだから、このくらいは上手く対応してもらわないとなぁ」

俺がそう返すとフィリップではなく、俺の隣のソファの、カーター子爵が気を利かせて用意してくれた特別製のソファに腰掛けたコーデリアさん……の、膝の上にちょこんと座ったマリアンネ嬢が言葉を返してくる。

「他国の王ならば事情は違ったのかもしれませんが、我が国の王にはそこまでの権限がありませんから、そんな手間暇かけてまで騙そうとするお方はいらっしゃらないのですよ。

もちろん敬意あってのことではあるのですけど、陛下はその辺り不慣れなご様子で、普段は宰相様が支えていらっしゃるのですけど、今回は不在……そのせいで弱い部分が露骨に表に出てしまっているようですわ」

小柄で元気いっぱい、それでいて礼儀作法は完璧、貴族としての教育も必要以上に受けていて賢く……そして無闇に人懐っこい。

いや、貴族令嬢として男にはしっかり距離を取っているのだけど、コーデリアさんとは波長が合ったようで、出会うなり手を取り合っての挨拶をし、数分の会話をしたらもう仲良しに。

一応はまぁ、親戚というか義理の姉妹になる訳だし、仲が良いのは悪いことではないのだけど、距離の縮め方が最速過ぎて驚かされてしまった。

コーデリアさんにとっては可愛らしくて尊敬出来る理想の妹。

マリアンネ嬢にとっては可愛らしくて強くて頼れる理想の姉。

実際には兄上の奥さんになるのだから逆になるはずなのだけども、二人はそういう形で姉妹のような友達のような、そんな関係となっていた。

お互い邪気が一切なく、害意を抱く理由が一切なく、その結果がコーデリアさんによる抱っこ状態という訳だ。

マリアンネ嬢は時たま見上げてコーデリアさんに視線をやり、コーデリアさんは見下ろして視線をやり……どこかカップルのようでもある。

そんな風になった理由はマリアンネ嬢が座りたがったと言うよりは、コーデリアさんが抱き寄せたがったからの結果で、マリアンネ嬢も全く嫌がっていないのがなんとも不思議な光景でもあるし、素敵と言えば素敵な光景でもある。

「まぁ、嘘は言っていないし、騙した訳でもない、しっかり正直に報告もしているんだから文句を言われる筋合いはないさ。

それより今考えるべきは兄上と大陸のことかな。

兄上が果たしてなんと言うのか、大陸をどうしていくのか……考えない訳にはいかないよなぁ。

……ちなみにだがライデル、フィリップ、大陸の領地はいるか? 欲しかったらやるぞ」

「いりません」

「いらない」

即答だった。

もう少し考えて欲しかったんだがなぁ……正直、二人の活躍を思うと代官職だけでなく領地くらいはあげたい所なんだよなぁ

「ちなみにだが理由を聞いても良いか?」

「ブライト様のお側を離れるというのはなんとも、故郷の代官以上に望む地位はありません」

「面倒くさい」

どちらもライデルらしい、フィリップらしい応えだった。

この二人でこれなら他の誰に頼んでも同じ結果となることだろう。

そうなるとやはり大公のお世話になるしかない訳で……兄上との顔合わせが無事に済むことを願うばかりだなぁ。

「ライデル様もフィリップ様もご立派な方ですのに覇気がなくていけませんわねぇ。

騎士たるもの、領地を得るためならばともっと欲を出していかないと……!

何でしたらワタクシが管理して差し上げましょうか!

領地経営は流石に初めてになりますけど、ワタクシ自信なら売る程ありますわ!」

……なるほど。

生まれ持っての性格もあるのだろうけど、大公家に生まれて一流の教育を受けて、頑張ってきたからこその自信なんだろうなぁ。

しっかり努力して達成感を得ているからこその自信満々。

しかしそんなことを言いながら、指をピンと伸ばした手の甲をアゴに当てるのを止めて欲しい、マンガとかでよく見るあの高飛車なポーズをするのを止めて欲しい、絶対それ笑うための準備―――。

「オーッホッホッホッホ! このワタクシならたとえ大陸の領地であっても完璧に経営してみせますとも!」

やりやがったチクショウ!

本人全く悪気なくこれをやるんだから参ってしまう。

必死に笑いをこらえるために下唇を噛んでいると、そんな俺の表情を見てマリアンネ嬢がにこりと笑い、それからすっと立ち上がってなんとも優雅な仕草で歩いていく。

「ライデル様、フィリップ様、ワタクシ領地のことやブライト様のご家族のこと、色々とお聞きしたいんですの。

ですから今からお話聞かせていただけないでしょうか? 個人的な話もしたいので別室で」

そんな良く分からない言葉を受けてライデルもフィリップもこちらへと視線をやってきて、俺が付き合ってやってくれと頷くと、了解したという表情となって部屋から出ていくマリアンネ嬢を追いかけていく。

ライデルとフィリップ、シアイアさん達も出ていって、気付けば部屋に二人きり。

……もしかして気を使われた? なんてことを考えていると、コーデリアさんが側へとやってきて、こっちで一緒にと仕草で誘ってくる。

誘われた先はベッドで、一緒に寝ようとかそういうことではなく、寄り添って座れるのがそこくらいしかないだけだったりする。

並んで腰を下ろし寄り添って……押して押されて、だからと言って何をするわけでもないが、コーデリアさんはこんな時間が結構好きらしい。

俺もまぁ、嫌いではない。

「……旦那様と出会ってからどんどん良い方向に進んでいきますね。

教会にあたし達の神様まで認めてもらえるなんて、驚いちゃいました」

しばらく押し合いを楽しんだらそんな会話が始まって、肩の力を抜いて言葉を返していく。

「それが教会の目的の一つでもありますからね。

大司教様とはあれからも何度かお話する機会を頂けたのですが、ドルイド族の神様は荒神、戦神として祀ることになるそうです。

そして過去の戦争も全ては荒神の指示に従ったからで、教会に属する神々の説得で荒神が落ち着きを取り戻し、ドルイド族の皆さんも戦いから解放された、ということにするそうです。

ドルイド族がそれを受け入れられるのなら……過去の戦争は人に罪は無かったと、そういう形で決着することになりそうですね」

「……それは、全然問題ないと言いますか、実際に戦いの神様ですから皆も受け入れてくれると思うんですけど、えっと、その、それで良いんですか??」

「大司教様がそう言っているんで、良いんだと思いますよ。

悪いことは神様のせいで、良いことは神様のおかげ。

そういう柔軟さがなければアレ程の巨大組織をまとめ上げるなんてことは難しいんでしょうね。

大司教様の本拠地となる教会……他と区別するために大教会と呼びますが、そこに神像が建立されたなら、一緒に見に行きましょう。

そしてドルイド族としての祈りを捧げれば、きっと神様も許してくださることでしょう」

少し遠くはあるが飛空艇を使えば3、4日での行き来が可能だ。

新婚旅行という訳でもないけども、大陸と外国をこの目で見ておくことは悪いことではないはずで、コーデリアさんにとっても良い経験となることだろう。

そんな俺の言葉をどう思ったのか、コーデリアさんは更に肩を寄せてきて……そのまま倒れ込んでくる。

それを受け止めて、膝に乗せて……膝枕となって頭をそっと撫でてあげて、これも最近のコーデリアさんがハマっていることだった。

クシで丁寧に梳いた髪をこうして触るのはあまり良くないことらしいけども、本人がそうして欲しいと言っているのだから仕方ない。

そのまま無言でコーデリアさんが寝付くまで頭を撫でてあげる。

あの様子ではライデル達が戻ってくるまでは結構ありそうだし……コーデリアさんが寝付いたらそのまま昼寝も良いかもしれないなと、そんなことを考えながら静かに撫で続けて……そうして俺達は二人のゆったりとした時間を過ごすことになるのだった。