軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

到着

カーター子爵領に旅行するとなってまずは子爵に手紙を送る所から始まった。

一度のやり取りで決めるのではなく、二、三度やり取りする中で詳細を決めていって……その数日の間にお互いに準備を進めていく。

雑談のネタとしてあちらの歴史などを勉強したり、俺なりの伝手で入手した提供しても良い情報を用意したり、流行りの品を土産として用意したり。

貴族として向かう以上はそれ相応のものを見栄として用意する必要があり……同時にビフとボガー達を事前に隣領に送り込んだりもした。

そこまでする必要はないかもしれないが、それでも念の為に事前の情報収集やら警備計画、いざという時の脱出方法も検討させて、万全を期する。

フィリップも送り込みたかったが、側でやってもらう仕事も多そうなので一緒に同行してもらうことにし……ライデルも同行組となる。

バルトロとアレス男爵は留守番組で、いざという時の対応を任せることになった。

あんなこと二度と起きてたまるかという感じだが、また王兄のような馬鹿野郎が現れるかもしれないので、相応の判断と対応が出来る人物は残しておくべきだろう。

バルトロでも判断が出来ない場合にはお祖父様や母上も動いてくれることになっていて、お祖父様が動いてくれたなら、俺以上の的確な判断が下せることだろう……が、お祖父様に任せてしまったなら同時に色々とやらかされそうでもあるので、あくまで最終手段、秘密兵器という形になる。

お祖父様はグレイ侯爵家の実権を失い、失脚し今のところ大人しくしてくれてはいるが……だからといって牙が抜けた訳でもその欲がなくなった訳でもない。

俺が情けない所を見せれば、欲を満たすために多少のヤンチャをしでかすはずで、常に油断をしないようにしなければならないだろう。

それもまたお祖父様なりの教育というか教訓のようなものなんだろうなぁ。

俺がそんな風に準備を進める中、コーデリアさんも色々と準備をしていて、シアイアやジョージナと共にあれこれとやっている……らしい。

詳細については聞いていないが、まぁ女性の支度に口を出すのも無粋だろうということで特に関与はしないようにしている。

そして移動方法は飛空艇、事前に許可を取り、着陸場所なども事前に打ち合わせての移動となり……ついでに最新型の飛空艇を宣伝するという目的もあったりする。

本来ならば旗艦で行きたかった所だが今は修理及び改修中なので、一番見栄えの良い一隻を使うことになる。

我が家の紋章を船体に書き込んで旗を掲げて、必要以上の推力を出して堂々たる着陸で、その性能を見せつける形で。

という訳で、飛空艇開発に携わる者達も忙しく動き回っていて……出立までの数日は、かなりの騒がしさとなってしまった。

一部の者達……姉上達なんかが俺とコーデリアさんの初めての旅行だと妙に張り切ってしまったりもしていたが、まぁ、うん、そこら辺は気にしなくて良いだろう。

姉上もなぁ……前々から俺に対し妙な態度だったのが、コーデリアさんにも妙な態度を取りつつあるんだよなぁ。

慕ってくれていて邪心はなくて可愛くもあるコーデリアさんと仲良くしたいまでは分かるけども、なんかもう一歩踏み込もうとしているような……。

一体何が目的やら分からないけども、その辺りも気をつける必要があるのかもしれない。

そんな姉上はコーデリアさんのために外出用ドレスまで用意したようで、動きやすさと涼しさを意識したロングワンピースに、片掛ケープというデザインにしたようだ。

その片掛ケープの裏地にメリケンサックのように思える金具が二つ、つけられているが……まぁ、うん、そのくらいは見逃すことにしよう。

流石にドルイド族用の篭手は持っていく訳にはいかないからなぁ……護身用としてそれくらいは問題ない、はずだ。

ちなみにシアイアは堂々と篭手を装備しての同行となる。

ドレス鎧といった印象の、一部が鉄製防具になっているドレスを身に着けて篭手を身に着け、いざとなったらそのまま戦闘に入れるようになっている。

ジョージナはあくまで騎士としての同行なので、完全な鎧……こちらの世界の騎士鎧ではなく西洋鎧のような姿で同行し、腰には細剣も下げたままとなるようだ。

まぁーうん、普段からエリザベス嬢と会う際にはそういう格好をしているそうなので、特に問題になったりはしないはずだ。

俺の護衛となるライデルは同じく西洋鎧で剣を下げ、従者のフィリップは……色々と暗器を仕込んでの同行となり、この二人に任せておけば大体の事態には対応できるはずだ。

そもそもとして向かう先はカーター子爵領、こちらに友好的な領主が治める領地なので、そういった心配はないはず……なんだけども、妙に嫌な予感もするので、ついつい備えを進めてしまう。

なんかとんでもない人物と出会ってしまうような……それでおかしなことになりそうな予感がどうしてもしてしまう。

カーター子爵領にそんな人物がいるはずがないのになぁ。

と、いう訳で旅行当日。

ドレス姿のコーデリアさんをしっかりとエスコートする形で飛空艇の発着所、改めて空港と呼ぶようになったそこで向かい、飛空艇に乗って隣領へ。

子爵領でも空港の整備は始まっていて、こちらのものとそう変わらない着陸場があるので着陸は問題なく行われ、タラップから降りると、カーター子爵とエリザベス嬢の出迎えがあり……その表情から何か察せられるものがあり、すぐさま俺は指の仕草でもって後方に控えているフィリップに知らせる。

『何か厄介事があるらしい』

カーター子爵領なら大丈夫だろうと思って足を運んだ途端これだよ。

エリザベス嬢は至っていつも通りといった印象なのだけど、子爵の顔色が明らかに悪い。

エリザベス嬢にさえ隠すような何かがあるようで……とりあえず俺は子爵との挨拶を無難に済ませる。

済ませた上でエリザベス嬢に、

「子爵とお話したいことがありますので、妻のことをお願い出来ますか?」

と、声をかける。

本来であればまずは滞在先の宿か子爵の屋敷に向かうなりしてから、そう切り出すべきなのだろうが……尋常ではない様子を見てはグズグズはしていられない。

いざという時は飛空艇に逃げ帰ってそのまま脱出という手段が使えるここで事情を聞くべきで……子爵と共に近くの休憩所へと足を向ける。

現状、飛空艇を使えるのは貴族くらいのもの、当然貴族のための休憩所と言うか、待機室なようなものも用意されていて……ちょっとした家のような規模のそこに入ったなら、その最奥にある、密談用と思われる部屋へと足を向ける。

俺、フィリップ、ライデル、カーター子爵とその護衛の騎士。

そんな五人で向かったその部屋は、豪華な応接間といった感じになっていて、いくつかの絵画や美術品が並ぶ部屋の中央にある、向かいうソファへと腰を下ろし、早速とばかりに口を開く。

「それで、何があったのでしょうか? 余程のことが起きたのだろうとお察ししますが……」

俺のそんな問いかけに子爵は、顔色を悪くしながらも真っ直ぐに視線を向けながら言葉を返してくる。

「……まだこの場では言えることは少なく、客人を迎えたホストとして無礼極まる話だとは思うが、それを受け入れて欲しい」

「……と、言われましても、その態度では気にするなというのが無理な話です」

はい、そうですかと受け入れても良かったのかもしれないが……態度が態度だ、何も知らず対策せずにトラブルに突入なんて御免被る話で、どうにか引き出そうと強く視線を返す。

「……貴き位を戴く方が、いらっしゃっている。

それ自体は光栄なことで、数日前までは特に問題がなかったのだが、最近になって看過出来ない奔放なことをおっしゃるようになられた。

……特にその位が言い出すべきではないことまで言い出そうとしていることに困り果てている。

かの方は貴殿の婚姻に物申したくてしょうがないようだ」

遠回しなような、そうでないような……本当は言えない立場なのだけども、子爵なりにこちらに気遣ってくれているのかもしれない。

そして子爵として相当に思う所がある話のようで途中何度も、子爵のこめかみの辺りがピクピクと痙攣していたのを見て取ることが出来た。

切れる寸前といった様子で……つまりは王かそれに近い王族がやってきているのだろう。

王太子ではないと思う、まだ王ではない王太子であれば……噂に聞くような人物であれば、子爵がここまで振り回されたりはしないはずだ。

むしろ自分の良いようにコントロールしてみせるはずで、子爵がここまで困窮するということは、恐らく王本人だろう。

……仮にも王が一体全体何をやらかしているやら。

しかも俺の婚姻に口を出すって正気か?

王という立場だけを見るのであれば、それも可能かもしれないが、こちらに散々やらかしてきたという前提を考えるとまずありえないことだ。

婚姻はその家の生存戦略の一つ、とても重要な将来に関わる決断となる訳で、それを強いるなど相当に良好な関係でなければありえないことだ。

そうだったとしても大きな貸し借りになる可能性が高く、そこまでのリスクを負ってまでするようなことではないはずなのだが……それを今このタイミングでやらかそうとしているらしい。

それはつまり客人を歓待しようとしているカーター子爵の顔にも泥を塗る行為で、様子を見るに恐らくは、どうにか王を止めようと手を尽くしていたが、それに失敗してしまい、ストレスやら何やらで限界が来てしまっているのだろう。

客人をどう出迎えるかというのは、客人をどれだけ楽しませるかというのは、その貴族にとって評判や誇り、その後の動向にも関わる一大事なのだが、それを邪魔されたというか、完全に潰される形となったことは、相当に耐え難いはずだ。

以前俺が精一杯の歓待をし、相応のお土産というか利益を与えたということも子爵にとっては大きいのだろう。

まだまだ未熟な若造にそこまでしてもらったのに何も返せないどころか、余計な負担までかけてしまうかもしれない。

そう思ったらからこそ子爵は今ここで、ある程度のネタバラシをしてくれたのだろうなぁ。

それと同時に助けを求めているのかもしれない。

自分一人だけでは対処しきれないと……どうにかするための助力を得たいと思っているのだろう。

カーター子爵は良くも悪くも古い人だ、伝統と文化を重んじ貴族らしくあろうと常に努めている。

貴族らしく支配者らしく振る舞うが、悪意や欲にまみれたりもせず、領内を見事にまとめ上げていて……尊敬出来る人物だと思う。

そんな子爵がこんなにまで態度を露骨にしているというのは、嬉しくもあり痛々しくもあり……少なくとも俺にそれだけ心を許してくれているということなのだろうなぁ。

そしてその王に近い何かは俺の婚姻に口出しをしたいと……。

まぁ、予想出来たことではある、ドルイド族の迫害を進めていたのは王家なのだから、文句を言ってきたり嫌がらせをしてきたりは、予想の範疇と言えるだろう。

「大体の事情は分かりました。

そういうことであれば私が堂々と相対し、対応したいと思います」

こっちの責任でこっちが処理すると、そう伝えると子爵は微笑みながらも、尚もこめかみを痙攣させながらの言葉を続けてくる。

「いや、待って欲しい。

こちらも全てを把握している訳ではないのだ、いや、把握など出来るものか、訳が分からなすぎて正気を疑う程なのだからな。

つまり迫害が理由ではないのだ、迫害していたドルイド族との婚姻を問題視しての行動ではないと思われる。

……何もおっしゃられず、なんとも身勝手に動かれているばかりで、それを見て勝手な邪推をしただけなのだが……もしかしたらだが、貴殿と王家の婚姻を望んでおられるのかもしれない」

「……はいぃ?

えぇっと、子爵の勘違いという可能性は……?」

「ない、そも他の用事であればこんな所に真っ直ぐに来てあれこれと画策する必要などないのだからなぁ。

また同行者の中には婚姻に携わる法官の姿もあり……末端ながら王家の血を引く複数の女性の姿もある。

……個人的にはいますぐ踵を返して飛空艇に乗ったとしても責める気にはなれんな」

と、そう言って子爵は大きな……それはもう大きく重いため息を吐き出す。

それでようやく落ち着いたのか痙攣が収まり……そして今度はこちらが体を震わせることになる。

何を馬鹿なことを言い出しやがったんだ、どこまで俺を舐め腐ってるんだ。

という怒りでもって。

そうして拳を握った俺は、今回の事態をどう収拾すべきか……馬鹿なことを言い出したアホをどう処理すべきかなのか判断を下すべく、それはもう全力で、他のことは一切考えずにこれまでの人生でここまで必死になったことはないというくらいに必死で、思考を巡らせていくのだった。