軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

違和感

二人の騎士を迎えた所で、改めて我が家の現状を整理してみる。

まず当主は俺、ブライト・ウィルバートフォース。

側近の騎士としてライデル、アレス男爵、家臣としてバトラー、フィリップ、バルトロ他を従えている。

前当主である父上は戦地にいて不在、本来の当主である兄上も戦地にいて不在、現在二人は大陸有数の織工都市を占拠し、拠点化……自らの領地のように管理しているらしい。

その都市は我が国から毛糸などを輸入していた関係で元々関わりが深く、港も側にあり、更に言うなら経済規模も大きかったのか、拠点としてはかなり優秀で、現状これといった問題もなく占拠を続けられているらしい。

そして母方の祖父であるお祖父様が屋敷に滞在してくれていて、特にこれと言った役職は与えていないが、お祖父様なりに考えてあれこれと動いてくれているようだ。

母上は……実質的に隠居のような生活をしている。

俺の妻であるコーデリアさんや娘の教育に精を出してはいるが、それ以上の活動には消極的で、コーデリアさん達に対する教育も、貴族としてと言うよりは母としてといった感じで、とても穏やかな空気となっているようだ。

元々そこまで権力とかには興味なかったようで……俺が十分な予算を出して望む贅沢をさせてあげているから、それで満足できているのだろう。

姉上は研究一筋、ペニシリンや菌類、苔類の研究に精を出している。

屋敷の外に出てのフィールドワークも活発なため、シアイアを含む4名以上のドルイドと、新人騎士のジョージナによる護衛を受けていて……場合によっては更に複数人の騎士が護衛につくこともある。

これは宿敵である王太子が姉上を狙っているからという措置……だが、今のところ姉上に変なトラブルが降りかかるような事態は起きていない。

妹であるプルミアは元気いっぱい、姉上もまぁまぁ貴族令嬢らしくない言動が目立つが、プルミアはもう貴族である自覚すらないのだろう。

一応護衛としてドルイドの女性二名が側にいるのだが、それを振り切って駆け回り、犬のアーサーとランス、または新人家臣のジェミィとロックと振り回して毎日何かしらの挑戦を繰り返している。

つい最近も近くの畑に入り込んだという鹿を狩りに出かけてしまって、結局ジェミィとロックがなんとか解決してくれたようだ。

「ねぇ、兄貴?」

もう一人の新人騎士であるマイクロフトには、新戦略の試験運用をしてもらうことになった。

主戦場は海だが海軍のように軍艦などを主に使うのではなく飛空艇を主として、飛空艇の運用を前提とした海戦を意識し、研究や編成、運用を行う……といった感じだ。

これを海軍と呼ぶのか空軍と呼ぶのかは……今も議論中だ、何しろまだこっちの世界にはそういう概念も定義もないからなぁ。

とにもかくにも今回オーザド伯から奪った領土には南方の島々があり、そこまで船で行くとなると最新型のものを使っても結構な時間がかかってしまう。

……その上、南領とは敵対中で、その道中などで妨害を受ける可能性もある。

「兄貴ってば」

そうなると飛空艇で上空を飛んでいってしまった方が効率的と言えて……しかし空戦が目的ではなくあくまで海戦が目的なので、暫定的には海軍……または海上騎士という扱いになるようだ。

……まぁ、議論が深まったり戦略が編み出されたりしていくうちに、どう呼ぶかは変わっていく可能性もあるのだろう。

「ねーねー、兄貴~。

なんか日記書くことに集中しちゃってるけどさ、対策しなくて良いの? 王太子の暴走について」

……そう言われてペンの動きを止めた俺はため息を吐き出して、意識を現実の執務室に引き戻す。

あれから数日経って……俺は特に変わらない日々を過ごしていた。

多くの男性を魅了するジョージナがやってきたことで多少のトラブルもあったし、ジョージナの美貌に俺が魅了されるかもと警戒したコーデリアさんが挙動不審になる、なんてこともあったが、ジョージナはそういったトラブルの対処法を心得ていたし、コーデリアさんもすぐに俺の好みではないと納得してくれて、それからは何の問題もない日々となっていた。

「……対策と言われてもなぁ、多分好きにやらせておいたほうが良いと思うんだよな」

俺がそう返すと、窓際のソファに腰掛けていたフィリップが、足を組んでその上に読んでいたらしい本を器用に立て置いてから言葉を返してくる。

「それで良いの? 倒すべき相手が勢力を作っちゃってるんでしょ?

邪魔をして破綻させるとか、破綻させないまでも内部にヒビを入れるとか、したほうが良いんじゃない?」

最近フィリップは執務室の本棚にある本から興味を持てそうな一冊を探して暇を見つけては読むようにしているようで……今読んでいるのはアーリクソン軍記、大陸で人心掌握などの方法で覇権を手に入れかけた人物の軍記だったか。

それに影響を受けてかそんな提案をしているようで、俺はペンを置いてから言葉を返す。

「真面目な話として、大きな勢力を作られることはそれは確かに厄介だが、作り方が論外過ぎるんだよ。

無理矢理力による併合って、百年前ならまだしも今の時代にやることではないからなぁ……。

他国にやるならまだ理解出来るが、国内領土にそれは理解が出来ないどころの話ではないな。

王族に強力な兵器で脅されたからと一時的に恭順する者がいたとして、それがいつまで続くかは分からないしなぁ……ぶっちゃけると周辺領主が従っているのはただの様子見、王太子の意図や戦力を見極めるために、一時的に従っているだけに過ぎないと思うぞ。

そうじゃなかったとしても、そんな方法で従わされた連中の巨大勢力なんてのは崩すのは簡単だろうし、崩した際の勢いでもって王太子の首を取れるかもしれないチャンスを生んでくれるかもしれない訳で……俺にとってはありがたいばかり、邪魔する理由がないんだよ」

「……なるほどー、そーいう感じなんだねぇ。

それなら何もしない方が良い訳か……えっとじゃぁなんで王太子はそんなことし始めちゃったの?」

「……これについては自分なりに色々と考えてみたんだが、いくら考えてもよく分からないというのが正直な所だ。

王太子のような動きに関しては、俺だってやってみようかと考えたことはあるんだ。

周辺領地を攻め落として周辺の地固めをし、王都までの道となる各領地を落としていって……王都に到達。

そして父上と兄上と連携し、陸と海から挟み撃ちにして王城を攻め落として王族を討ち果たす。

説明するのはとても簡単だが、成功率は恐ろしく低い上に成功したとしても被害は甚大、悲惨極まる未来が待っているという良い所が一つも無い作戦だ。

……が、やろうと思いさえすればいつでも実行出来る策ではある。

仮に俺の怒りが限界に来ていた場合は、もう我慢出来ないとそういう手を打ったかもしれないな。

あるいはそういう手を打たざるを得ない程に名誉を傷つけられたとなったら、そうしていたかもしれない」

「……ふぅーん、なるほど?

具体的にさ、どんなことされていたら、そこまでのことをしなきゃいけなくなるもんなの?」

「……うーん、想像するのも嫌な話ではあるが、たとえば姉上と王太子が婚約していたとして、特に理由もなく婚約破棄されてなんらかの侮辱を加えられたとなったら、黙っている訳にはいかなくなるだろうな。

そこで黙っているようでは貴族とは言えないし、家族を守れないようでは人とは言えない。

待っている未来が悲惨なものであっても、家の名と名誉と誇りを懸けて勝負に出なければならなかっただろうな」

「あー……なるほどネ。

それでバーバラ様が傷物にされてたりしたら……?」

「開戦待った無し……だっただろうが、そこまでの侮辱となると周辺の理解を得られる可能性が高いからな、そこまでの戦乱にならない可能性も高い。

たとえば隣領のカーター子爵なんかは俺の軍が通行することを許可してくれていたと思う。

何も言わずにただ通れと見逃してくれるとか、なんらかの形で支援してくれるとか、あるいは真っ当な形での仲介をしようだとか、様々な方法で各貴族が動いていてくれただろうな。

当然王太子も叱責や非難を受けることになるだろうし、教会や法院も動くことだろう。

国内の各所が俺が貴族として止まる訳にはいかない立場だからと理解しているからこそ、王太子になんらかの罰を与えることで俺に立ち止まる機会を与えようとするはずだ。

振り上げた拳の下ろし所を用意してやるってやつだな。

そうしたら俺や王家に大きな貸しを作ることになるだろうから、誰もが積極的に動いてくれるに違いない」

「……そっか、貴族だから譲れないこともあって、そこに触れるようなことをしたら他の貴族も味方になっちゃう訳か。

……なるほどな~~~……。

だけど王太子は何の理由も正当性もなしにやっちゃってる訳か……。

ふぅーん……おいらがさ王都に放ってた連中は全員、空気がヤバいと思ったみたいで逃げ帰ってきたんだよね。

自力だったり、ジョージナさん達に助けてもらったりして。

だからもう情報は仕入れられないんだけど……そんな馬鹿なことして荒れてるとこには確かに仲間を置いていけないかなぁ、色々興味はあるんだけどねぇ」

「……まぁ、関わらないのが一番だろう。

仮に何もかも成功してしまって一大勢力になったのだとしても勝ち目がない訳ではないからなぁ。

更にヤバい何かをやらかしてくれたら、こちらにとってはありがたいばかりだし……その勢いは変に止めない方が良いだろうな。

……それよりも俺が気になるのは王太子がそうなった原因だな。

ほんの少し前まで王太子は学園にご執心だったんだろう? そしてそれ自体は上手くいっていたはずだ。

戦車やトラクター開発も問題はあるとは言え開発自体には成功していた訳で……いきなりそんな暴発をする理由が無いように思えるんだがなぁ」

「いや、まぁ、うーん……その辺りはまぁ、おいらの想像でしかないけど、兄貴が次々色々なことに成功するもんだから焦ったんじゃない?

昔から色々真似するくらいこっちのこと気にしてるんでしょ? 王太子。

それが最近の兄貴の動きを見たら……まぁ、普通に焦るよね」

と、そう言ってフィリップは足に置いていた本を持ち上げて読み直そうとし始める。

「いや、こっちの情報全てがあっちに伝わっている訳でもないだろうし、仮にそうだとしてもタイミングがおかしくないか?

焦るのなら飛空艇の成功の時点で焦って欲しいんだが……」

それでもと俺が話を続けると、フィリップは……一瞬だけおかしな顔をし、それから真剣な顔となって言葉を返してくる。

「そこら辺に関してはあまり甘く考えない方が良いかもね。

……なんて言うか王太子、情報にだけは異様に敏感な気がするんだよね。

動きが早いっていうか……全部の動きに違和感があってさ、こっちの行動が透けて見えてるんじゃない? って動きをする時があるように思えるんだよね。

まぁ、こっちも王太子の動き全部が見えてる訳じゃないし、又聞き情報からの想像になっちゃうんだけどさ……それでもなんかおかしい気がするんだよねぇ。

こっちの情報を全部流しているような内通者って訳でもないと思うんだ、そこら辺はおいらが気を配ってるし、内通者からの情報を受け取ってからの行動にしては早すぎる気もするし……。

……だからほら、遺跡にさ、凄い技術の道具があったりするじゃん? それと同じで遠くの風景とかを覗き見える何かを持ってたりするんじゃないかな、王太子。

……あくまで全部おいらの妄想なんだけど、そう考えるとしっくり来る部分もあるんだよねぇ。

他にも鑑識眼っていうか、人を見る眼っていうか、そういうのも異様に優れてる感じしない?」

そんな馬鹿なと言いたくなるような話ではあったが、フィリップの態度はどこまでも真剣で本気でそう思っているらしい。

あのフィリップがそこまで言うとなると全くの笑い話にも出来ない気がして……俺は背もたれに体を預けながら頭を悩ませ、それから言葉を返す。

「フィリップがそう言うのなら、その可能性も考えるべきだろうな。

俺達にはない何かがある王太子……か、そう思って警戒すべきではあるんだろうな」

一瞬、王太子も俺のように転生者なのか? なんてことを思ったが……それにしては言動があまりにも馬鹿過ぎるし、それはないだろう。

過去の転生者が起こしたと思われる事例を見ても、ここまでの馬鹿な騒動は見当たらないし……うん、他の何かと考えるべきか。

遺跡の……不思議道具? それでこちらが見えている、か。

前世の知識で考えるのなら隠しカメラとかドローンカメラになるんだろうが……そんな物は見当たらないしなぁ。

使用人達に探させても良いが……うぅん、無駄骨になる可能性の方が高そうだ。

しかしまぁ、うん……一度しっかり確認はしてみるか。

「とりあえず、だ。

内通者の可能性も含めて、屋敷周囲を見直すとしよう。

遠くを見る目のようなものがあるとして、それが屋敷のどこかに隠されていないかといった、そういう確認だ。

王兄に壊された箇所の修復もようやく完了となるし、それが終わり次第、信頼出来る者達だけで確認を行う。

……それで何も無かったなら、なんらかの確証を得られるまでは深くは考えないことにしよう。

分からないことで頭を使いすぎても疲れてしまうだけだからな」

俺がそう言うとフィリップは、自分でも自信のない……自分で妄想と言ってしまうような話をしっかりと受け止めて貰えたことが嬉しいらしく、ニッカリとした笑みを見せてくる。

それからその確認は実際に行われて……屋敷の中に隠し部屋があったり、隠し倉庫のようなお宝部屋があったりしたのだが、それ以外には特に何も見当たらず、王太子のおかしな疑惑に関しては、何か進展があるまでは考えず話題にせず……深く気にしないことにしようと、そうなったのだった。