軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

贅沢

王の話を聞いてあれこれと考えて、とりあえず俺が出した結論は、今日の宿に向かうだった。

これ以上コーデリアさん達を待たせるのもアレだし、その旨をカーター子爵に伝えてコーデリアさんの下に向かう。

子爵も考える時間が欲しいのだろうと納得してくれて、それから子爵の屋敷からは少し離れた位置にある宿へと案内してくれた。

宿というよりは高級ホテル、魔法石式のエレベーターまであるそこは、前世で行ったとしても楽しめるだろうクオリティとなっていた。

左右にライオンの像が設置された大きな鉄門が待っていて、その向こうには城のような建物が待っている。

玄関まで真っ直ぐに伸びた道の左右にもあって、正面にもあって大きな窓を構えたレンガ模様の四階建ての建物は無数の燭台による灯りで照らされていて……燭台の管理だけでもとんでもない手間だろうと驚かされる。

中に入ると一転して落ち着いた雰囲気の内装が出迎えてくれる。

絨毯が敷かれた床に良い木材を使った家具や窓枠、壁と天井は汚れ一つない真っ白で、灯りはシャンデリアのような燭台。

燭台を使っている以上は煤で汚れそうなものだが、そこら辺は徹底的な掃除で上手く対応しているらしい。

俺達のためにと用意された部屋は最上階で、本館と呼ばれる正面の建物の最上階全てを自由に使って良いようだ。

俺とコーデリアさんと、ライデル達と。

相応の人数になるだろうからと気を使ってくれたようで……最上階の最奥の部屋、俺とコーデリアさんのためにと用意された部屋へと足を向ける。

高級家具と絵画が並ぶリビング、執務机のある執務室もあって、バスルームに小規模なダンスホール、そして広すぎる程に広いベッドルームもしっかりとある。

部屋の広さの割にベッドがそこまで大きくないのは何なのか……そこは夫婦の距離を縮めろということなんだろうか。

とりあえず荷物を寝室に押し込んだならリビングにあるソファに腰を下ろし、自分で紅茶を淹れてコーデリアさんと二人で楽しむ。

貴族ならばこういう時も使用人を呼んで茶を淹れさせるものなんだろうが、少しでも二人きりでいたいのであえて自分で淹れてしまう。

「これを飲んだら一緒に買い物でも行きましょうか」

茶を飲みながらそう声をかけると、コーデリアさんはいつにない程に頬を染めながら頷いてくれる。

言ってしまうと普段の屋敷の方が金も手間もかかっていて、高級感のある空間なのだが、旅行先のホテルというものは、ただそれだけでも特別感があるもので、そこでの落ち着いたひとときとお出かけというのは、コーデリアさんの心を弾ませるものであったらしい。

紅茶も自宅で飲む方が好みだが……自分で淹れて二人で飲むからこそ意味があるのだろう。

……ここにフィリップがいたなら、王様はどうするの? 放っておくの? なんてことを聞いてきたかもしれない。

結論としては放っておく、放っておけば向こうから何かをしてくることはないだろう。

まさか王自ら会いに来るなんてことはないだろうしなぁ……こちらから会いに行くのが当たり前で、王から会いに来るなんてことをやれば、ただそれだけで評判が悪化するやらかしとなるだろう。

つまり王はいつまでも俺を待つことになる、カーター子爵辺りに伝言をさせて後はただただ待つことになる。

……貴族としてそうやって誘われたならいつかは行かなければならないのだろうが、限界まで……無礼になろうが批判されようが、ギリギリのギリギリまでは行かないつもりだ。

色々と舐めてんのか、ふざけてんのか、喧嘩を売りたいのか、そう言いたくなる程のことをやらかされたのだから、こちらだって相応の態度を返してやるつもりだ。

だからコーデリアさんには何も知らせないまま当分は二人の時間を楽しむつもりだ。

当初の予定通り、コーデリアさんのために。

という訳で茶を飲み終えたなら、外出用のスーツに着替える。

今までだって外出用ではあったのだけどそちらは外交用、ここからはより見栄を張るための……コーデリアさんとデートするためのおしゃれ着となる。

という訳でスーツはコーデリアさんが選んでくれたもの、グレーのスーツにグレーのネクタイ、帽子は厚めの生地でてっぺんの凹んでいる……前世ではホンブルグハットとか呼ばれていたものを被り、白い手袋をし、我が家の紋章に描かれている鷹をもした持ち手の杖を腕にかけて、靴も新品の白いものへと履き替える。

コーデリアさんは流石に一人では着替えられないのでそのままの格好だけども、カバンと帽子を真っ白な新しいものにし、そして俺の腕を静かに取ってくれる。

そうやって二人で部屋を出るとピシッとしたスーツに着替えたフィリップとライデルが待っていて、二人が護衛ということでついてきてくれる。

シアイア達はここに残り部屋の警備、俺達の不在中に何かやらかされては厄介なので、しっかりと警備を残していく。

そんな4人でホテルを出ると……ホテルの正面の道沿いには二階建ての家が隙間なく並んでいる。

いずれにも店が入っていて、恐らく高級店……カーター子爵なりのセンスでもって揃えた迎賓用のエリアという感じなんだろうなぁ。

道もきっちりと整備された石畳で、隙間は一切なく土肌が見えるような場所はどこにもない。

それ程の道なら馬車くらいは走っているものなのだが、一切なく人力車のみ。

恐らくは馬糞で汚れることを嫌ってこのエリアでは人力車以外禁止とかにしているんだろうなぁ。

並ぶ家々は全てレンガ模様、色や大きさは多少違えど全部レンガ。

実際にレンガで建てられているかはなんとも言えない、表面だけをレンガにしている可能性も十分にあって……石畳もレンガも相応に劣化し、古くなっている。

恐らくはかなり昔からここにあるのだろう……カーター子爵の若い頃か、先代が作らせたものに違いない。

しかし古臭くはなく伝統的で歴史を感じられて……いかにもカーター子爵らしい光景だなぁと思う。

そしてそこに並ぶ店もまたいかにも子爵好みだ。

どれもこれも専門店で……紳士向き。

帽子専門店、杖専門店、時計専門店……まぁ、ここまでは分かるけども靴下専門店やカフスボタン専門店とかは本当に必要なのだろうか?

ホテルから少し離れると女性物を売っている店もそれなりにあるのだけど、女性向けの店といった雰囲気ではなく男性向け……女性への贈り物を用意してくれる店といった感じで、ニスを重ね塗りした木材で内装を固めて店員は老紳士だけというなんとも渋い外観となっていた。

そんな街並みの中に人の姿はそれなりにあって、これまたカーター子爵のような古臭いと言うか、古典的な紳士達が女性と一緒に歩いている。

静かに優雅に、そして堂々と……ここを歩けることを女性に自慢しているかのような様子だ。

そして行き交う人々はコーデリアさんのことを見るなり驚いたような顔をしていて……まぁ、何に驚いているかは察しが付く。

コーデリアさんの帽子の左右からは立派な角が生えているし、その体格からもドルイド族ということは明らかだろう。

だから驚き好奇の目を向けて……そしてその美しさに驚くと同時に、隣に俺にも遅れて気付いて更に目を丸くすることになる。

こちらの人々が俺のことをどれだけ知っているかは知らないが、服装などからそれなりの人物であることは察しがつくはずだ。

そしてそれぞれ色々な感想を抱くことになるのだろう。

ドルイド族への偏見か、それとも美しさへの思いか、隣領領主である俺への様々な思いか。

……それ以上に俺とコーデリアさんの態度に驚くのかもしれない。

こちらの紳士達は腕を取らせながらもそれ以上は距離を縮めず、ある意味で紳士らしい態度に徹している。

だけども俺とコーデリアさんは……体格差もあるしコーデリアさんが愛情深い人でもあるので距離が近い。

体を寄せて傾けて顔を寄せて、あれこれと語りかけてくれる。

それが嬉しくて笑顔と言葉を返すことになり……言ってしまうと人目をはばからずイチャイチャしている。

それがまた視線を集めるが気にすることなく、様々な店を見て歩いていく。

そんな俺達の後ろをフィリップとライデルが黙って追いかけてきていて……すっかり慣れているらしい二人からは特にリアクションなどはない。

異変がない限りは。

「兄貴、変な視線があるよ、隠れて兄貴達のこと見てる」

……少し良さそうな女性物の店があり、コーデリアさんと入ろうかとしていた所でフィリップがそう声をかけてくる。

「旦那様、捕まえてきましょうか?」

続いてコーデリアさん、拳を握って足を少し開いて構えて……今にも猛ダッシュでその気配の方に向かっていきそうな勢いだ。

「いえ、放っておきましょう。

ただの好奇心か、カーター子爵の手の者か……それとも敵対者か、いずれにせよ見られて困るものではないですし、逆に俺の立場を示すためにも見せつけておきたい。

コーデリアさんとの仲の良さをここでたっぷりと見せつけておくとしましょう」

と、俺がそう言うとフィリップは肩を竦めてそれ以上は何も言わず、ライデルはまだ視線の主が分かっていないのか落ち着かない様子で……そしてコーデリアさんはにんまり笑顔となる。

そしてどこをどう解釈してそうなってしまったのか、コーデリアさんが俺の後ろに立って両腕を俺に前に回して、後ろから抱きしめてくる。

……道端で。

流石にそこまでのイチャつきは二人きりの時にして欲しいのだけど、今更止められず好きにさせるしかない。

「えぇっと、そこの店で買い物でもしましょうか」

流れを変えられないかとそう提案するとコーデリアさんは俺を持ち上げて半分抱っこのような状態で入店、変に抵抗も出来ないのでされるがままの人形状態となる。

そして入店、やや困惑した様子の老紳士の案内を受けながら商品を見て回り……コーデリアさんが欲しそうにしたものを即決で買っていく。

ここはしっかりと金を使うタイミングだ、俺にそれだけ余裕があるというのを見せつけて、価値のある客だと思わせて……それだけの人物を連れてきてくれたと、カーター子爵の見栄も上げておく必要があるからだ。

……今の状況的にコーデリアさんの感情というか、心拍音がダイレクトに伝わってくるので、何を良いと思っているか悪いと思っているかが分かりやすく、間違いのない買い物が出来るという確信もあるので、ここは全力で買い物をしてしまう。

そこが終わったら次の店に、買った品はホテルに届けてもらうかライデルに持ってもらうかして……そうやっているとホテルの従業員が状況を聞きつけたのか、荷物用のカートを持ってきてくれる。

それで買った品を運んでくれて……なんだか今初めて俺は貴族らしいと言うか、金持ちらしい行動をしている気がする。

俗物的な豪遊というか、散財というか……うん、初めてこんなことをしたかもしれないなぁ。

そんな風にホテルの周辺一体にコーデリアさんとの仲をアピールしたならホテルに戻る。

そうしたら買った品々を開封して……コーデリアさんに身に着けてもらってのファッションショーをダンスホールでやってしまう。

新しいアクセサリーとか帽子とか身に着けて、嬉しさと楽しさからかくるくる踊り回るコーデリアさん。

笑顔で楽しそうで……こんな散財ばかりでは困ったものなのだろうけど、たまのことは許してもらうとしよう。

この笑顔を見られるのなら、普段の仕事も一段と頑張れるというものだしなぁ。

と、そこでエレベーターが動く音がして、誰かの来訪を知らせるベルが鳴り、ライデルが確認のためにエレベーターホールへ。

どうやらホテルの支配人だったようで……ライデルがその支配人を連れて戻ってくる。

「ブライト様、どうやら重要な立場の方からの使者がやってきたようで、面会を求めているようです。

その旨を支配人が伝えに来てくれました。

件の使者は一階の応接間で待たせているそうで……どう対応なさいますか?」

そしてライデルが支配人の用事を要約してくれて……俺は少し悩んでから言葉を返す。

「分かった、会おう。

ただし事前の連絡なしにやってきたのだから、こちらの用事が終わるまでは待ってもらう。

どこの誰の使いなのだか明確にしないのも気に入らないしな……しばらくは待たせておけ」

王なんだろうけど、100%王の使者なんだろうけど、だからこそとぼけて、そんなことを言い……それよりもとコーデリアさんに意識を向ける。

美しく可愛く、元気いっぱいに愛を振りまく妻へと視線を戻し……そして支配人には出ていくようにと適当に手を振っておく。

そうして俺はこっそりとフィリップに声をかけ……暫定王の使者にどう対応するかを小声で話し合うのだった。